1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「孫正義、ジョブズ、ベゾス」頭の中の決定的違い

プレジデントオンライン / 2019年12月16日 11時15分

アマゾンの「Re:MARS」カンファレンスで、ロボティクスとAIについて演説するアマゾン創業者兼CEOのジェフ・ベゾス=2019年6月6日、ネバダ州ラスベガス、アリアホテル - 写真=AFP/時事通信フォト

ソフトバンク、アマゾン、アップル。3社3人のカリスマ創業者の決定的な違いは何か。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「孫社長はNo.1にこだわる野心家。一方、ベゾス氏は徹底的な顧客主義。ジョブス氏は秘密裏にデザインを追求し続けた」と指摘する——。

※本稿は、田中道昭『ソフトバンクで占う2025年の世界』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■カリスマ経営者のスピーチで見える人物像

ソフトバンクグループの2019年7~9月期の連結決算は約7000億円の営業損失と、同社の四半期決算では過去最大の赤字となりました。

決算説明会では、孫正義社長はこれを「今回の決算はぼろぼろ」と自虐的に称しながらも、厳しい質問をすることで有名な各種メディアの凄腕記者たちからも積極的に質問を受け付け、一貫して真摯で謙虚な態度で現在起きていることについて丁寧にかつわかりやすく説明を行いました。

実際、起きてしまったネガティブなニュースのインパクトを和らげるのに十分な効果があったように見えました。説明がシンプルで明快なことは孫社長の真骨頂と言ってもよいのではないでしょうか。

一方で、アップルの創業経営者スティーブ・ジョブズ、アマゾンの創業経営者ジェフ・ベゾスに目を向ければ、それぞれ、パッション重視のシンプルなプレゼンテーション、一貫して決してぶれない主張や語り口に顕著な特徴があります。本稿では、ソフトバンクグループ、アップル、アマゾンそれぞれの創業経営者の人物像に焦点を当てて比較したいと思います。

■超長期ビジョンのために「1万年時計」を作った

これは経営者に限りませんが、「大胆なビジョン」を立てることには大きな意義があります。なぜなら、大胆なビジョンを考えようとすると、思考のリミットが外れ、ワクワクするような大きな目標を立てることができるからです。また、超長期目標は、「成長×貢献」の目標となり、目標とビジョンやミッションが一致することにもつながります。目標をもつ勇気が、進化する力、未来を創る力にもなります。

孫社長は、超長期目標として「300年成長する企業」を目指しており、そのための「新30年ビジョン」を作りました。これに対して、アマゾンのベゾス氏は、「1万年時計」に投資を行い、1万年時計を実際につくっています。超長期思考で、1万年先まで見据えているのがベゾス氏なのです。

ジョブズ氏は、こうした超長期目標については、残念ながら語りませんでした。非常にビジョナリーな彼のことですから超長期目標をもっていたかもしれませんが、後年においては、病気のせいでもあるのかそれが語られることはありませんでした。ジョブズ氏は、有名なスタンフォード大学の卒業生に向けたスピーチで、「もしも今日が人生最後の日だとしたら、今日やろうとしていることをやりたいと思うだろうか」と毎朝鏡を見て自問してきたと語っています。

こうした考え方が彼にとっては超長期目標に代わるものだったのかもしれません。

■No.1にこだわる孫社長、一貫して「顧客」のベゾス氏

ソフトバンクグループ、アマゾン、アップルの創業者である、孫社長、ベゾス氏、ジョブズ氏の3人をさらに比較してみましょう。図表は、孫社長とベゾス氏、ジョブズ氏を6項目で比較したものです。

孫正義vs.ジェフ・ベゾスvs.スティーブ・ジョブスの比較
孫正義vs.ジェフ・ベゾスvs.スティーブ・ジョブスの比較

1項目めの「ミッションの対象」ですが、それぞれ自分のミッションの対象がどこにあるのか。孫社長は「社会的価値」を生み出すことに、ベゾス氏は徹底して「顧客」に、ジョブズ氏は「新たなライフスタイル」を提示することにミッションの対象があります。

