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「頼む菅義偉、瀕死の日本を救ってくれ」アベノ世襲内閣唯一の実力派叩き上げ

プレジデントオンライン / 2020年5月15日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■最も評価している政治家は面白い結果に

新型コロナウイルス問題、緊急事態宣言に伴う経済危機など、2020年の日本の状況は明からに平時ではなく危機の中にある。19年10月の消費税増税までの良好な経済環境は一変し、国民は危機からの本当の出口が見いだせず、疫病と失業に対する不安を募らせている。

当然であるが、平時において優れた人材であったとしても、危機において優れた人物とは限らない。歴史上の偉人とされる人物の中にも、平時においては変わり者として扱われていたが、危機において頭角を現した人々が多く存在する。

筆者は昨年までの「平時」に求められた政治家像と現在の「危機」に求められる政治家像には大きな隔たりがあるものと考えている。そして、それは世論調査の状況を見る限りは、国民の間にも徐々に共有されてきているように思う。

毎日新聞と社会調査研究センターが5月6日に実施した全国世論調査によると、新型コロナウイルス問題への対応で「最も評価している政治家」の項目は面白い結果だった。

■「逆境に強い」という共通点

1位は圧倒的な支持を得て、吉村洋文・大阪府知事。2位は小池百合子東京都知事、3位は安倍晋三首相、4位は北海道の鈴木直道知事、という順位であった。

緊急事態宣言の影響もあり、都道府県知事がメディアに露出することが多いため、上位に彼らが並ぶことは驚くには値しない。しかし、同じ都道府県知事を比較したとしても、この難局に際し、積極的にリーダーシップを振るった人物が国民から評価されていることは間違いない。毎日新聞の世論調査は調査総数にやや問題があるが、仮に調査対象者数を増やしたとしても上位にそれほど大きな変化はないものと思う。

危機において名を上げる人々の特徴は「逆境に強い」ということが言えるかもしれない。吉村知事も小池知事も全国で圧倒的な力を持つ自民党に対し、地方勢力ではあるが、一定の勢力を戦って築いてきた政治勢力のリーダー格的存在だ。鈴木知事も財政破綻した夕張市の市政運営という極めて厳しい自治体経営の経験を持つ人物だ。

■安倍政権は世襲政治家のカタマリ

これらの人物の背景の共通点は、世襲議員ではないこと、だろう。つまり、生まれたときから政治家業を引き継ぐことが決まっていた人々ではなく、自らの意思で現在のポジションを勝ち取ってきた人ということができる。日本の政界の世襲比率は増加しており、中央官僚の事実上の天下りでもなく、非世襲政治家として都道府県知事という要職に就くことは並大抵のことではない。

一方、安倍政権は世襲政治家のカタマリのような政権である。主要閣僚ポストの多くは世襲議員(閨閥も含む)によって占められている。有名どころでは、安倍首相自身はもちろん、麻生太郎副総理、河野太郎外務大臣、小泉進次郎環境大臣、らが挙げられる。コロナ対策では、加藤勝信厚生労働大臣も西村康稔経済再生担当大臣(新型コロナ対策担当大臣)も官僚及び秘書出身で選挙には苦労したものの、有力政治家一族と婚姻関係を結んでいる。

世襲政治家や婿入り官僚は政治的な筋の良さもあり、彼らはスキャンダルが続発した第4次安倍内閣発足当初も安定した立ち上がりを見せた。若干はその行政運営の能力が問われる事例があったものの、政権を揺るがすほどの問題を発生させる人物はいなかった。世襲や閨閥の同質性は政治調整の安定性をもたらし、平時における安倍政権の長期政権化を支える土台となったものと思う。

■なぜ世襲議員は国民生活に無理解なのか

しかし、新型コロナウイルス問題と緊急事態宣言に伴う経済不況という「危機」において、世襲議員達の評判は芳しいものとは言えない。

安倍首相のリーダーシップは、官邸官僚による思い付き(マスク配布・動画投稿等)、意思決定の基準・プロセスの不明瞭さ、専門家委員会に対する意思決定の事実上の丸投げによって、日本国民から疑義が持たれる事態になってしまっている。

麻生副総理は財務大臣の立場もあって国民生活の危機に対する感度が鈍いように見えるし、加藤大臣は感染症対策に対する指導力を十分に発揮できていない。西村大臣は特措法改正の担当大臣であり、新型コロナウイルス感染症対策本部の副本部長となっているが、最初の緊急事態宣言の期限である5月6日までに業界ごとの感染拡大防止ガイドラインすら完成していなかった。

