クルーズ船を「第二の感染源」に変えた安倍政権の科学軽視
プレジデントオンライン / 2020年2月19日 18時15分
■感染拡大を防げなかった日本政府のお粗末
こんなことが許されるのだろうか。森友学園、加計学園、「桜を見る会」問題で繰り返されてきた安倍政権の隠蔽(いんぺい)体質がクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で新型コロナウイルスの感染を拡大させてしまったようだ。
世界の感染症を分析している英インペリアル・カレッジ・ロンドンMRCセンターによると、新型コロナウイルスは患者1人から2.6人に感染、致死率の推定値は約1%とみられている。感染対策を施さなければ罹患率は60~80%に達する恐れがある。
英国船籍のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(乗員乗客3711人)について安倍政権は2月3日から検疫法に基づき横浜港で検疫を実施している。にもかかわらず船内の感染者は増え続け、18日にも88人の感染が確認され感染者はついに計542人となった。
「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客の最年長は90歳代で70歳代は約1000人、60歳代は約900人(橋本岳厚生労働副大臣のブログより)。致死率の約1%を単純に掛けただけでも5人以上の犠牲者が出てもおかしくない。
十分な感染対策を施さずに検疫を実施したら隔離されている人に感染を広げることになり、それはもはや犯罪に等しい。
■感染症のプロ、岩田教授の衝撃告発
SARS(重症急性呼吸器症候群)やエボラ出血熱を現地で経験した感染症のプロ、岩田健太郎神戸大学教授が18日「ダイヤモンド・プリンセス」の船内に入り、ユーチューブで信じられないような内部告発を行っている。これが安倍政権の体質だと言われても仕方あるまい。
告発のポイントは次の通りだ。
「ダイヤモンド・プリンセスは感染者がどんどん増えていくので感染対策はうまくいっていないのではという懸念があった」
「日本環境感染学会が入り、実地疫学専門家養成コース(FETP-J)が入ったが、あっという間に出て行ってしまって中がどうなっているかよく分からない状態だった」
「中の方から恐い、感染が広がっていくのではということで私に助けを求めてきた」
「船内に入ると、それはもうひどいものだった。この仕事を20年以上やっていてアフリカのエボラ出血熱とか中国のSARSとかいろんな感染症と立ち向かってきたので身の危険を感じることも多々あった」
「しかし自分が感染症にかかる恐怖というのはそんなに感じたことはない。僕はプロなので自分が感染しない方法、他の人を感染させない方法、施設の中でどういうふうにすれば感染がさらに広がらないかということも熟知している」
■危険ゾーンと安全ゾーンの区別はなかった
岩田教授はダイヤモンド・プリンセスの船内の様子をこう表現した。
「悲惨な状態で心の底から恐いと思った」
「これは自分が新型コロナウイルスに感染しても仕方ないと本気で思いました」
続けて動画では、感染のリスクについてこう説明する。
「ウイルスが全くない安全なグリーンゾーンとウイルスがいるかもしれない危ないレッドゾーンを分けて、レッドゾーンでは完全に防護服をつけ、グリーンゾーンでは何もしなくていいと区別するのが鉄則」
「しかしダイヤモンド・プリンセスの中はグリーンもレッドもぐちゃぐちゃになっていて、どこが危なくてどこが危なくないのか全く区別がつかない。どこの手すり、どこの絨毯(じゅうたん)にウイルスがいるのかさっぱり分からない状態だった」
■船内で日常的に感染者とすれ違う
「熱のある方が自分の部屋から歩いて医務室に行ったり、感染者とすれ違ったりするのが日常的に行われている。災害派遣医療チーム(DMAT)や検疫官の方が感染したと聞いていたが、それもむべなるかなと思った」
「中の方に聞いたら、われわれも自分たちも感染するなと思っていると言われてびっくりした。感染症のミッションに出る時は必ず自分たち医療従事者の身を守るのが大前提」
「自分たちの感染リスクを放ったらかしにして患者や一般の方に向かったらルール違反だ。自らの安全が保証できない時に他の方の安全は守れない。いつ感染が起きたのか分かるようなデータも全然取っていない」
「そもそも常駐しているプロの感染対策の専門家が一人もいない。やばいなと思って箴言しても何も聞いてもらえない。やっているのは厚労省の官僚たちで、聞く耳を持たない」
「DMATの方が医療現場に戻ると今度はそこからまた院内感染が広がってしまいかねない。アフリカや中国に比べてもひどい感染対策をしている」
■「検疫は機能している」と言い続ける安倍政権
「日本にはCDC(疾病予防管理センター)がないとはいえ、まさかここまでひどいとは思ってもいなかった。学術界とか国際的な団体は日本に変わるように促していただきたい」
「中国のSARSでは隠蔽が問題になったが、ダイヤモンド・プリンセスのカオスの状態に比べるとはるかに楽だった。日本はダイヤモンド・プリンセスの中で起きている情報を全然出していない」
「マズイ対応であることがバレるのは恥ずかしいことかもしれないが、これを隠蔽するともっと恥ずかしい」
最大の問題はやはり安倍晋三首相→加藤勝信厚労相→厚労省官僚・医系技官という指揮命令系統の中に感染症のプロが全く入っていないことだろう。日本最大の問題は組織から岩田教授のような職人気質の専門家を排除してしまうことだ。
そのためグリーンゾーンとレッドゾーンの区別、感染者や疑い例の患者と接触する際の手順、感染症対策の基本となるデータの収集が全く行われていない。にもかかわらず安倍政権は世界に対して検疫は完全に機能していると言い続けてきた。
安倍政権がこれまでと同じように頬かむりするつもりだとしてもそうはいかない。「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染は日本人だけでなく56カ国・地域の乗客の命を危険にさらしてしまった。隠蔽は許されない。全てのデータを即刻、開示すべきだ。
■安倍政権の対応に海外の厳しい目が向けられている
