"MARCH付属"を蹴った小6女子の勝ち組人生
プレジデントオンライン / 2019年12月13日 9時15分
■中学受験で付属校の人気にますます拍車がかかっている
昨今の中学入試では大学付属校が人気を博している。理由は大まかにいえば、2つ考えられる。
1.2020年度(2021年1月)からスタートする「大学入学共通テスト」での英語の民間試験の導入が延期されるなど、大学入試改革が迷走しており、受験生や保護者たちの不安が高まっていること。
2.2016年度より実行された文部科学省による「大学合格者数抑制策(定員の厳格化)」により、主として首都圏の私立大学が難化している。これに伴い、この数年は浪人生数が増加していること。
首都圏の中学入試におけるMARCH(明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)の付属校の実質倍率の変化を見てみよう。図表内の数値は2016年度入試と、昨冬の2019年度入試(1回目入試)の実質倍率を示している。
■立教大学の「付属校」である香蘭女学校が大躍進
図表を見ると、MARCH付属校すべての実施倍率が上昇していたことがわかる。当然、実質倍率が上がれば上がるほどその難度は高くなる。MARCH付属の「偏差値高騰」がいま起きているのだ。
図表内でも、2016年度1.5倍、2019年度3.6倍と実質倍率が跳ね上がった香蘭女学校(品川区旗の台)の躍進ぶりがひときわ目立つ。この学校は1学年定員160人の比較的規模の小さなミッションスクールだ。大きな魅力のひとつは、立教大学の「関係校推薦枠」が毎年80人あること。純粋な立教大学の付属校ではないが、事実上の付属校的存在。2021年度の立教大学入学生より推薦枠が97人に増員されることになっており、さらなる倍率の上昇が予想される。
同校は3年前の2016年度入試において、2月1日入試の4科(算・国・理・社)受験者は250人、4科合格者は166人(実質倍率1.5倍)だった。ところが、2019年度は入試回数を2回に分けた関係で2月1日入試の定員を減らしたにもかかわらず、4科受験者は364人に増加。そして、合格者は100人と実質倍率3.6倍となった。
かつては偏差値40台前半でも合格することがあったが、いまや偏差値55程度でも不合格になってしまう受験生が出てくるまでになった(偏差値数値は四谷大塚主催「合不合判定テスト」を用いている)。
■付属校は「偏差値高騰」、いずれ元に戻る可能性がある
先ほど、付属校の偏差値が「高騰」していると書いた。普通は、物価や地価などに用いられる、ことば。付属校の現状を関して表現するのに「高騰」という語をあえて使ったのには理由がある。言いたいのはこういうことだ。
いまは「大学入試改革の不明瞭さ」「大学入試の難化」という外的要因で難化しているが、大学入試が落ち着きを取り戻したら、MARCHの各大学の偏差値は下落する(というより、元に戻る)可能性が高いと見る予備校・塾関係者は多い。
今はその人気は沸騰しているが、それに付和雷同する前に一歩立ち止まってほしい。大学入試改革の混乱や大学合格者数抑制策により、今年度の中学受験でも大学付属校人気は確実だが、状況を冷静に見守る目も持つべきだと思う。
そのように言いたくなるのは、近年MARCH付属校に合格する子どもたちの顔ぶれを見ると、このままいけば、MARCHより上位に位置付けられる国公立大学や早慶大に現役で合格するのではないかという子が大勢含まれているように感じられるからだ。
■“MARCH付属“を蹴った小6女子の勝ち組人生
数年前に青山学院中学と成蹊中学(系列の大学にエスカレーター式に進学できるが、他大に進学する生徒が大半)の2校に合格をした女の子がいた。
合格直後、2つの合格通知を手にした母娘は、どちらの学校に進学すべきか悩み、塾に相談をしにきた。こちらが推したのは成蹊。偏差値上では当時もいまも青山学院が成蹊を大きく上回っているが、彼女の学力的な「余力」を十分に感じていた(中高でさらに大きく学力を伸ばせそうに感じた)こと。そして、彼女自身が周囲に流されやすいタイプで、青山学院に進むと外部受験の芽はなくなるということは明確だと思われたからだ。塾サイドの提案を受け入れた母娘は成蹊進学を決断した。
その6年後、彼女が塾に顔を出した。聞けば、大学入試で慶應義塾大学に現役合格したという。もし、青山学院の付属校に進んでいれば、大学も青学だったはずだ。彼女は付属校を回避したことで学力的にワンランク上の慶應に進学することができたのだ。彼女はわたしに、「あの中学入試のときに成蹊を選んで本当に良かった」と語った。このような事例は決して特別ではない。
