中国人が「電車通学の小学生」に大感動するワケ
プレジデントオンライン / 2020年1月23日 15時15分
※本稿は、中島恵『中国人は見ている。』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。
■約4億5000万人もの国民が国内外を旅行する
中国の大手旅行会社、シートリップの調査によると、今年の春節期間中、約4億5000万人もの中国人が国内外を旅行するといわれています。日本は今年(2020年)の春節を対象にした人気渡航先ランキングで第1位。ここ数日、中国人観光客の姿をよく見かける、という人が多いのではないでしょうか?
テレビでは相変わらずドラッグストアやショッピングセンターで買い物をする彼らの姿が報道されますが、リピーターになったり、長期滞在したりするようになると、表面的に見ただけではわからない、日本の細部に目がいくようになるようです。
そのひとつが電車。中国人に聞いてみると、日本の電車では、中国ではほとんど見かけない“感動シーン”が見られるというのです。
前回と前々回は、中国人にとっての色や数字の意味などについて紹介してきましたが、今回は拙著『中国人は見ている。』から、中国人が見た日本の“感動シーン”と“不思議シーン”をご紹介しましょう。
■子どもが電車の中で本を読んでいるなんて
杭州在住の建築家の男性は大の日本好き。日本の隈研吾氏のファンで、日本各地にある隈氏の建築物を見て回ったり、神社仏閣を参拝したりすることに興味があるという40代の知的な富裕層です。これまで日本各地を見て回りました。
そんな「日本通」の彼は最近、日本の電車の中で「あること」を発見し、とても感動したと話してくれました。
「小説や図鑑など、ちょっと分厚い本を読んでいる子どもをよく見かけます」
「注意して見ていると、夕方の時間帯を中心に学校帰りの小学生の子どもが読書していますね。これは中国ではめったに見ない、とても珍しい光景です」
その男性はこういうと、スマホで撮った写真を私に見せてくれました。私立の小学校らしき紺色の制服を着たかわいい女の子3人が座席に並んで座り、じっと本を読んでいる写真。日本では、電車の中で読書している子どもや大人を見かけることは、別に珍しいことではないですが、その男性はやや興奮ぎみにこう続けました。
「日本ではこれが普通ですか? もしそうだったら、やはり日本はすごい。子どものときからこうやって読書の習慣を身につけるのはすばらしいことだと思います」
日本では本離れが叫ばれ、電車の中ではスマホを見ている人ばかり目につくように感じるが、中国からきた人からは、このように映るらしい。
■中国では大人と一緒に通学するのが当たり前
この男性は続けます。
「それに、日本では子どもだけで遠方の学校にも通学していることにも私は驚きました。中国では絶対に考えられないことですから……」
中国の小学生は電車の中ではほとんど本を読みません。北京や上海などの大都市には地下鉄があり、地下鉄で学校に通う子どももいますが、移動時間に本を読む、という習慣はあまりないからです。家で読まないわけではないですが、家でも勉強に追いまくられているので、好きな小説や図鑑を読む時間的な余裕はあまりないのです。
そして、中国の大都市では、子どもは、たいてい両親か祖父母、またはお手伝いさんと一緒に通学します。誘拐事件が多く、一人で通学するのは危険だからです。親のクルマに乗って通学することも珍しくありません。
午後3時~4時ごろ、小中学校の正門前に家族やお手伝いさんが立ち、子どもの帰りを待っているところをよく見かけますし、正門の近くには、ずらっと家族のクルマが縦列駐車しています。
そのような環境に住んでいるため、日本では子どもが一人で電車に乗って通学している、というだけでも、中国人にとってはかなりの驚き。「日本がいかに安全で平和な国であるかがわかる」と男性は感心していました。また、電車ではありませんが、小学生が集団登校したり、幼稚園生が保育士さんと一緒に散歩して歩く姿も「中国では見たことがない!」と感じて、新鮮に映るようです。
■田舎の小学校では図書館すらない学校もある
