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橋下徹「新型肺炎、中国からの観光客を受け入れている場合か」

プレジデントオンライン / 2020年1月29日 11時15分

中国の李克強首相、中国中央部の湖北省武漢にある武漢ジンインタン病院の最前線の医療従事者と話し合う=2020年1月27日、武漢 - 写真=Avalon/時事通信フォト

中国・武漢市で発生した新型肺炎が世界を揺るがしている。中国政府は武漢市を封鎖、海外への団体旅行を禁じるなど果断な対応を打ち出した。大阪府知事時代の2009年、新型インフルエンザ蔓延の危機に府内小中高校の「一斉休校」を決断した橋下徹氏が、感染症対策の実情をいま明かす。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(1月28日配信)から抜粋記事をお届けします。

(略)

■僕が知事として経験した2009年の新型インフルエンザ「封じ込め」

地方政府である武漢市が初動対応に失敗した中国は、今度は中央政府、習近平国家主席が乗り出してきて、やり過ぎなくらいの強烈な対応をし始めた。

中国政府は1100万人都市の武漢市を封鎖した。武漢市から、そして武漢市に人が移動しないようにした。交通機関をすべて停止した。さらには湖北省全体の6000万人にも移動制限をかけているらしい。報道によれば、道路を本当に土盛りして封鎖しているとか。

(略)

感染症対策で一番重要なことは、人と人の接触をできる限りなくすことだ。当たり前と言えば当たり前のことだが、これが実際、もっとも難しい。本気で人と人の接触をなくそうと思えば、全国民を自宅で待機させるしかないが、それは現実的には無理だ。そうなると、少なくても感染が広がっている地域の住民が、他地域の住民と接触することを防ぐしかなく、それがまさに地域封鎖というものだ。

(略)

このような地域封鎖は、国民の自由・権利を著しく制限することになるので、国民の自由・権利を重視する民主国家においては、なかなかできない。

2009年春、世界中で新型インフルエンザが流行したが、それが日本に上陸するのかと日本中が大騒ぎになった。僕は当時、知事2年目。当初は、致死率が40%に上がると聞いていた。

なんと40%!!

ただ、これは後に専門家のみなさんから教えてもらったことだが、新型の感染症は、当初は全体の感染者数が把握できず見かけの分母が小さくなるため、どうしても致死率が高くなってしまう。しかし、だんだん真の感染者数が明らかになり分母が増えはじめると、致死率は自ずと下がってくる。つまり、「増えた分母×下がった致死率」の数だけ死亡者数が増えていくことになるのだが、致死率が下がるので死亡者数は爆発的には増えない。

ところが僕はこの点の理解が足りず、当時は致死率40%と聞いて、感染者の数が増えれば増えるだけ、致死率40%の値もそのままで死亡者数が爆発的に増えるものだと考えて、身震いがした。府庁の幹部も、後に致死率が下がることなどわかっていなかった。日本政府からも、致死率についての正しい情報の提供はなかったと思う。

(略)

■WHO幹部の教えから決断した府内「一斉休校」

僕は、このままでは、いつか日本の中に感染者が入国することは間違いないと考えた。時間の問題だ。水際作戦を徹底することも重要だろうが、もっと重要なことは、日本国内に感染者が入ってきた後の対応だ。

そのときに頭の中にあったのは、WHO(世界保健機関)の幹部から、知事室で聞いた話の内容だった。それは、新型インフルエンザが流行する数カ月前のことだったと思う。

(略)

そのときに、僕は「パンデミックを止めるのに最も効果があるのは何ですか?」と聞いた。

WHOの幹部は、「人と人の接触をなくすことです。しかし、これは人の活動、都市活動を止めることにもなる。だから役所ではできません。最後は政治家にしかできないことです。そして感染に気付いたときに都市活動を止めても、もう遅いのです」と答えて下さった。

その後の議論を経て「もちろん役所組織がやるべきことはたくさんあって、それは役所組織がきちんとやっていく。しかし都市活動を止めるようなことは、確かに政治家にしかできない。そして感染が広がったかどうかがわかってからではもう遅い。広がる可能性があるときに一か八かで政治判断をやらなければならない」ということが僕の頭の中に明確にインプットされた。

そして数カ月後に、新型インフルエンザの大流行に遭遇したのである。

僕は水際作戦には限界があると思い、都市活動を止めることを念頭に準備し始めた。専門家から意見を聞いたが、どういうときに都市活動を停止するのが効果的なのかという点は最後まで明確にならなかった。というよりも、そんなことを考えている専門家がまだいなかった。

(略)

そして5月16日、神戸と大阪に海外渡航歴のない高校生に新型インフルエンザの陽性反応が出た。完全な国内感染だ。実数はまだ判明していなかったが、海外からの帰国者ではない者に陽性反応が出た以上、とにかく国内で感染し始めている。しかも神戸と大阪の両名ともに高校生だ。

連日、府庁では対策会議を開いていたが、このときも緊急で対策会議を開いた。

僕は、専門家の意見も参考にしながら自分の頭の中で整理していた対策案を提案した。最も活動が活発な高校生と中学生、できれば小学生までの活動を止めたい、すなわち大阪府内の小中高の一斉休校の提案だ。

(略)

■「根拠がない中での大決断」を誰が下すか?

この大阪府の一斉休校については事後検証がなされた。その検証結果は、大阪府、兵庫県の一斉休校によって、新型インフルエンザの感染が一気に収束したということだった。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

ただし、致死率40%と言われていたこの新型インフルエンザは、実は通常のインフルエンザと変わりがないことも判明した。ゆえに、この程度の感染で大阪府下を一斉休校する必要もなかった。

しかし感染で大騒ぎになっていた当時、感染者数や感染の広がり方、そして新型インフルエンザの毒性についても、ほとんど情報がなかった。何もわからない中で、ただ「感染すると大変なことになる」「致死率は40%かもしれない」という情報だけが入っていた。

学校を一斉休校にすると、子供たちの学ぶ権利や、親御さんたちの働く権利に影響を与えてしまう。

通常の行政では、何か政策を実行し、とくに住民の権利に影響を及ぼすようなときには、しっかりした証拠と理屈をもってやるのが一般的だ。だから僕が一斉休校を提案した時にも、役所組織は、「まだそこまでの状態ではない」「一斉休校にする根拠がない」「もう少し様子を見て感染が広がってから判断してもいいのでは」という声が強かった。

しかしそれでは、パンデミック対応として遅い。WHOの幹部が言っていたように、「感染が広がってからでは遅い。感染が広がる前に自宅待機を命じる」ことが必要である。

そうであれば、ここでは「根拠がない段階での大決断」が必要になる。

これはまさに政治家の仕事だ。一斉休校や人の活動を停止してみて、実はあとから、そこまではやらなくてもよかったということもあろう。その時には住民から批判が出ることもあろう。そういうときに責任を引き受けるのも政治家の仕事だ。

1月26日のフジテレビ系「日曜報道THE PRIME」では、これまた感染症の専門家としてメディアに引っ張りだこの岡田晴恵・白鴎大学教授と共演したが、岡田さんはメイク室で「大阪の一斉休校は効果的でした」と言って下さった。

(略)

(ここまでリード文を除き約2700字、メールマガジン全文は約1万2300字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.185(1月28日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【フェアの思考(3)】中国・新型肺炎「封じ込め」で考える政治家と行政の役割分担》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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