市況は最悪でも「ちょっと高めの美容室」がどんどん増えているワケ

プレジデントオンライン / 2020年3月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BakiBG

2019年の理容業・美容業の倒産件数は、ここ30年間で最多だった。その一方で、美容室の数は増え続けている。船井総合研究所の富成将矢氏は、「特に苦戦しているのはカット4000円前後の郊外店。一方、カット1000円前後の格安店と客単価が1万円前後の高付加価値店は増えており、市場が二極化している」という――。

■半数以上の席が稼働せずに空いている状態

理・美容業界の倒産が増えている。東京商工リサーチの調べ(2019年「理容業・美容業倒産動向」調査)によれば、2019年の「理容業・美容業」の倒産件数は、1989年以降の30年間で最多の119件に達した。船井総合研究所チーフ経営コンサルタントの富成将矢氏は「なかでも経営が苦しいのは、郊外にある10席以上の中価格帯(カット4000円前後)美容室だ」と指摘する。

理・美容業界の市場規模は合わせて2兆1382億円。美容室に限ると2014年の1兆5285億円から2018年は1兆5047億円と大きく変わっていない(矢野経済研究所「理美容市場に関する調査(2019年)」2019年6月27日発表)。にもかかわらず美容室の数は増加傾向にあり、厚生労働省のデータ(「平成30年度衛生行政報告例の概況」)によると2014年の23万7525から、2018年には25万1140にまで増えている。

「美容室の平均客席数は4.9席。店舗の数が25万とすると125万席くらいある。一方で、美容師として働いている人の数は約52万人。単純計算すると、半数以上の席が稼働せずに空いている状態です」(富成氏)

過当競争のなか、これといった特徴のない店は客が減り、売り上げが減る。そうなれば美容師の収入も減ってしまう。収入減を嫌ってスタッフが店を離れれば、次のスタッフを確保できず、大幅な赤字ではなくても閉店に追い込まれてしまう。

■「5年程度の修業期間」を我慢できなくなっている

「今どきは集客と美容師の確保、2つを同時に満たさないと美容室の経営は難しい」と富成氏は話す。

拘束時間が長い割には給与額が低い美容業界は、このところ人手不足にも喘いでいる。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2018年度)によると、理・美容師の平均年収は約302万円で、就業者平均の441万円(国税庁「平成30年分民間給与実態統計調査」)より139万円低い。これまでは独立するまでの修行期間として受け入れられてきたが、最近では自分の店を持っても厳しい。徒弟制度で長期間かけてスタイリストを育成するやり方は通用しなくなってきている。

「以前だったら、カットができるスタイリストになるまで少なくとも5年程度の修業期間が必要でした。しかし、今は平均3年。早いところでは、半年から1年でカットデビューさせる店もあります」(富成氏)

離職を防ぎ、採用をしやすくする意味で、早期育成は業界全体のトレンドだ。それでもなお徒弟制度にこだわれば、アシスタントの確保は難しいという。

■ネイルやまつげエクステは「専門店」に移行

独立のしかたも従来とは違ってきている。経営環境が厳しいにもかかわらず店の数が増えている主な要因は、店舗の「小型化」が進んでいるためだ、と富成氏は見ている。

「集客競争が激しくなってきているのに加え、スタッフを雇うのも難しいという状況のなか、独立する美容師の多くがリスクを避け、小さく出店する傾向が強まっています。その結果、市場規模としては頭打ちなのに店の数は増え続けるという奇妙な現象が起きているというわけです」

大型店が増えたのは、業界が「カリスマ美容師」ブームに沸いた2000年頃のこと。当時は店を出せば出すだけお客さんと美容師が集まったため、単店舗の収益を最大化できる大型店化が進んだ。広告宣伝費や家賃、マネジメントコストは多店舗になるほど発生しやすくなるので、大型店化することで単店の収益性を最大化できた。

それから約20年経過し、少子高齢化や人口減少で状況は一変。一時期は大型店にネイルサロンやエステ、まつげエクステなどを併設する動きも盛んだったが、今ではすっかりそれぞれの専門店に押されている。「なかには店を閉じるにも解体などの費用に200万円から300万円はかかるため、閉じるに閉じられない店もある」という。

