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GAFAに勝つには「孫正義×トヨタ連合」しかない

プレジデントオンライン / 2019年12月17日 11時15分

共同記者会見で握手するトヨタの豊田章男社長(右)とソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=2018年10月4日、東京都内のホテル - 写真=時事通信フォト

ソフトバンクとトヨタ自動車が共同設立した「モネ・テクノロジーズ」は、自動車とAIを組み合わせた新たなサービスをつくろうとしている。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「AIや金融サービスを持つソフトバンクが入ることで、日本の自動車産業は米中に次ぐ『第三極』になる可能性がある」と指摘する――。

※本稿は、田中道昭『ソフトバンクで占う2025年の世界』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■交通手段の「予約、決裁、利用」をまとめてサービス化

2018年10月、ソフトバンクとトヨタ自動車は新しいモビリティサービスの構築に向けて戦略提携し、共同出資会社「モネ・テクノロジーズ(MONET Technologies)」を設立しました。

両社の共同プレスリリースなどによれば、MONETは、トヨタのコネクティッドカーの情報基盤「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)」とソフトバンクの「IoTプラットフォーム」を連携させ、さらにサービサーとも連携をはかることによって、クルマや人の移動に関する様々なデータを活用し需要と供給を最適化、移動、物流、医療、あるいは飲食や空間提供など、社会課題を解決したり新たな価値を創造したりするMaaS(Mobility as a Service)事業を展開するとしています。

MaaSとは「サービスとしてモビリティを提供すること」です。スマホのアプリ1つで、電車やバスなどの公共交通機関からタクシーやライドシェア、自転車シェア、飛行機、船など、あらゆるモビリティを最適に活用したルート検索が可能で、予約、決済、利用まで一気通貫で行えるサービスを指します。

MasSが注目を集めるのは、交通システムを大きく一変させる可能性があるからです。鉄道会社やバス会社、タクシー会社といった移動手段を提供する各事業者を統合してサービスを行う「MaaSオペレーター」をどういった企業が担うのか、テクノロジーを駆使してどのような利便性の高いサービスが実現されるのか、注目が集まっています。

■モネは一体何をやろうとしているのか

では、ソフトバンクとトヨタはMONETでどのようなMaaSを実現しようとしているのか。それは、一言で言えば、「MONETプラットフォーム」を構築することです。

車両・配車API(Application Programming Interface)を通して、自動車メーカーや運送会社などが持つMaaSデータと接続。サービスAPIを通して、コンビニ、宅配、スーパー、医療などのサービサーと接続。そうして、「MONETプラットフォーム」は移動データ、ルート検索ログ、車両ログといったデータを集約・管理することによって、MaaSデータとサービサーを最適につなぐ役割を担うわけです。

MONETの代表取締役社長兼CEOに就いたのは、ソフトバンクの通信事業をCTOとして技術面で支えてきた宮川潤一氏です。宮川社長は、「既存交通の高度化(マルチモーダル)」「新たなライフスタイルの創出(マルチサービス)」「社会全体の最適化(スマートシティ)」というMaaS戦略の3本柱を掲げました。

これら3本柱を実現することで、MONETプラットフォームでは、既存の交通事業者同士の連携が図れるようになり、ユーザーは複数の交通手段を柔軟に組み合わせた高度で効率的な移動を簡単にできるようになります。MONETプラットフォーム上では、サービサーも連携できますから、交通事業者とサービサー、サービサー同士でも新規需要に応じた新たなサービスを共創でき、さらに、駐車場の空き状況など、街のインフラ情報を組み合わせれば、街全体のモビリティの最適化を図ることもできます。

■停車時間や走行スピードでAIが道路状況を把握する

ただ、こうしたMaaSを実現するためには、次の4つのキーファクター、「様々なデータとの融合」「デマンド(利用者の環境)の理解」「自治体連携・まちづくり」「サービスの共創」が必要不可欠とも言います。

「様々なデータの融合」としては、既存の人流データ、移動データ、人口分布データ、車両位置データ、交通渋滞データなどを統合し、「日本特有の交通環境をデータ化する」ことを目指しています。

「いつも停車時間の長い横断歩道があれば高齢者が多く通る道路であると予測する。車がゆっくりと走っていればそこが通学路だと認識する……。そうした移動速度やセンサーデータを統合したAI解析も『MONETプラットフォーム』で行っていきたい」(2019年5月21日掲載ソフトバンクのビジネスWEBマガジン FUTURE STRIDE「MONET発、日本経由で世界のMaaSへMONETサミット講演レポート前編」より)宮川社長は、2019年3月28日に開催された「MONETサミット」でこう述べました。

