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単身赴任を迷う私の背中を押した“愛娘の一言”

プレジデントオンライン / 2020年1月30日 13時15分

JTB 人事部 執行役員 働き方改革・ダイバーシティ推進担当 髙﨑邦子さん(撮影=小林久井、以下すべて同じ)

教育旅行での営業担当、オセアニア支配人室への派遣を経て、広報室長、法人営業の個所長などのキャリアを積み、現在はJTBグループの風土改革を一手に担う髙﨑邦子さん。女性リーダーとして躍進を遂げた今も、人としての原点や、それぞれの部署で得た経験やモットーは、常に胸に刻んでいると言います。自分を成長させながら部下も育てる、その秘訣はどこにあるのでしょうか。

※本稿は、2019年10月3日、しなやかに情熱を持って働く女性たちのための交流会「PRESIDENT WOMAN Salon」の第7弾「株式会社JTB執行役員、髙﨑邦子さんを迎えて」の内容から構成しています

■教育旅行営業時代の感動が今も続く原点に

私は1986年、男女雇用機会均等法の第1期生として入社しました。配属は団体旅行大阪支店で、主に修学旅行担当として、多い年は年間120日も添乗に出ていました。

今でも忘れられないのは、養護学校の修学旅行を担当した時のこと。私は生徒さんにすてきな思い出をつくって欲しいと思い、ホテルの宴会場でテーブルマナーを学ぶ食事会を組み込みました。

皆、最初は緊張の面持ちでしたが、食事が始まり、自分にも教わったマナー通りにできるのだとわかってくると、段々とうれしそうな、そして誇らしそうな表情に変わっていきました。その様子だけでも充分にうれしかったのですが、帰りの車内で、ある生徒さんが「旅行がこんなに楽しいなんて初めて知りました。4月から就職しますが、旅行に行くことを目標に頑張って働きます。」と言ってくれたのです。

この時は、この仕事を選んでよかったと心から思いました。この時の生徒さん達の笑顔は、今も私の心の原点になっています。JTBのブランドスローガンは「感動のそばに、いつも。」ですが、これは常にお客様の感動のそばにあり続けたいという、私たちJTB社員一人ひとりにとっても大きな意味のある言葉なのです。

入社4年目にはグループリーダーになり、特に女性の部下たちに対しては未然にリスクを取り除くことに心を砕きました。当時の営業業務には、女性であるということだけで直面せざるを得ない苦労が多かったのです。私は、男性社会の壁や対人関係で起こりがちなトラブルといったリスクをひとつひとつ潰し、「これで部下も安心して働けるはず」と安堵して、シドニーへ赴任しました。

■大失敗から得た「広報のモットー」

しかし結果的に、あれは浅はかな行動だったと反省することになります。1年後に帰国した時、リスクなく働けるようにしたはずの女性グループはなくなっていました。私の赴任後に起こった問題に対しては、誰も対処する力を持っていなかったのです。先回りして苦労を取り除いたせいで、部下が自ら成長する機会を奪ってしまった──。リーダーとして痛恨の失敗でした。

帰国後は営業開発部に所属し、地域活性化のための誘致活動や大型イベントのプロデュースなどに取り組みました。この時期は仕事に対して自信を持ち始めた頃で、上司に面と向かって反論したり意見したりしたことも。生意気だったかもしれませんが、上司としてのあるべき姿について考える機会になったと思います。

そして1997年、広報室に異動。ここから15年ほどは広報一筋のキャリアを歩みました。この時期、私が役割として心がけていたのは、売上につながる「営業広報」と、リスクに対して誠実に対応する「リスク広報」の2つです。時間を割く割合から言えば「営業8:リスク2」でしたが、心を砕く割合はその逆の「リスク8:営業2」でした。

これは、事件勃発時のマスコミ対応で大失敗した経験から学んだことでもあります。詳しくは「仕事で最悪の失態からどう上昇気流に乗れたか」の記事をお読みいただきたいのですが、私はこの失敗のおかげで、会社にとっての危機管理広報がどれだけ重要か、痛感することになりました。

「逃げるな、隠すな、嘘つくな」。私の広報としてのモットーは、この時期にできあがったものです。その後、広報課長、室長と昇格していきましたが、常にこのモットーを意識して取材対応を行っていました。部下に指導する際には、記者の方の後ろにいる社会、そしてお客様を意識した対応を指導していました。

