「謝らなければ問題にならない」与党からも異論が出る安倍首相の開き直り
プレジデントオンライン / 2020年1月23日 18時15分
■国会で提出する法案は「過去最少」の52本に
今年の通常国会が1月20日に開会した。150日間の会期が終わるのは6月17日。その翌日には東京都知事選(7月5日に投開票)が始まる。このため政府は、会期の延長は難しいと判断し、提出する法案を過去最少の52本に絞り込んだ。
開会日の20日には、衆参両院の本会議でそれぞれ40分間ずつ、安倍首相の施政方針演説が行われた。安倍首相は東京オリンピック・パラリンピックについて「世界中に感動を与える最高の大会にする」と述べ、「国民とともに新しい時代を切り拓く」とした。
しかし、私物化が問題視されている「桜を見る会」や、IR(統合型リゾート)事業をめぐる汚職事件、安倍首相が任命した元閣僚の辞任問題については、一切ふれなかった。
これは「安倍1強」の驕りだろう。呆れてしまう。政治とは国民のためにあるということを忘れてはいないか。安倍首相は私たち国民を愚弄している。
野党からは「(桜を見る会などの)問題について何ら謝罪も言及もないのは、あまりにも不誠実で国民をバカにしていると言わざるを得ない。国家社会のあり方についての何らのビジョンも感じられない」(立憲民主党の福山哲郎幹事長)、「桜の『さ』の字もない。安倍首相の責任が問われているにもかかわらず、その自覚がまったくない」(共産党の志位和夫委員長)といった批判の声が上がった。
与党からも「触れなかったのは首相の判断だが、自分であれば違う判断をする」(自民党の石破茂元幹事長)、「国会のスタートは波乱含みだ。桜を見る会の問題に国民は十分な説明が尽くされてないと感じている。IRの汚職事件にも国民の厳しい視線を感じざるを得ない」(公明党の山口那津男代表)という厳しい見方が出ている。
■真摯な反省や再発防止への決意すら語ろうとしない
安倍首相は1年前の施政方針演説では、厚生労働省などで相次いだ統計不正問題について「国民の皆さまにおわび申し上げる」と謝罪していた。なぜ、桜を見る会やIRの汚職事件に対しては謝罪しないのか。
政府は「会は本年中止し、予算も計上していない。汚職事件の方は捜査中の個別案件だ」(西村明宏官房副長官)と説明するが、こんな説明でだれが納得するだろうか。まだ国会は始まったばかりである。はぐらかすことなく、野党の質問にはきちんと答弁してほしい。
新聞各紙の社説はほとんどが安倍首相の施政方針演説に批判的だ。特に厳しい朝日新聞の社説(1月21日付)は、「通常国会開幕 『説明放棄』は許されぬ」との見出しを付け、こう指摘していく。
「桜を見る会をめぐっては、首相による私物化への批判にとどまらず、招待者名簿の扱いが公文書管理法に違反していたことを政府自身が認めた。『国民共有の知的資源』とされる公文書のずさんな管理は、民主主義の土台を揺るがす。真摯な反省や再発防止への決意すら語ろうとしないのはどうしたことか」
■「さらりと述べた」という表現にみる朝日社説らしさ
「カジノを含む統合型リゾート(IR)への参入疑惑は、内閣府元副大臣の秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕されたほか、中国企業側が他の衆院議員5人にも現金を配ったと供述するなど、広がりを見せている」
「首相は演説で、問題などないかのように『厳正かつ公平・公正な審査を行いながら、複合観光施設の整備に取り組む』とさらりと述べた。政権が成長戦略の柱に掲げるIRの正当性が根底から問われているというのに、これで国民が納得すると思っているのだろうか」
「真摯な反省や再発防止への決意」は当然であり、「IRの正当性が根底から問われている」との厳しい現実を直視すべきである。「さらりと述べた」という微妙な表現には安倍政権を嫌う朝日社説らしさがみられる。
■安倍首相は「桜を見る会」の問題を突かれたくない
朝日社説は最後に主張する。
「昨年の通常国会では、参院選への悪影響を懸念した政権の論戦回避が極まり、首相が出席した予算委員会の開会時間は第2次政権下で最短となった。秋の臨時国会も、桜を見る会の追及を振り切るため、政権は幕引きを急いだ」
「あすの衆院の代表質問から国会の論戦が始まる。政権の『説明放棄』を許さぬ、野党の力量が試される」
安倍首相は桜を見る会の問題をよっぽど突かれたくないのだろう。幕引きを急いでいるように映る。この問題の本質は、首相による公的行事の私物化だ。それにもかかわらず、安倍政権は公文書管理という問題にすり替え、官僚の処分という形で幕引きを図ろうとしている。実に情けない政権である。
■「五輪の政治利用だと言わざるを得ない」
「首相の施政方針演説 五輪頼みでごまかすのか」との見出しを掲げて批判するのは、1月21日付の毎日新聞の社説だ。
