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なぜTOEIC対策をしても英語がペラペラにならないか

プレジデントオンライン / 2020年5月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Clerkenwell

「TOEICのスコアが高いのになんで英語が話せないの?」と聞かないであげてほしい。彼らは間違いなく優秀だ。彼らには“ある訓練”が足りないだけなのだ……。

■900点超えでも英語で電話予約すらできません

英語能力を測る指標といえば、日本では「TOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC)」が最もポピュラーだろう。TOEICで900点以上取れるなら、英語をペラペラ話せる……などと思ってはいないだろうか。

「そうした思い込みは捨てていただきたい。TOEICで何点取っても、英会話力とは直結していませんから!」

こう断言するのは、東大卒で有名マスコミに勤めるRさん。TOEICで900点前後をマークしている。エリート街道を歩んできたが、英語にコンプレックスを抱いているという。

「TOEIC900点というと、『おまえ英語できるよな』という前提で英語を使う仕事を振られたりするのですが、話せませんから! メールなら受験英語のリーディング、ライティングでなんとかいけるのですが、電話を含めトークは無理です。そもそも相手が何を言っているのかわからないんです」

「TOEICでもリスニングがあるのだから、聞き取れるはずでは?」と思う人もいるだろう。Rさんいわく「TOEICのリスニングは実際の会話に比べると相当遅い」という。

そんなRさんとは対照的に、「英語は日常的に仕事で使います」と語るのは電気設備メーカーに勤めるAさん。

海外企業と取引を行うため、メール、電話などで英語を使ってやりとりしているという。海外出張に行って現地で通訳を介さずに取引をしたり、クライアントが来日した際に接待したりすることもある。特筆すべきは、そんなAさんのTOEICの点数が直近でも420点程度だったということだ。

「全く何の対策も勉強もせずに受けたら、そういう点数でしたね。逆にTOEIC用の勉強をしたら上がったりもします。それでも500点程度ですが(笑)」(Aさん)

TOEICの点数を上げることに全く関心がないAさんは、学生時代も英語は得意ではなかったと話す。

「出身は琉球大学ですが、入試ではそこまで力を入れて英語を勉強しませんでした。ただ、大学のゼミで英語の論文を読んだり、書かされたりしたので、そのときはさすがに勉強しましたね」

そこで英文の読解や英作文の練習はしたものの「話すほうはからっきしだった」というAさん。しかし、卒業後に就職した会社では現在の勤め先と同様に海外企業との取引があったため、英語を使う場面が多かったという。

「英語の資料を読んだり、英語で見積もりを作成したり。お客さんも外国人だったりして、必然的に英語を話さざるをえない環境でした。1カ月程度ですが、イギリスに語学留学させてもらったりもしました」

先のRさんは、留学経験などはなかった。やはり英会話ができるかできないかは「体験が物を言う」ということになるのだろうか?

■受験英語は決して無駄ではない

「そもそも『TOEIC Listening & Reading Test』では、スピーキング力は測られていません。文法や単語などの知識を生かし、英語で会話するためにはアウトプット型のトレーニングが必要です」

こう語るのは、NHKのテレビ番組「おとなの基礎英語」の講師などでおなじみの松本茂・立教大学グローバル教育センター長だ。

「勘違いしてほしくないのは、文法などの知識が不要なわけでは決してないということ。スピーキングは、文法、単語、口語表現の知識をもとに実践的なトレーニングを経て身に付く、英語の統合的なスキルなのです」

英語が話せるAさんも仕事で実践を繰り返す前に、基本的なリーディング、ライティングは大学で勉強していた。何の基礎勉強もなく英語を話しているというわけではない。ただ、基礎勉強だけでは円滑なコミュニケーションを取れるようにはならないということだ。

■会話のキャッチボールにはならない

例えば、英語で何かを話しかけられたとしよう。英語を聞き取れたとしても、その意味を日本語で理解して、返す言葉を日本語で考えて、それをまた英語に置き換えて話す……というような作業を脳内でいちいちやっていては、会話のキャッチボールにはならないのだ。「英語を英語のまま理解して、返事も英語で組み立てられるようになることが大事」と松本氏は解説する。

冒頭のRさんも、「知っている英語と話せる英語は違う」と話す。

「語彙力などは、自分で言うのも何ですが日本人の中ではトップレベルの知識があると思います。一方で『話せる英語』は日本人でも下から数えたほうが早いだろうという自覚がある。英語で話してみろと言われると、どう話せばいいのか、どの単語を組み合わせればいいのか、出てこないんです」

このRさんの悩みをクリアするためには、発信型のトレーニングを繰り返すしかない、ということだ。

さらに、「英語を話せない人には2パターンある」と松本氏は続ける。

「1つは、話す練習や経験が不足している人。もう1つは、英語で語れることのストックが少ない人。英語力があっても、語れることがないと話せません。アウトプットを想定し、会話の前提となる情報を英語でインプットし、繰り返し発話する練習が必要です」

例えば、英語で話をする前にお互い同じ英文ニュースを読んで、それに対する意見をまとめたうえで会話をスタートする、といったことがおすすめだ。

「英会話を練習する相手がいないときは、ネットに出ている英字新聞の記事を読んで、その内容を自分なりに言い換えてみるとか、架空の会話を作って呟いてみたりする。オンラインの英会話サービスを活用するのも手でしょう。アウトプットの練習をするときは必ずしも相手は英語母語話者でなくても構わない。とにかく英語でやり取りをすること。つまり、『読んで話す』『聞いて書く』といった複数の技能を統合した訓練が効果的なのです」(松本氏)

松本氏は英語の勉強法として「PICサイクルR」を提唱している。PはPractice(個人学習)、IはInteraction(対話的学習)、CはCommunication(実践)だ。

「まずは1人でもできるリーディングやリスニング、音読などを通して基礎的な英語力を身に付けて、次に相手を見つけて英語で情報や意見を交換するトレーニングを積む。そのうえで、実践の場で英語を使う。これを繰り返していくしかないと思います」

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松本 茂(まつもと・しげる)
立教大学経営学部国際経営学科教授
同学科バイリンガル・ビジネスリーダー・プログラム(BBL)主査。マサチューセッツ大学ディベートコーチ、東海大学教授などを経て、2014年より立教大学グローバル教育センター長も兼務。

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(ライター 衣谷 康)

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