海外メディアも日本の検疫が失敗した理由について厳しい目を向けている。特に44人が感染、約330人をチャーター機2機で帰国させた米国のメディアは日本のやり方を徹底的に批判している。
米ABCテレビは「第二の感染中心地が日本の港につくられつつあり、憂慮すべき事態」と警鐘を鳴らし、米紙ニューヨーク・タイムズは「日本政府の対応は公衆衛生危機の際に行ってはいけない対応の見本」と批判する専門家の意見を紹介した。
もともとクルーズ船ではノロウイルスの感染が頻繁に起きており「海に浮かぶ培養皿」と呼ばれるほど感染症には脆弱(ぜいじゃく)だ。しかし船内では世界保健機関(WHO)が1月30日に緊急事態宣言を出してからもパーティーが開かれていた。
米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・フォウチ所長は米USAトゥデーに「クルーズ船上で人々を安全に検疫しようという最初の考えは無理ではなかった」としながらも「検疫のプロセスが破綻した」と指摘し「あまり厳しいことは言いたくないが、これは失敗だ。検疫が失敗し、多くの感染者を出してしまった」と話している。
英キングス・カレッジ・ロンドンの感染症の専門家ナタリー・マクダーモット博士は「明らかに検疫は機能していない。この船は現在、感染源になっている」と手厳しい。
「船内での検疫の実施方法、空気浄化、客室へのアクセス、廃棄物の処理方法を理解する必要がある」
「私たちが馴染(なじ)みのない別の感染経路が存在する可能性はあるものの、乗員や乗客がウイルスで汚染された表面を触るのを防ぐディープクリーニングが適切に行われていれば、検疫が機能しなかったはずがない」
■感染させるために培養皿の中に閉じ込めた
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「ダイヤモンド・プリンセス」に乗客として乗船していた米テネシー州の総合医アーノルド・ホプランド氏(75)から取材。ホプランド氏は「1日10回も乗員が食事やトイレットペーパー、チョコレートを持ってきた」と証言している。
乗客はマスクもせずにバルコニーに洗濯物を干し、バルコニー越しに乗客同士が話し合っていた。これでは検疫にはならないと注意したホプランド氏の妻は感染し、部屋の世話係だった乗員は重症化していることが分かったという。
ホプランド氏は「私が感染していなかったことが驚きだ。ウイルスは野火のようにこの船に広がった。彼ら(日本政府)はわれわれを感染させるために培養皿の中に閉じ込めたというのが私の推論だ」と語っている。
AP通信に対して英イースト・アングリア大学のポール・ハンター医学部教授は「私たちが考えていたほど人々は他の人々から隔離されていなかったと思われる。ウイルスの継続的な拡散は手順を守っていなかった可能性がある」と指摘している。
「船舶環境で検疫を実施することは困難だ。3700人以上を船内で検疫しようとすることはロジスティクスとして無理があった」
■肘と肘が当たる距離で働いていた乗員
乗員1000人は肘と肘とが当たる距離での仕事を強いられ、食堂のビュッフェで一同に介して食事をとっていた。検疫は乗客向けだったわけだが、乗員は客室に食べ物を提供し続けていた。これが「ダイヤモンド・プリンセス」で行われたずさん過ぎる検疫の実態だった。
「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客には届かなかった差し入れの崎陽軒シウマイ弁当4000食の写真を撮影してソーシャルメディアにアップして日本でも一躍有名になった英国人乗客デービッド・アベルさん夫妻は検疫官に英語が全く通じず「陽性」か「陰性」か振り回された。
結局、3人目の医師がしっかりとした英語を話せて、
かつて7つの海を支配した英国ではコレラが大流行した19世紀に首席医務官を設け、公衆衛生の土台とワクチンの予防接種システムを構築した。これに対して日本では「科学」が「政治」と「官僚」に埋もれてしまっている。
英国は科学を重視して先の大戦に勝利し、日本は科学無視の精神論を振りかざして焼け野原と化した。新型コロナウイルスとの闘いはこれからが本番だ。今からでも遅くはない。科学者が先頭に立ち、官僚が支えるシステムを大至急、整えるべきだ。
1月20日、横浜を出発
1月22日、鹿児島に寄港
1月25日、香港に到着。問題の男性が下船。その後、ベトナムや台湾を巡る
1月30日、WHOが緊急事態宣言
2月1日、横浜から乗船し、香港で下船した男性の感染が判明。この男性が使ったサウナやレストランは通常通り営業
2月3日、日本の検疫官が横浜港で臨船検疫
2月5日、乗客の客室待機など感染拡大を予防する措置を徹底。10人の感染が判明
2月6日、新たに10人の感染が判明(計20人に)
2月7日、新たに41人の感染が判明(計61人に)
2月10日、感染者計161人に。菅義偉官房長官が「全員に対する検査は難しい」と説明
2月12日、感染者計174人に。検疫官も感染
2月13日、感染者計218人に。厚労省が高齢者や持病のある人から優先的に検査を実施し、陰性が確認された希望者を下船させる方針を発表
2月16日、感染者計355人に
2月17日、陰性が確認された米国人乗客約330人が帰国の途に
2月18日、感染者計542人
2月19日、検疫終了。順次下船(21日まで)。WHOは「世界中に乗客が散らばってしまうより好ましかった。しかし船内で感染者が増え続けたのは残念だった」と言及
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在ロンドン国際ジャーナリスト
京都大学法学部卒。元産経新聞ロンドン支局長。元慶應大学法科大学院非常勤講師。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
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(在ロンドン国際ジャーナリスト 木村 正人)
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