橋下徹「新型肺炎対策、国会議員は要望・提案だけでごまかすな」
プレジデントオンライン / 2020年2月12日 11時15分
(略)
■安倍さんの政治決断は評価するが……
安倍政権が政治判断で、強い制圧対策に出ていることは前号のメルマガで述べた。
今政府がやっている感染地域からの入国拒否や、感染者が存在するクルーズ船の中に「感染していない者」までも閉じ込めたり、チャーター便で帰国した日本人を特定施設に滞在させたりすることは、まったく法律の根拠がない。
(略)
もちろん、日本国民の安全を守るために、安倍政権が政治決断によって、法律の根拠があいまいな中で制圧対策をとったことは評価する。安倍さんは政府内で、反対の声を浴びただろうが、そこは政治の力で押し切った。
これは言うは易し、行うは難しである。
(略)
安倍さんの政治決断は評価する。しかしこのままでは危険だ。今は法律がなくても政府は何でもできてしまう、何でもありの状態になっており、それを正す必要がある。
■危険なのは大義によって「何でもあり」の状態になること
国民の命を守る! などの大義が強く出てきたときには、法律の根拠など細かなことを言わずにやるべきことをどんどんやったらいいんだ、という声が強まってくる。
こういうときが一番危険だ。大義が大きくなればなるほど、何でもありの状態になってしまう。
「戦争に勝つ」という大義のために、日本政府が何でもありの無茶苦茶な状態になってしまった歴史を我々は持っている。
国民の安全を守るために、いったんは政治決断をやったとしても、すぐに法律の根拠を整備していくべきだ。それこそが、国会議員の仕事だろう。まずはドーンと制圧対策をやった後に、今度はそれを徐々に解除するために、新型肺炎を細かく検証する。
それと同じ思考で、まずは政治決断によって法律の根拠なくドーンと対策をとった後に、今度はきっちり法律を整備していく。
「まずはアバウトに強く。その後、精緻に」
これが、これまで経験したことのない未知の問題に対応するときの鉄則である。
■なぜ国会議員は本来の「立法」の仕事をしないのか?
では今、国会議員は何をしているのか。本来は感染症法や検疫法、出入国管理法の不備を補う法律改正論議を与野党の国会議員同士ですべきところ、そのような気配は全くない。
相変わらず、与野党ともに国会議員は政府に対して「要望」「提案」をするだけだ。
この「要望」「提案」というのが一番楽チンなこと。無責任・好き勝手に言いっ放しにするだけでいいのだから。
法律を作ろうと思えば、利害関係人の調整から、他の法制度との整合性までしっかり考え抜かなければならない。そして法律の根底に流れる思想についての議論が必要になってくる。それには責任が生じる。
ところが「要望」「提案」となれば、責任が生じないので、適当なことを言いっ放しにするだけで終わる。これは国会議員の「やっています」アピールみたいなものだ。
なぜ今回、国会議員は法律を作ろうとしないのか。
ある与党国会議員は「人権侵害を伴う法律は、議員立法ではなく、内閣が法案を作るべき」と言っていた。多くの国会議員はそのような意識なのだろう。
本来は逆である。
憲法41条は、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定めている。国会は「最高の」「唯一の」立法機関だからこそ、人権侵害にもなりかねない感染症対策の法律を作るべきなのである。
ところが、これまで国会議員は法律作りという本来の仕事を十分にやってこなかった。
法律の制定は、非常に面倒くさい作業が必要になる。だから議員は、役所に対してバクっとした要望と提案だけをして、細かな法律の制定作業は全て役所任せにしてきた。これは国政でも地方政治でも同じだ。
(略)
特に議院内閣制の下では、政府与党は国会で過半数議席を持っているので、政府が作った法律案はほぼ自動的に可決となる。ゆえに、野党は、政府に対していかに文句を言ったか、可決の日程を遅らせることができたかというしょうもない仕事がメインとなってしまう。それで、政府の追及に力を入れることになる。
どのみち政府の法律案は可決になるのだからということで、与野党含めて国会は、世間の常識からかけ離れた、国会独自の「段取り」「手続き」「メンツ」を重んじる場になっている。まあ、それしかやることがないのだから、ある意味仕方がない。だから、くだらない国会独自のルールにがんじがらめに縛られて、それを尊重することで仕事をやった気になってしまう。
■ついでに、意味のない「国会ルール」の見直しも進む
本来、国会は法律を作る場だ。野党から法律案を出そうと思えば、適当な「要望」「提案」のレベルではダメだ。責任をもってしっかりと法律案を作らなければならない。
そして野党が法律案を出してくれば、今度は与党がその問題点を指摘していく。お互いに法律の根底を流れる思想や国家戦略などを議論し合って、法律を創造していく。
この「創造する過程」というものは前向きで、クリエイティブなものだ。国会議員は、憲法解釈を行わなければならないし、衆議院や参議院の法制局もフルに動かなければならない。
そして「良いものを」創造するには、あらゆる作業が生産性の高い効率的なものでなければならない。当然ICTはフル活用しなければならないだろうし、意味のない国会独自ルールの見直しもどんどんやっていくことになるだろう。
このように常に前向きで効率的な国会を目指すことになるし、そうならないと創造的な仕事などできない。
ところが今は、国会において「創造」の作業がほとんどないので、政府や与党議員のスキャンダルの追及という後ろ向きな話ばかりになってしまう。国会という職場は超非効率な生産性の低い場となり、法律の制定を全て政府に委ねるので、内閣法制局が絶対的な存在になってしまっている。
そこで内閣の一員に過ぎない内閣法制局が憲法の番人扱いされている。本来は衆議院、参議院の法制局こそが憲法の番人にならなければならないのに。
これまでは、議員は政府を追及する立場。政府に「要望」「提案」するだけの立場だった。
しかし、このような議員像はもう時代遅れだ。
議員対政府という形で議論する関係から、与党議員対野党議員という形、さらには野党議員対野党議員という形で議論する関係へ。このように国会の構造を抜本的に変えていかなければならない。
(略)
(ここまでリード文を除き約2600字、メールマガジン全文は約1万800字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.187(2月11日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【フェアの思考(5)】新型肺炎・今後の課題はあいまいだった法的根拠の整備。国会議員よ、法案づくりに知恵を絞れ!》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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