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部下との信頼関係を最重視する上司が陥るワナ

プレジデントオンライン / 2019年12月10日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/metamorworks)

360度評価や1on1……いずれも話題になり、多くの企業で取り入れられている手法ですが、意外なデメリットも。多くのマネジャーにアドバイスをしてきた識学の冨樫篤史さんは、これらの手法を安易に取り入れることの危険性を指摘します。

■マネジメントは流行りに流されてはいけない

前回「勉強熱心なリーダーほど陥る、意外な落とし穴」で紹介した、元部下との会話。前回は動く前に準備し、お勉強しすぎるデメリットについて言及した。今回は会話の中で出てきた具体的理論やメソッドのデメリット分析を識学的見地から行ってみる。この部下に限らず、これらのメソッドを使って失敗する企業を多く見かけるからだ。

【冨樫】「どんなマネジメントをしようと思っているの?」
【元部下】「今までついてきた上司の良し悪しを踏まえてやってみようと思います」
【冨樫】「良いと思っているのは、例えばどんなスタイル?」
【元部下】「1on1とかやって、部下の話をよく聞いて、信頼関係を築こうと思います。エンゲージメントっていうんですよね⁇ これがないと始まらないと思います。信頼関係ですね」
【冨樫】「なるほどね」
【元部下】「○○(大手リサーチ会社)のデータだと○○っていう統計が出ていて、方針とかに対していかに納得感をもって動いてもらうかが重要だと思うんですよね」
【冨樫】「へえ、よく調べているね」
【元部下】「失敗を最小限にしたいし、人間関係の修復って難しいじゃないですか。いろいろ調べてから挑みたいと思うんですよね。昔からそういうタイプで……」
【冨樫】「たしかに、前からよく考えて、調べて、人に聞いてやるタイプだったよな」
【元部下】「コンプライアンスとかも強化したいっていう方針なので、360度評価とかも入れて……」

■360度評価は、なぜリスクが大きいか

それでは、一つひとつ検証していこう。まずは360度評価だ。

いわゆる多面評価であり、上司、同僚、部下など、立場の異なる複数の評価者が、対象者の管理職としての能力を明らかにする評価手法だ。直属上司には観察しにくい対象者の特性が把握でき、人物評価の信頼性・妥当性を高められるとされる。

まず、同格職位同士の評価、つまりA部署の課長をB部署の課長が評価する場合を考えてみよう。これは一見問題が無いように見えるが、A部署はB部署に責任がないために、単なる評論家的コメントになってしまう傾向がある。この場合、管理職としての現状とあるべき状態とのギャップを見いだす、という本来の目的を果たせない。参考程度になることはあっても効果は限定的だ。

■「部下が上司を評価」はなぜ問題か

さらに問題なのは、部下が上司を評価する場合、

①責任を負わないのに評価権限がある、という矛盾
②そもそも“管理職としての能力”に評価を下すことは管理職リテラシーのない者には困難である
③評価対象の管理職を評価するさらに上の上司の責任放棄となる

以上3点の危険性が組織パフォーマンスをさげてしまう。

①はチーム全体の結果を負っている管理者が下すさまざまな意思決定は、メンバーにとって心地よいものばかりではない。ただ、全体の最終的な結果責任を負っているからこそ方針やルール、戦略の決定権限をもっているという構造上、下は上を評価できない。部下に上司の評価をさせるという作業自体、組織構造、特に指揮系統に異常をきたす危険性があるため注意が必要だ。

②は問いに答えるための知識経験がないため、結局は好き嫌いという別の尺度による評価コメントが繰り広げられることになる。360度評価を管理職評価のメインに据えている場合、査定にも影響することとなり、管理者は部下に好かれることも自身に求められる成果として考えなくてはならなくなる。この場合、本来組織パフォーマンスをあげることで評価されるべき管理者は、ある種相反する目標=部下に好かれること、を念頭に置かなくてはならなくなり、真逆のベクトルに向かって同時に走らなくてはならなくなる。

③360度評価が常態化すると対象の管理者を管理、育成する責任を負っているはずのさらに上の上司が責任を負っていない錯覚を起こす。

まとめると、やはり組織内の「評価者(上司)は常に一人」の原則を貫かなくては上述した不具合を回避することは難しい。どうしても導入する場合には、そうしたリスクをしっかり把握することと、高度な運用スキルをもつことが組織全体に求められることになる。部下や左右同位置からの評価を「事実」と「見解」に分けて整理し、「事実」のみにフォーカスして管理者として求められる水準とのギャップを気づかせていく必要があるからだ。

■“働きやすさ”を完備する効果は限定的

次にエンゲージメントについて検討する。

マネジメント領域におけるエンゲージメントとは、社員の長期的就業を促すための人事施策や、個人の成長や働きがいを高める活動を指す。エンゲージメントを高めるには、ビジョンへの共感度向上、やりがいの創出、働きやすい環境づくり、成長支援などが具体的施策のようだ。

