女性管理職が「男性部下になめられた」と感じたときの効果的な対処法3つ
プレジデントオンライン / 2020年3月4日 6時15分
■女性管理職を「中身は男」と言うおじさん心理
近年、女性管理職は少しずつ増加の傾向を見せています。しかし、それと同時に女性からは「男性部下のマネジメントに悩んでいる」という声が聞かれるようになりました。残念なことに、女性上司はなめられやすいと感じている人も少なくないようです。
もし女性というだけで軽視されているのなら、これは大きな問題です。原因としては、日本企業の多くがまだまだ男性社会だということが挙げられるでしょう。私自身、企業での研修の場で、それを実感することがよくあります。
「あなたの会社のマネジメントクラスの女性はどんな人物ですか」と雑談をすると、「女性らしくない」「中身は男」などという答えが返ってくるのです。これにはもうため息しか出ません。どんな人物かを表現するのにまだそんな言葉が出てくるのかと、正直、説教するのも面倒なぐらいです(笑)。
この答えからは、管理職は男性の仕事であって、女性には無理だという思い込みがうかがえます。彼らに悪意はないとはいえ、こうした根拠のない思い込みが、女性上司をなめる土壌をつくっていると考えられます。
■女性ではなく男性向け研修をすべき理由
会社全体がそんな風土であれば、若い社員も自然と同じ考え方になってしまいます。これが、女性管理職による男性部下のマネジメントを難しくしているのだと思います。こんな思い込みは、できる限り早く正さなければなりません。
対策としては、上層部の男性たちに女性管理職を増やすにはどうしたらいいのかを考えさせるような研修を受けさせる必要があります。日本では、女性の意欲を向上させようと女性に研修を受けさせる企業が多いのですが、女性に管理職は無理だと考えるような男性が大多数の職場ではあまり効果が期待できません。
企業には、まず男性の意識を変えていく努力をしてほしいところです。ただ、意識改革には時間がかかるので、男性向けの研修を行ったからといって早急な改善は期待できません。では、悩んでいる女性管理職が自分で、今すぐ始められる対策は何でしょうか。
■“理想の上司”を演じる必要はない
まず1つめは、「なめられるのは自分が悪いからだ」と考えないこと。悪いのは女性を軽視する組織風土や昭和的な思い込みであって、本人のマネジメント能力のせいではないのです。管理職である以上、客観的な振り返りは必要でしょうが、男性部下の思い込みまで自責で考える必要はありません。
2つめは、今すぐ尊敬される上司になろうと無理をしないこと。女性の場合、ほかの男性管理職以上に猛烈に働いたり、より大きな成果をあげようと頑張ったりしてしまいがちですが、それでは心身ともにすり減ってしまいます。
そんな状態を長く続けることはできませんから、下手をすると体調を崩したり、仕事への意欲を失ったりしてしまう可能性があります。
キャリアは長期的に考えるべきものです。今、無理をしてまで“理想の上司”を演じるよりも、“自分らしい上司”を目指して自己成長を続け、キャリアを育んでいくことのほうに重きを置いてほしいと思います。
■「女性上司」ではなく“個人”として向き合う
3つめは、部下と対話する時間を増やすこと。対話によって、「女性上司」ではなく「○○さん=一人の人間」として認識してもらうのです。悩みの種になっている男性部下が軽視しているのは「女性上司」であって、その人の能力や人間性ではありません。
この場合、女性としてではなく一人の人間として見てもらえるようになればいいわけで、それには対話がいちばん有効な手段になります。この時大事なのは、電話やメールではなく直接対面して話すこと。
一気に距離を縮めようとする必要はなく、日々の中で直接対話する機会を増やすだけで十分だと思います。そうして行動を始めたら、後は相手の態度にこだわらず、淡々と仕事を進めていけばいいのです。
■無意識の偏見を解消していく
対策を3つ紹介してきましたが、それでもやはり悩むことはあるでしょう。しかし、そもそも「女性に管理職は無理」という理解は、イメージの中だけで起こっているものです。現実的には、マネジメント力に性差があると実証されたことはありません。
女性上司の軽視は、無意識の偏見や思い込みからくるものなのです。これらを解消するためには、やはり直接話し合うのがベスト。先ほど3つめの対策として紹介した直接対話は、女性上司という表面的な見方を変えさせると同時に、軽視の原因になっている偏見を取り除く上でも有効なのです。
■相手を「男性部下」として見ていないか
一方で、女性上司自身も自らを振り返る必要があります。マネジメントしにくい部下がいた時、その人を「男性部下」ではなく、一人の人間として見ることができているでしょうか。
できていなければ、彼との対話は自身のマネジメント力を向上させるうえでも役に立つでしょう。部下を一人の人間として見ることは、男女問わず上司として大事な心構え。その力を、対話を通して磨いていっていただければと思います。
私も学生を指導する立場ではありますが、学生からすれば、名前や顔を覚えて話しかけてくれる先生のほうが親しみも湧くでしょうし、授業をもっと熱心に聞いてくれるはずです。
私が彼らを名前ではなく「学生」として見ているうちは、彼らもまた私を「先生」としか見てくれないでしょう。会社でも同じではないでしょうか。一緒に働く人を、性別や肩書きではなく「○○さん」として認識し合うように心がければ、互いによりよい協力関係をつくっていけるように思います。
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大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。
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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 辻村洋子=構成)
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