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在庫があることを知りながら、なぜ買い占めに走ってしまうのか

プレジデントオンライン / 2020年5月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lazy_Bear

発売11カ月で世界200万部、そのうち4分の1が日本で売れている(2019年12月時点)『FACTFULNESS』。同書は、私たちの世界に関する「勘違い」を「10の本能」に分類している。今回、その10の本能を現代ニュースに絡めて紹介していく。第7回は「焦り本能」だ――。(全10回)
▼焦り本能
「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み

問題にぶつかったとき、咄嗟に決断を下そうとしてしまうのが焦り本能だ。かつてはこの焦り本能が人の命を救っていた。肉食動物と出合ったときにはじっと考えている暇はない。だが現代においては、瞬間的な命の危機より複雑で抽象的な問題と向き合うことのほうが多い。決断を焦ると、人は批判的に考える力を失って判断を誤る可能性が高まる。決断の前に深呼吸して、正確で重要なデータに基づき、極論は排して考えることが必要だ。

■業界団体が通達してもなくならない買い占め

新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、一時期、トイレットペーパーの買い占めが横行し、店頭から消えました。業界団体が「供給は足りている」と会見したのにもかかわらず、しばらく品薄状態は続いたのです。なぜ一部の人は不足しないことを知りながら、買い占めてしまうのでしょうか。

脳内には、意思決定のシステムが主に2つあります。1つは直感や感情に基づく「システム1」。もう1つは理性や論理的思考に基づく「システム2」です。何か事が起きたとき、まず「システム1」が作動しますが、これだけで行動していては、すぐ騙されるし、失敗することも多い。そこで「本当にそれでいいのか」とブレーキをかけるのが、「システム2」の役割です。

■人間には「見たものをすぐ信じてしまう」という性質がある

この「システム2」が機能しにくくなる状況がいくつかあります。たとえば、時間がなくて焦っているときや、疲れているときです。「システム2」を作動させるのに必要な時間やエネルギーが足りず、判断を「システム1」に任せてしまうのです。他人の行動を見たときも、それに同調すればいいという考えが生まれ、働きにくくなります。

また、人間には「見たものをすぐ信じてしまう」という性質があります。目の前の棚がガラガラなら、「奥に在庫があるかもしれない」などとは考えず、「もう存在しないのだ」と早合点してしまう。こうした条件が揃ったことで、「トイレットペーパーの供給は足りているはず」と理解しているにもかかわらず、うかつに買い占めに走ってしまったのかもしれません。

目の前の棚が空だと思考停止してしまう!

どうすれば、こうした行動を抑止できるのでしょうか。それは目の前の光景だけにとらわれず、行政が発表しているような数字や統計を確認することです。また少し時間を置いて判断する習慣を身につけることも大事。感情は短い間に消えていきます。一呼吸して「システム2」が作動してから、判断を下しても遅くないでしょう。

今回の買い占めは、メディアの影響も強いように感じました。ニュースで流れた空っぽの棚や行列の映像を見て、あわてて買い占めに加担した人も少なくないはずです。メディアには消費者の不安をあおるより、「これだけ在庫がある」というような情報を多く提供してもらいたい。冷静に判断できる材料が揃えば、ムダな買い占めは減り、必要な人にちゃんと行き渡る可能性も高まるはずです。

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友野 典男(ともの・のりお)
元明治大学情報コミュニケーション学部教授
1954年生まれ。専門はミクロ経済学、行動経済学。著書に『感情と勘定の経済学』(潮出版社)など。

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(元明治大学情報コミュニケーション学部教授 友野 典男 構成=鈴木 工)

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