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アカデミー賞を決める「有権者」はどんな人々か

プレジデントオンライン / 2020年2月8日 11時15分

※画像はイメージです - 画像=iStock.com/UnitoneVector

映画界最高の栄誉と言われる「アカデミー賞」は誰がどう決めているのか。アカデミー賞ウォッチャーのメラニー氏は「映画産業に従事する何千人ものアカデミー協会員たちが決めています。受賞作品の発表は例年2月ですが、前年12月からすでに『前哨戦』は始まっています。ノミネーションが決まってからはまるで選挙キャンペーンのようです」という——。

※本稿は、メラニー『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

■アカデミー賞は同業者団体のメンバーが決める

評論家や映画ファン(映画を観るプロ)が傑作を決める賞ではなく、世界中の映画産業に従事する人間が同業者を称える賞。それがアカデミー賞です。2019年現在、アカデミー賞は全24部門あります。

作品賞(Best Picture)
監督賞(Best Director)
主演男優賞(Best Actor)
主演女優賞(Best Actress)
助演男優賞(Best Supporting Actor)
助演女優賞(Best Supporting Actress)
脚本賞(Best Original Screenplay)
脚色賞(Best Adapted Screenplay)
長編アニメ映画賞(Best Animated Feature)
国際長編映画賞(Best International Feature Film)
長編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Feature)
短編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Short Film)
短編実写映画賞(Best Live Action Short Film)
短編アニメ映画賞(Best Animated Short Film)
作曲賞(Best Original Score)
歌曲賞(Best Original Song)
音響編集賞(Best Sound Editing)
録音賞(Best Sound Mixing)
美術賞(Best Production Design)
撮影賞(Best Cinematography)
メイクアップ&ヘアスタイリング賞(Best Makeup and Hairstyling)
衣裳デザイン賞(Best Costume Design)
編集賞(Best Film Editing)
視覚効果賞(Visual Effects)

この同業者たちの団体、つまりアカデミー賞を選考するメンバーが、映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences/AMPAS)の会員、通称・アカデミー協会員です。では、どうやったらアカデミー協会員になれるのでしょうか?

その答えは、「一定以上の業績をあげた映画人ならば、AMPASの招待(後述)を受け入れることで、国籍に関係なく会員になれる」です。

会員の職種は広く言えば全員「映画関連」ですが、職種は多岐にわたり、17の部門に分かれています。部門別で言うと「俳優部門」に属する俳優がもっとも多く、2割程度。他にプロデューサー、監督といったカテゴリーほか、美術スタッフや音楽家や編集や録音といった部門が存在します。

■映画宣伝のPR担当者も「有権者」

意外なのは、ここにPRなどを行うパブリシストも含まれているということ。パブリシストとは、各作品を宣伝したり、俳優や監督などノミネートされた人物の広報を担当したりする人を指します。直接的な作品製作に関わっていなくても、作品を世に出すことに関わる人であれば、アカデミー協会員の資格があるわけです。

これらのどこにも属さない人は「members at large(無所属)」というカテゴリーに入ります。これは、現場で監督やプロデュースなどはやっていないものの、「映画業界の中では重要な人」みたいなニュアンスと思われます。ここには、大手スタジオの重役や、世界各国の映画関係者で国際的に知られている人たちなど、映画業界に貢献している方々が名を連ねています。

■アカデミー協会員が激増している理由

AMPASは毎年、世界の映画界で目覚ましい活動をした人に、新会員として加入を促す招待状を送っています。この「アカデミー協会員になりませんか?」という招待は、映画人としては最高の栄誉。既存会員2人以上からの推薦を受けた上で、協会の審査に通った人達に招待が送られます。ただ、招待状を受け取った全員が会員になるわけではありません。様々な理由で拒否する人もいるようです。

ここで特筆すべきは、毎年の招待数の推移です。私の記憶が正しければ、2000年代前半くらいまでの会員数は3000人から4000人くらいで推移していました。毎年それなりの数は招待されていましたが、亡くなる方もいるので、大きな変動はなかったと思います。

