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橋下徹「なぜ今、日本では新型コロナの検査を拡大してはいけないか」

プレジデントオンライン / 2020年3月18日 11時15分

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/AndreyPopov

アジアや欧米で新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、他国に比べ感染検査の対象を絞り込んでいるのが日本だ。一部の専門家や野党から検査拡大を求める声が高まっているが、政府はその要求に従っていいのか。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(3月17日配信)から抜粋記事をお届けします。

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■検査結果が陽性なら無症状・軽症でも医療現場への負担が大きい

新型コロナウイルスに感染したかどうかはPCR検査というもので判断する。日本はこの検査が少ない! と、特にメディアや一部の専門家から徹底的な批判の声が上がった。朝、昼、夕方のすべての情報番組では、一貫して、希望者全員に検査をしろ! という論調だった。

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この声に押されて、野党国会議員は、検査拡大を安倍政権に強く要求し、安倍政権も世論に押されて、検査拡大を政府の方針としてしまった。

もちろん必要なところで検査をするのは当然である。しかし、組織の対応能力「全体」との兼ね合いで総合判断しなければならない。左に検査拡大の重り、右に日本全体での対応能力の重りを乗せるシーソーのようなものだ。このバランスを取ることがまさに政治家・トップに求められるマネジメント能力である。

単純に検査拡大、つまり左の重りを主張する者は、検査数が増えることによって、日本の医療機関対応がどうなるのかの「全体像」、つまり右の重りが見えていないのだと思う。

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検査して陽性反応が出てしまうと、たとえその人が無症状者や軽症者であっても、専門医療機関に入院させ、自治体の感染症対応機関によって濃厚接触者の調査が行われる。現在の仕組みでは大変な作業が発生することに変わりがない。ゆえに検査が増えれば増えるほど、医療機関や感染症対応機関における負担が著しく増え、現場は疲弊する。そのことによって、本来救わなければならない重症者に対して、医療がサポートできなくなる危険性が高まってくる。

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イタリアなどではこの医療崩壊が生じていると報じられている。手軽な検査を拡大したがゆえに、軽症者もどんどん病院にやってきて、肝心の重症者に手が回らなくなってしまっているらしい。医療スタッフも医療機器も対応能力の限界を超えてしまったとのことだ。

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■医療現場の切実な認識「人は軽症でも治療を求める」

今、政治家・トップがやらなければならない判断は、「今の自国の医療機関の対応能力」を考えた上で、検査はどこまでやるべきなのかというものである。メディアや国民から「もっと検査をやってくれ!」という声が上がろうが、今の医療機関の対応能力を超えるほどの検査を行ってはならない。これが政治家・トップの全体を見渡した総合判断というものである。

この点、次のような意見がある。

「とにかくPCR検査をどんどんやって、陽性か陰性かを確定すべきだ。そして陽性でも無症状だったり、軽症だったりした人は自宅で療養してもらえばいい。国民は、自分が陽性か陰性かわからないから不安になる。陽性だとわかれば、他人に感染しないように注意をすることができるのだから、検査をやった方がいい」というものだ。

しかし、このような意見には重大な認識の欠如がある。それは「人間は陽性反応が出ると、たとえ軽症であっても医療機関に対応を求めてくるものだ」という医療現場の切実な認識についてだ。

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これは今回の新型コロナウイルス問題でわかったことではなく、過去ありとあらゆる領域で似たような問題は生じている。人間は、多少でもマイナスの評価を下された場合、じっとしていられないものだ。これは技術や文明が発達した社会に住む人間であればなおさらのことだ。

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残念だが、検査拡大を主張するテレビのコメンテーターたちは、このような現実を知らない。

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ここで問題なのは、現状では、無症状者にはもちろん軽症者に対しても、特段の治療方法や治療薬があるわけではなく、医療機関としては通常の風邪と同じ対応をするくらいしかやりようがないということだ。そうであれば、無症状や軽症の場合には、通常の風邪対応と同じように自宅で療養してもらっていた方がいい。医療機関の負担を軽減でき、重症者に対応するための余裕が確保できるからだ。

また、このような無症状や軽症の陽性反応者が病院に殺到してくると、院内感染のリスクが高まる。病院には高齢者や基礎疾患を持っている患者が多い。新型コロナウイルスがこのような人たちを重症化するということは専門家の統一された見解であり、陽性反応者が病院に殺到すると死亡者数を増加させるリスクが著しく高まるのだ。

希望者全員に検査をやらないというやり方に対しては、無症状者や軽症者が、自分が陽性だとわからずに他人にうつしてしまうのではないか、という反論があるだろう。

ゆえに最後は総合判断だ。他人にうつしてしまうリスクと、医療崩壊を招いてしまうリスク。どちらをより回避すべきで、そのためにはどちらのリスクを引き受けるべきか。

こうした総合判断をするための「前提」では、専門家の意見が重要になる。無症状者や軽症者の感染力はどの程度のものか。軽症者は何日くらいで回復しているのか。

そうした意見を得た上で、「とにかく重症者を救うために、命を救うために医療現場の余裕を確保する。医療崩壊を絶対に招かないようにすることを絶対的な目標としてそれを死守する。そのためには今は、無症状者、軽症者に多少の我慢を求める」というのが、政治家・トップの総合判断、総合マネジメントである。

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■医療機関に余裕を持たせるため軽症者は我慢を!

重要なポイントは、「ちょっと気になるから」という程度の人は検査しないほうがいいのだが、必要な場合、特に重症化を防ぐためには検査はどんどんやる必要がある、ということだ。大阪府の吉村洋文知事は、不安解消のために検査をどんどんやるということには反対だが、国が示した基準も厳しすぎるとして、重症化を防ぐのに必要な範囲で、検査対象を国よりも拡大した。非常に賢明である。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

さらにクラスターつぶしを徹底する場合には、濃厚接触者を追跡するための検査基準も今よりももう少し拡大した方がいいだろう。

しかし、テレビの情報番組における「希望者全員に検査をしろ!」という声に押されて、やみくもに検査拡大の方針をとってしまうことは、現段階では厳禁である。

今は、来るべき流行に備えて、医療機関の対応能力にできる限り余裕を持たせておかなければならない時期だ。そのためには国民にある程度我慢をしてもらわなければならないこともある。

それが、希望者全員に検査することは控えて、軽症者は自宅療養でなるべく回復してもらうことだ。

後に、無症状者や軽症者は一般病院や自宅療養で対応する仕組みを整え、濃厚接触者調査もほどほどの範囲に抑え、何よりも治療薬や治療方法が確立したときには、ガンガン検査をすればいい。

陽性者にはどんどん薬を渡せばいいし、たとえ院内感染が発生しても薬や治療で対応できる。

今はその体制が整っていないがゆえに、検査をやみくもに拡大してはならないのだ。検査はその国の対応能力に見合ったものにすべきであり、それは各国によって異なるのである。

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(ここまでリード文を除き約2800字、メールマガジン全文は約1万4800字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.192(3月17日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【専門家「フル活用」のノウハウ(2)】ついにWHO「パンデミック」宣言! なぜ日本社会は諸外国より落ち着いているか》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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