名医ランキング「がん治療トップ6人」の共通点
プレジデントオンライン / 2020年2月7日 15時15分
■最初から名医にかかる重要性
誰でも「自分や家族が病気になったら、誰に治療してもらうか」という決断を迫られるときがきます。患者は、命にかかわる病気を宣告されたとき、どの医者にかかればいいか、すぐに決めなければならない現実に直面します。時に、主治医や手術を今日中にも決めなければならないという切迫した状態にも置かれます。
こうした待ったなしの状況に立ったときにどうすればいいか、自分にとって最善の医師をすぐに選べるようにしたい、そんな願いから、われわれ桜の花出版は『国民のための名医ランキング』を刊行しました。
本書は、医師をランキングする画期的な試みです。患者視点の本であり、掲載する医師は臨床・治療の第一線にいることを条件としています。
調査・取材してわかったことは、とにかく最初から名医にかかるということの重要さです。救急でない限り、「近い病院だから」「症状が軽いから」という理由で何となく病院や医師を選ぶのは要注意です。
軽い気持ちで検査をして患者はその悪い結果に驚き、あっという間に手術日が決まり、入院となる場合があります。「別の治療法がないのか、ほかの医師の意見も知りたい。納得するまで説明を聞きたい」と思っても、病気に対する不安と焦りで流されるままになる場合が多いのです。それでも良い医師・病院に恵まれたら幸運ですが、1度入院すると他病院への転院は非常に困難になります。
■医師を選ぶことは自分の人生を選ぶこと
病院を決めること、担当医師や治療法を決めるということを軽く考えてはいけません。これは手術だけに限ったことではなく、生活習慣病など慢性的な病気も同様です。最初の一歩をどう踏み出すかが極めて重要です。医師を選ぶことは自分の人生を選ぶことに直結するからです。
名医ランキングの調査は、医師への直接取材、推薦、医師間の相互評価、患者からの情報などから総合的に判断しました。各分野の名医とされている医師にアンケートを依頼し、なるべく客観的に比較できるようなデータを出していただくことをお願いしました。多くの医師が情報を公開し協力してくれています。とはいえ、医師の技量を測る客観的データといっても複雑で、横断的に比較できるような統一された基準もなく、その公開方法も一律ではありません。
外科手術については、高難度手術と通常の手術実績は一律に比較できませんし、患者の容体によって治療成績が異なるのは当然。一般内科では、何をもって治癒・寛解とするかを定義すること自体が困難です。
こうした名医を探す作業を通じて、有名な医師の情報を集めるのは簡単でも、その中から本当の名医を選ぶことは、実に難しいと痛感しました。しかし、誰もが理解している1つの事実があります。医師の技量の比較方法は困難ですが、「各医師によって治療の結果は明らかに違う」ということです。ただ、その客観的な比較方法がはっきりとしないだけです。どのような基準をもって名医というかの判断は大変難しいですが、医師も自身や家族が病気になったときには医師間のネットワークを駆使して名医を探しています。それが実態であるということです。
治療法の選択も大変重要です。患者は誰も手術を望んでいません。できれば切りたくないのは当然です。
がん患者が手術をきっかけに体の免疫機能が低下して、一気に体力が落ちて悪化してしまう例もあります。そこで、現在は低侵襲治療という、なるべく体に負担をかけない方法へ進んでいます。カテーテル治療(血管内治療)が心臓、脳血管の分野にまで発展しています。開胸(開頭)することなく、治療が可能となる病気が増えました。
放射線治療もガンマナイフ、サイバーナイフ、トモセラピー、ホウ素中性子捕捉療法、陽子線治療、重粒子線治療など、患部にピンポイントで照射する技術が高まり、まさにナイフ(手術)に匹敵するような進歩を遂げています。
■「オプジーボ」のような画期的ながん治療も話題
「がんゲノム医療」という、がんの遺伝子変異を明らかにし、一人ひとりの体質や病状に合わせた治療も実施され始めています。また、ノーベル賞を受賞した研究成果をもとに開発された免疫チェックポイント阻害薬、「オプジーボ」のような画期的ながん治療も話題となりました。
しかし、最先端医療も魔法ではなく、副作用・合併症・欠点もあります。
