アプリ婚の新婚夫婦が「友人の紹介」とごまかす理由
プレジデントオンライン / 2020年2月7日 9時15分
※本稿は、有薗隼人『[婚活ビジネス]急成長のカラクリ』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■まだまだ公言しにくい“アプリ婚”
マッチングアプリのユーザー数増加に伴い、アプリを通して結婚したという人が増えています。そうした人たちからよく、こんな“お困りの声”が聞こえてくるようになりました。それが、結婚式でのスピーチです。
結婚式では慣例として2人の出会いの経緯を紹介しますが、いくら浸透したとはいえ、「マッチングアプリを通して知り合いました」と堂々と宣言するのはまだ、はばかられる空気があります。
今のところは、「飲み会で知り合いました」などとサラっと流すケースが多いようです。私の知り合いもSNSを通して出会い、結婚に至りましたが、結婚式のときは「友人の紹介で出会いました」と話していました。
このように、結婚式など親世代や多くの人が集まる場では、まだマッチングアプリを通しての結婚は公言しにくいですし、この風潮が変わるまでには時間がかかるでしょう。
■婚活サービス利用者は2割超
とはいえ、こうした声が聞こえるようになったのも、婚活サービスを通して結婚した人の数が増加傾向にあるからに違いありません。MMD研究所のマッチングサービス・アプリについての統計を見ると、2018年の婚姻者のうち、「婚活を通して結婚した」という回答が12.7%で過去最高となりました。
その中でも「ネット系婚活サービス」を通じて結婚する割合の増加が特徴的です。ネット系婚活サービスとは、スマートフォン、パソコンなど手持ちの端末で活動を行う婚活サービスの総称で、代表的なものとして「ペアーズ」や「オミアイ」などのマッチングアプリと、「ゼクシィ縁結びエージェント」や「オーネット」などの婚活サイトが挙げられます。
ちなみに、婚活サービス利用経験者は各年代を平均しても、2017年15.6%、2018年18.1%、2019年23.5%と増加傾向にあります。
■出会いがアプリ「いずれ普通になっていく」
私は婚活産業を通しての結婚が増加した背景には、自然な出会いが減ったことが挙げられるだろうと考えています。最近の人は「結婚したい」と思ったときに、出会える手段がありません。職場で出会えるならば理想的ですが、飲み会に参加する若者が減少し、同僚や先輩、後輩と仲良くなる機会がありません。
また、職場に好意を持てる相手がいなかった場合、出会いがありません。そこで、自然に出会える場がないという人がアプリに流れています。こうした流れは、今後も加速していくでしょう。そうして利用者の分母が増えていけば、いずれ「出会ったきっかけはマッチングアプリです」と紹介されるのも普通になっていくでしょう。
実際、アメリカでも最初はマッチングアプリでの出会いを公言することに抵抗がありましたが、広く普及したことで「これもひとつの手段だな」という認識に変わりました。利用者が増えるということは、ひいては結婚する人の増加にもつながるかもしれません。日本でもいずれ、“常識”の変化が起こっていくはずです。
■アプリで結婚相手を見つけるためのルール
マッチングアプリを通して、交際相手を見つけるのは容易なことです。ですが、読者の皆さんからすれば、「マッチングアプリ」が実際に結婚につながるのかという部分が気になると思います。私のこれまでの経験からしますと、マッチングアプリで出会って、ゴールする確率は決して低いものではありません。私の周囲にもたくさんいます。
一例を挙げましょう。マッチングアプリの大手「ペアーズ」で結婚相手と出会ったのは、当時30歳だったバツイチの女性、Dさんです。
「ペアーズ」は累計1000万人以上が利用している人気アプリで、男性は月額1980(3カ月継続のプラン)、女性は基本無料と利用料金も安く、広い層に支持されています。
Dさんは離婚歴がありましたが、子どもはいませんでした。新しい出会いを求めていた彼女ですが、前の旦那さんが同業者だったこともあり、仕事関係者との恋愛は避けたいと考えていました。普段あまり出会うことのない、新たな出会いを求めてアプリに登録しました。
離婚を経験したことで、一時は恋愛を面倒くさいと感じることもあったようですが、その頃から、Dさんの周囲では結婚・出産ラッシュになっていたと言います。離婚して子どもがいない彼女は、友人たちから幸せな報告を受けるたびに、劣等感を抱いていたそうです。
そうした気持ちを紛らわせたいという思いもあり、初めは新しい結婚相手を探すというよりは、新しい友人を求めるくらいの軽い気持ちで登録したというDさん。ところが、すぐに意気投合する男性と出会い、トントン拍子で結婚に至ったのです。
初めから結婚を意識していなかったことで、視野を広げられたという利点もあったのかもしれません。いずれにしても、友達づくりの一環として利用できるのも、アプリならではの気軽さなのでしょう。
■「自分なりのルールを決めて、徹底」
一方、Dさんのようにフラットな感覚でアプリに手を出す人ばかりではなく、当然真剣に結婚相手を探すために登録した人もいます。27歳のときに結婚を意識していた彼氏と別れた末に、「次こそは結婚したい」と婚活アプリに登録したのが、Eさんです。
いざ、婚活を始めると決めた彼女は、まず「エクシオ」や「パーティーパーティー」といった婚活パーティーに参加するようになります。ところが、毎回大人数の人と会うのが窮屈に感じてきてしまったため、恋活アプリの「ペアーズ」と「ウィズ」の2つに登録することにしました。
