「来年1月解散」がなければ安倍政権は崩壊する
プレジデントオンライン / 2019年12月11日 18時15分
■首相サイドが考えているのは「説明」ではなく「解散」
首相主催の公的行事「桜を見る会」をめぐる疑惑が噴出した臨時国会は、真相解明が進まぬまま12月9日閉幕した。
野党側は、安倍晋三首相の後援会関係者が多数招待されていたことなどを「公私混同」と批判し、守勢に立った首相の答弁を二転三転させたが、招待者名簿が廃棄されたことで決定打は出ず、国民の納得する説明はないまま年越しすることになった。
野党は来年の通常国会でも徹底追及する構えだが、首相サイドの脳裏に浮かぶのは「説明」ではなく、「解散」の2文字だ。第2次安倍政権以降、2度の衆院解散・総選挙は内閣支持率の下降局面で実施されており、首相の「伝家の宝刀」をテコに疑惑払拭と求心力回復に結びつけてきた成功体験がよぎる。
■「安倍一強」といわれる盤石な基盤の要諦とは
通算在職日数が11月20日に2887日に達し、戦前の桂太郎氏を抜いて史上最長の宰相となった安倍首相。約1年の短命に終わった第1次内閣は政権運営に稚拙さが目立ったが、2012年末の政権奪還後は窮地も難なく乗り切るタフな宰相に変貌した。
頼りない野党に助けられた部分もあったが、「安倍一強」といわれる盤石な基盤の要諦は、緻密に計算されてきた衆院の解散戦略にある。
安倍首相による1度目の衆院解散が断行された2014年は、4月に消費税率が8%に引き上げられ、7月に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定、12月には特定秘密保護法が施行された。首相は11月、2015年10月に予定されていた消費税率10%への再引き上げを1年半先送りすることを理由に衆院解散を表明。12月14日投開票の衆院選は自民党が大勝した。
■支持率45%前後で解散し、事態打開を図るのが手口
ここでNHKが定期的に実施している世論調査を見てほしい。2014年1月の内閣支持率は54%だったが、4月は52%、7月は47%、11月には44%に下降している。衆院選直前の12月は47%、その翌月の2015年1月は50%に回復した。
2度目の解散が行われた2017年は、森友・加計学園をめぐる問題が内閣を直撃し、7月の東京都議選で自民党が歴史的大敗。小池百合子都知事が立ち上げた新党「希望の党」の準備が整う前の9月末に衆院を解散し、10月の総選挙で圧勝した。
NHKの世論調査を振り返ると、1月に55%だった内閣支持率は7月に35%にまで急落。その後やや持ち直し、9月は44%だった。衆院選後の11月は46%、12月には49%に回復している。
データが示す通り安倍首相は、内閣支持率が下降局面に入ると、支持率45%前後で衆院を解散し、事態打開を図ってきている。ちなみに最新(12月6~8日実施)のNHK世論調査では、内閣支持率が2ポイント低下して45%、不支持率は2ポイント上昇の37%だった。同じ調査で「桜を見る会」をめぐる首相の説明に納得できない人が7割を超え、不支持の理由に「人柄が信用できない」とした人が5割近くに上ったことを合わせて考えると、ここから先は「解散局面」にあると言える。
■なぜ「解散カード」を2度も行使しなかったのか
安倍首相は臨時国会閉幕を受けた9日の記者会見で「今後とも国民の負託に応えていく上で、国民の信を問うべき時がきたと考えれば(衆院解散を)断行することに躊躇はない」と語った。メディアによっては「1月解散」の可能性を示唆したものだと受け止める向きもあるが、首相を間近で取材してきた全国紙の政治部記者たちはこう口をそろえる。
「今年の安倍首相は過去2回の時とは、どうも違う」
その理由を聞くと、アベノミクスの「障害」と延期してきた消費税率10%への引き上げは予定通り実施した一方で、選択肢として握っていた解散カードを2度も行使しなかったことが挙げられるという。