ちなみに、経済的に豊かになったので意外に思うかもしれませんが、中国では大都市を除き、まだ全国各地の小中学校に図書館が設置されているわけではありません。日本では公立の小中学校なら図書館とプール、体育館があるのは当たり前ですが、中国の田舎に行けば、この3つともない、という学校がまだ少なくないのです。
最近では巨大な図書館やインスタ映えするおしゃれな書店が次々とできていると報道されていますが、全国レベルで見れば、まだ公立の図書館や地域に密着した書店の数は足りていないといえます。日本では書店の減少が深刻化していますが、中国では、そもそも書店のない町もまだ多いというのが現状なのです。
そういえば、以前、深圳に進出した日本の中小企業の社長が、社員食堂の横に図書コーナーを作り、そこに自費で中国語と日本語の本をたくさん買って並べた、という話を聞いたことがありました。
その際、「社員たちが夢中になって本を借りて読んでいた。次はこういう本を買ってほしいなどの要望もきて、読書することで仕事へのモチベーションもアップしたようだ」と社長が話していたことがあり、印象に残っています。そうした社会環境も関係しているのか、電車内を見比べてみれば、日本のほうが読書している人が断然多い、と中国人は感じているようです。
■夜になっても外でおしゃべりしたりとにかくにぎやか
こうした感動シーンがある一方で、中国人の目から見て、不思議だな、と思うシーンもあります。たとえば、「日本の夜の街にはあまり人がいないこと」です。
広東省から日本にやってきた20代の中国人女性は、日本の印象をこう語ってくれました。
「夜の街に人が少なくて、とても驚きました。私は少し長い滞在なので、都心の繁華街にあるホテルではなく、下町の静かなところに泊まっていたからかもしれませんが、それにしても、外を歩いている人が少なくて、広東省の住宅地に比べてずいぶん静かだな、という印象を持ちました」
中国では繁華街だけでなく、住宅地でも夜遅くまで人の往来が激しいのが「普通」です。都市によっても違いますが、中国では真冬を除いて、夜になっても、マンションがある敷地内の中庭でおしゃべりしたり、夕涼みをしたりしている人が多い。昼になれば、自宅の外に小さなテーブルや椅子を出し、そこで囲碁をしたり、井戸端会議をしたり、ゲームをしたりしているなど、とにかく、とても賑やかです。
■中国人にとって、“家”は自宅だけにとどまらない
逆に、日本人が中国に行って驚くのは、遅い時間になっても外で遊ぶ就学前の子どもの多さ。日本では夕食後も幼い子どもが外で遊んでいるところはあまり見かけないですが、中国では大人と一緒に幼い子どもがずっと外に出ていることは珍しくありません。屋外だけでなく、夜のショッピングセンターでも同様です。
私は取材のため、埼玉県川口市にある芝園団地を訪れたことが数回あります。芝園団地は約5000人の住民の半数が中国人なのですが、夜になっても子どもが中庭で遊んでいるなど、日本の他の団地ではあまり見かけない風景を目にしました。
中国人にとって“家”とは自宅の中だけでなく、中庭や広場など、その周辺まで含めた、もう少し幅広いエリア(空間)を指すのではないだろうか、と感じられました。
中国では地方によって「夜食」を食べる習慣があります。とくに南方では夜市が開かれることが多い。屋台だけでなく、小さな飲食店が夜遅くまで開いています。中国語で夜食は「夜宵(イエシャオ)」といい、夜遅くに外で飲食するのは中国文化の一つとなっているのです。
そうした夜の賑やかな街の風景を見慣れた中国人からすると、真っ暗で人通りが少なく、シーンと静まり返った日本の住宅地は「不思議なシーン」に感じられるのです。
日本人にとって「当たり前」のことでも、彼らの目を通してみれば、ちょっと違って見えてくる。そして、それを教えてもらうことで、私たち日本人も、自分たちの国を少し客観視してみることができるのではないか。そう感じています。
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フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。
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(フリージャーナリスト 中島 恵)
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