25歳の派遣社員が「かつおぶし」に目覚めて始めたこと
プレジデントオンライン / 2020年2月17日 11時15分
※本稿は、世界文化社『これが私の生きる道! 彼女がたどり着いた、愛すべき仕事たち』(世界文化社)の一部を再編集したものです。
■パリピが「かつおぶし」に目覚めた
良かったのは自分に度胸があったこと。
精一杯やって、ダメだったらダメで
仕方ないと腹をくくっています。
Profile
1987年生まれ、神奈川県出身。かつおぶしの魅力を伝えるため、25歳の頃からイベントなどでかつおぶしを削り始める。2017年11月「かつお食堂」をスタート。評判を呼び、数々のメディアに取り上げられる。2019年移転。かつお食堂●東京都渋谷区鶯谷町7-12 GranDuo渋谷B1
——あなたのお仕事は?
日本の伝統食材であるかつおぶしの魅力を知っていただくための啓蒙活動をしています。かつお食堂もその一環ですし、イベントなどでかつおぶしを削らせていただくこともあります。
——なぜこのお仕事をすることに?
昔はいわゆるパリピで(笑)、派遣社員とかしながら、毎晩クラブを遊び歩いていました。あるとき、福岡の祖母の家でかつおぶしを削る祖母の姿を見て、それがすごく美しくて。かつおぶしの良さをもっと知ってもらいたいと思ったのがきっかけです。
■かつおぶしじゃなくて「自分」をアピールしていた
——具体的に何から始めた?
最初は、かつおぶしでおなじみのにんべんでアルバイトをしながら、産地を回って、SNSでかつおぶしについて発信していました。そうしたら友達がパーティで削ってよと声をかけてくれて、それが口コミで広がり、いろいろなイベントで削るようになりました。
ところが、あるイベント後に知人に「下に落ちた削りぶしがもったいなかった」と言われたんです。そのときに私って本当にかつおぶしが好きなんだろうか、私はパフォーマンスとして削っていたんじゃないかと考えてしまって。当時の私は削るときの格好とかも意識していたんですよ。それってかつおぶしじゃなくて、自分をアピールしているじゃないですか。
ちょうどその年末にかつおぶしを削って年越し蕎麦を振る舞ったら、みんながおいしいって喜んでくれて。それまでは、かつおぶしで何か新しいことをやろうとばかり考えていたけど、やっぱり基本は食べること、そこを伝えないといけないと気づいたんです。そこからはおいしく食べることを目的にしたマルシェやワークショップに参加するなど、夜から昼の活動へとシフトしていきました。
■職人と生活し、漁船にも乗った
——すぐに軌道に乗りましたか?
全然。この時期はアルバイト代の月6万〜7万円で産地を回っていたので、ずっと実家暮らしでした。両親からしたら「大学まで出して、同年代の子たちが稼いでいるのに、お前はそれで食っていけると思ってるのか」って感じでした。でもとにかく産地を回りたかったので、LCCや深夜バスなどでやりくりをして各地に行っていましたね。
実は社会人経験がほとんどないので、夜のイベントに出ていた頃は、かつおぶし屋さんを怒らせてしまったこともあって。安くしてほしいと無理を言ったり、ヒールで産地に行ったり……。ものすごく強引だったんですよ。
そういう人たちに謝りに行って、今まで写真を撮るだけだったのを、1週間職人さんと同じ生活をさせてもらったり、かつお漁船に乗ったりして。自ら手を動かすと、職人の方に対する感謝の気持ちもわくし、今まで自分はなんてかつおぶしを疎かにしていたんだろうと考え方も変わりました。
——お店を立ち上げたきっかけは?
その時期、どうやったらかつおぶしをおいしく食べられるかと、毎朝5時に起きて、家族のために朝食を作って、それをSNSに載せていたんです。バーをオープンしたばかりの知人がそれを見て、今後どうしたいのかと聞いてきたので、かつおぶしの魅力を発信する一つの場所が欲しいと話したら、じゃあ朝昼うちを使ってみる? って言っていただいたんです。
■苦しいときこそ、何かを「増やす」
——お店を立ち上げるにあたり、誰かに相談は?
飲食店勤務の経験がほとんどなかったので、飲食店を経営している友人や知人に意見を聞きました。今でも大切にしているのは、ケータリングをしていた会社の方に言われた「きちんとしたものを出して、ちゃんとしていれば、ちゃんとしたお客さんがつく」ということ。
お客さんが少ないから、儲けたいからと、食材をケチるのではなく、いつもちゃんとしたものを出す。人は苦しくなると何かを削る傾向にあるけど、そういうときこそ増やすことが大切だという言葉は、今、本当に実感しています。自分がきちんとしていたら、人が人を呼んで、将来的にはプラスになる。実際、営業活動って全くしていなくて、口コミでお客さんが増えて、メディアに取り上げていただけるまでになったんです。
——自分のお店を持つことにしたのはなぜ?
前は朝昼だけお店を借りていたので、朝4時半に起きて、実家のある神奈川から営業のための荷物をその度に運んで、朝6時にはお店に入っていたんですね。最初はアルバイトを続けながらだったので、週3日だけの営業。そのうち、やっていけると自信がついたので、アルバイトを辞めて週4〜5日営業をしていたんですが、やっぱりしっかりと発信していけるところが欲しいなと思って、お金を貯めて、今の店舗に移転しました。
■一生懸命続けていれば、いい人が集まる
——想定外のことは?
飲食店経験があったら、想定外のこともあると思うのですが、私はゼロからだったので、ありません。飲食店をやりたかったら、また違ったのでしょうが、私はかつおぶしの魅力を伝える場所が欲しいというのが目的だったのも大きい。ひとつ良かったのは、自分に度胸があったこと。やるだけやって、ダメならダメで仕方ないと。
——大変だったことは?
職人さんとのやりとりですね。かつおぶしを作る方も、削り器を作る方も、利益はもちろん大事だけど、それよりもおいしいものを作るために懸けている人たちばかり。昔は人のことを考えられなかったりして、怒られることも多かったですね。でも苦手だと思った職人の方が、今では一番仲が良かったりするんですよ。
——これから何かを始めたい人へのアドバイスは?
続けることっていうのが一番大きいかな。一生懸命続けていれば、いい人が必然的に集まるようになると思っています。あと削り器の職人さんに言われた「飾ることよりも中身を大切にしろ」ということも私は大事にしています。
■毎日の継続とアップデートを両立したい
——仕事を続ける上で大切にしていることは?
原点を大切に、嘘偽りがないこと。例えば、自分の体調が悪いときにかつおぶしの削りがよくないことがあるんですよ。そういうときはお客さんに正直に言います。だって人間だからそれはあるでしょ? プロ意識がないと言われたらそれまでですが、お互いに正直な関係を築いていきたいので。
——あなたにとって理想の仕事(働き方)とは?
自分が店に立ち続けることも大事ですが、下の子を育てて、ある程度お店をまかせ、自分は外に出てかつおぶしについての情報収集をし、それをこのお店に持ち帰ってきたい。お客様に楽しんでもらうためには、毎日同じことをやり続ける大切さと、アップデートする大切さの両方が必要だと思うんです。数年後にはその形に持っていきたいですね。
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かつおぶし伝道師
1987年生まれ、神奈川県出身。かつおぶしの魅力を伝えるため、25歳の頃からイベントなどでかつおぶしを削り始める。2017年11月「かつお食堂」をスタート。評判を呼び、数々のメディアに取り上げられる。2019年移転。かつお食堂●東京都渋谷区鶯谷町7-12 GranDuo渋谷B1
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(かつおぶし伝道師 永松 真依)
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