そして2004年、40歳の時に次の転機がありました。長女の出産です。産休・育休に入る前は、制度や周囲のサポートを駆使すれば出産前と同じように働けると思っていました。ところが大きな誤算があったのです。それは子供がこんなにかわいいと知らなかったこと。

実際に生まれてみたら、まぁかわいいこと(笑)びっくりしました。できるだけ長く一緒にいたくて、復帰後は少しでも早く帰宅しようと、3倍速で仕事するようになりました。優先順位付けと取捨選択のプロフェッショナルですね。生産性は確実に上がったと思います。キャリアはその後もCSR推進部長、教育旅行神戸支店長とステップアップしていき、2018年には執行役員就任、東京赴任という話が持ち上がりました。

この時は大いに悩みました。当時、娘は中学1年生。これから最も多感な時期になるのに、母親が単身赴任していいものかと考えましたが、広報のモットーに基づいて、正直に娘に相談したのです。すると、しばらく考えた後「私に相談するってことは行きたいんでしょ」と鋭い一言が。

■風土改革は「言い続ける、やり続ける、あきらめない」

この時、初めて自分の気持ちに気がつきました。執行役員として担当する、全社の働き方改革・ダイバーシティ推進という仕事を、私はどうしてもやりたいんだと。そう正直に伝えると、娘は「だったら行ってもいいけど、週1回は必ず帰ってきてね」と言ってくれたのです。

私は今も、この約束を愚直に守っています。大事なのは、子どもには常に「あなたが一番大事だよ」と伝え続けること。娘から泣いて電話がかかってきた時は、その直後に新幹線に飛び乗って大阪へ帰りました。

その際、「必要な時には、社員が家庭を優先することができる風土にすることも、あなたの仕事なんだから」と背中を押してくれた上司には心から感謝しています。

JTBでは今、経営改革の一環としてグループカルチャー改革に取り組んでいます。具体的な進め方として、働き方改革、評価マネジメント改革、ダイバーシティ改革、キャリア改革、コミュニケーション改革の5つの改革を同時進行で進めることによって、企業風土を変えていこうとしており、私はその旗振り役を務めています。

例えば、ダイバーシティ改革では、各部門各個所ごとのダイバーシティ浸透度を偏差値を用いて「見える化」したほか、女性社員に自信を持たせるための研修「なでしこフォーラム」や、男性上司の意識変革を促す「イクボスセミナー」、多様な性のあり方を啓蒙する「LGBTセミナー」など、さまざまな施策を展開しています。

また、コミュニケーション改革では、経営陣と社員が直接対話するランチ会を実施しているほか、各職場の好事例を共有できるコミュニティサイト「Smileプロジェクト 掲示板」も立ち上げました。現場からの活発な意見が飛び交っています。働き方改革では、朝型勤務やテレワークなど、柔軟な働き方を強力に進めています。

しかし、カルチャー改革を進めていくには時間がかかります。解決すべき課題もたくさんあります。成果が形で見えにくいだけに、社員一人ひとりの実感にまで落とし込むには、まだまだの段階で苦しいことも多いのですが、推進担当としての現在の私のモットーは「言い続ける、やり続ける、あきらめない」。会社の持続的な成長のため、社員ひとりひとりの幸福のため、あきらめずに言い続けてやり続けて力を尽くしていきたいと思っています。

最後に、皆様へのアドバイスとして、私が常に実行している2つのことをお伝えします。1つめは、困難に直面しても前向きに捉える「ポジティブシンキング」。2つめは、1日5分でいいので、今日の自分の行動を客観的に振り返る時間を持つこと。これは、次の日に向けた自分のリセットにもなります。よろしければぜひ試してみてください。JTBの改革も私自身の志もまだまだ道半ばです。大変なことも多いですが、それはすべてポジティブに捉えて、自らを客観視しながら、大切に一歩一歩歩んでいきたいと思っています。皆様、ともに頑張ってまいりましょう。

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髙﨑 邦子(たかさき・くにこ)
JTB 人事部 執行役員 働き方改革・ダイバーシティ推進担当
関西学院大学法学部を卒業後、1986年に日本交通公社入社。97年に管理職初登用。2011年、JTB西日本本社広報室長に就任。14年に同社CSR推進部長。16年、同社教育旅行神戸支店長。18年より現職。

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(JTB 人事部 執行役員 働き方改革・ダイバーシティ推進担当 髙﨑 邦子 文=辻村洋子 撮影=小林久井)

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