2項目めの「こだわり」は、それぞれ何に一番こだわっているのか。孫社長は「No.1になること」に徹底的にこだわっていて、No.1になれない分野では事業を行おうとしません。この点で非常に明快なのは、グーグルの事業領域は絶対やろうとしない点で、たとえば、グーグルがやろうとしている自動運転のOS分野へは参入していません。

ベゾス氏のこだわりは、一貫して「顧客」です。ベゾス氏は長年にわたり、消費者には3つの重要なニーズがあり、それは「低価格」「豊富な品揃(ぞろ)え」「迅速な配達」だと言っています。だから、「より低価格」に、「より豊富な品揃え」に、「より迅速な配達」になるようにテクノロジーを駆使してきました。

しかし、これら3つのニーズに対して顧客が満足することはありません。「もう十分に安くなった」「これ以上の品揃えはいらない」「商品の配達は今のままでいい」などとは言わないでしょう。ベゾス氏は、昔も今も10年後も消費者が求めるこれら3つのことは変わらない、と長年言い続けています。

■「デザインこそ、ものの仕組みすべてだ」

ジョブズ氏のこだわりは、やはり「デザイン」で、次のように語っています。「デザインはただの見た目やフィーリングじゃない」「デザインこそ、ものの仕組みすべてだ。世界で一番優れたものを作りたい。我々はそういう人たちを雇うのだ」「墓場で一番の金持ちになっているかなんてどうでもいい」(『スティーブ・ジョブズグラフィック伝記』(ケヴィン・リンチ著、林信行監修、明浦綾子訳/実業之日本社)ジョブズ氏にとってのデザインは、私たちが考えているデザインの概念よりも、相当に広く深い意味があることがわかります。

仕組みにおいても、プラットフォームやエコシステムにおいてもデザインを強く意識してこだわりました。もちろん、最終的には製品のデザインがシンプルでミニマルであることにも強くこだわったことは言うまでもありません。ジョブズ氏がアイポッド(iPod)担当のデザイナーらにデバイス上のボタンを減らすよう指示を与えたのは有名で、これが製品の代名詞となる「スクロールホイール」の実現につながりました。

■「大ボラ」を吹く孫社長、徹底した秘密主義のジョブス氏

3項目めは「ディスクロージャー度」。自分のこと、自社のことをどこまで開示して話すのか。これは三者三様で違いが明らかです。孫社長は、「大ボラ」を吹いて、自分や自社の目標、野望を公言して、有言実行してきました。ですから、ディスクロージャーについては極めて「積極的」。目標や野望を定性的かつ定量的に、数値まで開示しています。これは孫社長ならではで、非常に特徴的です。

ベゾス氏、あるいはアマゾンは、ディスクロージャーには相対的に「消極的」です。最低限のことは明らかにし情報公開を行いますが、必要以上に話すことはありません。ジョブズ氏はディスクロージャーにおいてはそれ以上に消極的で、「秘密主義」で有名でした。「秘密主義はパワーだ」とすら語っており、アップルでは秘密主義が宗教のように信仰されていました。

社内において部門同士はそれぞれ孤立環境に区分けされていましたし、互いのプロジェクトに干渉しないのが基本ルールでした。世界中のメディアに対しても、新製品の情報を封印しておくことで関心を集め、マーケティング戦略として発表会への期待を高める効果などがありました。

■死の宣告から生還したからあの名スピーチが生まれた

4項目めは「ビジョンの期間」。それぞれのビジョンを達成するまでの期間をどれくらいと考えているか。孫社長は先ほども述べた通り、「300年成長する企業」を目指して「新30年ビジョン」を作成しましたから、「超長期」と言えるでしょう。ベゾス氏は、1万年時計ですからさらに「超長期」。3人のなかでは一番長い期間まで見据えています。

