元経済ヤクザ 「日焼けした肌、真っ白な歯の人をみると思ってしまうこと」
プレジデントオンライン / 2020年5月4日 11時15分
■ヤクザと歯並びの切っても切れない関係
中国発の新型コロナウイルスの影響で、不安な時間が増えた。暗い気持ちは暗い夢しか与えないが、たとえ自宅でも心の豊かさをつくり出すことができる。こんなときこそ日常の中に「発見」を求める機会だと捉えるべきだ。
自宅待機となっても食事はするが、その入り口となるのが「口」だ。歯の役割は噛むだけではなく、脳に「発火」と呼ばれる刺激を与え、活性化することがわかっている。
発見の思考法を伝える意味で、「白い歯」にまつわる「黒い話」をしよう。欧米では「歯並びの良さ」がステータスとされ、幼い頃から歯科矯正を行う人が多い。日本のヤクザの中でも立場が上の人には異常に歯が綺麗な人が多いのだが、これには理由がある。
暴力団から「暴力」を引いたら、ただの「団」しか残らない。渡世の世界は「暴力」で充満している。新米の頃に遅刻をすれば「ヤキ」という教育が入り、出世レースでも他組織との勢力争いでも「暴力」がツールとして行使される。暴力まみれの人生では多くのものが失われるが、「歯」はその代表格だ。抜けたままではみっともないので、インプラントをすることになる。
何かと見栄を張るのも、あの世界独特の美学だ。元のサイズの歯を入れればいいものを、なぜかワンサイズ大きめにしてしまう人がいる。そういう人に限って、老いを隠すために日焼けサロンに通ったりするので、ステータスどころかフィリピンのポン引きがいっちょ上がりとなる。
本人は「いい笑顔」と思って微笑みかけてくれるのだが、黒い肌と合わせるとどう見ても「ピアノの鍵盤」だ。元プロ野球選手の清原和博氏や、新庄剛志氏の歯を見るたびに、私はつい、あっちの世界を思い出してしまう。
2016年にはテレビなどで活躍していた美人女医が、指定暴力団組長と共謀。虚偽のレセプト(診療報酬明細書)を作成し療養給付金をだまし取った詐欺容疑で逮捕された。
だがレセプトの改ざんは黒い世界の専売特許ではない。かつて都内で大手新聞社社長の親族が歯科医院を経営し、レセプトを改ざん。内部告発に基づいて週刊誌記者が取材したところ、歯科医がこれを認めた。ところが記事化直前、新聞社社長から出版社社長に「依頼」があり、記事は止まったのだ。
■暴力団規制の影響で「貧富賢愚」が二極化している
歯科の療養給付金のルールには、どう考えても非合理的なものがある。たとえばスケーリング(歯石除去)がそれだ。一日で上下の歯、両方をやると療養給付金が下りない地域がある。患者としては嫌々ながらも数回にわたって治療を受けなければならない。
痛覚神経が集中する歯に刺激を与えるのは拷問にほかならない。それはスケーリングも然り。どれほど無痛を売りにしていても、毎日歯医者に通いたいと願う人はいないだろう。患者の苦痛を和らげる、善意ある歯科医が損をするのは、どうにも納得がいかない。
さて極道界で「務め」と言えば刑務所だが「ナカ」では歯科検診など一部の歯科治療は一応、無料でも受けられる。だが、虫歯を「削る」「埋める」という上等なものではなく痛み止めや、抜歯という原始的な荒業だ。11年の暴力団排除条例全国完備の影響で、新入暴力団員は激減。極道界にも深刻な高齢化が訪れている。老齢の貧困暴力団員にとっては、この程度の特典でもありがたいということで、「務め先」によっては数カ月待ちの状態だとか。
何かと粗暴なイメージの強いヤクザだが、暴力団規制の影響で「貧富賢愚」が二極化している。「富賢」のほうは常に最先端のビジネスを行う。
足が付きにくいということで、黒い資本の多くは現金だ。一般企業が銀行から融資を受ける場合、社内や銀行の審査など多くの時間が必要だが、暴力経済は電話一本で億の金を借りることができる。担保になるのが「焦がしたら殺される」という恐怖だ。暴力経済の真骨頂とは競争相手がいない分野にいち早く参入し、このような「早い金」で市場を独占してしまう点にある。
その典型が工業製品に必須の素材「レアメタル」だ。レアメタルは採掘するとき、被曝などの健康リスクがある。一般企業なら、たとえ海外でも作業員が健康被害に遭えば、賠償請求のリスクがある。ところがヤクザ系企業は現地の犯罪組織に労働者を集めさせ、平均より高い賃金を支払う形で健康問題を解消。この「黒いWIN‐WIN」によって、レアメタルの有力なサプライヤーとなった。
■黒い乳歯ビジネスと再生医療の裏側
近年、美容成分として胎盤から抽出した「プラセンタ」が注目を集めている。ある大物親分は、東南アジアでヒトに使える豚プラセンタを量産。化粧品やサプリメントの製造会社に販売し巨大な利益を上げている。もちろんすべて関連会社が行っているので、親分の名前が表に出ることはない。
「歯」のジャンルでは黒い「乳歯ビジネス」が潤っていると聞いた。その先にある市場は「再生医療」だ。
現在の技術では、人の歯を塊まで再生することはできる。だが形を決める遺伝子が未解明であることから、目的の歯に誘導できないことが壁だ。将来、自分の歯を抜歯するときのために、抜けた「乳歯」を乳歯バンクに保存。技術が成熟したら、再生して利用するというビジネスが普及している。
また乳歯に存在する「歯髄細胞」は、非常に活性力の高い万能細胞だ。将来的に他の臓器へと誘導できることが期待されており、多くの研究機関が「歯髄細胞」を求めている。かつてであれば屋根上に投げていた「乳歯」は、最先端の再生医療の現場では「宝物」なのだ。海外で巨大な利益を上げたことから、日本に逆輸入したと向こうの世界と関係している知人が教えてくれた。
暴力経済は基本的に「個人商店」で構成されている。周囲に知られれば、より強い暴力に市場を乗っ取られるか、法執行機関に排除されるので、自分のビジネスは極秘だ。「乳歯ビジネス」のどこに暴力団が関与しているのかを知ることはできなかったが、1カ月に数百万円の粗利を稼いでいるという。
昔気質のヤクザは和彫りの入れ墨を背負う。また徹夜で博打をするために、眠気覚ましにシャブを打つ。若い頃には他人の体液を直接体に入れるような「ヤンチャ」をすることから、幹部になってからの肝臓病は職業病だ。
00年代からは、中国への「肝移植ツアー」が古参暴力団組長のご用達だった。現地では適合するフレッシュな肝臓が用意されているのだが、そのドナー(提供者)は死刑囚だ。初めの頃は死刑囚を並べて、「好きなのを選べ」と言われていたのだから、あの国の医療も進歩したものだ。
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元山口組系団体組長。現在は作家、評論家として活動しており、自身の投資顧問会社「NEKO PARTNERS INC.」を立ち上げた。著書に『アンダー・プロトコル』(徳間書店)、『金融ダークサイド』(講談社)など。
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(元山口組系組長 猫組長(菅原 潮))
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