ところが2010年代に入ると、招待数がものすごい勢いで増えていきます。

アカデミー協会員 招待者数
図表=『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』

2013年に276人が招待された時、ある業界記事には「これによってアカデミー協会員数は6000人を超える」と書いてありました。そして2019年現在、アカデミー協会員は約9000人弱いるとされています。それが正しければ、この6年で会員数は1.5倍に膨れ上がったことになります。

■「白すぎるオスカー」と猛烈な批判を浴びる

それにしても、なぜこんなに増やすのでしょうか。

実は2000年代前半くらいまでのアカデミー協会員は「白人男性」が大半を占めていました。非白人である黒人、ヒスパニック系、アジア系、そして女性は、映画界でどれだけ活躍していても、なかなか会員になることができなかったのです。

このようなAMPASの体質は、10年代以降の世界的なダイバーシティ(多様性)のトレンドのなかで「時代遅れ」と批判を浴びるようになります。

極めつけは、2015年と16年に2年連続で俳優部門にノミネートされた俳優が白人だけだったこと。それをきっかけに、AMPASは「白すぎるオスカー(#OscarsSoWhite)」と猛烈に批判されました。

そこで当時のAMPAS会長シェリル・ブーン・アイザックス(黒人女性)は、2020年までに女性と非白人の会員数を倍増させると宣言しました。実際、2019年の招待者842人のうち、女性の割合は50パーセントで過去最多。有色人種の割合は29パーセント、出身国は59カ国にわたりました。

■多様化による票割れ、予想屋には悩ましい部分も

当然ですが、メンバー数の増大とそれに伴う人種・性別内訳の多様化は、映画産業の発展においては100パーセント正しいことです。が、予想屋の立場として考えると、ちょっと悩ましい部分があります。

なぜなら昔は「白人のおじいちゃんが好きそうな映画」を選んでおけば、大体間違いがなかったからです。加えてハリウッドにはユダヤ系の関係者が多数、という実態があるので、たとえば「ナチスドイツが舞台の第二次世界大戦もの」が強いことは、周知の事実でした(第66回の作品賞・監督賞である『シンドラーのリスト』はその最たる例)。

しかし今は、投票者の人種・性別の内訳がバランスよく均されているので、票割れしてしまって予想の難易度が格段に上がりました。また、時代の流れと共にナチスドイツは遠い過去の話になり、社会情勢も変化を続けているため、人々の関心事も多様化しています。15年前まで通用していた定説の一角が完全に崩れた形で、私としては手持ちの駒がひとつ減ったような感覚も否めません。

■すべての映画がアカデミー賞の対象ではない

もうちょっと詳しく、アカデミー賞の仕組みについてお話ししましょう。まず、アカデミー賞の対象となる作品の資格について。実は、世の中に存在するすべての映画作品がアカデミー賞の対象作というわけではありません。

長編映画の場合、対象となるのは「前年の1月1日から12月31日の間に公開が始まり、ロサンゼルス郡内の商業映画館で、1週間以上連続して有料上映された、40分以上の35ミリか70ミリ、あるいは指定のデジタルフォーマットの作品」かつ、「劇場公開前にTV放送、ネット配信、DVD等が発売されているものは対象外」です。

このことは「定額制の有料動画配信サービスであるNetflixで放映されたオリジナル作品をどう扱うのか?」という議論にも関わってきます。長編アニメーションの場合、これに加えて「主要なキャラクターがアニメーションである」「上映時間の75パーセント以上がアニメである」ことも条件です。長編実写映画のなかにちょっとだけアニメのシーンが入っていても、それはアニメではないということですね。

■部門ごとのノミネート→決選投票

次に、選考方法です。アカデミー賞は、部門ごとにノミネート(候補)作品がまず決まり、それらを決選投票することで受賞作が決まります。たとえば、第91回の作品賞ノミネートは以下の8作品でした。

『グリーンブック』
『ブラックパンサー』
『ブラック・クランズマン』
『ボヘミアン・ラプソディ』
『女王陛下のお気に入り』
『ROMA/ローマ』
『アリー/スター誕生』
『バイス』

