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「バイ菌をまき散らすな」企業内で横行する"コロハラ村八分"の中身

プレジデントオンライン / 2020年5月15日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

医療関係者や遠距離通勤者などを社内で「村八分」にするというハラスメントが相次いでいる。問題が続出していることから「コロナハラスメント(コロハラ)」とも呼ばれる。ジャーナリストの溝上憲文氏は「6月1日から罰則付きのパワハラ防止法が施行されます。コロナ感染不安を背景にした人権・人格を傷つける差別的行為も対象となります」という――。

■コロナ禍で横行する「コロハラ」という差別的行為

新型コロナウイルスの感染不安が広がるなかで、人権や人格を傷つける差別的行為が横行している。

徳島県では県外ナンバーの車に暴言を吐く、石を投げつけるなどの嫌がらせも報告されている。こうした特定地域の出身者に対してあたかも感染者のような扱いをする差別的言動は東日本大震災時に福島県の避難民にも浴びせられたが、今回は全国規模で発生している。

一般道徳を逸脱した精神的嫌がらせをモラル・ハラスメントと呼ぶが、今ではコロナハラスメント(コロハラ)と呼ばれ、その被害者も続出している。しかもコロハラは職場にも及んでいる。

※連合(日本労働組合総連合会)は調査の中でコロナハラスメントと区分けし、事例を紹介している

患者と職員計35人の院内感染が発生した神戸市立医療センター中央市民病院の木原康樹院長は5月9日、妊娠した看護師が医療機関での診療を拒否されたり、コロハラによるメンタル不調に陥ったりする職員の存在を明らかにした。

被害は家族にまで及んでいる。同病院に勤務する看護師の夫が勤務先の会社から「奥さんが看護師を続ける限り、あなたは出勤できない。会社を辞めるか、奥さんが辞めるか」と迫られたケースもあった。

本来なら会社は風評被害から従業員を守るべき立場にある。にもかかわらず単なるハラスメントの域を超え、法律さえ無視した解雇を迫るという暴挙は決して許されるべきではない。

■「バイ菌をまきちらすのだから、会社に来るな」

じつはこうした暴挙は他のいろんな職場でも発生している。労働組合の中央組織の連合が実施した労働相談(3月30日~31日)ではこんな事例があった。

<保育所で皿洗いをメインにパートで働き、夕方からは病院で受付のパートをしている。コロナウイルスの関係で、保育所の所長から「病院で働いているなら、バイ菌をまきちらすのだから、来るな」と言われた>(パートタイマー・女性)

まるで本人がバイ菌扱いである。似たような事例もある。大阪市から奈良市の製造会社に通勤している女性(73歳)を同僚が食事に誘ったところ、上司から大声で「誘っちゃダメ」と止められた話を共同通信が報じている。

「(女性は)『新型コロナのせいとしか思えない。大阪から通勤しているからだろう』と打ち明ける。職場では大きなテーブルを囲んで和やかに食事するのが日常だったが、上司は別の同僚にも女性と離れるように指示していた。結局、女性は職場での昼食をやめざるを得なくなり、『傷ついた』と話す」(4月21日)

感染の証拠もなしに、単に病院勤務だとか大阪出身というだけで解雇や職場の人間関係を切り離す“村八分”状態にするのは常軌を逸した異常な行動としか思えない。

■職場内「コロハラ村八分」をする経営者・上司の理性なき言動

コロナ収束が見通せない中でも、所長や上司は職場の円滑な人間関係を保ちつつ、仕事に対するモチベーションを高めるのが本来の役割であるはずだ。ところが、職場環境を破壊する人間に豹変してしまうのはなぜなのか。

リーダーの話を聞きなさい。人々は集まる。リーダーを囲みます。3D レンダリング
写真=iStock.com/TAROKICHI
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TAROKICHI

先の連合の労働相談では日頃の職場では想像できないモンスター経営者まで登場している。

<週末に法事で帰省し、月曜日に戻ってきたところ社長に「活動自粛なのに帰省するとは何事か」「きっと新型コロナに感染しているに違いない。陰性が証明されるまで出社するな」「他の社員に感染したらどう責任を取るんだ。あんたのせいで会社が潰れたら訴えるぞ」「今からとっとと荷物を片付けて帰れ」「もうクビだ。二度と来るな」など一方的に言われ、仕方がないので自席の荷物を片付けていると、除菌スプレーを吹き付けられた>(パートタイマー・女性・製造業)