■自民党圧勝が予想されたにもかかわらず、解散しなかった
2019年は統一地方選と参院選がある「選挙イヤー」で、支援組織・団体は活動を活発化させていた。7月の内閣支持率は45%で、これまで通りの解散戦略から見ても「衆参ダブル選」を行うことがセオリーだった。
首相に対する「ご意見番」的存在の亀井静香元金融担当相は4月、日本テレビ番組でダブル選について「やるのが当たり前でしょ。安倍首相がバカでない限りはやるよ」と発言し、首相周辺からも「ダブル選の可能性がある」というアナウンスがあった。
実際、安倍首相も参院選開票日の7月21日には「(ダブル選を)迷わなかったと言えばウソになる」と選択肢にあったことを明らかにしている。野党がまとまらない時期でもあり、自民党圧勝が予想されたにもかかわらず、この時は解散カードを切らなかった。
参院選だけの「片輪走行」となった結果、参院の改憲勢力は3分の2にとどかず、臨時国会での国民投票法改正案の成立も先送りとなっている。
■森友・加計問題を思い出させる行政文書の大量廃棄
そして、2度目は「11月解散」の見送りだ。今夏の衆参ダブル選をスルーした理由についてはさまざまな評論が出ているが、首相側近の1人は「安倍首相の悲願である憲法改正につなげるために温存した。国会での憲法論議が停滞するようであれば『このままで本当に良いのか問いたい』と年末に総選挙を断行する考えもあった」と明かす。
首相も参院選後の記者会見で「(憲法改正は)必ずや成し遂げていく」とトーンを強めていたが、「伝家の宝刀」を抜くことはなかった。ちなみに11月の内閣支持率は47%だ。
この「11月解散」が選択肢から外された最大の理由は、11月8日に火ぶたが切られた「桜を見る会」をめぐる国会での追及にあるのは言うまでもない。森友・加計問題を思い出させる行政文書の大量廃棄が発覚し、1000人にも上る「首相枠」で後援会関係者やマルチ商法幹部、さらには反社会的勢力が招待されていた疑惑が持ち上がった。テレビのワイドショーはこの話題を連日取り上げ、政権の「体力」はそがれていった。
■「1月解散、2月総選挙」で求心力回復を図るというシナリオ
安倍首相が「2020年の新憲法施行」を本気で目指すならば、2019年に憲法改正を争点に掲げた衆院選で勝利し、そこで与えられた民意を背景に改正手続きを加速させる必要があった。
衆参ダブル選を実施していれば、国会での憲法改正発議に必要な衆参3分の2以上の改憲勢力を維持できていた可能性は高く、12月9日までの臨時国会中に国民投票法改正も成し遂げられていただろう。
これまで安倍首相は絶妙なタイミングで解散権を行使し、国政選挙での勝利を重ねることで求心力を維持してきた。そのことを踏まえると、2度の解散見送りは計算が狂ったといえる。
政府内には、来年の通常国会召集日を1月6日ごろに早め、補正予算を成立させた上で衆院を解散すべきだとの声もある。「1月解散、2月総選挙」で疑惑払拭と求心力回復を図るというシナリオだ。
■「結局、何もできなかった長期政権だった」
しかし、相次ぐ閣僚の辞任や「桜を見る会」をめぐる疑惑で予想以上に逆風が吹いており、与党内には慎重論も強い。1月解散を見送った場合、次のタイミングは来年度予算成立後の4月または五輪閉幕後の早秋に模索することになるが、そもそも今夏の衆参ダブル選を見送った理由である「憲法改正の実現」につなげることを考えれば、その時期の解散では遅きに失しているだろう。
ある民放のベテラン記者は、安倍政権の現状を冷ややかに見る。「来年1月に解散できなければタイミングを失い、レームダック化していくのではないか。憲法改正、拉致問題解決、北方領土返還、2年で2%の物価上昇目標達成……。結局、何もできなかった長期政権だった」。
(永田町コンフィデンシャル)
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