マネックス証券社長「帰国でもMBAでもない私が、中学英語で会議に挑める理由」
プレジデントオンライン / 2020年5月24日 11時15分
■英語を勉強するため、ありとあらゆることをやった
2019年の4月にマネックス証券の社長になって、まもなく1年が経とうとしています。マネックスはグローバル企業なので英語を使う機会もあるのですが、白状すると私は英語が苦手。最近でこそヒアリングは多少自信がついたものの、いまだにスピーキングには苦手意識がつきまといます。「頭の中で文章を作っていたら、会話が先に進んでいた」みたいなことは日常茶飯事ですし、会議などでカットインして質問したりするには、そうとう勇気を振り絞らないといけない。
そもそも私のキャリアのスタートは銀行でしたが、投資ファンドに移ってからというもの、英語を使う機会が増えました。そこは外資系ではなかったものの、資金の6割が海外のお金で、なおかつ投資の意思決定をする投資委員会のメンバーの過半数が外国人だったのです。
私は帰国子女でもなければ留学経験もない。銀行でもずっと国内向けの仕事だったので、英語を使って仕事をすることは一切ありませんでした。しかしそのファンドではMBAホルダーや、外資系の投資銀行、コンサルティングファームから来た方がほとんどで、英語がしゃべれないのは私ぐらいのもの。このときの経験から、すっかり英語にコンプレックスを抱くようになってしまいました。
もちろん英語を勉強するため、ありとあらゆることをやりました。いままで英語学習に使ったお金を合計したら、けっこうな金額になるはずです。
■同じことを何回も繰り返すのが向いていない
まずは英会話スクールに通いました。しかし「勉強しないとまずい!」という危機感から通い始めるものの、ちょっとその気持ちが落ち着き、仕事が忙しくなったりすると、通わなくなって……。でも何かのきっかけで再び危機感を抱くと、また通いだし……を繰り返し、結局やめてしまいました。
ほかにも、「まずはTOEICの点数を上げるほうがいいのかな」と思い、TOEICの勉強をしてみたり、「シャドーイングがいいよ」と言われたらシャドーイングを試してみたり、ニュースを英語で読んでみたりと、とにかく「これいいよ」と勧められたものは、片っ端から試しました。最近ではスカイプで話すオンライン英会話もやりました。
しかし毎回自己紹介をするのがちょっと億劫になってしまって、気づけばフェードアウト。英語圏のドラマを見るのがいいと聞き、試したこともあります。でもいくらも見ないうちに、日本語字幕に変えてしまう。映画も、同じものを何回も見るといいと聞いてやってみたけれど、ストーリーを知ってしまうと見続けるのがつらくなってくる。
おそらく人それぞれ、自分に合った勉強法があるのでしょう。私もずっと自分に合う勉強法探しの旅をしてきました。その結果わかったのは、私は、同じことを何回も繰り返すのが向いていないということ。ですから、いまはスマホにアプリをたくさん入れて、英文ニュースを読んだりラジオを聞いたりして、空いた時間にできるだけ英語に触れるようにしています。ただ、それも危機感がないとなかなか続かない。
その点、英語で行われる会議の予定が入ると、危機感を持たざるをえなくなります。マネックスグループは日本、米国、香港などに拠点があり、1カ月に1回はグローバルのエグゼクティブが集まって各社の状況について話し合うのが通例。当然、マネックス証券の話は私がしないといけない。仕方なく、「ああ、英語イヤだな」と思いながら、準備をして話すということをやっています。具体的には、まず日本語で話すべきことを箇条書きにして、それを英語に訳す。
でも、それを読みあげるだけでは私がいる意味がなくなってしまうので、「どういう順番で何から話そうかな」というように、イメージトレーニングをして本番に臨みます。少し難しい内容のことも準備し、話さなければいけないという緊張があると少しずつ身についてきている気もしています。
■社長就任に躊躇した時、背中を押した言葉
海外出張もときどきあって、それこそグループのエグゼクティブが一堂に会して「今後の戦略を話そうよ」というときも、当然周囲は基本的に「通訳なしで大丈夫」という人ばかり。そんななか、私一人がたどたどしい中学英語で頑張る。あまりにも言葉に詰まると、マネックスグループCEOの松本(大)をはじめ、英語の得意な人が助け舟を出してくれますが、やはり情けない。
実は松本は、そのあたりにとても寛容。私が外国人の前で変な英語をしゃべっていても、絶対に「その英語、おかしいよ」とは言いません。逆に、「おまえ、英語うまくなってきたよな」と言ってくれる。本当はそれほど上達していないと思いますが、そう言ってもらえることはとても大きいです。
そもそも私が社長に任命されたときも、「私、ビジョンを示してみんなを引っ張るタイプでもないんですけど」と渋る私に対して、松本はこんなふうに言ったのです。
「リーダーシップも英語と同じで、使わないと成長しないんだよ。英語も最初からできる人はいないし、リーダーシップも最初から身につけている人なんていない。使いながら少しずつ自分で改良して、成長させていけばいいんだよ」
この言葉に背中を押してもらいながら、これからも社員のみんなとともに、少しずつ成長していきたいと思っています。
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マネックス証券 代表取締役社長
大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業後、2001年三和銀行(現三菱UFJ銀行)へ入行。MKSパートナーズを経て、09年にマネックス・ハンブレクト(現在はマネックス証券に統合)へ入社。その後、マネックスグループ専務執行役などを経て19年4月より現職。
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(マネックス証券 代表取締役社長 清明 祐子 構成=長山清子 撮影=大槻純一)
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