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私立中高の決断「高校受験組に東大合格はムリ」

プレジデントオンライン / 2019年12月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ranmaru_

都内の有力中高一貫校が相次いで高校募集を停止している。中学受験塾代表の矢野耕平氏は「高校募集を停止する豊島岡女子の場合、今年の東大合格者は全員が中学入学組だったという。中学入学組より高校入学組の学力が劣ることが多いことがその理由だろう。完全中高一貫化の流れは、さらに続きそうだ」という――。

■豊島岡女子、東邦大学付属東邦は廃止、そして渋幕も……

東京都内の有力中高一貫校が相次いで高校募集を停止している。本郷高校(豊島区)は2020年度入学、豊島岡女子学園(同)は2021年度入学を最後に高校募集が停止される。

この動きは千葉県の私学にも及んでおり、東邦大学付属東邦が2017年度より高校募集を停止したほか、渋谷教育学園幕張も今年6月に同校ウェブページ上で「将来の中高一貫化を見据えた」ものとして、中高のシャツ・ブラウスの統一を発表している。

こうした傾向に逆らっている学校もあることから、12月19日にはプレジデントオンラインに「東大最強の開成が『高校入試』を廃止しないワケ」という記事を書いた。

今回は「中高一貫校の高校募集停止」という傾向が、私学だけではなく都立校でも起きていることをまずは考察したい。

■都立中高一貫校も高校募集廃止の傾向に

全国には公立の中高一貫校があり、私立中高一貫校と同様に、受験をクリアしないと入学できない。それだけにどの高校も、いわゆる進学校として国公立大や有名私大への合格実績を残している。

写真=iStock.com/wnmkm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wnmkm

都立では、2005年に東京都立白鴎高等学校(台東区)が附属中学校を開校し、初の都立中高一貫校が誕生した。現在は、都立桜修館中等教育学校(目黒区)、都立小石川中等教育学校(文京区)、都立立川国際中等教育学校(立川市)、都立三鷹中等教育学校(三鷹市)、都立南多摩中等教育学校(八王子市)、都立大泉高等学校附属中学校(練馬区)、都立富士高等学校附属中学校(中野区)、都立武蔵高等学校附属中学校(武蔵野市)、都立両国高等学校附属中学校(墨田区)の計10校がある。

なお、「~中等教育学校」の名称の5校はもともと中学募集のみで、高校募集はおこなわれない。一方、「~高等学校附属中学校」の名称の5校は、校名の通り中学校はあくまでも高校の付属としての位置づけであり、中学募集、高校募集の双方をおこなっている。

しかし、である。

この5校の「~高等学校附属中学校」がこれから順次高校募集を停止するのである。2021年度は都立富士高等学校附属中学校、都立武蔵高等学校附属中学校が、2022年度からは都立両国高等学校附属中学校、都立大泉高等学校附属中学校公庫募集を停止する。都立白鷗高等学校附属中学校のみは時期未定となっている。

都立中高一貫校のこうしたシフトチェンジは今後、中学受験、高校受験に大きな影響を与えるはずだ。

■頭のいい中学生女子が進む私立高校が消えつつある

そして、都立中高一貫校の高校募集停止プラン以上に受験生にショックを与えそうなのが、冒頭で触れた豊島岡女子の2021年度からの高校募集停止だ。とりわけ影響を受けると思われるのが、首都圏の女子の「学力優秀層」だ。

なぜか。豊島岡女子学園の高校募集停止によって、女子学力優秀層が目指す「難関女子進学校」がほぼなくなってしまうことを意味するからだ。

中学受験をおこなっている東京都内の女子進学校(四谷大塚の模擬試験偏差値43以上)を一覧化した表を見てほしい(図表1)。23校の女子進学校のうち、現在高校募集をおこなっているのは「豊島岡女子学園」(基準偏差値70)と「江戸川女子」(基準偏差値44)の2校のみ。ここから豊島岡女子学園の選択肢が消えるという事態は極めて深刻だということが分かるのではないだろうか。

