「沖縄ザル経済の真実」いくら観光客が増えても県民が豊かにならない理由
プレジデントオンライン / 2020年1月27日 15時15分
■観光収入が地域を循環しないザル経済
観光客数はハワイを超え、観光収入も毎年最高値を更新している沖縄県の観光業は、県のリーディング産業に位置付けられていますが、本当の意味で地域振興に繋(つな)がっているとは言い難い状況が続いています。
現在、私は、沖縄在住の経営コンサルタントとして、さまざまな沖縄企業のお手伝いをしています。仕事で沖縄の経済や企業を分析していく中で見えた現状を、私はブログで発信してきました。今回、プレジデントオンライン編集部の求めに応じて、その内容に大幅に加筆してお届けします。
図表1は、沖縄県の観光収入と県民経済計算の増減をグラフにしたものです。観光収入が10年間で1.6倍に増加した一方で、県内の宿泊・飲食業や卸売・小売業が全く増えていないことが分かります。
この事実が浮き彫りにするのは、沖縄経済が、観光客の落としたお金を地域に還元して経済のサイクルを回せないぐらい貧弱な経済基盤である、つまりザル経済である、ということです。
その理由は、沖縄へ来た観光客の域内での消費活動を見るとよく分かります。
飲食費(22%)食材の県産品使用率は5割以下
土産買物費(22%)県産品売上比率は6割以下、外国人観光客の主な買物は本土チェーンのコンビニやドラッグストアで域内移動費(14%)観光客の6割がレンタカー利用、レンタカー会社の多くは本土チェーン
※参照:沖縄県観光産業実態調査
■外国人客にとっては「爆買いするのに一番近い日本」
そもそも、近年の観光客の増加要因は、沖縄の魅力や観光戦略の成果というよりも、単なる円安ボーナスによるものです。つまり、東アジア諸国の外国人客にとっては、自国通貨価値の上昇を背景に「買物(爆買い)をするのに一番近い日本」として、日本人客にとっては、可処分所得の伸び悩みと自国通貨価値の下落を背景に「ハワイなどの海外よりも安価で近場のリゾート地」として支持を得たことによるものです。
実際、沖縄の観光業は、観光客数こそハワイを超えていますが、観光収入は3分の1ほどしかありません。その外国人客も、爆買いの終焉(しゅうえん)と、滞在時間の短いクルーズ船客の増加によって消費額は減少の一途をたどっており、観光客数だけが増え続ける一方で、観光収入(インバウンド)は昨年度から減少に転じています。
そして、このことを県民は肌感覚で分かっています。沖縄県が実施した県民意識調査では「観光が発展すると生活も豊かになるか?」という問いに対して「そう思わない」と答えた人の割合は「そう思う」と答えた人を上回っています(「沖縄タイムス+プラス」2018年7月24日)。当然ながら、観光産業で働く人たちの就業状況は厳しく、沖縄県の労働組合総連合が行ったアンケートでは、回答者の6割が「平均給与20万円以下」と回答しています。
地域への経済的恩恵は少なく、住民や労働者の負担だけが増えています。観光庁と県は「オーバーツーリズム」という言葉の使用を避けていますが、実情はそれそのものです(「琉球新報」2019年8月26日)。この貧弱な経済基盤と収益構造を変えない限り、沖縄の観光業は、地域振興どころか、地域経済の破壊に繋がりかねないのです。
■国からの補助金も有効活用できていない
この構造は、沖縄の補助金運用による経済活動とも似ています。人口が全国25位の沖縄県には、人口一人あたり全国1位の国庫支出金(沖縄振興一括交付金を含む)が流れ込んでいますが(沖縄県「沖縄県と他府県の国からの財政移転の比較」)、それらを運用して行われる公共工事の半分は本土企業が受注しています(「琉球新報」2019年9月29日)。
また、観光産業に次ぐ中核産業と位置付けられ、補助金を使って積極的な県外企業の誘致を行った情報通信業(IT産業)の実態は、ソフトウエア開発の下請けやコールセンター業務であり、労働環境が問題となった時期もありました(「沖縄タイムス+プラス」2015年1月14日)。
これまでの四半世紀で、沖縄関係予算として累計8兆円近くの補助金が流れ込んでいますが、依然として一人あたり県民所得は全国最下位のままです(「沖縄タイムス+プラス」2019年12月2日)。
ここでも沖縄のザル経済の状況が分かります。ボロボロの土壌(経済基盤)であるかぎり、いくらそこに水や肥料(観光収入や補助金)を与えても種が育たないのと同じです。
■過去10年で沖縄の小売業は全く成長しなかった