よって、「大学までエスカレーターだから安心」と付属校に進学すると、かえって損してしまうケースがあることを保護者はしっかり理解しておきたい。小学6年生の時点で進学する大学を決めることになる付属校進学は一定のリスクがつきまとうものなのだ。
■中高大エスカレーターの「トク」「ラク」
とはいえ、受験生やその保護者の多くは、付属校だからこそ「トク」ができる点、「ラク」ができる点に大きなメリットを感じているわけだ。
付属校に入れば、高校入試に阻まれることなく、大学入試を見据えて戦略的に組まれたカリキュラムの中で中高6年間を過ごすことができる。それだけではない。早期のうちに「やりたい」ことが定まっている子にとって中高一貫校は継続的に何かに一意専心しやすい環境である。
幼少期より絵画に取り組み、その実力を発揮している小学生の女の子がいるとしよう。当人も保護者も将来は美術の道へと歩ませたいと考えている。このような具体的な将来像を思い描くことのできる子には中学入試の道をわたしは声を大にして勧めたい。
この女の子であれば、美術に力を入れている中高一貫校、例えば女子美術大学付属(杉並区和田)などがいいかもしれない。美術教育を中心としたカリキュラムを編成しており、大半の卒業生たちが系列の女子美術大学をはじめ、美術と関連する分野へ進んでいる。
将来像を早期のうちから描ける子は、高校入試のみならず大学入試もない大学付属校に進むことで、中学・高校・大学の10年間の一貫教育を受けることができ、心にゆとりをもって学ぶことができるのではないだろうか。
■大学を早期に決定するという「リスク」
一方で付属校の「自由」を持て余してしまうと、学力不振に陥り、大学の内部進学さえできないという事例も起きている。そうなると、高校生の途中になって慌てて他大学に向けての対策を始めなければならない。
しかし悲しいかな、付属校の大半はエスカレーター式に系列大学に進むことを前提とした比較的ゆるやかな学習カリキュラムを敷いているため、一般的な大学受験生の学力レベルに追いつくのは並大抵のことではない。しかも、中学入学以降日々勉学に励む習慣など「捨て去って」いる生徒も少なくないから、勉強のペースを元に戻すのは困難であるといってよい。
大学付属校には「進路(分野)が限定される」というリスクも存在する。ある男の子が立教池袋中学校に進学したとしよう。当初の第一志望校であり、大満足の中学入試結果であった。しかし、高校生になって「将来は医師を目指したい」と言い始めたらどうだろう。系列の立教大学に「医学部」はない。そうなると、その時点から医学部進学を目指しての予備校通いが必須となる。
そして、その予備校で席を並べている中高一貫の進学校に通う子どもたちの大半が、「先取り学習」をおこなっているため、受験勉強スタート時点で既に大きな学力差が生じてしまう可能性が高いのだ。こうなると、本人も保護者も第一志望校のはずであった付属校の進学を悔やむことになってしまう。
■志望校選定には「前向きな理由」が大切
先述した通り、大学入試が混乱をきたしていることもあり「付属校人気」が過熱している。しかしながら、保護者としては、子の志望校を選択する際には消去法ではなく、もっと前向きな理由付けがほしいものである。
わたしは予備校講師の武川晋也氏との共著『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書/朝日新聞出版)をこのたび上梓した。
わが子は果たして「付属校向き」なのか、「進学校向き」なのか? そして、わが子はそもそも「中学受験」の道を進むべきか、「高校受験」を選択すべきか? そのような悩みを抱えている保護者に対して塾講師の本音を開陳した内容に仕上げている。手に取ってくださると幸いである。
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中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。
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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)
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