現状、ワクチンもクスリもない新型コロナウイルスを恐れる気持ちはわからないではない。しかし、この経営者は理性が完全に吹っ飛んでいると言わざるをえない。

「感染している」という極端な思い込みで、女性を排除しようという執拗かつ異様な行動に驚いてしまう。経営者として他の従業員の健康を気遣っているというより、自分自身が感染することを極度に恐れているように見える。先の保育所の所長や上司の行動とも共通する。

■「自己愛的な性格を持ち、その性格が“変質的”な段階まで高まった人」

彼らはなぜこうした異常な行為に走ってしまうのか。じつは陰湿なハラスメントを行う人に関する興味深い分析がある。

モラル・ハラスメントを提唱したフランスの精神科医のマリー=フランス・イルゴイエンヌ氏はモラハラの加害者を「自己愛的な性格を持ち、その性格が“変質的”な段階まで高まった人」と定義する。自分の身を守るために、他人の精神を平気で破壊し、しかもそれを続けていかないと生きていくことができない人であるとも言っている。

イルゴイエンヌ氏は自らの臨床経験に照らして次のように述べている。

<モラル・ハラスメントの加害者は何につけても自分が正しいと思っている。その結果、いわば自分が<常識>であり、真実や善悪の判定者であるかのようにふるまう。そのため、まわりにいる人々は加害者のことを道徳家のように思って、加害者が何も言わなくても、自分が悪いことをしているような気持ちになることがある。いっぽう加害者のほうは、自分の基準が絶対的なものだと考え、その基準をまわりの人々に押しつける。そうやって、自分が優れた人物であるという印象を与えるのだ。>(『モラル・ハラスメント』紀伊國屋書店)

■「自分は善悪の判定者」であると思いこむ人がコロハラ繰り返す

「真実や善悪の判定者であるかのようにふるまう」というのは、前出の上司や社長もそうである。除菌スプレーを吹き付ける行動はまさに自分を絶対化する「自己愛的な変質者」そのものではないか。

この人たちは、平時はちょっとわがままで独善的なところはあるが、頼りがいのあるリーダーと思われているかもしれない。ところが、今回のコロナ感染のような非常時になると、身の危険を感じて「自己愛的な変質者」に豹変し、弱い立場の人間を傷つけようとする。

では、この人たちをどうやって見分けるのか。精神疾患の国際分類マニュアルでは「自己愛的な人格」を持つ人の特徴を挙げている。

①自分が偉くて、重要人物だと思っている
②自分が特別な存在だと思っている
③いつも他人の賞賛を必要としている
④すべてが自分のおかげだと思っている
⑤人間関係のなかで相手を利用することしか考えていない
⑥他人に共感することができない
⑦他人を羨望することが多い

読者の周囲や上司に思い当たる人がいるのではないか。この人たちは言うまでもなくパワハラ予備軍でもある。

■今年6月1日に施行される「パワハラ防止法」でコロハラも法律に抵触

折しもこれまで法的に何らの罰則もなかったパワハラを規制する「パワハラ防止法」が今年6月1日に施行される。コロナ関連で職場内の社員を村八分にするような行為はこの法律に抵触する可能性が高いだろう。

法律ではパワハラを、

①優越的な関係を背景とした
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)

と定義し、この3つの要素をすべて満たせばパワハラとなる。

優越的関係とは、上司と部下の関係だけではなく、同僚や部下からの集団による行為も入り、それに抵抗または拒絶することが困難なケースも該当する。

ビジネス医療用マスクをする人のコンセプト
写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

新法では事業主にパワハラ防止措置を義務づけるとともに、行政は履行確保を図るために会社に事実確認など書類の提出を求めることができる。

報告しない、あるいは虚偽の報告をすれば20万円以下の罰金が科せられ、措置義務が不十分であれば、助言、指導、勧告という行政指導を行う。勧告してもなお従わない場合は「企業名公表」となる。

また、個人としては都道府県労働局長による調停(行政ADR)を申請できる。紛争調停委員会が関係当事者の出頭を求め、その意見を聞く。委員会が必要と認めれば、使用者側の代表やパワハラを行った加害者だけではなく、職場の同僚なども参考人として出頭を求められる。そのうえで調停案を作成し、関係当事者に対し、受諾を勧告することになる。

今後、新型コロナウイルスをめぐり、これまで健全なホワイト企業と見られた会社にパワハラ・モラハラ上司や経営者が出現し、ブラック企業化するところも増えてくるだろう。コロナが「本性」をあぶり出すのだ。

すべての働く人は上記の知識をしっかり頭に入れ、いざという時は法的措置を利用して自分の身を守ることが大切である。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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