「どの作品をノミネート作品として選出するか」を決めるための投票をするのもアカデミー協会員ですが、全会員が全部門のノミネート作を決めるわけではありません。

俳優部門の賞(主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞)は、俳優部門の会員(=俳優)が投票します。同じように脚本賞は脚本家が、美術部門は美術スタッフと、それぞれの専門家が同業者の専門家に対して投票します。ただし作品賞だけは別。全協会員の投票によってノミネート作を決定します。

また、国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)や長編ドキュメンタリー映画賞、歌曲賞などの場合、ノミネート作に選ばれる前段階として「ショートリスト」と呼ばれるリストに入る必要があります。多くの作品の中から一度少数に絞るプレ選考のようなものです。

■部門ごとに各専門家が投票する

しかし、なぜ全協会員が全部門のノミネートに投票しないのでしょうか? それはやはり、その道のプロの目で見ないと、その映画の特定の部分が「どう優れているか」がわからないことが多々あるからでしょう。

同じ俳優であればこそ、「この芝居の難易度がいかに高いか」がわかるものですし、同じ美術スタッフであればこそ「このセットを組むのはものすごく手がかかる」と気づく。脚本家が「あの長くて複雑な原作を、よく2時間にまとめた!」と褒め称える。各分野の粒ぞろいが選び抜かれるというわけです。

そうして選ばれたノミネート作に対して、最終選考では全協会員が全部門に投票して受賞作を決めます。当然、無記名投票です。なお、集計を仕切っているのはAMPASではなく、大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)です。公平を期すため外部に委託しています。受賞発表のその瞬間まで、受賞結果を知っているのはPwCの担当たった2人だけです。

■配給会社同士のバトル「まるで選挙」

例年、ノミネート作品の発表は1月20日前後で、約1カ月後に授賞式が行われます。この本を書いている時点では、来たる第92回のノミネート発表は、少し早めの2020年1月13日(月)、授賞式は2月9日(日)(アメリカ現地時間)です。

この1カ月間は、言わば選挙キャンペーンみたいなもので、ノミネート作品の配給会社が、映画関係者が読む業界誌に広告をバンバン打ちます。「FOR YOUR CONSIDERATION(ご検討ください)」「Best Actor! Tom Cruise!(主演男優賞はトム・クルーズで決まり!)」といった具合いです。

また、作品を観られていない協会員に本編が収録されたDVD(通称「スクリーナー/Screener」。かつてはVHS、現在はストリーミング再生できるリンクも併用される)を送るのも、この時期の配給会社の大事な仕事です。

これらはあくまで「業界内」でのアピール活動なので、一般の人たちが目にすることはほとんどありません。にもかかわらず、彼らはものすごくお金をかけて、ノミネート期間中に宣伝活動にいそしみます。

作品さえ良ければ、あとは映画に通じたアカデミー協会員たちの判断に任せればいいのでは? という疑問を抱かれるかもしれませんね。でも、それでは現実問題としてオスカーを獲得することができません。なぜなら、人々は観ていない作品には投票をしないからです。

■「作品を見てもらうこと」が最重要

メラニー『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』(星海社新書)

すなわち、ノミネートされた作品にとって最も重要なのは、その作品を見て貰うことです。映画に詳しいアカデミー協会員も、やっぱり普通の人間です。個人的に注目している作品以外は、必ずしもすべての映画に興味を持っているわけではないでしょう。

そんな中、露出が多くタイトルを頻繁に目にする作品や、皆が話題にしている作品は、「なんだか盛り上がっているな」と意識に刷り込まれ、優先して観に行く気になります。その点は、普通の人が映画を観に行く動機と、なんら変わりはありません。

映画の公開本数はとにかく多いので、アカデミー協会員がノミネートされた作品を事前にすべて観ているとは限らないなか、配給会社は作品を観て貰うために、広告を景気よく打ち、スクリーナーを大量に送付するのです。

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Ms.メラニー オスカー予想屋業
アカデミー賞ウォッチャー。映画会社に23年間勤務しながら、1989年から30年に渡りアカデミー賞を見続けている会社員。アカデミー賞受賞予想がライフワーク。

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(オスカー予想屋業 Ms.メラニー)

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