例えば、ここ数年のうちに開業した沖縄の大型商業施設の多くが不振店に陥っているのは、全国最下位の所得の島に、全国平均の1.4倍の総合スーパー、1.2倍の食品スーパーが存在しているオーバーストア状態だからにほかなりません。
一昨年、那覇市の中心に誕生した「那覇OPA」は開業して1年もたたないうちに空きテナントが目立ちましたし(「琉球新報」2019年9月3日)、昨年開業した「サンエー浦添西海岸パルコシティ」は目標未達です(「沖縄タイムス+プラス」2019年12月19日)。そんな中、今春には、大型商業施設である「イーアス沖縄豊崎」も開業します(「琉球新報」2019年12月7日)。
通常であれば、購買力が低く、不振店の多い経済圏に、これほどの出店はしません。しかし、膨大な補助金が流れ込み、その多くは公共事業や建築業に使われるので、重要な観光資源でもある美しい珊瑚(サンゴ)礁の海を埋め立てて、いろいろな施設やショッピングセンターなどを造ることでオーバーストアが加速しています。過去10年間で沖縄県の小売業が全く成長しなかったのは、それによる過当競争も原因の一つかと思われます。
このように、沖縄の経済は、全体としては成長しているものの、それを牽引する産業は観光関連産業ではなく、それとは直接的には関係のない建設業などであり、そのエンジンとなっているのは膨大な額の補助金です。
■地域の経済サイクルを回す「付加価値」を
その地域の経済サイクルを回すためには、(1)需要に対する供給を域内調達すること、(2)それで得た収入を従業員に還元するなどして新たな域内消費を生み出すこと、の両軸が必要です。
ポイントとなるのは付加価値です。モノやサービスに付加価値があるからこそ選ばれて(1)が成り立ちます。(2)に関しては、地元紙は所得向上のために正社員を増やすことを提言していますが、所得と相関が高いのは正社員比率ではなく労働生産性であることが明らかになっています。そして「労働生産性=付加価値売上÷従業員数」ですから、ここでもやはり付加価値が重要となります。
付加価値を高めるには、ほかには無い価値(独自性)を生み出すか、ほかよりも圧倒的に優れていること(突出性)のいずれかが必要であり、誰が見ても分かる客観的な指標などによる裏付けが必要です。
独自性と突出性の無いモノやサービスは、安価であること以外に勝負できないコモディティに成り下がってしまいます。経済の原動力を「安価であること」にしてしまうと、厳しい労働環境や低い賃金となって従業員にしわ寄せがいきます。市場経済において、従業員は購買者でもありますから、そうしたことによる所得や余暇時間の減少は消費の低下に繋がります。
消費の低下によって、地域企業の売り上げと利益は上がらず、それがさらに労働環境や賃金に影響する……という負のサイクルに陥り、稼ぐ力は弱体化していきます。
■本当の「沖縄らしさ」を獲得せよ
沖縄の業界団体や一部の識者が言うような、県内企業への優先的な事業発注や優遇措置も、ある程度は必要ですが、そもそも論として受注や優遇を受けるに足るだけの付加価値を兼ね備えている必要はあります。そこを疎かにして、安価であることだけを売りにして従業員に犠牲を強いる企業があるうちは、沖縄は本当の意味で稼ぐことはできません。
よく「沖縄らしさ」という言葉が使われますが、本気で付加価値を高めて稼ぐのであれば、独りよがりで主観的な自己評価を止め、マーケティングセンスを磨いて「沖縄らしさ」を客観的な指標で語れるモノやサービスの開発をすることが大切です。
沖縄には、それを実現できる大きなポテンシャルを秘めた企業がたくさんあります。現在私も、本業のコンサル活動でまさに行っている最中です。効果検証を終えたら事例として発表したいと思います。微力ながら、クライアントであるそうした沖縄企業のお手伝いを通じて、地域経済の活性化に貢献していく所存です。
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経営コンサルタント
琉球経営コンサルティング代表。 中央大学法学部法卒業。TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に20年勤務。2017年に琉球経営コンサルティング設立。沖縄企業への経営戦略立案と実行支援、人材育成、インバウンドマーケティングなどを行う。沖縄県在住。
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(経営コンサルタント 築山 大)
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