橋下徹「ゴーン氏“真っ黒”報道はなぜ異常か」

プレジデントオンライン / 2020年1月22日 11時15分

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/Valerii Evlakhov

海外へ逃亡したカルロス・ゴーン被告に対して、大手メディアを通じて推定無罪の原則を無視した激しい批判が加えられている。その中には捜査機関からのリークとしか思えない情報も多数含まれる。日本の捜査当局とメディアが抱える積年の大問題を橋下徹氏が鋭く突く。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(1月21日配信)から抜粋記事をお届けします。

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■近代国家が絶対に守るべき原則、推定無罪と黙秘権

森雅子法務大臣が、「ゴーン氏は日本の法廷で無罪を証明すべきだ」と語った。さすがに推定無罪の原則に反すると思ったのか、その後「『無罪を主張すべきだ』に訂正する」とした。

日本の中でも、ゴーン氏の会見について「何の説明もしていない」「無罪の主張として裏付けが何もない、具体性がない」などという批判が沸き起こった。

しかしこれらの批判は、推定無罪の原則や黙秘権という近代国家が絶対に守らなければならない原理原則を無視した批判だ。

フェアの思考からすると、ゴーン氏にこのような批判をする人たちは、自分たちにも推定無罪の原則や黙秘権が保障されなくても文句が言えないことになるが、それでいいのだろうか?

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■無罪だった小沢さんの事件についてなぜ「小沢は真っ黒」情報がメディアに溢れたか

報道ではゴーン氏の容疑について、物凄い情報が氾濫している。どう考えても捜査機関しか把握していないような情報がどんどん出ている。

そして、ゴーン氏が逃亡した後、先日ゴーン氏の妻に偽証罪容疑でいきなり逮捕状が出た。ゴーン氏の妻は既に日本にはいないので逮捕状を執行することはできない(逮捕することはできない)にもかかわらず。

これはゴーン氏が会見において、妻と面会できなかったことも日本の刑事司法制度の問題点であるとして、日本を脱出した理由にあげていたので、検察はこの点に反論したかったためであろう。逮捕状容疑について、ゴーン氏の妻が関係者に証拠隠滅の働きかけを行っていたという情報がどんどんメディアから出ており、そのためにゴーン氏は妻との面会を禁止されていたと言わんばかりだ。その情報はどう考えても捜査機関しか知り得ない情報で、検察によるリークとしか考えられない。

報道の自由が最大限保障される日本においては、メディアが捜査機関側を取材し、色々な情報を流すことは認められるだろう。しかし、そうであれば、フェアの思考からすると、容疑者・被告人の言い分もしっかりメディアは報じるべきだ。

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また捜査機関側も、容疑者・被告人に関する容疑の情報に関しては、もっと丁寧に扱うべきだ。

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2009年に大騒ぎとなった、小沢一郎現国民民主党衆議院議員をめぐる事件報道は反省材料として典型的なものだ。西松建設事件、陸山会事件。あのときは、小沢さんを追い落とすような大きな世の中の流れがあり、小沢さんが有罪であるかのような情報が山のように流れた。圧倒的に多くの国民が、小沢さんは有罪、「真っ黒」という認識を持ったと思う。

報道による小沢さんバッシングはすさまじく、小沢さんは政権交代直前の民主党の代表を辞任したり、政権交代を果たした後の民主党幹事長を辞任したりした。

しかし、最終的に小沢さんは無罪となった。あのときの「小沢さん有罪間違いなし」という報道は何だったのだろうか。

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■政府は恐ろしいと喧伝するメディアが、実は最も恐ろしい

ゴーン氏が国外逃亡をしたというのは、主権国家日本(日本政府)にとっては恥ずかしいことであるし、それにゴーン氏が海外から日本の刑事司法制度をガンガン批判していることについても、検察としては許し難いことである。もちろん僕も、ゴーン氏には日本の裁判を受けさせるべきだと考える。

ゆえに検察は、異例の情報発信を行っている。そして、どんどん発信すべきだと煽る国会議員もたくさんいる。

しかし、そもそも容疑者・被告人について捜査機関が、容疑(起訴)事実を主張し、それを立証することができるのは「法廷の場」においてだけだ。

国家機関は強大な力を持っている。情報収集能力も凄まじいものを持っている。そのような国家機関が、国民(外国人を含む)の容疑事実を、ルールも何もない中でどんどん発信することは危険極まりない。

だから近代国家は、刑事訴訟法という法律によって捜査機関ができることを厳格に定めた。容疑者・被告人には弁護人を置いてきっちりと反論できる機会を与えた。

このようなルールがあるのにそれを無視して、国家権力側が、容疑者・被告人の容疑事実を裁判外においてどんどん情報発信することはアンフェアだ。権力を持たない容疑者・被告人が裁判以外で自らの主張することは無制限だろうが、国家機権力である捜査機関側がそれを平気でやってしまう国は恐ろしい。

法務省としては、国外逃亡された経緯については説明責任を果たさなければならない。それは「なぜ国外逃亡されてしまったのか」についての法務省の反省の弁であり、今後の対策についての説明である。

もちろん、日本の刑事司法制度についてゴーン氏から指摘されたことについて、反論があればきっちり反論しなければならない。ただし、それは「日本の刑事司法制度に何ら問題はない」という今、日本政府がやっているような形式的な反論ではなく、本来目指すべき水準に照らして、その水準を満たしているのか、満たしていないならなぜ満たしていないのかについて、実質的に反論すべきである。

しかし、いくら情報発信をするからといって、ゴーン氏が有罪であるかのような情報を、裁判外において一方的に発信するのはフェアではない。

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そうしたら、1月20日付、毎日新聞2面の「風知草」というコラムにおいて、毎日新聞特別編集委員の山田孝男さんが、「問題の核心である背任の起訴内容を、検察はもっと発信したらいい。夫人は疑惑のカネの受け皿企業の代表で、接見禁止が『妻と会えぬ日本的な暗黒』という問題ではないことも」と主張していた。

山田さん、貴殿はゴーン氏を有罪だという前提で考えていませんか? ゴーン氏の妻に接見禁止理由があるという情報は、検察側から聞いた情報ではありませんか? ゴーン氏側、弁護人側からどのような主張を聞いた上での判断なのでしょうか? 何よりも国家機関が法廷以外で一方的に有罪情報を発信することに恐ろしさを感じませんか? 毎日新聞が特集を組んで徹底追及している政府による公文書廃棄よりも、そんな情報発信する国の方がもっと怖いですよ。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

それよりも大手新聞社が、推定無罪の大原則を無視した国家権力による情報発信を奨励することが一番恐ろしい。

法廷で有罪判決が確定した時だけが有罪だ。被告人が逃げようがどうしようが、有罪判決が出なければ、ゴーン氏は有罪ではない。小難しいことを論じるよりも、この近代国家の大原則を一から勉強し直してください。

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そして最も重要なことは、ゴーン氏に日本の裁判をどのように受けさせるかということである。それもフェアの思考に基づく方法で。なかなか難しいところではあるが、実は参考になる事例が過去に存在する。

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(ここまでリード文を除き約2700字、メールマガジン全文は約1万2300字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.184(1月21日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【フェアの思考(2)】ゴーン氏事件の問題点 検察が被告人「不利」の情報をリークするのはアンフェアだ》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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