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東大最強の開成が「高校入試」を廃止しないワケ

プレジデントオンライン / 2019年12月19日 9時15分

撮影=末木 佐知

首都圏の中高一貫校で「高校募集」を停止する動きが相次いでいる。6年間の「完全中高一貫化」が進行する中、東大合格者数38年連続1位の開成は、高校入試を続けている。中学受験塾代表の矢野耕平氏は「“新高”と呼ばれる高校入学組の存在が、“旧高”と呼ばれる中学入学組の刺激になっている」という――。

■高校入試廃止、完全中高一貫化が進行するワケ

2019年6月30日付の日本経済新聞の朝刊は次のように報じた。

東京都内の有力中高一貫校が相次ぎ高校募集を停止する。本郷高校(豊島区)は2020年度入学、豊島岡女子学園(同)は2021年度入学を最後に高校入試を取りやめる。都立中高一貫校5校も順次、高校の生徒募集を停止する。高校選びの選択肢が狭まり、中学受験を検討する家庭がさらに増えそうだ。

この本郷や豊島岡女子に加え、いま全国でトップクラスの大学進学実績を残す共学校の渋谷教育学園幕張(千葉県千葉市)も時期は未定だが、完全中高一貫校化を検討しているという。千葉県では2017年度より理系に強い共学進学校として知られる東邦大学付属東邦(千葉県習志野市)が高校募集を停止したばかりだ。

■男子御三家、女子御三家の中で唯一高校入試を実施する「開成」

このように昨今は「完全中高一貫化」が進行している。

中学入学当初から多くの生徒を受け入れたほうが経営的に安定するのかもしれない。あるいは、完全中高一貫したほうがその学校の指導カリキュラムが進めやすくなるのかもしれない。

ちょっと面白いのは、こうした時流の中で、あの天下の開成は今も高校受験を実施していることだ。中学受験の「男子御三家」の麻布・武蔵・開成、「女子御三家」の桜蔭・女子学院・雙葉の6校を見てみると、開成を除く5校は高校入試を実施していない。

開成は東京大学合格者数ナンバーワンを誇る進学校の頂点に輝く学校だ。1982年以来、実に38年にわたってナンバーワンの座に君臨するというのだからすごい。なお、2019年度の東大合格者数は186人(過年度生を含む)。開成の中学募集定員は300人、高校募集定員は100人である。

なぜ、開成は高校入試をいまでもおこなっているのだろうか。

■開成の「旧高」と「新高」とは何か

開成では中学入学組を「旧高」、高校入学組を「新高」と呼んでいる。

中学校は7クラス体制で1クラスの人数はおおよそ43~44人、高校になると8クラス体制になるが、そのときは1クラス50~51人程度になるという。ただし、高校1年生のときは「新高」のみで占められるクラスが2つある一方、「旧高」のためのクラスが6つ設けられていて、授業で互いの接点はあまりないという。

高校から入ってきた「新高」はすでに3年間開成で過ごしている「旧高」に対して、やりづらさはなかったのだろうか。「新高」だった30代の卒業生は当初は心細かったと打ち明ける。

矢野耕平『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)

「高校から開成に入って、最初は旧高となかなか打ち解けられないなあという気持ちを少しだけ持ちました。これが中学からの人と同じクラスで高1からスタートするのであればだいぶちがったのでしょうが。そもそも中学からずっといる人たちのコミュニティに入っていく場所ってあんまり多くないのです。わたしは辛うじて部活動がありましたが、部活動や委員会をやらない新高の人間からすると、すでにでき上がったコミュニティに一年間接する機会がないわけですから、どんどん疎外感を抱いていく……という側面があったのかもしれません」

ただ、高2になると「旧高」と「新高」の溝のようなものもなくなる。開成名物の運動会があるからだ。

「高2から中学受験で入った人、高校受験で入った人が混じります。そして、クラスの結束を強める機能を果たしたのが運動会でした。高2の5月から高3の5月にかけてはクラスでまとまってみんなで運動会に向けて準備しますから。そこで互いの距離が一気に縮まるのです」(同上)

