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「韓国に並ばれる」なぜ日本は貧乏臭くなったか

プレジデントオンライン / 2020年2月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■格差拡大の最大原因は“平和”

2019年に話題となり、「新語・流行語大賞」の候補にもノミネートされた「上級国民」。「上級国民/下級国民」がクローズアップされたのは、多くの日本人が社会の二極化や分断を実感しているからではないでしょうか。

欧米先進国と同様に、日本でも経済格差が拡大しているのはデータからも明らかです。しかしこれは、「強欲な資本家が労働者を搾取している」という話ではありません。皮肉なことですが、格差拡大の最大の原因は“平和”です。

日々の暮らしのなかで少しずつでも貯蓄できる世帯(中流の上)と、稼いだ分だけすべて使ってしまう世帯(中流の下)があったとしましょう。最初のうちはその差はわずかでも、資産は複利で増えていくのですから、5年、10年と経つうちに両者の差は広がっていきます。それが2世代、3世代と続けば、格差はますます拡大します。

アメリカの歴史学者ウォルター・シャイデルは『暴力と不平等の人類史』(東洋経済新報社)で、古代ローマでも古代中国でも、平和が続くほど格差が拡大していることを明らかにしました。第二次世界大戦でヒロシマ・ナガサキの悲劇を体験した人類は、もはや世界規模の戦争を起こすことはないでしょう。日本でも戦後70年以上(3世代)平和な時代が続いたわけですから、「グローバル資本主義の陰謀」などなくても自然に格差は拡大していくのです(グローバル化によって格差拡大のペースが速まったということはあるでしょう)。

■なぜ日本は貧乏臭くなったのか

日本の格差の特徴は、バブル崩壊後の1990年代から経済成長率が著しく低下した結果、「就職氷河期」の直撃を受けた世代にシワ寄せが来て若者の貧困化が進んだことです。その一方で、戦後日本社会を(いい意味でも悪い意味でも)牽引してきた団塊の世代は雇用と収入を守られ、定年後は手厚い年金・社会保障を享受しています。労働経済学者などが指摘してきたように、日本の格差は「世代間格差」で、本来、経済成長を担うはずの若者から活力を奪ってきたことが日本経済の失速の大きな要因になっています。

平成の30年間をひと言でいうなら「日本がどんどん貧乏臭くなった」です。平成元年は世界4位だった国民1人当たりGDPは18年には26位まで転落し、アジアでも香港やシンガポールに大きく引き離され、いまや韓国に並ばれようとしています(韓国は28位)。日本の賃金が上がらないことが指摘されますが、その一番の理由は労働生産性が先進国でもっとも低い(アメリカの3分の2しかない)こと。したがって、長時間労働で会社に滅私奉公しても利益をあげられないのだから給料が増えるわけがありません。

日本はなぜこんな「斜陽国家」になってしまったのか。高度成長期の成功体験に呪縛され、終身雇用・年功序列の「日本人の働き方」を変えられなかったことが原因だと私は考えています。以下、日本型経営モデルにどんな欠点があるかを見てみましょう。

■日本の会社はアマチュアチーム

1つ目は「人材の社内最適化」。事務系の総合職で顕著ですが、日本企業は新卒一括採用した正社員を、ジョブローテーションによってゼネラリストとして育成してきました。独特の企業文化に習熟させ、社内コミュニケーションを円滑にするメリットはあったかもしれませんが、裏を返せば、会社内でしか通用しない、なんの専門性もない人材を大量生産してきたともいえます。その結果、会社という“ガラパゴス”の中でしか生きられない、つぶしの利かない中高年があふれることになってしまいました。

2つ目は「人事の硬直化」。日本企業は、純粋培養した正社員を管理職や経営層へと引き上げます。社員のモチベーションアップといった効果はあるにせよ、これでは経営人材という重要なリソースの供給源が限られてしまいます。ITなど急速なテクノロジーの発達やグローバル化によって、経済環境の変化のスピードがどんどん速くなっています。企業がこれに対応するには、新しいスキルやノウハウを持った人材を社外から機動的に獲得しなければなりません。それによって社内が活性化され、既存の社員も育つのです。