背景は人材の流動化。キャリアアップやスキル向上を常に意識している優秀な人材は、自身のキャリアプランに合った環境を求めて転職するようになり、多くの企業が、人材流出に頭を悩ませている。若手社員についても3人に1人が辞めるという状況は数十年一定という統計が出ており、離職率の上昇と人材不足の深刻化から、人材確保を経営の最重要課題の一つとして挙げる企業が増えている。

■成果と報酬の順序をはき違えない

エンゲージメントとは、一般的に「約束」と訳されるが、本来、組織内におけるエンゲージメント=約束は、求める成果を果たすことによって報酬(福利厚生を含む対価全般)が与えられることを意味する。キリスト教史観における「与えよ、さらば与えられん」ではないが、成果が果たされると報酬が与えられるという順序が、個人と組織のエンゲージメントに他ならない。

現状、やりがいの創出や働きやすさ、社員同士のつながり強化といった施策とそれを補完するサービスが続々とリリースされ活用されているが、少し行き過ぎているのではないだろうか。そのように人材や社員におもねった取り組みをしても効果は限定的と言わざるを得ない。

上述の通り、成果と報酬の「約束」は、成果が先で報酬が後、というのが本来の順序である。石器時代における、マンモスの「肉獲得」(=成果)と「肉を食べる」(=報酬)の順番がゆるぎないのは言うまでもない。現代において、経済や会社の仕組みが、さも報酬を先に支払い仕事をしてもらうという格好になっているが、優秀な人材を獲得できている企業では、そう「見える」だけであって①成果⇒②報酬の原理原則が貫かれている。

やりがいの創出や社員同士、上司部下の信頼関係の醸成、働きがい、働きごこちといったものは本来、成果を果たした“後に”、内発的に発生する、もしくは付与されるものだ。後に付与されるものを先に与えるとさまざまな錯誤が起きる。人材難だからと言って、人材や社員におもねることは大きなリスクをはらんでいる。

■「与えられないとやらない」問題

報酬が先に与えられることで起きる弊害には以下の2点が考えられる。

①与えられないとやらない、となる
②発揮される成果の水準が下がる(この程度で与えてもらえる、となる)

①は想像に難くないと思われるが、何かを与えるから仕事してください、という状態が繰り返されると、与えられてないのでやりません、できません、が意識上成立してしまう。「わたしは、会社にエンゲージしてもらってないのでやりません」という社員、あなたは許容できるだろうか。

② ①にも関連してくるが、成果と報酬の順番を錯誤している状態ではあまり高い水準の成果を意識しなくなる。また実際に成果を果たさなくても与えられる状態では、組織全体的に発揮される生産量の量、質ともに低下する。

このように、エンゲージメントを考える場合、成果と報酬の順序をはき違えないように注意することが重要になる。

■1on1がガス抜きの場になっていないか

1on1についても、エンゲージメント施策の一環として採用している企業が多いようだ。ただ、ミーティングの目的と中身を明確に設定しないとおかしくなる。いわゆる、ガス抜きや意見出しの時間として位置付けている場合、もしくは結果的に、ガス抜き機能となってしまっている場合、この1on1の効果は限定的だ。上述のように「話を聞いてくれないからやらない」「意見を取り入れてくれない、ミーティング自体無意味だ」というマイナスの効果が出かねない。

1on1はあくまで、求められる成果に対する進捗を確認し、ショートしている場合には、取り返すための原因分析⇒対策を講じる⇒対策によって生じる結果をコミットメントという場にしなければ生産性の向上に寄与しない。

ガス抜きなどは各自プライベートで好きなことをすればよく、一時的に業務上のストレスを緩和したように見えても、ストレスそのものはそこにあり続けている。単なる一時的“回避”にすぎないのだ。部下の目の前にあるストレスは“回避”ではなく乗り越える、つまり“通過”することによってのみ解消することができる。マネジメントは、目の前のストレスを一時的に回避させるのではなく通過させる方向に導かなければならない。

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冨樫 篤史(とがし・あつし)
識学 新規事業開発室 室長
1980年東京生まれ。02年 立教大学経済学部卒。15年グロービス経営大学院にて経営学研究科(MBA)修了。現東証1部のジェイエイシーリクルートメントにて12年間勤務し、主に幹部クラスの人材斡旋から企業の課題解決を提案。名古屋支店長や部長職を歴任し、30~50名の組織マネジメントに携わる。15年、識学と出会い、これまでの管理手法の過不足が明確になり、識学がさまざまな組織の課題解決になると確信し同社に参画。大阪営業部 部長を経て、現職。著書に『伸びる新人は「これ」をやらない』(すばる舎)がある。

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(識学 新規事業開発室 室長 冨樫 篤史 写真=iStock.com)

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