■「旧高」と「新高」の生徒たちの特徴

開成の「旧高」と「新高」の生徒たち。同校で1978年(昭和53年)~2010年(平成22年)まで実に32年にわたり教鞭を執ってきた橋本弘正先生にこの点をたずねてみた。

「卒業してしまえば、『旧高』と『新高』の違いは分からなくなりますが、『新高』のほうが社会性の豊かな人がたくさんいるのではないかと思いますね。立ち回りが上手というか。彼らの多くは公立中学校、男女共学ですしね。経済面も含めて多様な背景を持った子どもたちが集まっている場所を経験したからでしょうね」「一方、中学入学者は6年間男子だけで過ごします。そして、彼らの人間関係――とりわけ、上級生と下級生が織り成す人間模様が彼らに与える影響は大きいものになる。行事ひとつとってもすべて上級生がお手本になる。言い換えると、高校生になって自らが上級生になったときは、下級生(中学生)を意識した行動をすっと取れる子が多いです。その行動は歯切れのいい『鮮やかさ』があるように思いますね」

写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

高校に上がって「新高」を迎えるということは、それまで違う文化の中で育ってきた同級生たちが登場するということだ。この多様性が生徒たちに刺激を与えるらしい。現在20代のある卒業生は開成の同級生たちの顔ぶれを思い浮かべつつ、こんなことばを口にした。

「開成は本当に個性の強いヤツが多い。だから、ぼくは『人を認める力』みたいなものが身に付いたように思いますね。大学に入ってからでも、『ああ、こいつはダメだ』なんてあまり思いませんし。第一印象で決めつけない、この人ちょっと苦手だなあと思っても、実はある部分で突出していて、尊敬できる人だったというケースを開成で数多く見てきたからでしょう」

■開成内の格付け「百傑」と「裏百」の大バトル

「旧高」の生徒たちにとって「新高」の生徒たちとの出会いは、とりわけ学習面において大きな意味を持つという。前出・20代の卒業生は語る。

「よく言われるのが、『新高』が『旧高』にとって大学受験へのカンフル剤になるということ。旧高の成績って上か下に両極端なのです。新高がその真ん中に入ってきて、それで下のほうにいる旧高の層は焦り始める」

もしかしたら彼の学年に限った話ではないかと、彼の2つ下の大学生の卒業生に同じ質問をすると……。

「まさにその通りです。高1から『実テ』(実力テスト)が学校で始まります。ここの成績をもとに開成では『百傑』(上位100名)とか『裏百』(下位100名)と伝統的に呼ばれるのです。最初は高1の9月に実テがおこなわれるのですが、ふたを開けてみると旧高と新高の人数比は3対1のはずなのに、百傑は旧高、新高で半々になります。なぜかというと、新高の連中は高校受験で猛勉強しているわけです。そのままの勢いで高校に入ってからも旧高の連中に負けないように勉強する……。そんなとき、ぼくらはモラトリアムを爆走中。だから、高校に入った当初は新高のほうが学習姿勢はいい」

ちなみに、「実テ」の形式は東京大学の試験問題とそっくりだという。

■ヨソモノが入ってくることの効果で東大合格者数38年連続1位

それでは、旧高の生徒たちは新高の生徒に学力的に押しつぶされてしまうのだろうか。彼はこう付け加えた。

「面白いのは、新高(の手ごわさ)を目の当たりにした旧高の側に火がつくことです。『やべえ、勉強しなければ』って。『東大どころか、百傑すら入れないぞ、このままじゃマズいんじゃないか』って。で、最終的(大学受験時)な百傑はうまい具合に旧高が3、新高が1の割合になるのです」

写真=iStock.com/gong hangxu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gong hangxu

先述したように、38年間にわたって東京大学合格者数ナンバーワンの座を維持している開成。

完全中高一貫化が進行する時代の中、高校入試をかたくなに貫いているのは、生徒たちの心、そして学力を磨き上げ、鍛え上げるための仕掛けなのだろう。

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矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。

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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)

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