ところが日本企業の経営層は、専門性が乏しく社内のことしか知らない“サラリーマン代表”ばかりです。それに対してグローバル企業では、社内外から専門性の高い優秀な人材を集め、大企業をいくつも渡り歩き実績も築いた「経営のプロ」に指揮を任せます。これではアマチュアのサッカーチームと、バルセロナやレアル・マドリードのようなビッグクラブが試合をするようなもので、結果がどうなるかは考えるまでもないでしょう。

■正規/非正規の身分格差がなくなる

とはいえ、日本企業を取り巻く経営環境は大きく転換しつつあります。その引き金になったのが団塊世代の引退で、政府も企業も労使一体の利権構造の呪縛からようやく解放され、グローバルスタンダードに追いつくための経営改革・働き方改革を活発化させています。「同一労働同一賃金制度」が日本でも20年4月から順次導入されますが、それによって正社員を一方的に優遇することはできなくなり、正規/非正規の「身分格差」もなくなり、雇用の流動化が加速するでしょう。

その一方で、優秀な若手人材を巡る争奪戦が激化しています。日本企業の人事制度は軍隊と同じで、同一条件による一括採用をずっと続けてきましたが、NECは将来有望と判断した新人には年収1000万円を払う新制度をスタートする予定で、NTTは、院卒について、研究実績など個別条件による優遇採用に踏み切り、最高で1億円の年俸を出すと報じられています。

もっともこうした採用は「GAFA」などのグローバルIT企業がずっと先行しており、例えばグーグルは、破格の報酬で優秀な「博士」をかき集め「ドクターコレクター」と揶揄されましたが、学校教育の“優等生”がビジネスの現場でまったく役に立たないことがわかり、数年で学歴不問・実力主義の採用に転換しました。それに比べれば日本企業の人事戦略はひと回りもふた回りも遅れていますが、自分たちがグローバルな競争から脱落しつつあると気づいただけでもまだマシでしょう。

■残酷な社会でのサバイバル術とは

そうした中、現役世代のビジネスパーソンは、どのようにこの荒波を乗り越えていけばいいのでしょうか。キーワードは、「フリー」と「専門性」だと私は考えます。

日本では会社の中で人事異動を繰り返して出世を目指しますが、欧米では専門性を維持しつつ転職しながらキャリアアップしていきます。今後は日本も確実にそうなっていき、若い世代では、専門職として組織の内側と外側を自由に往復したり、働き方や仕事を自由に選ぶ「フリーエージェント」型が主流になっていくでしょう。ただし、フリーエージェントはいわば「一人親方」です。自由と引き換えに、専門性という武器を磨いて自らの市場価値を高め、自力で仕事を獲得する厳しさが求められることになります。

中堅のビジネスパーソンも、専門性を高める必要があるのは同じです。技術・技能系はいわずもがなですが、事務系でもマーケティング、人事・労務、経理、広報・PR、営業といった自分の専門を決めて、異動希望や研修といった社内制度を活用し、ときには転職も視野に入れながら、専門職として自立するためのキャリア形成を心がけましょう。

「いまさら専門家になれといわれても……」と嘆く中高年もいるかもしれませんが、あきらめることはありません。

私の知人に、40代後半までずっと専業主婦で、子どもが大学に入ってから働き始めた女性がいます。まったくなんの経験もない「最底辺」からのスタートですが、大学院で外国語を専攻した経験を生かし、教育サービスの会社の契約社員になって英文添削の仕事を始めました。

そしてこれは私も驚いたのですが、50代半ばのときに会社(一部上場企業)から「正社員になってくれないか」と打診されたそうです。「責任は重いし時間も拘束されるからイヤ」という理由で断ったそうですが。それでも時給2000円を超える条件でいまも働いており、「70歳まで続けたい」といっていますから、それまでの総賃金は5000万円を超えるでしょう。「職業経験なし」でもここまでできるのですから、さまざまな経験を積んでいるビジネスパーソンなら、定年後もそれを活かして働き続けることは十分可能でしょう。

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橘 玲(たちばな・あきら)
作家
『マネーロンダリング』などの国際金融小説のほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など、金融・人生設計に関する著書多数。近著に『上級国民/下級国民』。

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(作家 橘 玲 構成=野澤正毅 写真=iStock.com)

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