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若手教師のクラスが荒れるのは「経験不足」だけではない

プレジデントオンライン / 2020年3月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/XiXinXing

若い教師の授業や学級は「荒れやすい」といわれる。その原因は「経験不足」だけではない。現役の公立学校教師の江澤隆輔氏は「半数以上が全く経験のない競技の部活動を引き受けている。特に若手教師は未経験の競技を任されることが多い。それが生徒の不信感を招いてしまう」という――。

※本稿は、江澤隆輔『先生も大変なんです いまどきの学校と教師のホンネ』(岩波書店)の一部を再編集したものです。

■「中学生になったら部活をがんばりたい!」

小学校の教師として、子どもたちに「中学校に入ったらなにをがんばりたい?」と聞いてみることがあります。すると、多くの子どもが「部活動」と答えます。「勉強をがんばる!」という子どももいますが、6年生も後半になると、多くは部活動に目がいっています。それくらい子どもたちは、部活動に関心があるのです。

自分の好きなスポーツ、興味のある活動を自分で選んで、顧問の先生や先輩が教えてくれる。そこでは、たくさんの先輩もいるし、違う小学校から入学してきた新しい友達もできるでしょう。土日もまた学校に集まってきて部活動をする。大好きなスポーツ、活動を好きなだけできる、大好きなスポーツ・活動に好きなだけ打ち込みたい子どもたちにとって、こんなに幸せなことはないでしょう。

■強制的に部活をさせる学校や自治体がある

ただし、「どの子も部活動をやりたい」というわけではありません。長時間の部活動がつらい、部活動をやりたくないのに加入させられる、という生徒の問題は広がりつつあります。自主的であるべき部活動に、生徒が強制的に入部させられる学校や、それどころか「何かしら部活動に所属すること」と定めている自治体すらあります。

他方の教師にとっても、部活動は大変です。生徒が授業と違う場で輝く姿を見られるという良さがあるとはいえ、過労死ラインを超えて働かざるを得ない可能性があるほど、大変な業務なのです。

紙幅の関係上詳細は省きますが、部活動の顧問は「ボランティア」であり、教師の業務として位置付けられないものと考えられています(詳しくは、本書『先生も大変なんです』の第5章をお読みください)。そして、その活動はほとんど勤務時間外に行われます。そして、土日の一定時間を超えて働く場合にわずかな手当が支給される以外、何時間働いても残業代や土日出勤分が支払われることはありません。こうした、部活動の労働時間は、多い先生では毎週数十時間にも及びます。

■「顧問ができて一人前」という風潮がある

こんな実態があるにもかかわらず、職員室の中には、その業務量の多さに対して文句を言ったり、未経験のスポーツの指導を任されたことに不平を述べたりすることは憚られる空気があります。

その理由として、一つには、「部活動顧問ができて一人前」という風潮の存在です。「生徒が好きで参加する部活動の指導ができなければ授業もうまくできない、そして生徒がやりたい部活動の顧問をするのは当然」というわけです。

そしてもう一つ、重要なのが、多くの学校には部活動に並々ならぬ思い・労力をかけている教師がいるためです。

往々にしてそういった部活動顧問の教師は、学生時代に力を入れていた競技の部活動顧問です。自分自身が学生時代にその競技・活動に魅了されて、その素晴らしさを教師になって生徒に伝えたい……そう思って教師になった人もたくさんいるのです。

部活動顧問として県大会・ブロック大会などで優勝経験があり、長年その競技の部活動を担当している「大御所」のような先生が職員室にいる学校は、決して珍しくありません。もちろんその「大御所」は部活動を誇りに思い、それに全力を尽くすことが大事だと考えています。

■「部活大好き教師」たちの本音

そんな「大御所」の前で、「部活動がつらい……」「勤務時間後のボランティアで成り立っている」などとは言いにくいものです。そして「若いんだから、部活動で生徒と一緒に汗をかくべきだ」と当然のように言われたら、よほどしっかりした気持ちを持っていないと、拒むことは難しいでしょう。

インターネット上では、教師の立場から「中学校では部活動顧問が授業や学級経営とセット。それが嫌なら小学校に異動するか、学習塾に勤めたりしたらどうだ」とする意見も散見されます。本当にその発言者が教師なのか定かではありませんが、実際にそう思っている教師がたくさんいることも、想像に難くありません。

■「勤務時間外だから部活動は受け持たない」とは言えない

実際、こうした職員室の中で部活動に否定的な行動をすると、仕事をしにくくなる側面は否めません。

私たち教師は、他の先生と色々なチームを組んで仕事をしています。最もかかわりが大きいのが「学年会」。担任、学年主任、副担任を学年でまとめてそう呼び、週1回必ず会議をしたり、打ち合わせをしたりします。あるいは教科会、校務分掌でのチーム……多くのチームを組み、組織として学校を回しています。

ほかの教師との連携や協調が、仕事を進めていく上では欠かせないのが学校です。そうした場で「来年度は部活動を遠慮したい」とか「部活動がつらい……辞めたい」といった、ほかの先生との「協調性を欠く」ような発言はしにくいのです。