ベゾス氏はブルーオリジンを設立し、宇宙事業を行っています。同様に宇宙事業を行っているテスラの創業者イーロン・マスク氏もそうなのですが、このままでは地球が滅亡してしまうから、その前に火星に人類を送ろうといったことを真剣に考えています。

ジョブズ氏も「長期」ですが、2人と少し違うのは目標を掲げることよりも1日1日を充実させることに重点を置いていた点です。特に、すい臓がんで死の宣告を受け、手術を受けて何とか生還してからは強く死を意識していたと思います。だからこそ、先ほども紹介したスタンフォード大学のスピーチで、「時間は限られているのだから、他人の人生を生きて時間を無駄にしてはいけない」と卒業生に語り、最後に「Stay Hungry,Stay Foolish(ハングリーであり続けろ、愚か者であり続けろ)」と言ったのだと思います。

■孫社長と2人との決定的な違いは何か

5項目めは「ビジョンの主な範囲」。ビジョンとして、どこまで見据えているか。孫社長も宇宙事業や衛星の開発などにも投資を行ってはいますが、「主な」というほどではありません。ビジョンの主な事業領域、ドメインは「グローバル」。やはり地球のなかです。日本から始まって、中国、インドから広くアジアに、そしてグローバルに投資を行って事業を展開しています。

ベゾス氏は「宇宙」まで見据えて、ブルーオリジンで宇宙事業まで手掛けており、ビジョンの主な範囲としては、ベゾス氏一人が突き抜けています。ジョブズ氏も「グローバル」ではありましたが、宇宙事業については考えていたかもしれませんが事業展開は行いませんでした。

6項目めは「創造と変革」。自分でものをつくることにこだわるのか、そうではないのか。孫社長は「変革」で、ベゾス氏とジョブズ氏は「創造と変革」。ベゾス氏とジョブズ氏が、自分たちで製品やサービスをつくりあげそれらを変革していくことに強い思い入れがある一方、孫社長は自分でつくることよりも事業を拡大することにこだわりがあり、投資をして投資先の製品やテクノロジー、ビジネスモデルをソフトバンクグループに導入すればいいと考えています。ここが決定的に違うところです。

■アマゾンvs.ソフトバンク連合の分かれ目は「顧客」

最後に、ソフトバンクグループのグループ企業のなかでも、ヤフーが直接的に競合しているアマゾンについて追記しておきたいと思います。

田中道昭『ソフトバンクで占う2025年の世界』(PHPビジネス新書)

アマゾンのアニュアルレポートでは、B2Cの消費者とB2Bの事業者が顧客として定義されています。そしてCEOであるジェフ・ベゾスは創業時からECの生命線はラストワンマイルであると見抜き物流を整備してきました。EC事業者としてのアマゾンとテクノロジー企業としてのAWSが表裏一体であるのもアマゾンの強み。アマゾンはEC企業であり、ロジスティック企業であり、テクノロジー企業でもある。

そして創業時に紙ナプキンに描いたビジネスモデルには最初からカスタマーエクスペリエンスが中核に据えられており、ベゾスは長年にわたって、豊富な品揃え、低価格、迅速な配達が3大要素だと言ってきています。

何よりも重要だと思っているのは、ベゾスの動画を見ていると、とにかく顧客や顧客第1主義という言葉が頻繁に出てくるということ。顧客以外は関心がないかも知れないことには批判が必要ですが、顧客を本当に思っていることは確かではないかと思います。

その顧客から見ると、ECサイトでの豊富なレビューやリコメンデーションなども豊富な品揃えの中から商品を選ぶには大きな魅力になっている。

アマゾンvs.ソフトバンク連合を考える上では、結局は顧客のことを実はどちらが本当に真剣に考えているのかというところが最後の根源的分岐点になるのではないかと考えています。AIやデジタル化によって「アップデート」すべきものは、常に進化している顧客のニーズやカスタマーエクスペリエンスへの対応なのです。

----------

田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

----------

(立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください