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選択的夫婦別姓“反対派”が主張するトンデモな理由3つ

プレジデントオンライン / 2020年2月11日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/sharaku1216)

残念なヤジで話題になっている選択的夫婦別姓の議論。反対派が主張する理由は、どれも根拠のないと思われるものばかり。コラムニストの河崎環さんが、痛快に切り込む。

■「だったら結婚しなくていい」に、大がっかり

選択的夫婦別姓を巡る1月22日の衆院本会議にて、代表質問者を務めた国民民主党の玉木雄一郎代表が、交際中の女性から「姓を変えないといけないから結婚できない」と言われた男性のエピソードを紹介した際、議場から「だったら結婚しなくていい」とのヤジが飛んだ。別姓なら結婚する必要はないというこのヤジの主は、自民党の杉田水脈議員と見られている。

「また杉田水脈議員か」「どうしてこの人は……」と、賢明なプレジデントウーマンオンライン読者の皆さんからはため息が聞こえてきそうだが、そうです、われわれとほぼ同じ世代の働く女性、杉田議員です。

令和だというのに……2020年だというのに……まだそんなことしか言えないのか……。

このあまりに雑なヤジっぷりには多くの人が何度目かの大がっかりに打ちひしがれ、中には怒りのあまり「これがわが国の与党だ」と、今から10年以上も前の「平成21年 参議院 選択的夫婦別姓法制化反対に関する請願文書」までをネットに引っ張り出した人もいて、人々はその日、その文面のひどさにあらためて「言葉を失った」。

■反対派が大真面目に綴ったトンデモ論旨

2009年に自民党の山谷えり子議員を通じて法務委員会に提出されたこの請願書の要旨は、参議院公式ホームページでアーカイブ化されたものを見ることができる。それはこのように始まっている。

“家族が同じ姓を名乗る日本の一体感ある家庭を守り、子供たちの健全な育成を願う。
ついては、民法改正による選択的夫婦別姓制度の導入に反対されたい。”

同じ姓を名乗る家族には一体感があって子どもたちが健全に育つが、そうでない家族には一体感がないから子どもたちが健全に育たない、だから選択的夫婦別姓反対、と悲しくなるほど浅はかな意見を真顔で言っている。家族が同じ姓を名乗らない文化は洋の東西を問わず世界のあちこちに見られる。それらの国では「(伝統的な日本と違って)家族に一体感がないので子どもたちが健全に育っていない」と、彼らの文化に対して喧嘩(けんか)を売るも同然の内容だったのだ。

「おいおい、家族の一体感ってのは同じ苗字さえあれば生まれるとでも思っているのか? この国で家族の悲劇がさんざん報道されているのを知らないのか?」とか、「夫婦別姓の他文化の子どもたちが健全じゃない、って誰がどんな基準でジャッジしたんだ?」「根拠は? いったいどのへんの統計からどう導き出してこんな恐ろしく無礼なことを言えるんだ?」つっこみどころ満載だ。10年前の請願書とはいえ、与党議員を通じて提出された文言として由々しきものであることに変わりはないだろう。

■冗談だと思いたいけど本気(マジ)な理由の数々

請願書要旨には香ばしい「理由」が並び、それもツッコミどころに事欠かない。一行、いやワンフレーズごとに「ちょっと待て」とツッコんでいると、なかなか先に進めなくて困るレベルである。

“理由(一)夫婦同姓制度は、夫婦でありながら妻が夫の氏を名乗れない別姓制度よりも、より絆(きずな)の深い一体感ある夫婦関係、家族関係を築くことのできる制度である。日本では、夫婦同姓は、普通のこととして、何も疑問を覚えるようなことはなく、何の不都合も感じない家族制度である。婚姻に際し氏を変える者で職業上不都合が生じる人にとって、通称名で旧姓使用することが一般化しており、婚姻に際し氏を変更しても、関係者知人に告知することにより何の問題も生じない。また、氏を変えることにより自己喪失感を覚えるというような意見もあるが、それよりも結婚に際し同じ姓となり、新たな家庭を築くという喜びを持つ夫婦の方が圧倒的多数である。現在の日本において、選択的夫婦別姓制度を導入しなければならない合理的理由は何もない。”
【翻訳】
「夫婦同姓制度のおかげで、日本の夫婦は絆の深い一体感ある夫婦関係や家族関係を築いているのッ! そんなことに不都合が生じるとか疑問を感じるとか言い出している人たちはフツーじゃないし、合理的でもない少数派だから、耳を傾ける必要ナシ」

——どうしたらそんなに強固に、自分たちが多数派で自分たちのものの見方こそが「普通」で正しいと信じこめるのだろうか? 自分たちの世間が狭い、視野が狭いとは、なぜ微塵(みじん)も疑わないのだろうか? そして何より、「絆の深い一体感ある夫婦関係や家族関係は夫婦同姓制度のおかげ」と口にする時点で、その人は夫婦関係の維持には自分の魅力や相互の愛情なんかは不問(たぶんそういうことに価値も自信も持っていない)、「苗字が同じ、だから一体!」と腰を抜かすほど乱暴で浅い結婚観、人間観を露呈している。そんなのと結婚したら、どんな酷(ひど)い目に遭わせられても「苗字が同じ限り、夫婦だろ! 俺たち/私たち一体だろ!」と血走った目で断固離婚に応じずストーカー化しそうで、ちょっとしたホラーなみに怖い。

■請願書、笑いの才能を開花した?

理由その2は、もはや読みながら笑わずにはいられない。

“(二)選択的だから別姓にしたい少数者の意思を尊重するために選択的夫婦別姓制度を導入してもいいのではないかという意見があるが、この制度を導入することは、一般大衆が持つ氏や婚姻に関する習慣、社会制度自体を危うくする。別姓を望む者は、家族や親族という共同体を尊重することよりも個人の嗜好(しこう)や都合を優先する思想を持っているので、この制度を導入することにより、このような個人主義的な思想を持つ者を社会や政府が公認したようなことになる。現在、家族や地域社会などの共同体の機能が損なわれ、けじめのないいい加減な結婚・離婚が増え、離婚率が上昇し、それを原因として、悲しい思いをする子供たちが増えている。選択的夫婦別姓制度の導入により、共同体意識よりも個人的な都合を尊重する流れを社会に生み出し、一般大衆にとって、結果としてこのような社会の風潮を助長する働きをする。”
【翻訳】
「少数のワガママな人たちが選択的夫婦別姓を導入しろとか言っているけれど、奴らは社会の安全を脅かす危険分子。奴らは私たちにとって安らかで居心地のいい共同体に否定的でワガママな、けしからん危険思想の持ち主たちだ。夫婦別姓を認めることで、そんな変質者たち(もはや思想犯に値する)を社会が公認するなんてダメ、絶対。それでなくても家族や地域社会の機能が弱まってる。夫婦別姓にしようなんていう不届きな奴らが跋扈(ばっこ)するとますます悪化するんだよねー、ホント迷惑。だらしない結婚とか離婚は、夫婦別姓を唱える破廉恥な人たちがパンピーを扇動するせい。あーあ、子どもたちがカワイソー」

——もう言葉もない。どういうヒステリーを起こしているのか、「夫婦別姓」という考え方には、そんなに何かを刺激されるのか? その根拠希薄で感情的な、異常なアレルギー反応を見ていると、問題があるのは「夫婦別姓を唱える“危険思想者たち”」の方じゃなくて、「夫婦は同姓でなきゃダメ絶対!」とヒステリーを起こしているそっちの方だろう……と頭痛でこめかみを揉みながら思うのだ。

■ダメ押しで「子ども」を再び持ち出す

理由その3では、大人の自分たちの意見だけでは足りぬと焦ってか、ふたたび子どもたちを持ち出してきた。

“(三)家庭の機能として、次代を担う子供たちを育てるというものがあるが、選択的夫婦別姓制度導入論者は、夫婦の都合は述べるが、子供の都合については何も考慮に入れていない。一体感を持つ強い絆のある家庭に、健全な心を持つ子供が育つものであり、家族がバラバラの姓であることは、家族の一体感を失う。子供の心の健全な成長のことを考えたとき、夫婦・家族が一体感を持つ同一の姓であることがいいということは言うまでもない。”
【翻訳】
結婚したら、当然、一片の疑問なく自分たちで子どもを作って育てるのが当たり前で、もう国民の義務って言ってもいいですけれども、夫婦別姓が好きな人たちってそういうの全然考えてなくって、自分たちの都合ばっかりで子どものことホント考えてない。子どもカワイソー。家族の苗字がバラバラだったら、健全な心を持った子どもなんか育つわけないし。やっぱり苗字が同じなのがすなわち一体感。子どものこともっと考えてやってね。ホント子どもカワイソー。

——結婚と出産子育てがほぼ同義になっていて、しかも結婚は異性間の関係であると疑問なく断じているのも、いまの時代にはだいぶおめでたい。そして子どもが可哀想(かわいそう)だと連呼するわりに、「親の苗字が同じじゃない環境で育つ子どもは健全な心を持たない、まともに育ってない、イレギュラーだ」とばかりのアンバランスな人間観には、失望を通り越してキナ臭い優生思想めいた何かさえ匂う。

10年前のこの請願書から、夫婦別姓と聞いて杉田水脈議員が放った「じゃあ結婚しなくていい」との脊髄反射的なヤジは、果たしてどれだけ進歩しているだろうか。彼女、いや、この「夫婦別姓なら結婚の意味がない」思想を支持する人たちは、つまり自分たちの結婚とは「同姓」であることによって絆を維持しているんですよ、それだけがかすがいで、最後の望みなんですよ、と自分たちの残念な結婚(観)を露呈していることに、気づいているのだろうか。

※編集部注:初出時、請願書について誤解を招く表現があり、文章の一部を修正しました。(2月12日14時40分追記)

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河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト
1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム連載執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌など多数寄稿。2019年より立教大学社会学部兼任講師。社会人女子と中学生男子の母。著書に『女子の生き様は顔に出る』、『オタク中年女子のすすめ #40女よ大志を抱け』(いずれもプレジデント社)。

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(コラムニスト 河崎 環 写真=iStock.com)

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