「慶應卒の学歴なんていらない」10代起業で成功する子の共通点
プレジデントオンライン / 2020年5月19日 9時15分
※本稿は、『プレジデントFamily2020年春号』の記事を再編集したものです。
■高2で休学して上京し、17歳で起業。20歳の今、社員20人の会社社長
飲食店とアルバイトとのマッチングアプリ「Wakrak(ワクラク)」。運営企業の代表・谷口怜央君(20歳)は、〈Forbes30 under 30 Asia〉にも選出された注目の起業家だ。
「1日単発の仕事を紹介していて、デイワークアプリと呼んでいます。“夜の予定が急になくなってしまった”という人も、気軽に応募してシフトに入れます」
名古屋で生まれ育った谷口君は、高2で休学して上京し、17歳で起業した。上京した際に持っていたのはスマートフォンとノートパソコン、充電器だけだったそうだ。
「最初はベンチャー企業に住み込みでインターンをしていました。スタンフォード大卒で中国人の社長の下で、かなり鍛えられました」
今では社員20人の会社の社長として、営業、開発、資金管理から採用まで行っている。
「採用が特に難しいですね。どの人も魅力的に見えてしまうので。そういうときは、経験豊富なスタッフに相談するようにしています」
■高1で1カ月アフリカ・セネガルへ渡り、高2でヒッチハイク日本一周
谷口君の原体験となったのは、野球部での大けがで腰を痛め、中学校生活の半分以上を車椅子で過ごしたことだ。
「けがで学校での立ち位置が、ガラッと変わってしまったと感じました。車椅子の車輪が道の溝に引っかかって転んでしまうことが何度かあったのですが、誰も助けてくれませんでした。思うように動けない不自由さと周囲の無関心がつらかったですね」
幸運なことに2年後には完治し、自由に動けるようになった谷口君。高1の夏には、車椅子生活で体験した弱者の立場から貧困問題に興味を持ち、一念発起してアフリカ・セネガルへ渡った。
「貧困ってどんなものかを知りたくて、漠然とアフリカに行こうと思い貧困立ちました。自分でいろんなサイトを片っ端から調べ、偶然知り合った日本人が招いてくれたのがセネガルでした」
夏休みの1カ月間、セネガルの一般家庭に泊めてもらい、現地の人々と同じ日常を過ごした。
「日本と同じくらい近代化している都市部でも、セネガルの人は困っている人を見ると、何の迷いもなく助けの手を差し伸べていました。貧しい人を見ると、食べ物を施すだけでなく路上で一緒に食べたりするんです。車椅子で味わった孤独感が蘇(よみがえ)り、彼らは日本より、精神的にはずっと豊かに生きていると感じました」
帰国後に谷口君が向かったのは、ホームレスが集まる場所だった。道行く人が彼らを見て見ぬふりをすることに違和感があり、放課後に会いに行くようになったという。彼らを支援しようとNPOを設立し、約100人の社会復帰を手伝った。だが、一人ひとりに対応するやり方では、いつまでたってもすべての人を救いきれないと限界を感じた谷口君は、ITの力で、根本から社会の問題を解決できないかと考え始めた。
「高2の夏、まず日本にはどんなITビジネスがあるのかをこの目で確かめようと、ヒッチハイクで日本を一周しました。そこで中国人の起業家と出会い、インターンをさせてもらうことになって、上京したんです」
■慶應大AO入試で1次選考に合格したが、2次選考は親に黙って欠席
こうした行動について、両親はどう受けとめていたのだろう。
「最初は反対されました。でも、車椅子生活で苦しんだ僕が、元気になって活発になったことにホッとした思いがあったのか、最後は僕の意思を尊重してくれました」
せめて大学だけは行ってほしいと言われ、慶應義塾大学のAO入試で1次選考に合格したものの、2次選考は親に黙って欠席したという。
「僕のこれまでの経験値は、大学で学ぶことよりはるかに大きいと自信を持って言えるし、仕事をするうえで必要性を感じてから行くのでも遅くはないと思います」
谷口君を支えているのは、車椅子生活中に出合った革命家のチェ・ゲバラの映画だという。
「自分も放っておけない状況を見過ごさずに戦う人間でありたい。誰もがいつでも仕事を見つけて働け、生きていける社会をITで実現できたらと思っています」
■「中学卒業後・高校入学前」にデザイン会社を起業した秋田の社長
“10代で起業”の芽は、都市部だけでなく地方でも育っている。
秋田県湯沢市。駅前の商店街は、平日の昼間でも軒並みシャッターが下り、閑散としている。高2の篠原龍太郎君は、苦境にあえぐ地元を活性化したいと、中学卒業後にデザイン会社「Oligami」を立ち上げた。
「仕事のメインは地元の飲食店、町おこしイベントなどのCM動画やSNS用の映像作成です」
起業のきっかけは、街の一角にあるアパレルショップMARBLEの店長との出会いだった。中学校の生徒会副会長として、学園祭で使うタオルとTシャツのプリントを頼みにやってきた篠原君のことを、店長の藤田一平さんは次のように回想する。
「こんな田舎で『これで作ってほしい』と自作のデザインを持ち込んできたのでびっくりして。そしてもっと驚いたのは、“イラストレーター”というプロ向けの編集ソフトを使っていたこと。この子は普通じゃないなと思いました」