■豊島岡女子、今年の東大現役合格者で「高校入学者はゼロ」

なぜ、これほど「完全中高一貫化」(高校募集の停止)が進行しているのだろうか。筆者としては、高校入試組の学力が中学入試組より劣っていることが多かったからではないかと考えている。そう考えれば、中学入試での間口を広げ、生徒たちを6年間じっくり育てたいと考えることは納得できる。

高校募集を停止した豊島岡女子の担当者は朝日新聞の取材に対し、「コメントしない」としている(2019年8月7日付)。だが、同記事において早稲田アカデミーの高校受験部長・酒井和寿氏は「中学入学者と高校入学者のレベルが、一番の理由だろう」と述べている。さらに記事では、豊島岡女子の今年の東大現役合格者は全員が中学入学者で、高校入学者はゼロだったことを紹介している。

わたしも来春より高校募集を停止する本郷の教員からこんな「ホンネ」を直接聞いた。

「高校1年生をみていると、高校入学組と中学入学組は学力的には競っているのですが、高校2年生、3年生と大学入試が近づくにつれ、中学入学組が高校入学組を一気に突き放していくのです。どうしてだと思いますか?」

こちらが思案していると、この教員はその核心をつく発言をした。

「それは、中学入学組が受験勉強のときに理科・社会の学習に打ち込んだことがアドバンテージになるからです。私立の高校入試用の受験勉強をしてきた子たちは、英語・数学・国語の3科にしか打ち込んでいないのですよ。この違いはかなり大きい」

大学入試センター試験(2020年度からは大学入試共通テストに名称変更予定)で国公立大学を狙うには、英語・数学・国語以外に、理科・社会から特定分野(たとえば、物理、日本史など)を複数選ばなければならない。それを考えると、中学受験で理科・社会に取り組んだ経験を持つ子は、その分、得点力が高いというのだ。

■一方、高校入学組が学内を活性化させることも

一方、拙稿で書いたように、高校入学組が中学入学組に刺激を与えることもある。それは開成だけでなく、近年、進学校としてメキメキとその頭角をあらわしてきた東京都市大学等々力(世田谷区)にも言える。同校は高校募集をおこなう中高一貫校だ。

教頭の二瓶克文先生は言う。

矢野耕平、武川晋也『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書/朝日新聞出版)

「数年前のことですが、わが校を完全に中高一貫化するかどうか、教員たちで話し合ったことがあるのです。高校募集を停止すれば、カリキュラムが一本化され、われわれの負担が軽減されることもありますしね……」

話し合いの結果、高校募集を続行しようということになったそうだ。どうしてか。二瓶先生は語気を強める。

「中学から入ってきた子は3年~4年学内にいれば、『中だるみ』のような状態に陥ることもあります。ちょうどそのタイミングで高校から新たな生徒を迎えることでぐんと風通しが良くなり、互いに切磋琢磨する雰囲気が生まれるんですね」

聞けば、東京都市大学等々力は高校募集からも優秀な子が集まる傾向にあるという。都立高校では小山台(品川区)・青山(渋谷区)・新宿(新宿区)など、神奈川県立では川和(横浜市)・多摩(川崎市)など、横浜市立では横浜サイエンスフロンティア(横浜市)といった上位校の受験する子たちがその併願校として、東京都市大学等々力を受験するのだという。また、近年は早慶やMARCHの付属高校の併願者も増えているそうだ。

東京都市大学等々力は、優秀な生徒を高校から迎え入れることで、学内全体を活性化するという戦略が功を奏しているのだ。

■わが子は中学受験? それとも、高校受験?

わたしは12月に予備校講師の武川晋也氏との共著『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書)を上梓した。

「高校募集停止」が加速化している首都圏の受験事情。これらの流れを受けて、わが子に「高校受験」より「中学受験」を選択させようと考える保護者もいるだろう。しかし、家庭の考えや子供の学力、今後の動き次第によって、その判断の是非は変わる。

なぜなら、中学受験・高校受験の双方にそれぞれ「トク」する側面、「ラク」できる側面、「リスク」のある側面があるからだ。共著者の武川氏は大学予備校講師、わたしは中学受験塾講師で立場や考えは異なるが、本ではあえてその違いや本音を残した。わが子の受験に悩む小学生・中学生保護者の考えるヒントになると自負している。手に取っていただければ幸いである。

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矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。

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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)

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