2つ目の「デマンドの理解」とは、利用者の環境を理解することで、たとえば、補助を必要とする人なのか、突発的な発作などで緊急性を要しているのか、インフルエンザなどの感染症にかかっているかなど、それぞれの利用者の状況まで理解して移動ルートの選択、提供を行うことができる頭脳をもったプラットフォームを目指しています。

■参加企業は飲料メーカーに鉄道、ホンダ・マツダまで

3つ目の「自治体連携・まちづくり」では、すでに全国17自治体と次世代のモビリティサービスの提供について連携しており、約150の自治体とも連携を進めていると言います。予想以上に自治体からの問い合わせが多いということは、新交通システムや新物流システムへの期待、それを実現してくれるであろうMONETへの期待が大きいことの表れでしょう。

4つ目の「サービスの共創」としては、「MaaSの世界でどんなビジネスが社会から求められるのか、正直我々もすべてを予見できているわけではない」とし、仲間づくりの場として「MONETコンソーシアム」を2019年3月に設立。この設立段階ですでに、コカ・コーラやサントリー、JR東日本など、88社が参加しています。

また、同日、ホンダと日野自動車がそれぞれ約2.5億円をMONETに出資することを発表。さらに、いすゞ自動車、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、マツダの5社がMONETに出資し、約2%の株式を取得することが6月に発表されました。

■「eパレット」は東京五輪でヒットするか

これにより、MONETプラットフォームには、日本の自動車メーカー8社の車両やモビリティサービスから得られるデータが連携されることになります。データが多くなればなるほど、それだけ高度なプラットフォームを構築できることになり、それがまた高度なサービスの提供にもつながります。

今後も、様々な日本企業が加わる可能性もあり、ソフトバンクとトヨタが「日本連合」でMaaS以降の世界のプラットフォーマーになるために、MONETを設立したことがわかるでしょう。

MONETサミットのなかで宮川社長は、MaaSが爆発的に普及する鍵は自動運転車『eパレット(e-Palette)』である、とも述べています。eパレットは、2018年1月の「CES(Consumer Electronics Show)2018」で初公開された、MaaS専用の次世代EVのコンセプトカーです。トヨタは、このeパレットを2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに走らせることを目指しており、どのようなサービスを実際に提供できるのか、筆者も注目しています。

■真価が発揮されるのは公共交通のない過疎地域

日本でのMaaSは、航空会社や鉄道会社からタクシー、IT企業まで、すでに異業種・多数乱戦の事業領域となっていますが、実証実験が行われている地域や事業者によって互換性がないUI(ユーザーインターフェース)が使用されていることも指摘されています。

筆者は、MaaSでは様々な交通手段がつながることが求められているので、グループを組成し、複数のチーム間で競争が起き、勝者に集約されるという流れになるのでないかと予想しています。

さらに、MaaSに本当に価値が生まれるのは自動運転が社会実装されてからであり、本当に解決されるべきなのは地方の過疎地域での公共交通の衰退問題ではないかと考えています。これに自動運転バスなどで対応し、そこにMaaSが交通や様々なサービスをつなげるという流れが最も求められるところであると思うのです。「ラストワンマイル」を解決してこそのMaaSなのです。

■トレンドは「つながる、自動運転、サービス、電動化」

「CASE」の概念もMaaS同様に注目を集めています。CASEとは「Connected(コネクテッド化)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Service(シェア化とサービス化)」「Electric(電動化)」の頭文字をとったダイムラーの造語で、2016年9月のパリモーターショーで発表されました。自動車産業での4つのトレンドを見事に整理したものになっています。

ダイムラーは自動車メーカーのこれからの中長期戦略としてCASEを発表しましたが、今では自動車に限らず、あらゆる産業で、コネクテッド化、自動化、シェア化、サービス化、電動化が進んでいます。その意味では、CASEは、全産業に大きな影響を与えるまでのコンセプトになったと言えるでしょう。

コネクテッド化で言えば、クルマがインターネットでつながるだけでなく、IoTや5Gによって、クルマの部品同士、クルマの部品と道路、道路と信号機など、ありとあらゆるものがつながる時代が到来しようとしています。