小泉大臣は、ゴミ袋に感謝のメッセージや絵を描いてゴミ収集に当たる人を応援してほしいと言いながら、彼が所管する環境省は新たな増税であるカーボンプライシング(≒炭素税)の調査研究発注を国民が経済不況で苦しむ中で行っている。国民生活への無理解も甚だしい。

■非世襲政治家として最も力を持つ菅長官

総裁候補の岸田文雄自民党政務調査会長も第1次補正予算の閣議決定後の見直しによって、友党である公明党に面子を潰される形となり、いかにも頼りない印象を与えてしまった。

平時には世襲議員らはスキャンダルも表面化せず、官僚機構の上に「殿」として乗っかることで、大手メディアが総理候補だと持ち上げてくれる。ただし、その政権の緩みは危機における指揮系統や責任関係すら不明瞭なリーダーシップの欠落を生み出すことに繋がっている。周囲の役人のお膳立てが機能しない、つまり官僚機構が対応できない「危機」が発生すると、途端に政権の動きがチグハグしたものになったことも然もありなんと言えるだろう。

現在、政権の中で、非世襲政治家として最も大きな力を持つ人物は、菅義偉官房長官にほかならない。

■菅長官のたたき上げ人生

菅官房長官は、秋田県から高校卒業後に集団就職で上京しており、段ボール工場で働いたところからキャリアをスタートした人物である。2年後、法政大学に苦労して進学し、防災インフラ会社に就職し、政治家を志して小此木彦三郎議員の秘書を11年間務めている。たたき上げで政治家の秘書を務めることは精神的・肉体的な苦行が伴うため、筆者の所感では多くの人は3年持たない仕事だと思う。

その後、同氏は横浜市議会議員として辣腕(らつわん)を振るい、地方議員出身のたたき上げの国会議員として当選した。郵政民営化では総務副大臣として政治的な難事業に取り組み、現在に至るまで実務力を必要とする数々の要職を担ってきた実績を持つ。

そのキャリアは常に裏方で政権を支えるポジションを担ってきたことから、国民からは同氏の歩みが注目されることはほとんどない。しかし、現代日本の立志伝中の人物と言えば、「菅義偉」であることは議論の余地はないだろう。

■安倍首相がやり残した政治課題

現在の安倍政権においても、政治的立場によって賛否はあるものの、様々な政治的危機に対して鉄の壁を築いてきたのも菅官房長官である。ところが、今回の一連の危機管理から、菅官房長官は事実上外されているように見える。その上、記者会見では、菅官房長官の意に沿わないであろう他メンバーの場当たり的な対応に対する答弁を強いられて、少々気の毒な感じすらある。

週刊文春2020.5.7・14号には官邸担当記者の話としてこう記されている。

「湖北省の在留邦人の帰国支援のためのチャーター機派遣や、小中高校の一斉休校など、一連のコロナ対策を主張したのが今井氏(今井尚哉首相秘書官)。これまで危機管理をともに担っていた菅氏を、政策決定にタッチさせず、手柄は俺のもの、と言わんばかりのやり方でした」

■危機の中で求められる人材とは

しかし、今井氏は悪名高い“アベノマスク”の発案者と言われている。文春は同じ官邸担当記者の話として「会見などで矢面に立つのは菅氏でしたが、実務は今井―佐伯(佐伯耕三首相秘書官、今井氏と同じ経済産業省出身)ラインが指揮していた」と説明。その後、世間からアベノマスクが嘲笑されたのは承知の事実だろう。一方で、菅官房長官が任された「ダイヤモンド・プリンセス号の対応」に関しては「日本での成功例として各国から情報提供を求める問い合わせが相次いでいる」(官邸関係者)。

危機の中で求められる人材は、国民の苦渋を知り、逆境に強く、実務能力がある人物だ。現在の閣僚の中で、その条件に当てはまる人物は菅官房長官だけある。そして、そもそも官房長官というポストは政権の総合調整を担う立場であり、現状のチグハグな危機対応に対して一本筋を通して立て直すのにふさわしい権能を持つ。安倍首相は菅官房長官に目下の危機管理対応を一任し、その手腕を存分に発揮させるべきだ。

その上で、安倍首相はこれまでやり残した政治課題(憲法改正、拉致問題、日ロ交渉など)に自らの政治力を集中させることが望ましい。今のままでは消費税を二度増税しただけの内閣として歴史に名を残すことになる。国民は首相と女房役が力を合わせて、この苦境をいち早く打開することを望んでいる。

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渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)
早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。

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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)

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