なぜなら、自分が部活を担当しなかったら、他の先生の負担が増えることは確実ですし、そのことで部活動以外の仕事に対して負の影響が及びかねないからです。「勤務時間外だから部活動は受け持たない」という正論があっても、本業に支障をきたすのであれば尻込みしてしまうのも頷けます。

■同調圧力で断りきれない「サービス残業」

全国の教師の中には、部活動顧問を引き受けない、という決断をしたという例も聞きます。しかし結果として、周りからの同調圧力や職員室の雰囲気、「部活動をやりたい生徒の心をくみ取ってほしい」などと言われ、断り切れなかったという話がほとんどです。そもそも前述の「部活動の大御所」がいるような学校の場合、顧問をやりたくないけれど、同じようなことを言われたり、職員室の空気を悪くしたりすることを恐れ、あきらめて引き受けている教師もたくさんいることでしょう。

もちろん、介護や育児などを理由に、活動時間が短く、大会参加が少ないような文化部の顧問にしてもらうという要望は可能です。ですが、若手の教師、特に独身の男性教師にとっては、部活動顧問を断ることは難しいのではないでしょうか。若い教師が「部活動の指導ができてこそ一人前」「若いんだから、子どもたちと一緒に取り組まないと」と言われれば、職員室の同調圧力や雰囲気に呑まれて、引き受けざるを得なくなるでしょう。

■若い教師の学級が荒れやすい原因の一つでもある

少子化で子どもが減り、教師の数が減りました。しかし、部活動の数はあまり変わっていません。その結果、必要な顧問の人数は増えることになりました。そして深刻になったのが、半数以上の教師が自分の全く経験のないスポーツや活動の顧問を引き受けないといけなくなったことです。

江澤隆輔『先生も大変なんです いまどきの学校と教師のホンネ』(岩波書店)
江澤隆輔『先生も大変なんです いまどきの学校と教師のホンネ』(岩波書店)

生徒や保護者は、こうした事情はもちろんご存じありません。その結果、「うちの顧問の先生はテニスを知らない」「うちの子の部活動の顧問の先生は、タッチアップも知らずに野球部顧問をしているそうだ」と、このように言われてしまうわけです。

残念なことに、その部員が担当クラスにいた場合、本業である授業や学級経営にも影響します。「テニスを知らないからきっと授業も面白くないだろう」「野球を知らないんだから、きっと授業も大したことない」と、マイナスの先入観を持って授業に臨むことになるのです。

こうした影響で特に大変なのは、若手の教師です。往々にして初任者や若手教師は、部活動の希望が通らず、未経験の競技の部活動を任されることが多いのです。授業経験が少なく、まだまだ研修や教材研究が必要な若手であるにもかかわらず、未経験の部活を任されているために、「サッカーのことが分かってないんだから、授業も面白くないだろう」といった、先入観まで持たれてしまいます。若い教師の授業や学級が荒れやすいのは、まだ経験が浅いというだけでなく、この部活動でのミスマッチから来る生徒の不信感の影響もあるといえるでしょう。

■意義はあるけれど、このまま保つのは限界

ここまでご紹介した通り、私は現在の部活動の制度には大きな問題があると考えています。

ただ、正直にいうと、私はそれでも部活動に大きな教育的意義があると感じている面もあるのです。授業中は積極的に意見を言ったり、参加したりできない生徒が、部活動になるとうれしそうに下級生に教えてあげたり、丁寧にお世話をしてあげたりしている……部活動の場で活躍し、輝いている生徒の姿を見ると、大変だと分かってはいても、「部活動っていいものだな」と感じるからです。

部活動が授業以外の活躍の場・成長の場を提供していることは確かです。そして、それを目の前で見ているからこそ、教師も部活動の場を提供したいと考えるのです。

とはいえ、こうした「ブラック部活動」を象徴として、厳しい学校の就労状況が明らかになりました。その結果、教員志望の学生は減りつつあります。2019年、自治体によっては採用試験の倍率は一倍台となってしまいました。すでに人材選考のプロセスとして、日本の教育の質が確保できない事態になっているのです。

部活動という制度は、いうなれば、無給の長時間労働でスポーツや文化を支える、というものでした。そこに意義があるとはいえ、このまま部活動を、そして学校教育を保つことができないのは明らかです。

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江澤 隆輔(えざわ・りゅうすけ)
福井県公立学校教諭
1984年福井県坂井市生まれ。広島大学教育学部(英語)卒業後、福井市立灯明寺中学校、あわら市立金津中学校、坂井市立春江東小学校と小・中学校に勤務。教師の働き方改革や授業改善への提案をテレビや書籍等で積極的に提案し続けている。著書に『教師の働き方を変える時短』(東洋館出版社)、『苦手な生徒もすらすら書ける! テーマ別英作文ドリル&ワーク』(明治図書出版)、共著に『学校の時間対効果を見直す!』(学事出版)他。

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(福井県公立学校教諭 江澤 隆輔)

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