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新築マンションに住んでいた47歳妻が「夫が倒れた」で破産したワケ

プレジデントオンライン / 2020年2月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asobinin

持ち家のローン返済が終わらないうちに、一家の大黒柱が倒れたらどうなるか。司法書士の太田垣章子氏は、「新築マンションは値下がり率が高い。このため売却してもローン残高を完済できず、破産に追い込まれてしまうケースが珍しくない」という——。

※本稿は、太田垣章子『老後に住める家がない!』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■働き盛りの夫の突然の異変

51歳のご主人が倒れたと、事務所へ相談に来られた明美さん(47歳)。ご主人は脳の血管が切れ、植物状態。前兆も何もなく、働き盛りの突然の出来事でした。明美さんはパートタイムでの就労で、一家の家計はご主人が担っていました。

二人の子どもは、すでに成人して独立。末っ子の中学2年生の女の子と3人での生活でしたが、大黒柱が倒れて一変。10年前に3000万円で購入した新築マンションの住宅ローンがこのままでは払えません。

亡くなれば住宅ローンの団体信用生命保険で完済されますが、病気の特約はなかったため、今のままではローンの支払いができず、競売にかかってしまいます。独立した二人の子どもも、自分の生活で手一杯。親の家の援助まではできません。かと言って何かしら手を打たないと、明美さん家族が破綻してしまうことは目に見えています。

物件を売却しようにも、この10年で元本は200万円ほどしか減っておらず、売却代金だけではローン残高を清算できません。担保を抹消するためには、不足分の1000万円を現金で用意する必要があります。

このように一般的には新築不動産は値下がり率が高く、売却しようと思っても住宅ローンの完済ができないため、売却ができないのです。

明美さんの親族はすでに他界。一人っ子なので、兄弟を頼れません。ご主人の両親との同居も、住宅事情から難しそうです。銀行側も支払いの相談には、いい顔をしてくれませんでした。

■貸しに出すにもリフォーム費用がかかる

こうなると結局母と娘で安い賃貸物件に転居して、自宅を賃貸にしてその賃料でローンを払っていく、これがいちばん現実的でしょう。ところが10年自宅として使っていたので、人様にお貸しするためにはリフォームも必要です。今この現状でその費用をどこから捻出するか、果たして費用をかけてすぐに入居者を確保することができるか、頭の痛いところです。とりあえずリフォームにいくらかかるのか、賃料相場も合わせて検討するしかありません。

明美さんは新築マンションを購入したとき「これで家問題から解放された」と思ったそうです。でもまさかこんなことで、持ち家に縛られるとは思いもしませんでした。「こんなことなら、マンションを購入せずに賃貸にしておけばよかった」、今ではそう思っています。持ち家があることによって、身軽でいられないこともあるのです。

最終的にご主人の状態から成年後見の申し立てをして、弁護士の先生が後見人に選任されました。私の手から弁護士の先生の手にバトンタッチされた形となりましたが、その後は破産せざるを得なかったのではないかと思います。

明美さんとお嬢さんは賃貸物件に移り住み、なんとか正社員で働ける場所を探しているものの、なかなか厳しいということを耳にしたのが最後です。

持ち家が負担になるのは、何も事故や病気だけとは限りません。

中高年でリストラにあってしまい、その後すぐに再就職ができず、ローンが支払えなくなった相談者もいます。

明美さんのところと一緒です。売却して賃貸に引っ越そうと思ったけれど、いざ売ろうと思うとローン残高以上には売れなかったのです。そうなるとローンは支払えない、でも売却もできないというジレンマに陥ります。売却できないなら、貸そうと思っても、それにはリフォームが必要。にっちもさっちもいかない状況になってしまいました。ちょうど子どもにもお金がかかる時期。完全にお手上げ状態です。

■働き方改革が裏目に出る場合も…

またリストラにまでならなくても、働き方改革で残業が減った分、収入も減額されて払えないという人も増えました。共働きを見越してローンを組んだけど、離婚や片方の収入減により、たちまち窮地に追いやられる人もいます。

さらに住宅ローンを最大限に借りている人たちは、ある程度退職金を当てにしている人も多いのですが、この不況で退職金が減額されてしまうと、収入を得る手段が減ってしまう世代で、ローンが払えなくなってしまうことにもなりかねません。

ここしばらく、住宅ローンの金利が下がったこともあり、頭金の額が少なくても不動産を購入できるようになりました。ところが住宅ローンを利用する方の大半は、元利均等方式です。毎月の支払額が一定ですが、当初の支払いの大半は金利に充当されてしまうため、ローン残高はほとんど減りません。元本が減っていくのは、住宅ローンも終盤に差し掛かった頃です。

■最大のリスク回避は頭金をたくさん入れること

一方の元金均等方式だと、毎月必ず一定額の元本が減っていきます。ただしその分毎月の支払額が高くなってしまうため、頭金をきちんと入れてローンの額を減らさない限り、希望物件は買えなくなってしまいます。そこで仕方がなく支払額が一定の、元利均等方式で物件を購入する人たちが大半なのです。

値下がりをせず、むしろ買ったときより値段が上がる不動産もない訳ではありません。ただそれはほんの数%の物件。その物件を目利きして購入しない限り、一般的に新築マンションの値下がり率は高く、元利均等方式での購入なら、所有期間にもよりますが、ほぼ売却代金でのローン残高完済はできません。金利だって固定でない限り、上がってしまえばたちまち月々の支払額は上がり、家計を圧迫するでしょう。何か僅(わず)かなアクシデントですら、即刻路頭に迷うことにもなるのです。

もちろん何事もない人もいるでしょう。ただ人生には、ハプニングがつきもの。「あの時大変だったね」と笑える程度のものはいいのですが、不動産は額が大きいため、一度苦しくなると大きな負の財産になってしまいます。そう考えると、金利が低いとはいえ、頭金をたくさん入れるということは、最大のリスク回避になるでしょう。

■持ち家でも住まいの悩みからは解放されない

太田垣章子『老後に住める家がない!』(ポプラ新書)

また外国人の投資家が日本の不動産を購入していることもあって、想定通りの「修繕積立金」が貯まっていない分譲マンションはたくさんあります。しかも大規模修繕のときの総会時、海外投資家から委任状が取得できなければ、決議の総会そのものも成り立たないことが予想されます。

決議ができないとなると、大規模修繕はできず、自身が住んでいるマンションが朽ち果てていくのを、じっとただ見ているしかできないということにもなりかねません。そうなってしまうとますます物件の価値は下がり、売りたいのに売れないという状況に陥ってしまいます。

要は持ち家だから、この先住まいに悩まされることはない、とは言い切れないということです。びくびくばかりしていられませんが、不測の事態も想定しつつシミュレーションしておくことが、逆に安心して生活していくことができる材料になるはずです。

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太田垣 章子(おおたがき・あやこ)
司法書士
章司法書士事務所代表。30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2300件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。

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(司法書士 太田垣 章子)

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