Eさんは最初、「アプリの中なら、嘘(うそ)をつこうと思えばつけるだろう」と、少々男性に対して疑いの目があったようです。でも、信用できないからこそいろんな人と会ってみよう、それで少しでも怪しいと感じたら交流を断とう。そう決めて、アプリでの婚活に臨んだそうです。
最終的に理想の男性を見つけた彼女に、成功の秘訣を聞いてみると、「自分の中で『いつまでに結婚する』という期限を設定して、その間はとにかく努力をし続けようと思っていました。ほかにも、『初回から割り勘の人はNG』『2回目から馴(な)れ馴れしい人もアウト』など、自分なりのルールを決めて、徹底していたこともよかったのかもしれません」と話してくれました。
マッチングアプリでは多種多様な人と出会えるだけに、自分なりのルールを定めておくことが重要なのです。
■防ぎきれないアプリを介した不幸な事件
ここまでマッチングアプリの利点を多く解説してきましたが、もちろんいい話ばかりではありません。アプリの性質上、相手の身元がはっきりとわからないという部分は、どうしてもトラブルにつながりやすいのです。まず、マッチングアプリ全般で問題視されているのが、いわゆるサクラや業者の存在です。
サクラは運営に雇われて、運営が儲かるようにユーザーを誘導しようとします。もちろん出会い目的ではなく、アプリをできるだけ長く使わせて利益を出そうとしている人たちです。サクラはポイント制のアプリに多く存在して、マッチングしたにもかかわらず延々とアプリ上でメッセージでのやり取りだけを続けて、相手側に無理やり課金させようとしてきます。
業者も、サクラと同じく純粋に出会い目的でアプリを利用していない人のことですが、運営とは一切関係のない人物です。業者の狙いとしては、「個人情報の抜き取り」「有料サイトへの勧誘」「美人局を通してお金を巻き上げる」「ネットワークビジネス・投資の勧誘」などが挙げられます。
こういった業者はクローラー(WEBサイトやネット上の画像などの情報を取得し、自動的に検索データベースを作成する巡回プログラムのこと)のパトロールを避けるために、やけに早くLINEのIDを聞いてきて、その後別のサイトへ誘導するのが常套手段です。
■肉体関係を迫る「ヤリ目」、「パパ活」も横行
その次に多いのが、肉体関係だけを求めるヤリ目の存在です。
実際に会ってみたら、すぐにホテルに行こうとするなど肉体関係を迫り、行為を終えるとその後の連絡が一切取れなくなる人たちが数多くいます。最近問題となっているのは、交際することを前提に体の関係を迫り、後日音信不通になるというパターン。婚活で後がないと思った相手の足元を見た卑劣な行為です。
実際、婚活アプリでマッチングした後、「結婚しよう」という雰囲気を出しながら、相手を口説くのは容易です。その後、肉体関係を持った途端に「気が変わった」と言って別れればいいと考えているのです。ある意味、結婚詐欺のようなものですが……。
また、ヤリ目と似ていますが、最近ではパパ活目的の若い女性も増加しています。せっかく出会いを楽しもうとしているのに、素人のキャバクラで楽しむようなものになってしまうのは悲しいものがありますよね。もし、女性が未成年だとしたら、法に触れることになるので逮捕される可能性もあります。
■殺人事件に発展した事案も……
そして、もっとも恐ろしいのが、リアルの犯罪に巻き込まれることです。2018年2月にも、マッチングアプリ「ティンダー」を通して、兵庫県三田市に住む27歳の女性が、大阪で民泊していたアメリカ人に殺害され、頭部や胴体などをバラバラにされるという事件が起こってしまいました。
マッチングアプリを使う以上、こうしたリスクが100%回避できるかというと、正直難しい部分があると思います。男性も女性も、相手を見極める目だけは、自分で養うしかありません。
結局、どのアプリにもヤリ目やサクラ、宗教の勧誘目的者などが潜んでいるため、自分で自分を守らなければなりません。最初に会った人とゴールインされた方もいるでしょうし、10人会って10人とも駄目だった人もいれば、100人会ってようやく妥協できる相手を見つけるのか、その確率はなんとも言えません。どんな結果であれ、“出会った相手が悪かった”と諦めなければならないのが、マッチングアプリの怖さなのです。
■自身の防御力を高めるリテラシーは必須
正直なところ、マッチングアプリが流行(はや)っている今は、ヤリ目や詐欺師からすると天国でしょう。彼らの被害に遭わないためにも、自身の防御力を高めることは重要です。リテラシーが足りないままアプリを利用すると、不幸になることも少なくありません。
アプリはあくまでもツールです。リテラシーに自信のない人は、結婚相談所のように仲人や仲介が入ってくれる人がいるほうが安心かもしれません。
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GEAR代表取締役
青山学院大学卒業後、新卒でGMOインターネット株式会社に入社。2011年に株式会社GEARを設立。2017年より婚活事業への取り組みを開始。婚活情報ポータルサイト「ミラコロ」や結婚相談所「ミラージュ」の企画・運営を手がける。
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(GEAR代表取締役 有薗 隼人)
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