能力を見抜いた店長は篠原君に、店内での作業スペースを提供し、自らが関わっている地域おこしやダンスイベントのチラシ作成、PR動画などを依頼するようになった。
「映像がお金に変わり、それで新しいカメラやパソコンが買えるので、楽しく取り組んでいます」
実は篠原君は、小学生時代はYouTuberとしても活躍していた。
「小3のときに、家のパソコンでYouTubeを見るようになりました。でも僕は他人と同じが嫌なんです。だから直感的に、動画を作る側の人になりたいって思ったんです」
■「本人がやりたいということを止める権利はない」(母親)
再生数は順調に伸び、著名YouTuberが多数所属するUUUMという事務所に本社まで招かれたこともあるそうだ。こうした活動に対して、親は口出しをしなかったという。
「龍太郎が変わったことをするのは、小さいころから慣れていました。ただ、“子供がYouTubeに動画を上げるのをどう思う?”って聞かれ、その様子を隠し撮りされていて、動画にされたときは、しまったと思いましたね(笑)」(母・育子さん)
起業については、篠原君が“中学卒業後で高校入学前なら、どっちの校則も関係ないから大丈夫だよ”と親を説得したそうだ。
「学校の勉強との両立など心配な部分もありますが、本人がやりたいということを止める権利はないと思っています。失敗は本人が受け止めればいいし、もし何かあったら親が責任を取ればいいかなと思っていました」(育子さん)
仕事ぶりは口コミで広がり、今では県外からも声が掛かる。
「中・高生での起業は、親に食べさせてもらえるという環境にいる分、リスクフリー。だからこそ、今しかできない非営利の社会事業にも積極的に取り組んでいます。クラウドファンディングで資金を100万円集めて、秋田の高校生が社会で活躍している人たちと交流できるイベントを開催したり、湯沢の魅力を体験してもらいながらプログラミングを学べるキャンプを企業と企画したり、地元の同世代をもっと盛り上げていくことに力を注ぎたいですね」
■「有名大学→大企業→お金持ちになっていい車に乗る」はダサい
谷口君、篠原君のように起業家として活躍する若者はますます増えていくだろう。堀江貴文氏が主宰する通信制高校「ゼロ高等学院」の学院長、内藤賢司氏はそう主張する。
「今の大人が考える勝ちパターンって“名門高校→有名大学→大企業”ですよね。でもそれって、実は頭に『取りあえず』ってついていませんか。“人口は減っていくけれど”“ITの進歩は著しいけれど”“大企業も簡単につぶれてしまうけれど”、そんなさまざまな懸念があるのに、思考が停止している。大人たちが薦める旧来の“進路”は嘘くさいと、子供たちに見透かされてきています」
情報に敏感な子供たちが起業に向かう理由として、価値観の変化があると内藤氏。
「2000年代以降生まれの子たちにとっては、お金持ちになっていい車に乗る、いい時計をするという価値観はダサいと思われています。それよりも、低賃金労働をなくそうとか、気候変動をなんとかしようとか、そういった社会貢献のほうがイケてるわけです。こうした価値観を追求しようとしたら、大企業に入るより起業するほうが目標に達しやすい。これからは、自ら問題設定ができる彼らのような人たちが社会の中心で活躍していくでしょう」
自ら問題設定ができるようになるために必要なのは、学校で習うような知識ではなく、自由な時間と良いコーチの存在だそうだ。
「谷口君、篠原君が、才能を認め導いてくれるコーチに出会えたのは、好きなことを追求していたから。親がすべきことは、子供が自分のやりたいことを主体的に考えられるように、塾や習い事で予定を詰めすぎないこと。目の前のことに追われていると、問題設定をする思考力が育ちません。何もしていないわが子を見ると不安になるかもしれませんが、子供を信用することから始めてみてください」
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フリーランスライター
京都市出身。東京大学経済学部卒業後、国際電信電話(現KDDI)に入社。法人営業、サービス企画等に携わった後、2007年に夫の留学を機に家族で渡米。帰国後、フリーランスライターとして、富士フイルム代表取締役会長CEOの古森重隆氏、聖路加国際病院名誉院長の故・日野原重明氏、政策研究大学院大学前学長の白石隆氏、灘・開成・麻布・武蔵・渋谷教育学園・豊島岡女子学園・女子学院各校の校長など、ビジネス、政治、アカデミア・教育のトップリーダーのインタビューを数多く手掛ける。一男一女の子育て経験を活かしつつ、現在は教育分野を中心に“プレジデントFamily”“Resemom(リセマム)”“ダイヤモンドオンライン”“NewsPicks”など様々なメディアで執筆活動を続けている。
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(フリーランスライター 加藤 紀子)
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