治療法の選択は、年齢、容体など個人差があり大変難しいのですが、その判断に国立がん研究センター中央病院の片井均医師(胃外科)は、取材時に次のような優先基準を示してくれました。1.患者の病気が治ることがすべてにおいて優先される。2.手術が必要と判断されたら、なるべく臓器は温存されるべき。3.臓器の温存ができるなら、なるべく傷は小さいほうがいい(低侵襲)。
これは、ごく当たり前のように思えますが、患者はできるだけ手術したくない、切りたくないという気持ちの前にこうした前提を見失うことがあります。できるだけ、臓器を温存して切らない医師がいたとしても、あっという間にがんが再発して「最初から適切に大きく切ればよかった」というケースもあります。傷が小さい、痛みが少ないといって、小さく切ったのに、がんは取り残されて、最終的には全摘になってしまうケース、放射線を無計画に当てて、かえって腫瘍が取れなくなったケースもあります。医師と患者は、治療法のメリット、デメリットについて納得がいくまで話し合う必要があります。
■6人に共通するのは各分野の先駆者であること
ここに挙げた各部位のがんの名医6人は名医ランキングに掲載されている中でも特に評価の高い医師です。前述した評価方法により、各部位のがん治療において国内トップクラスであると考えます。6人に共通するのは各分野の先駆者であること、卓越した技術、すぐれたチーム医療を牽引していることなどです。
伊達洋至医師(京都大学医学部附属病院)は肺移植・肺がんが専門です。日本で初めての生体肺移植を執刀した、移植医療のパイオニアです。日本の肺移植の実に約4割を執刀し、約3500例の肺がんなどの呼吸器外科手術を経験しています。伊達医師によると肺移植を多く手がけている施設は肺がん治療にも高度な技術を持つといいます。医師間評価ではそのチーム医療を高く評価する声がありました。
宇山一朗医師(藤田医科大学病院)は胃がん・食道がんが専門です。手術支援ロボット、「ダビンチ」を使った手術の先駆者です。消化管、肝胆膵のロボット支援手術を積極的に行い、症例数は全国一とのことです。胃がんに対するロボット手術は2018年から保険適用となりました。ほかの医師から「自分が胃の手術を受けるなら宇山医師に頼みます」という推薦コメントがありました。王貞治氏の胃がん摘出手術を成功させたことでも有名です。
福長洋介医師(がん研有明病院)は大腸がんが専門です。低侵襲な腹腔鏡手術と、他院で無理といわれた高度進行がんまでの拡大手術の両面で治療を行っています。周辺臓器に広がったがんでも、術前化学療法や放射線治療を行った後で手術することで温存、または根治性を保ちながら合併切除を行います。福長医師個人で、年間220件もの手術を行っています。患者さんから「福長医師の直腸がん手術を受け、現在は元気に仕事に復帰しています」という声が編集部に届いています。
高山忠利医師(日本大学医学部附属板橋病院)は肝臓がんが専門です。小児の生体肝移植に日本で初めて成功した世界的名医、幕内雅敏医師のお弟子さんでもあります。高山医師自身も、肝臓の最も深い部分である、肝尾状葉単独全切除手術を世界で初めて成功させました。肝臓は血流が多い臓器ですが、出血量の少ない手術で定評があります。
糸井隆夫医師(東京医科大学病院)は膵臓がん・胆道がんが専門です。膵臓がんの相対生存率は、非常に低く、難治性のがんといわれています。
糸井医師は外科医ではありませんが、近年、内科の内視鏡治療・検査の進歩は著しいものがあります。糸井医師自身も新しい技術を開発し、世界中から研究者が見学にやってくる国際的に活躍する医師です。
中村清吾医師(昭和大学病院)は乳がんが専門です。乳がんの名医として必ずといっていいほど最初に名前が挙がる医師です。ほかの医師から「日本のトップ」「手術だけではなく、薬物療法にも精通している」「自分の患者だけではなく日本全体の乳がん治療を考えている」という推薦がありました。
医師を探すときには、第一段階として、名医ランキングなどを参考にし、次にその医師や病院にご自分の症状や希望を伝えてください。最終的に納得のいく医師や治療をご自身で選んでくださるようお願いします。本来は、医療界で医師のレベルを公表すべきだと考えます。それが社会的な財産となるからです。名医ランキングの調査は大変な労力がかかるので毎年出版することができません。次回版は内科医をさらに充実させ大幅に掲載人数を増やし、20年夏頃に出版予定です。
(桜の花出版編集部)
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