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安易な加入で損する確定拠出年金のタイプとは

プレジデントオンライン / 2019年12月12日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/west)

会社員の中には、勤務先に企業年金の制度がある人も少なくないでしょう。企業年金には、「選択制DC」というタイプがあることを知っていますか? メリットが多いと語られることが多いのですが、実は大きな欠点も。正しく判断するために、その仕組みについて理解しておきましょう。

■確定拠出年金(DC)の導入企業が増加中

企業の退職給付制度には、退職時に一括して受け取る退職一時金のほかに、企業年金が用意されているケースがある。企業年金は大きく分けて2通りあり、1つは、勤続年数などによって支給額があらかじめ決まっている「確定給付」というタイプ、もう1つは、企業がお金を出し、従業員自身が選んだ金融商品で運用する、「確定拠出年金(DC)」だ。

確定拠出年金(DC)の運用商品には預金や投資信託などがあり、運用の成果に応じて将来受け取れる額が決まる。2001年からスタートし、導入する企業は年々、増加。2019年10月末時点で3万4524社となっている。掛け金は月額5万5000円(確定給付年金の制度を併せ持つ企業では2万7500円)を上限として企業が定める。

■似て非なるマッチング拠出と選択制DC

確定拠出年金では、原則、事業主が掛け金を負担するが、年金額を増やすため、加入者(従業員)も掛け金が出せる「マッチング拠出」という仕組みを導入している企業もある。

マッチング拠出する場合、掛け金は給与から天引きされ、拠出した分(支払った分)は所得から控除され、所得税や住民税が安くなる。節税しながら年金づくりができるのがメリットだ。加入者が拠出できるのは事業主掛け金と同額まで(合計で5万5000円または2万7500円が上限)となっている。

これと似ているようで、全く違うのが、いわゆる「選択型DC・選択制DC」である(以下、選択制DC)。

選択制DCは、「そもそも確定拠出年金に加入するかどうかを本人が決め」、「掛け金は加入者が給与の中から拠出する」というもの。

事業主は、給与の一部を前払退職金として位置づけ、給与として受け取るか、企業型DCに拠出するかを従業員が選択する。従業員からみると、給与または賞与の内枠選択制で、感覚的には、給与の一部を貯めておくか、今もらうか、というイメージである。拠出できる上限は5万5000円(または2万7500円)で、加入者自身が額を決める。

マッチング拠出と選択制DC、どちらも同じようにみえるが、実は大きな違いがある。

マッチング拠出では、前述のとおり、拠出した分が所得から控除され、所得税や住民税が安くなるメリットがある。対して選択制DCでは、拠出した分が全額非課税になり、公的年金保険料や健康保険料といった社会保険料も安くなる。

税金や社会保険料が減るという点で、「選択制DCはかなりメリットが大きい」と思いがちだし、「勤務先に制度があるなら利用したい」と思う人もいるだろう。しかし、本当に得なのだろうか。

■社会保険料が減るのは必ずしもいいことではない

結論から言うと、選択制DCは決してお得とは言えない。

なぜなら、支払う社会保険料が減れば、受けられる給付も減るからだ。

健康保険は医療費の窓口負担が原則3割で、医療サービスを受けられる。これは社会保険料の多寡によって変わることはない。しかし、「傷病手当金」や「出産手当金」は違う。

傷病手当金とは、病気やけがで連続して4日以上休業した場合、最長1年6カ月、月収(標準報酬月額)の3分の2が給付されるものである。月収30万円なら1カ月分として20万円が支給されるところ、5万円の掛け金を出して月収が減っていると、約16万7000円程度になってしまう。

産休を取得し、産休中の給料が減額になったり、ゼロになったりした場合には、健康保険から「出産手当金」が支給される。これも、給料(標準報酬月額)をベースに計算されるため、標準報酬月額が30万円なら1日約6700円が98日分支給されるが、5万円の掛け金を出すと、5600円の98日分となる。

収入に応じた保険料を払うことで、収入に応じた給付が受けられる、という仕組みになっている制度も多く、保険料が減ることは必ずしも得とは言えないのだ。

■企業年金が増えても、厚生年金が減る

厚生年金も同じである。

年金保険料が減れば将来受け取る老齢年金はもちろん、障害を負ったときに支給される障害年金や、死亡後に子どもなどに支給される遺族年金の額も少なくなる。

そもそも厚生年金の保険料は労使折半で、納めるべき額の半分は雇用主が負担している。掛け金を出すことで給与が少なくなると、自身が支払う額だけでなく、企業が支払う額も減り、保険料の自己負担分が減る効果より、年金額への影響の方が大きいとも言える。

年収が一定の額を超えると(1000万円程度など)、厚生年金の保険料も頭打ちになり、将来受け取る額も上限に達する。そこまでいけば、選択制DCを利用しても厚生年金の受取額には影響がないが、多くの人にとっては、選択制DCはデメリットも多いのである。

「公的年金は減っても、企業年金が増えるのでいいのでは?」と思うかもしれないが、そうとは言えない。企業年金は掛け金と運用によって得られた原資を一定の期間で受け取っていくのに対し、公的年金の給付には税金も投入されるし、何と言っても「終身」という魅力がある。「長生きリスク」という言葉もあるように、長生きするほど、お金がかかり、生きている限り給付される公的年金は、力強い存在なのだ。

公的年金が減るようなことは避けた方がいい。公的年金を不安視している人はとくに、終身年金であることのメリットを理解してほしい。

勤務先から「選択制DCを導入する。加入するか」と問われても、安易に選択しないこと。年金を増やすなら、個人型確定拠出年金(iDeCo)を選択肢にしよう。

社会保険は、貧困に陥ったとき、困ったときに役立つものであり、国民が支え合うセーフティネットである。保険料が減ればセーフティネットが働かなくなる可能性があるし、個人にとっても、前述のように保障が小さくなって不利になり得る面が多い。

また選択制DCは一度選択すると、60歳までやめることができない(金額の変更は可能)。若いうちは、結婚、出産、転職、独立など、ライフスタイルや働き方が変わることも多く、お金についても柔軟性を持っておくのが望ましく、一度の決断が長い期間影響することは控えた方が無難とも言える。

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井戸 美枝(いど・みえ)
経済エッセイスト
複雑なお金に関わる動きを簡単に読み解くことに定評がある。関西大学卒業。社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーなど多方面で活躍。『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる!』など著書多数。

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(経済エッセイスト 井戸 美枝 写真=iStock.com)

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