竹中平蔵「コロナ問題、日本はプロアクティブに動くべき」国に欠けた視点とは
プレジデントオンライン / 2020年3月9日 9時15分
■日本は中国を見習うべきだ
新型コロナウイルスの流行に対する日本の対応は、完全に間違っていると言っていいと思います。反省すべきことはたくさんあると考えています。
物事に対処する姿勢として「リアクティブ」と「プロアクティブ」の2つがあります。「リアクティブ」とは、「問題が起きてから対応する」「後手後手の」という意味、プロアクティブとは、「率先した」「先を見越した」という意味の英語です。
日本の新型コロナウイルスへの対応はまさに「リアクティブ」です。感染拡大を防ぐために感染者を隔離する、ワクチンの開発を進めるといったことは、それはそれでしっかりとやるしかありません。しかし、見方を変えるとそれしかやっていない。
それに対して、中国の対応は「プロアクティブ」です。たとえば、こんなことがありました。私は北京大学のイベントに呼ばれていましたが、当然ながらそれは中止になりました。日本の対応と異なるのが、北京大学はイベントを中止しただけではなく、「もう授業は教室でやらない」という決断を下したことです。北京大学のほか、清華大学などの大学でも、2月17日からオンライン授業を開始しています。
つまり、この混乱をきっかけに生活の仕方を変えたのですね。日本でもたしかに政府が小中高の休校要請をしましたが、それだけではだめなのです。日本でも一部の学校が自発的にオンラインを活用した指導を実施しているようですが、それこそ国を挙げてやるべき話なのです。
和歌山県の済生会有田病院で、男性医師が新型コロナウイルスに感染したという報道がありました。それにもかかわらず「これをきっかけに、今まで医師会の反対でできなかった遠隔医療をやりましょう」という議論は起こっていません。日本は起こっていることに受動的に対応しているだけで、今後の感染拡大を防ぐために物事の枠組みを変えるという発想ができていません。日本は中国を見習うべきです。
■コロナショックで露呈した、悪い意味での日本らしさ
別の例では、シンガポールの保健省は、2月15日時点で感染者数が72人にまで拡大したと発表しました。総人口が約564万人なことから考えると、検査で陽性が出た比率は他国に比べて高い。ここまで多くの感染者を検出することができた理由は、シンガポールにはGrabという配車アプリが普及しており、感染ルートを把握しやすい環境だからです。ライドシェアが認められていない日本はシンガポールほど正確に感染者の移動経路を把握することができず、発見が遅れているわけです。
アナログな日本ではタクシーには乗ったけど、どこの会社のだったのかよくわからない場合もあります。だから、感染者が、急にあっちから出てきた、こっちから出てきた、と、大騒ぎしているわけですね。シンガポールはデジタルな国だから感染者の行動を把握しやすい。
要するにアフリカの国ではアジア、欧州、北米に比べて感染者数が少ないのは、検査していないからなんですよ。一方で日本は、検査はある程度はするけれども、シンガポールみたいに正確にできていないわけですね。
今の異常事態を踏まえて遠隔医療やライドシェアなど、「今まで抵抗勢力が邪魔して実現しなかったことをこの際やりましょう」という議論が皆無だということが、日本の大きな特徴であり反省点なのです。とにかく今まで抵抗勢力が邪魔していたことでやればいいのにやっていないことを、「この際やりましょう」と動いてしかるべきです。イベントの中止は小手先の措置にすぎないのです。根本的な変革が必要です。
■このままだと東京五輪の開催が危ぶまれる
さて、新型コロナウイルスのはこのあとどう続くのか。このままだと東京五輪の開催も危ぶまれます。まずはそれを判断する際のチェックポイントとして2つの行事があると考えています。
1つは4月に習近平中国国家主席の国賓来日が予定通り行われるのかということです。現在のところは菅義偉官房長官は習主席の来日について「現時点で予定に変更はない」していますが、今後どうなるかわかりません。中国では、最も重要な政治日程の1つであり、3月5日に開幕する予定だった全人代(全国人民代表大会)の延期を決めています。そのうえ「習主席の4月の来日は難しいのではないか」という声も上がっており、一部報道では「延期する方向で進めている」とされています。*竹中氏へのインタビュー後、日本政府は中国の習主席の国賓来日を延期すると正式に発表しました。
そして、2つ目はオリンピック直前に中国・天津で開催されるとされる“夏季ダボス”です。1つ目の習主席の来日が中止されれば五輪の中止可能性が高まります。そしてもし、夏季ダボスが中止になったら、いよいよ7月下旬の東京五輪開催も厳しくなってきます。
さて、「東京五輪を中止にする」と最終的に判断するのは誰でしょうか。一般論として、東京五輪組織委員会が自分の判断で中止を判断すると、保険はおりないでしょう。国際オリンピック委員会(IOC)等から中止を勧告されたときだけ保険がおりる仕組みと考えます。そのため、今後、コロナの猛威により東京五輪中止論争が加熱したとしても。日本としては自らオリンピックの中止を申し出ることはなかなか難しいでしょう。
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経済学者/東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授
1951年、和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒。博士(経済学)。
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(経済学者/東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授 竹中 平蔵 構成=万亀すぱえ)
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