■「アシスタントなし」なら売上の50%が美容師に

そんななか、美容室の空いたスペースをフリーランスの美容師に貸し出す「面貸し」や、「シェアサロン」も増えている。オーナーにしてみれば人件費を増やさずに空いた席を有効活用できるほか、独立したい美容師にとっても、店舗を構えるための資金がいらないなどのメリットがある。

売上が伸びにくい状況なのに、人手不足でアシスタントの初任給は上向き。となれば、そのしわ寄せは当然、スタイリストに来る。限られたパイの中でスタイリストの給与を上げたい美容室のなかには、新卒を雇って一から人材育成するのをやめ、中途採用や業務委託だけで運営するケースも増えている。

「業務委託の場合、場所と集客、薬剤などにかかる費用は店側が負担します。アシスタントとスタイリストもいる通常のサロンだと、スタイリスト美容師への還元率は売上の20%程度ですが、アシスタントを雇わない業務委託中心のサロンの場合、スタイリスト美容師への還元率は売上の40%から50%程度にまで上がります」

ただし、動きは一様ではない。先の流れとは反対に、これまで業務委託中心でやってきた美容室が、人手を確保したい理由からあえて新卒採用に踏み切る例も出てきている。生き残りを模索するなかで真逆のベクトルを向いたさまざまな動きが複雑に絡み合って出てきているのが、昨今の美容業界だ。

■生き残りのカギは「客数」と「客単価」

では今後、どのような美容室が生き残るのだろうか。「美容室の売上は基本、客数かける客単価で決まります。1人あたりの生産性を上げるには、客数を取れるサロンになるか、客単価の高いサロンになるかしかありません」と、富成氏。

「じつは、利用者から見るとカットの上手い、下手ってよくわからない。技術としては、非常に見えにくいものを売っているのが美容室です。その場合、価格が安い方が選ばれやすいのは自然の摂理。付加価値を付けるには、カットの技術に関して特許を取るか、カット以外の部分、髪質改善や美髪系のメニューを充実させるかなどの工夫が必要。現状は安さで勝負するところと付加価値をつけて勝負するところに二極化しています」

■カラー専門店で働く美容師は、どんな人たちか

客のニーズに応えつつ働く側のニーズもうまく捉えているのが、カラー専門店だ。美容師の資格を持っているけれども美容師としては働いていない人を、業界では「休眠美容師」と呼ぶ。カラー専門店は、そんな約70万人いると見込まれている休眠美容師を活用しながら成長している。

「カラー専門店で働いている人には主婦が多い。子育てなどでブランクがあっても、カラーならば比較的技術が簡単で覚えやすいですし、残業もなく、営業時間内に終わる店がほとんどのため、美容師として働きたいが家庭生活も重視したいという人の受け皿になっています」

美容師のなかには、フリーランスとして複数の美容室を掛け持ちしたり、平日は違う仕事をして、土日だけ美容師として働いたりする人もいる。美容師の働き方も多様化が進み、そうした多様な働き方と雇用形態を経営にどう取り入れていくかが、美容室経営者にとっての課題だ。

富成氏は店舗が小型化していく状況は今後も続くと見ている。同時に、店舗の統合やM&Aも増えていくと予想する。

「経営環境としては厳しい状況が続きますが、美容室が今後、より注目を浴びるビジネスの一つになる可能性はあります。女性が定期的に来て、長時間過ごす場所というのは、じつは世の中にあまりない。美容室を販売チャネルと考えた場合、そこにビジネスチャンスがあると捉えている人は多い。インスタグラムなどSNSを活用しながら成長していく余地はあると思います」

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曲沼 美恵(まがぬま・みえ)
ジャーナリスト
1970年福島県生まれ。大手経済新聞記者を経てフリーに。経済・経営誌や女性誌を中心に、インタビューやルポルタージュ、マネジメントに関する記事などを執筆。近著に『メディア・モンスター:誰が黒川紀章を殺したのか?』(草思社)がある。

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(ジャーナリスト 曲沼 美恵)

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