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新型コロナウイルスを改憲論議に利用する安倍政権のあざとさ

プレジデントオンライン / 2020年2月4日 18時15分

新型コロナウイルス感染症対策本部であいさつする安倍晋三首相(左から2人目)=2020年2月1日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■肺炎の拡大を「緊急事態」と見立て憲法に書き込む

新型コロナウイルスによる肺炎が猛威を振るう中、安倍晋三首相の悲願である憲法改正論議が進まない日々が続く。そんな中、自民党内に、新型肺炎をテコに改憲論議を盛り上げようという動きが表面化してきた。肺炎の拡大を「緊急事態」と見立て、緊急事態条項を憲法に書き込もうという発想だ。

しかし、国民の生命と健康を守るために国を挙げて取り組まなければならない時の「火事場泥棒」のような動きは、悪乗り以外のなにものでもない。

■「憲法改正の大きな一つの実験台と考えた方がいい」

問題提起したのは自民党の長老・伊吹文明元衆院議長。1月30日、党二階派の会合でスピーチし、新型肺炎に触れて「これは緊急事態に対して憲法に保障されている個人の移動の自由や勤労の自由、居住の自由を、公益を、どう押さえるかというバランスの問題だ」と切り出した。

今回、新型肺炎を「指定感染症」と定める政令を定めたことについて「日本にいったん有事があれば、今回みたいに法律による施行令で政府による行動の権限を手に入れる暇がない。これは緊急事態なんですね。強制的にできるかどうか。しかし憲法がある限りは、憲法に個人の権利と自由をずっと明記している。だからこれは憲法改正の大きな一つの実験台と考えた方がいい。そういう観点からもこの問題を皆さんぜひ考えておいてください」と呼び掛けた。

要するに「新型肺炎」を奇貨として、緊急事態条項を憲法に加える必要性を訴え改憲論議を盛り上げようという話だ。

自民党が2018年にまとめた「改憲4項目」(条文イメージ)では緊急事態の項目が含まれている。4項目の中で最も注目される「9条への自衛隊を明記」は、異論も多く議論は長期化が予想される。ならば新型肺炎問題で、緊急事態条項の議論を熟成させていこうということなのだろう。

■安倍首相が「まさに緊急事態だ」とあいさつをしたワケ

伊吹氏だけではない。自民党の下村博文選対委員長は2月1日、宇都宮市で講演し、新型肺炎問題に触れ「人権も大事だが、公共の福祉も大事だ。議論のきっかけにすべきではないか」と語っている。

安倍晋三首相は同日午前、首相官邸で開かれた「新型コロナウイルス感染症対策本部」のあいさつで「まさに緊急事態だ」と述べた。安倍氏が、改憲論を活性化させるために「緊急事態」という言葉を使ったのかどうかは定かではないが、自民党が今後、改憲論議を進めようとする時、安倍氏の「緊急事態」発言を利用することになるかもしれない。

しかし、現実的に緊急事態条項についての議論が活性化されていくとは、とても思えない。今、国会で議論されているテーマは何か。立憲民主党などの野党議員は、「桜を見る会」や、河井克行前法相、案里参院議員の夫妻らによる「政治とカネ」問題を中心に安倍氏らを追及している。

■野党側にくさびを打ち込もうとしている?

一方、与党側は新型肺炎問題に力点を置き、スキャンダルを取り上げ続ける野党を「いつまで同じ問題を取り上げているのか。今は新型肺炎に全力を投入する時だ」と野党を攻撃している。そういう状況下で自民党が「憲法を議論しよう」という議論が受け入れられるとは思えない。疑惑を追及する野党への批判が、そのまま自民党に跳ね返ってくる。

連立のパートナー・公明党幹部も新型肺炎と改憲論をからめる自民党内の動きに対し、不快感を隠さない。逆に改憲の機運が遠のくという見方さえあり「新型肺炎で改憲」作戦は、うまくいっているとはいえない。

ただ、今回の「緊急事態」改憲論は、もう少し深い狙いもありそうだ。将来改憲論議を意識して野党側にくさびを打ち込もうとしていると思われる。

■「憲法改正の大きな実験台と考えた方がいい」

1月28日の衆院予算委員会。質問に立った日本維新の会の馬場伸幸幹事長は、新型肺炎について加藤勝信厚生労働相らとの質疑をした後、憲法の緊急事態条項の問題を取り上げ、こう発言した。

「憲法改正問題の中でも自民党がイメージしている緊急事態条項は、国民が聞いてもよく分からない。新型コロナウイルスの感染拡大は、非常に良いお手本になる」

これを受けて安倍氏は「緊急事態条項の議論を含め、国会の憲法審査会の場において、与野党の枠を超えた議論が展開されることを期待する」と応じている。

また冒頭紹介した伊吹氏は、1月29日の参院予算委で国民民主党の森裕子氏が、指定感染症の施行日を早めるように求めたことを取り上げ「私たちもそう思う。しかし憲法がある限りは、個人の権利と自由を明記している。だから憲法改正の大きな実験台と考えた方がいい」と語っている。

■発言に同調することで国民民主党との距離を縮めたい

安倍氏は、将来の改憲論議に向け、維新はもちろん、国民民主党とも「共闘」できると踏んでいて、秋波を送っている。

森氏が緊急事態条項について憲法改正論議を深める必要があると思って質問したとは思えないが、発言に同調することで国民民主党との距離を縮めようという思いがあるのは事実だろう。

国民民主党は国会召集前、立憲民主党との合流話が頓挫した。そのタイミングをみて野党共闘にくさびを打ち込むべく国民民主党にラブコールを送っているとすれば、それはそれで高等戦術といえるのだろう。

(永田町コンフィデンシャル)

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