毎日社説は「7年間の政権運営をどう総括し、残る任期で何を成し遂げようとしているのか。安倍晋三首相の施政方針演説に具体的な説明はなかった」と書き出し、こう批判する。
「驚いたのは相次いだ政権の不祥事に一言も触れなかったことだ」
「さらに目についたのは、不都合な現実から目を背ける姿勢だ」
「首相は東京五輪・パラリンピックを契機に『国民一丸となって新しい時代へと踏み出していこう』と呼びかけた。高度経済成長下で行われた56年前の五輪と重ね、国威発揚に利用するかのような印象を受ける」
今年夏の五輪と前回の東京五輪とを無理に結び付けている。安倍首相は「復興五輪の成功」との表現も使ったが、これも東日本大震災からの復興と無理やり結び付けているところがある。
安倍首相の言葉には重みがない。そのことは、2006年9月の第1次内閣発足直前、安倍首相が51歳のときに出版した『美しい国へ』(文春新書)を読めばすぐに分かる。この著書の内容は安倍首相が信じる保守主義を強調したものに過ぎず、読者は「何が美しい国なのか」と考え込んでしまう。
最後に毎日社説は書く。
「五輪に乗じて根拠なき楽観ムードを振りまき、国民の目をごまかそうとしているのだとすれば、五輪の政治利用だと言わざるを得ない」
「五輪の政治利用」。安倍首相は桜を見る会だけではなく、オリンピックまでも政権維持に利用しようとする政治家なのである。
■産経社説も「おかしい」と批判する施政方針演説
1月21日付の産経新聞の社説(主張)も安倍首相の施政方針演説を「おかしい」と批判する。
「政治や行政への不信を招く問題もそうである。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職事件や昨年10月に公選法違反疑惑で辞任した元閣僚2人らの問題、『桜を見る会』をめぐるずさんな公文書管理への言及を避けたのはおかしい。扱いを誤れば国民の不信が一層増し、国政の停滞を招く。首相はもっと丁寧に国会や国民に語りかけるべきだ」
前述したように、沙鴎一歩は一連の事件や問題について安倍首相が言及しなかったのは、故意的で異常だと思う。不信が増大すれば、国政は停滞する。
しかし産経社説の次の冒頭部分を読むと、その主張が偏っていないかとの懸念も抱く。
「だが、国の基本に関わる皇位の安定継承問題への言及はなく、安全保障の根幹をなす対中政策についての説明は不十分だった。極めて残念だ。国会での活発な論議が必要である」
確かに「皇位の安定継承」も「中国政策」も重要な課題だ。だが、新聞の社説として、その2つばかりを論じていていいのだろうか。新聞としての主張が先に立ち、重要な課題に触れないようであれば、読者もついてこないのではないか。
■「成長戦略を強化し、生産性を高める狙いは妥当」と評価する読売社説
読み比べてみると、朝日、毎日、産経、日経、東京の各社説はどれも安倍首相の施政方針演説を批判している。批判していないのは読売新聞だけである。
1月21日付の読売社説は「施政方針演説 先送りせず長期的課題に挑め」との見出しを付け、こう書き出す。
「与野党は、日本の将来像を大局的に論じなければならない」
「通常国会が開会した。安倍首相は令和初の施政方針演説で、『社会保障をはじめ、国のかたちに関わる大改革を進めていく』と語った」
「最大の懸案は、人口構造の変化への対応である。団塊の世代がすべて2025年には75歳以上になり、医療費の膨張が懸念される。その後、40年ごろにかけて、生産年齢人口は急減していく」
「将来世代が社会保障の恩恵を受けられるよう、制度の持続性を高める方策が必要となる。高齢者や女性が働きやすい環境を整備することが不可欠だ」
読売社説は社会保障など日本の将来をどうするかということ、つまり国のかたちを国会で議論する重要性を説いている。
そのうえで「成長戦略を強化し、生産性を高める狙いは妥当である」として安倍首相の政治姿勢を評価する。
■安倍首相の演説に従って、「憲法の改正を急ぐべきだ」と訴える
さらに読売社説は安倍首相の悲願である、憲法改正を取り上げる。
「首相は、憲法改正に関し、『どのような国を目指すのか。その案を示すのは、国会議員の責任ではないか』と指摘した。憲法改正原案の検討を急ぐべきだという考えを示したものだ」
「自民党は既に、自衛隊の根拠規定の追加など、4項目の条文案を示している。各党のこれまでの議論を土台に、立法府として、改正案をまとめる段階にきている」
「国民投票法改正案の審議に手間取り、憲法本体の論議が停滞している現状は看過できない。与野党は、胸襟を開き、憲法審査会を活性化させる必要がある」
読売社説は安倍首相の施政方針演説での主張に従って「憲法の改正を急ぐべきだ」と訴えている。どうしてそこまで安倍首相を支持するのだろうか。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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