いつも最善の治療を受けられる人の「症状の伝え方」2大ポイント
プレジデントオンライン / 2020年3月6日 11時15分
※本稿は、尾藤誠司『医者のトリセツ 最善の治療を受けるための20の心得』(世界文化社)の一部を再編集したものです。
■「どうしましたか?」で、医師が真っ先に知りたいこと
医師と患者が診断と治療という目的に向かって進む、最初の共同作業が初診。しかし初対面同士、互いに話がかみ合わないもどかしさや意思疎通の難しさを感じることも。「どうしましたか?」に込められた医師の意図を知ることで、初診の精度が上がります。
初診で医師から最初に投げかけられる「どうしましたか?」の質問。一見簡単そうで、実は的確に答えるのが非常に難しく、患者さんが医師との良好なコミュニケーションを図るうえで最初に立ちはだかる壁だといえます。なぜ難しいのか。ズバリ、問診で患者が訴えたいことと医師が知りたいことがズレているからです。
患者さんは「頭が痛くてつらいから早く痛みを取ってほしい」と訴える。医師はその原因を突き止めるために役に立つ情報が欲しい。問診は、医師が病気を診断する目的で行う患者さんへのインタビューです。「どうしましたか?」には、「さまざまな可能性を絞り込む判断材料が欲しいので、あなたの体に起きていることを教えてください」という意味が込められているのです。
■「私は逆流性食道炎だと思うのです」がダメな理由
したがって「つらい。怖い。心配だ」などの心情や「私は逆流性食道炎だと思うのですがといった自己解釈や受け売り、あるいは「妻がどうしても病院に行けとうるさいので……」のような夫婦の会話は、まずは脇に置いておくのが賢明かもしれません。限られた時間の中でそんな説明が続くと、医師はなかなか本題に入れずについいらいらしがちです。
医師が「この患者さんの診断はスムーズに進みそうだ」と目を輝かせるような答えとはどのようなものか。患者さんが伝えるべきポイントが二つあります。
一つ目は医師が真っ先に知りたい「主訴」。「頭が痛い」「おなかが痛い」「めまいがする」など困り事をひと言で簡潔に伝えると、まずはそれがカルテの最初に書かれます。
二つ目は最初に具合が悪くなったときから現在に至るまでのストーリー。その症状がいつどのように始まり、どう変化してきたかの経過を話すのです。
■友達に伝えるつもりで話せばいい
ポイントは、時間軸に沿って順序よく語ること。もし最初に「もともと頭痛持ちなのですが」「頭痛知らずだったのですが」といったひと言が加われば完璧。相手が医師だからといって気負ったり緊張したりせず、自分の身に起きたことを「ちょっと聞いてよ」と友達に伝えるようなつもりで話してくれるととてもわかりやすいのです。
ここまでくれば、医師の頭の中では絞り込みが進み、いくつかの可能性が残されるはず。
患者さんは、さらに絞り込むために投げかけられる質問に対して、感情や自己分析など余計な言葉をはさまずに答えていけばよいのです。質問が細かくて「根掘り葉掘り」と感じるかもしれませんが、問診は病気の診断という“犯人探し”の推理と同じ。患者さんの体に生じた客観的な出来事や状況が、医師にとっては重要な手がかりとなりうるのです。
■「何をしていましたか」への答え方
痛むとき何をしていましたかと聞かれたが、
特に何もしていなかった
20代の頃から軽い頭痛持ちだったAさん(49歳)。ひと月ほど前から、日によっては寝込んでしまうほど痛みが強くなり、近所の内科を受診しました。
症状をひととおり話すと、医師が「痛むとき、あなたは何をしていましたか?」と聞いてきました。一生懸命思い出しましたが、ただ居間のソファでくつろいでテレビを見ていただけ。「いえ、特に何もしていませんでした」というと、医師は驚いたような顔で「そんなはずはないでしょう」。Aさんはどう答えたらよいかわからず、診察室に一瞬、気まずい沈黙が訪れました。
「くつろいでいた」でもよい。
あなたの状況を医師は知りたい
通常の会話で、「ソファでくつろいでいた」は「何もしていなかった」に等しくても、問診では「何かをしていた」ことになり、医師はまさにその答えが欲しいのです。静かにしていたのか、運動後なのか、重い荷物を持ったときなのかで頭痛の原因が異なるからです。
また「赤ワインを飲んでいた」など一見無関係に思える話も、片頭痛を起こす要因とつながり、非常に役に立つ情報となります。あるいは、めまいの発生が「布団の中で目を開けた瞬間か、起き上がったときか」で病気の種類も治療法も異なってきます。医師はそのときのあなたの動作や状況を知りたいのです。
■問診票には「予想した病名」ではなく症状を書く
「MRI検査を希望」と書いた問診票を見て、
医師の機嫌が悪くなった
右手のしびれやめまいの症状が気になっているBさん(53歳)。最近、気分もふさぎ込みがちで判断力も落ち、物忘れも多くなったと感じており、重大な病気ではないかと心配で総合病院を受診しました。
問診票に症状や経過を記入しているうちに不安が募り、「脳梗塞か若年性アルツハイマーではないでしょうか。MRI検査を希望します」と書き加えました。原因を知りたいからこその正直な思いだったのですが、診察のとき問診票を見た医師がムッとした表情に……。余計なことを書いてしまったかと反省しています。
検査をするか否かは
患者が決めることではない
問診票に「MRI検査を希望」と書いてあったり、初診でいきなり「CT検査をしてください」といわれたりすると、多くの医師は気分を害します。検査をするか否かは専門家である医師が決めること。患者さんのリクエストに「はい、わかりました」と応じるような簡単なものではないからです。
検査とは、ある程度診察が進み原因が絞られた時点で、必要に応じて確認のためにピンポイントで行ってこそ意味があるもの。同様に、問診票には「胸やけ」、「胃もたれ」と症状を書くべきで、「食道炎」などと臆測の病名が記入してあると医師は無意識にイラッとしてしまうのです。
■「食べすぎで3キロ増えました」で笑われた
体重の変化を聞かれて恥ずかしい
問診で「最近体重の変化がありましたか?」と聞かれたCさん(55歳)。躊躇しながら「……はい、食べすぎて3キロ増えました」と正直に答えると、医師が笑っています。何がおかしかったのでしょうか。
体重の増減は大事な質問事項
食べすぎが原因で体重が増えたなら安心、と思ったのです。ダイエットをしていないのに痩せた場合はがんや糖尿病などの可能性が考えられます。逆に、要因もなく体重が増えるときは心不全などの病気のサイン。恥ずかしがらずに事実を伝えてください。
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東京医療センター 総合内科医
1965年、愛知県生まれ。岐阜大学医学部卒業後、国立長崎中央病院、国立東京第二病院(現・東京医療センター)、国立佐渡療養所に勤務。95~97年UCLAに留学、臨床疫学を学び、医療と社会との関わりを研究。総合内科医として東京医療センターでの診療、研修医の教育、医師・看護師の臨床研究の支援、診療の質の向上を目指す事業に関わる。
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(東京医療センター 総合内科医 尾藤 誠司)
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