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今年4月から「親の体罰が法律で禁止になる」と知っていますか

プレジデントオンライン / 2020年3月31日 11時15分

参議院本会議で改正児童虐待防止関連法が可決、成立し、一礼する根本匠厚生労働相(右手前)=2019年6月19日、国会内 - 写真=時事通信フォト

2020年4月1日から、子どもへの体罰が法律で禁止になる。だが、ある調査では約7割の親が「子どもを叩いたことがある」と回答しているのが現状だ。今回の禁止にはどんな意味があるのか。長年にわたり、虐待防止の活動を行ってきた高祖常子氏が解説する――。

■2018年の虐待対応件数は「約16万件」

児童相談所での虐待対応件数は、年々増加している。2018年速報値では、15万9850件となった(厚生労働省「平成30年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」)。これは児童相談所が対応した件数だ。虐待をなくしたいという風潮から通告件数が増えているとも言われているが、児童相談所や警察の話を聞くと、減っていることはないという。

厚生労働省の発表によると、虐待で命を落とす子どもの数は毎年約70~80人だ。しかもこの数字は、虐待死として把握された数である。事故死として扱われている子どももいるであろうし、虐待によってケガをしていたり、食事を抜かれたりしていても、命を落としていない子はカウントされていない。

2018年3月に、東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)の虐待死事件があった。みなさんの記憶にもまだ新しいと思う。5歳児が書いたと思えないような反省文がメディアで取り上げられ、ニュースが連日のように全国を駆け巡った。政府も動き、2018年7月には「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」が示された。

■この4月から「しつけでの体罰」が禁止になる

私は長年、虐待防止の活動を続けているが、そもそも虐待にならない親子関係の構築が必要だと思ってきた。そのためには、親から子どもへの体罰禁止をすることが大きな施策になると思って仲間と共に活動を続けてきた。省庁へ提言書を持参したり、議員に対してのロビイングも行ったりしたが、この時の「児童虐待防止緊急対策」にも体罰禁止は盛り込まれなかった。

そんな中、2019年1月に千葉県野田市で栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)の虐待死事件が起こった。心愛さんが、父親からの暴力に対して、意を決してアンケートで先生に助けを求めたにも関わらず、周囲の大人はその命を守ることができなかった。

このような虐待死が重なり、私はいてもたってもいられず、仲間と共に「虐待死をなくしたい! 子どもへの体罰・暴力の法的禁止を求めます」というネット署名を2019年2月3日にはじめ、2週間で2万人以上の署名を集めた。虐待死をなくしたいという国内の世論も後押しになり、2019年6月に親による体罰禁止を盛りこんだ改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が満場一致で可決成立した。

2020年4月に施行される改正法では、親は「児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」とされた。

■7割の人は「子どもを叩いたことがある」

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2018年に報告した、全国2万人を対象とした調査(国際NGOセーブ・ザ・チルドレン 報告書『子どもの体やこころを傷つける罰のない社会を目指して』)では約6割が子どもへの体罰を容認しており、約7割が「子どもをしつけとして叩くことがある」と回答している。まだまだこれが日本の現状である。

今回の改正法は、体罰の禁止に関して、対象を「児童の親権を行う者」としており、禁止する内容については「体罰」という言葉を使っている。だが、子どもを傷つける可能性があるのは親権者だけではなく、暴力だけでもない。そのため、対象を「すべての人」とし、「体罰等」と、暴言も含む表現にされることが必要である。世界の子どもへの体罰禁止国は、この部分をクリアしている。

ただし、日本の場合は法改正が可決した際に「体罰の範囲や体罰禁止に関する考え方を示したガイドライン等を作成する」と決められていたことを見落としてはならない。その後、「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」(厚生労働省2019年9月~2020年2月)が設けられ、ガイドラインが定められている。「体罰等によらない子育てのために みんなで育児を支える社会に」である。筆者も構成員として加わった。

ガイドラインでは、体罰が子どもに与える影響として、以下が挙げられている。

・体罰等が繰り返されると、心身に様々な悪影響が生じる可能性がある。
・「落ち着いて話を聞けない」、「約束を守れない」、「一つのことに集中できない」、「我慢ができない」、「感情をうまく表せない」、「集団で行動できない」という行動問題のリスクが高まる(藤原武男他「幼児に対する尻叩きとその後の行動問題:日本におけるプロペンシティ・スコア・マッチングによる前向き研究」2017)。
・手の平で身体を叩く等の体罰は、親子関係の悪さ、周りの人を傷つける等の反社会的な行動、攻撃性の強さ等との関連が示されている(ガーショフ他「手で叩く体罰と子どもの結果:これまでの議論と新しいメタアナリシス」2016)。

つまり「子どものため」「良かれと思って」と行われてきた体罰が、子どもの成長・発達に悪影響であったということが、最近の研究で明らかになったのだ。

■体罰をする人が「約9割→約1割」になったスウェーデン

体罰に関する各国の状況を調査・分析し助言等を行っている「子どもに対するあらゆる体罰を終わらせるグローバル・イニシアチブ」は、2月28日、日本が世界で59番目の体罰全面禁止国になったと発表した。

1979年に、世界で初めて子どもへの体罰禁止の法的明示をしたのはスウェーデンだ。私は2010年、法的禁止から約30年たっているスウェーデンにプレスツアーで訪れ、議員やNGO関係者などに話を聞いた。街中で見かける親子の様子は、子どもが言うことを聞かなくても怒鳴ったり、叩いたりしないのが当たり前の光景だった。そのときに、日本も子どもを叩かないで育てる国にしたいという思いをあらたにしたのである。スウェーデンは1960年代に体罰を容認していた人が約9割、体罰を用いていた人が約6割だったが、2000年代にはそれぞれ約1割にまで減少している。

体罰を禁止したフィンランド、ドイツ、ニュージーランドなどでも、法改正後に体罰を容認する人の割合が大きく減少している。例えば1983年に法改正したフィンランドでは、体罰を容認する人は47%(1981年)から15%(2014年)まで減少した(※)

※各国のデータは、セーブ・ザ・チルドレン「どうなる?子どもへの体罰禁止とこれからの社会」に基づく。

体罰禁止の浸透には、法的明記とともに啓発が不可欠だ。これからいかに日本の中に広げていくかが、重要である。

千葉地裁が心愛さんの父親に判決を出した3月19日、厚生労働省は『「体罰等によらない子育てのために」ポスター・パンフレット・リーフレット』をリリースした。社会全体で体罰などに頼らない子育てを考えるとともに、保護者が子育てに悩んだときに、適切な支援につながるようにすることを目的としている。

子どもがこまった行動をしたとき、言うことを聞かないときは、叩いたり怒鳴ったりしていうことを聞かせるのではなく、子どもの気持ちを尊重しながら、互いに違う考え方を伝え、相談・工夫しながら折り合いをつけて解決していく。それが定着したとき、体罰等によらない子育てをすることが当たり前の社会になるだろう。

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高祖 常子(こうそ・ときこ)
認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事
子育てアドバイザー、キャリアコンサルタント。資格は保育士、幼稚園教諭2種、心理学検定1級ほか。NPO法人ファザーリング・ジャパン理事、ほか各NPOの理事や行政の委員、「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」(2019年9月-2020年2月厚生労働省)構成員も務める。子育て支援を中心とした編集・執筆ほか、全国で講演を行っている。著書は『こんなときどうしたらいいの?感情的にならない子育て』(かんき出版)ほか。3児の母。

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(認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事 高祖 常子)

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