なぜ日本社会は“女の敵は女”と根拠なき対立を煽りたがるのか
プレジデントオンライン / 2020年2月7日 11時15分
■各局が女性専用車両を批判
先日民放テレビ局の情報番組内で、女性専用車両で問題が起こっていると報道され、視聴者から多くの批判を浴びました。
情報源はあるネット記事です。女性専用車両内は「あぶらとり紙が散乱している」「男性の目がないので周囲の目線を気にせずスマホに没頭している」「持ち物のブランドでマウントがはじまる」など女性の戦場と化しているとの理由から、利用したくない人が増えているという内容で、複数の番組で取り上げられました。
しかし視聴者からは「最近あぶらとり紙を使う女性はめったにいない」「スマホを見るのは女性に限らない」「ブランドで競うなど一部の人では」と情報の根拠自体を疑う人の声が多くみられる事態に。
■テレビが大騒ぎするほどのことではない
筆者自身も女性専用車両を利用することはありますが、特段普通の車両と異なる様子は見られません。強いて言うならば若干、メイクをする人の姿が目立つ程度でしょうか。しかしそれは女性同士、朝早く起きて化粧をする大変さを理解しているがため、安心や甘えが生まれてしまうからかもしれません。私自身も普通車両の乗車時ほどには、彼女たちをひやひやした思いで見つめませんでした。従来の価値観では行儀が悪いと言ったらそうなのかもしれませんが、各局が改めて大騒ぎするほどの問題ではありません。
筆者がたまたま目撃していないだけで、そこが女の戦場と化すことはまれにあるのかもしれませんし、社会問題として取り上げるほど困っている人がいるならば報じる意味はあるのかもしれません。しかしながら、先に述べたようにそこまで深刻な問題であるという根拠は薄く見えます。
■女性専用車両を批判的に報じる単純すぎる理由
なぜウェブメディアやワイドショーは女性専用車両を批判的に扱うのでしょうか。それは、単純に「数字が稼げる」からです。
特にテレビの主な視聴者は主婦層であることから「女同士のバトル」「女の敵は女」といったコンテンツを放送することは多々あります。その内容自体に問題があることは後述しますが、今回は特に視聴者から批判の声があがりました。
それはなぜか。
仮に女性専用車両内でトラブルがあったとしても「そもそも女性車両が存在する理由は痴漢がいるから」という、一番見過ごしてはいけない議論が抜け落ちたまま報じられていたからです。
■女性の7割が公共空間でハラスメントを経験
先日行われた#WeTooJapanの調査では、女性の7割が電車やバスなどの公共空間でハラスメントを経験し、通勤・通学時間が長い女性ほど、過去1年に痴漢被害を経験した人が多いという結果が出ています。多くの女性が卑劣な行為を経験したという状況は、明らかに異常です。
こういった被害を少しでも軽減したいと苦肉の策として生まれたのが女性専用車両で、いわば社会の歪みによって生じた存在です。決して女性の特権とか、男性差別ではないにもかかわらず勘違いをしている人もいます。
原因をさらにさかのぼれば、満員電車に乗るのが苦痛なのは男性も同様で、フレックスタイム制やテレワークなどがなかなか浸透しない硬直化した日本の企業体質であったり、東京一極集中という問題もあるでしょう。
メディアにとって女性専用車両は、「数字が取れるから」と安直に茶化して扱って良い問題ではありませんし、目を向けるべきはその背後にある本当の問題です。
■問題の本質を見誤らせる「女の敵は女」
以前、筆者が寄稿した「マラソン開催地問題でなぜ札幌が批判されたか」でも書きましたが、構造上の問題を見過ごし、弱い立場が責められたり、弱い立場同士が争わされたりする事態はめずらしくありません。今回は偶然、女性専用車両が話題になりましたが、その根底にある「女の敵は女」という表現やものの見方は、根拠が無い上に問題の本質を見誤らせてしまいます。
実際に見聞きする「女同士のバトル」の例は枚挙にいとまがありません。育児休暇を取得しようとした際、独身や十分に休暇を取得できなかった世代の女性たちが責める、局の若い女性アナウンサーばかり優遇すると「お局」から批判される、昔から続く「夫の面倒は妻がみるべき」という価値観による嫁姑の間で生じる軋轢(あつれき)など……。
これらは「女の敵は女」として描かれることがありますが、あくまで原因は男性主導の価値観の中で女性が働くという、その歪みの中から生まれるものです。
問題の根幹は、育児休暇を取得したことによって誰かに仕事の負担が偏りすぎる構造であったり、男性ウケするからと業務経験が浅いはずの若いアナウンサーに責任や露出を伴う業務を割り当てる構造、家事や育児が女性に押し付けられてきた構造から生まれる問題であって、「女の敵は女」と茶化してしまうと重要な問題を見失ってしまいます。
残念ながらこのような問題は解決に時間がかかりますが、メディアには数字だけにとらわれて不要な争いを煽(あお)る報道はしないでほしいと願うとともに、メディアに携わる者として大変心苦しいですが、視聴者の皆さんにも本当に大切なことは何かを見失わずにいていただけたらと思います。
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フリーキャスター
1982年、北海道出身。2005年、札幌テレビ放送入社。アナウンス部、報道記者を経て2017年にフリーに。
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(フリーキャスター 宮田 愛子 写真=iStock.com 編集協力=シェアーズカフェオンライン)
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