中国杭州にはアリババパークと銘打たれたスマートシティがあり、筆者は2019年3月と7月にそこを訪れました。なかには、アリババ本社、アリババ社員の住居、近未来ホテル、最先端商業施設などがあるのですが、ここでは、本当にありとあらゆるものがつながっており、電動化、自動化による無人化、キャッシュレス化が徹底的に行われていました。

■顔認証でチェックイン、ロボットバーテンダーも

アパレルショップでは、「バーチャル・フィッティング・システム」が備えられており、いろいろなコーディネートが提案され、気に入った商品はオンラインのネット空間で購入。商品は自宅に送られるので荷物がかさばることも、レジに並ぶ必要もありません。

ホテルのロビーでも、設置された端末やスマホで自分の顔を撮影し、専用アプリで決済すればチェックインが完了。エレベーターも部屋に入室するのも顔認証で、ルームサービスを頼むとロボットが品物を運んできてくれます。ホテルのバーでカクテルをつくるのもロボットバーテンダーでした。また、ゲートを通過するだけで見られるチケットレス映画館、無人のカラオケ店などもありました。

シェアリングサービスに至っては、世界的な価値観になりつつあります。地球温暖化はグローバルな問題であり、CO2削減は待ったなしです。大切なのは、サステナビリティであり、そのためのシェアリングサービスと考えると、これも自動車に限ったことではなく、全産業が「所有から利用へ」の流れのなかにあります。電動化の電気も、サステナビリティを考慮すれば、石炭や石油などの旧来のエネルギーで発電するのではなく、再生可能な自然エネルギーで発電することが重要になっています。

このようにCASEは今や、自動車産業に限った中長期戦略ではなく、全産業が取り組まなければならない課題になったと言っても過言ではないのです。

■LINEを持つソフトバンク×トヨタ連合の勝機は

最後に、ヤフー・LINEの経営統合にかかわる観点から、「MONETプラットフォーム」の戦略上の重要性について述べておきたいと思います。

11月に発表されたヤフーとLINEの経営統合によって、利用者数1億人超の巨大グループが生まれることになります。実際、共同CEOとなる両社社長は「米中に次ぐ第三極を目指す」という大胆なビジョンを提示しています。しかし残念ながら、2社の経営統合後のソフトバンクグループ全体で見るとしても、時価総額、研究開発費、顧客規模などどれをとっても「米中に次ぐ第三極」には到底届かないことは否めません。

そこで、筆者は、日本が「米中に次ぐ第三極」に成り得るきっかけは2社統合が起こす「すべての産業の秩序と領域を定義し直す戦い」の中にある、そしてその再編の中核こそ、ソフトバンクグループとトヨタとの連携にあると考えています。その意味で、ソフトバンクとトヨタが構築した「MONETプラットフォーム」の重要性がさらに増していくことは必然でしょう。

トヨタから見れば、同社の次世代自動車産業におけるレイヤー構造の下層に顧客接点としてのスーパーアプリ「ペイペイ」「LINEペイ」が加われば、強力なエコシステムを構築することができるでしょう。CASEの1つ「コネクテッド化(スマート化)」という重要ファクターにおいて大きな差別化になることは確実です。

■GAFAにも匹敵するプラットフォームが生まれるかも

田中道昭『ソフトバンクで占う2025年の世界』(PHPビジネス新書)

次世代自動車産業においては、「サービスがソフトを定義し、ソフトがハードを定義する」ことになります。とすれば、研究開発費の量と質でグローバルのトップレベルにあるトヨタ自動車が、自社グループ内に存在する強力なサービスを基点にソフトやハードを生み出すことができれば、GAFAにも匹敵するような大胆なプラットフォームが企業連合から誕生する可能性もあるのではないでしょうか。

つながるクルマ。AIが運転手となりハンドルがないクルマ。シェアされるクルマ。EV化されたクルマ─。これらが実現したのちの次世代自動車産業の姿を、想像してみてください。狭義の自動車産業自体は縮小するかもしれない。でも広義の自動車産業は、これまでの自動車産業をはるかに超える規模になる。「クルマ×IT×電機・電子×金融×その他」がオーバーラップし、掛け合わされる巨大な産業になる。そこにサービスほか周辺の関連産業まで加えるならば、全産業を巻き込むものになると言っても過言ではないでしょう。

さらには、やはり日本の強みは製造業での真のデジタルトランスフォーメーションにあり、それを基軸とした複数産業での再編にこそ「米中に次ぐ第三極」となる可能性があると筆者は予想しているのです。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

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(立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭)

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