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会社を何回辞めても仕事に困らない資格と趣味

プレジデントオンライン / 2020年1月20日 15時15分

桜の見方や生態について熱っぽく語る中西一登さん。水戸一高では直木賞作家・恩田陸さんらと同級生だった。

■彼女にフラれ、「桜」の道に

食うための仕事ではなく、自分が興味を持つことを生業にできれば……。そう願う人は多いだろう。自己実現はむずかしいが、「趣味」のために転職して活動を続ける例もある。

会社員生活のかたわら、国内外の桜を観察し続ける中西一登さん(55歳)は、「サクラリーマン」を自称する。18年3月20日に放送された人気番組「マツコの知らない世界“桜の世界60分スペシャル”」にも登場。どピンク(桜色)のジャケットを着て現れ、マツコ・デラックスさんをあぜんとさせた。

「私の『桜ホームページ』(当時で全国1400カ所の桜を紹介)やツイッターの情報を見てオファーをいただいたのが出演のキッカケです。『どうせなら1年間追いかけましょう』と密着取材が始まり、ロケは18回も実施。未公開映像も相当あります」と笑う。

桜との出合いは会社員だった20代の終わり。「7年半付き合っていた彼女にフラれ、心の傷を癒やすための一人旅」からだった。

「今なら妻子もいないし自由に時間をつくれる」と仕事を辞めて、それまでの貯金をもとに国内各地を訪ね歩いた。どうせ回るなら何かテーマを持とうと、「桜」と「紅葉」に決めて向き合った結果、前者の花と木に魅了された。

■再就職の口があるのはなぜだろう

それ以来、日本を象徴する花を追い続けて四半世紀。桜前線を追いかける旅をするため「会社を5回辞めた」という。とはいえ、毎回、再就職の口があるのはなぜだろう。

写真は、弘前城址の妖艶な桜を撮った中西さんの会心作。

中西さんは横浜国立大学工学部出身で、システムエンジニア(SE)として社会人生活をスタートさせたが、SEとしての再就職は年齢とともに難しくなった。そこで一計を案じ、宅地建物取引士の資格を取得して不動産会社に勤めることにしたのだ。これなら資格が生かせるため、就職先に困らない。ちなみに中西さんは、難関の気象予報士や総合旅行業務取扱管理者という資格も持っている。

桜の季節、中西さんはまるで求道者だ。休日は、前日のうちに桜名所の近くに停めた自家用車で起き、早朝5時には活動を開始。約14キログラムの機材と三脚を担ぎ「これは」という桜を求めてさまよう。見つかれば開花を何時間も待つ。天気が悪い・開花が十分でないときは翌日も待つ。まるで張り込みの刑事だ。活動がマニアックなので1人で動く。

そんな達人が最も推奨する場所は、青森県弘前市の「弘前城址の桜」。染井吉野を中心とした約2600本もの桜が全国的に有名だが、もっと深い理由がある。

「弘前の桜が見事なのは、手入れのよさもあります。弘前市は日本一のリンゴの名産地で、実はリンゴと桜は同じバラ科の樹木。リンゴの栽培技術を桜に応用しているのです。普通の染井吉野の花は高い場所に咲きますが、弘前城の桜は低い場所に咲き、人間の目で見やすく、圧巻です。『7つ咲き』の木もある。通常は1つの花芽から4本ですが、7本咲く。低木に咲き、多く花をつける。結果として、あの圧倒的な花景色になるのです」

中西さんが自らに課す「ノルマ」が2つある。「月花見」と「週花見」だ。ここでは前者の「毎月1回、国内のどこかで(品種を問わず)桜を見る」を紹介しよう。難しいのが7月と8月で、「ネットで狂い咲きの桜を探して見に行きます」。民家の庭なら、事情を話して見せてもらう。自然相手なので計画通りにいかず、強風や大雨は落ち着かない。

本業での秘かな決め事もある。会社員として「休日明けはきちんと出勤する」ということだ。「サクラリーマン」と名乗る通り、中西さんの趣味は職場でも知られている。休日に桜行脚をした結果、欠勤や遅刻をしたのでは職業人としての評価はがた落ちだろう。趣味に没頭するためにも、本業をおろそかにしてはならないのである。

■入院がきっかけで独立開業

JR金沢駅からクルマで約30分。石川県河北郡内灘町の海沿いの高台に「カフェ ド マル」という店がある。この店のオーナーが満留仁恵さん(44歳)。約22坪、座席数26席の店を切り盛りする。08年に開業した店は12年目となった。

元メガバンク行員 満留仁恵氏

開業時からのコンセプトは「女性が1人でも安心してくつろげる、コーヒーがおいしい店」だ。例えば、店の基本となるコーヒーの味では、地元で長年続く焙煎業者から豆を仕入れ、挽きたてと淹れたてを提供する。育った環境も大きいようだ。

「コーヒー好きな両親に育てられました。自宅にはコーヒーを淹れる器具や食器があり、家族で喫茶店にもよく出かけていた。もともと好きだったコーヒーについて、もっと知りたい、おいしさの秘密を知りたいと思ったのです」

満留さんの前職はメガバンクの行員。窓口業務で接客を学び、社内表彰を受けた経歴もある。だが、体調を崩してやむなく退職。通院中に立ち寄ったコーヒー店の味に魅了された。

療養中の満留さんは「おいしいコーヒーに救われた」思いを持ち、やがて「もともと好きだった接客業にコーヒーを通じて復帰できる」と、カフェの起業を決意した。

まずは本で基礎知識を得て、あの店にコーヒー豆を卸していた西岡憲蔵さん(キャラバンサライ社長)に学び、同社のコーヒー教室にも通い、技術を身につけた。コーヒーに合う自家製スイーツも店で提供する。

満留仁恵さんが経営する金沢近郊の「カフェ ド マル」。メニューや接客だけではなく、外観や内装、什器類にも満留さんのセンスが光る。

お堅い銀行とカフェは接客が異なるイメージがあるが、「ほとんど同じです」と話す。

「銀行でもカフェでも、親しみを感じてほしい、ファンをつくりたいと思い、接客しています。カフェの仕事にはやりがいを感じており、お客さまと接する基本を育ててくれた銀行には感謝しています」

ホットメニューは、品格のあるカップを温めて提供。顧客層の女性を意識して、開業当初からノンカフェイン紅茶を用意。店に置く雑誌は、女性向けを多く取りそろえた。

「3年続く店は半数」ともいわれるカフェ業界で、「基本」「縁」「本気度」を踏まえながら10年以上続く人気店にした。「心を込めた接客は必ず伝わると信じています」。

【心得】趣味人のけじめ「休日明けはきちんと出勤」

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之 撮影=永井 浩、タムラ セイジ)

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