1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

楽観、短絡、自分勝手、自己過信…外出自粛を守れない人は、なぜ守れないのか

プレジデントオンライン / 2020年6月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ozgurdonmaz

台風や地震などの自然災害、そして世界中で猛威を振るう感染症の脅威。私たちの生活を脅かす緊急事態に陥ったとき、人はどんな心理状況に陥るのか。災害心理学の専門家に話を聞いた。

■「念のため」はデマ拡散のトリガー

私たちの心は、自分や自分の生活を脅かす可能性のある事柄について、既知でも未知でも「恐ろしい」と感じるようにできています。

台風や地震などの自然災害や、いま世界が苦境に立たされている新型コロナウイルスの大流行、また、近いうちに大地震が起こるとされているなど、生活で感じる恐怖がゼロになることはありません。

未経験の非常事態であっても「もしも現実になったら大変だ」と想像しただけで「怖いな」「心配だな」と思いますよね。息苦しさや動悸など、身体的な不快感を伴うこともあり、リラックスした気持ちは低減します。が、その代わりに「回避するための行動を起こしやすくなる」というメリットが生まれます。

ウイルスにしても大地震にしても、想像だけで怖さや不安を感じることができれば、未経験で不確かなことであっても、「リスクへの準備をしたい」という意欲が高まります。

恐怖やストレスを感じたときには、無理にリラックスしようとせず、「必要な準備」をしてみるといいかもしれません。例えば、地震に備えて食器戸棚に耐震用の道具を取り付けるなど、合理的な「備える行動」を起こしてみる。すると、「必要な手段を施した」という事実が安心材料となり、リラックスできるようになります。

また、怖さや不安を感じると、つい情報を検索し続けてしまいますが、リラックスしたいときは、インターネットやマスコミなどからの情報収集を、信頼性のある必要最小限のものに留めることも大切です。危険に関する情報は、記憶に残りやすく、緊張状態につながります。

私たちに「記憶」という機能が備わったのは、危険な場所や生物を覚えることで生存確率を高めるため。危険情報を仲間に知らせておけば、集団としての生存確率はさらに高まるため、言葉の発達にもつながったと考えられています。

危険に関する情報は、多くの人に共通する関心事で、「入手すると人に伝えたくなる」という心理が働きます。

緊急かつ重要な情報は伝える必要がありますが、不確かな情報であっても「念のため」「とりあえず伝えておこう」と思ったり、「怖さを人にもわかってほしい」といった心理が働き、かえって拡散されやすくなります。

災害時に嘘の被害情報や対策法、いわゆるデマが出回ってしまうのも無理のないことです。

災害時のデマは、善意からの拡散である場合も多く、判断や対処の難しさが伴います。まずは、とにかく情報の出元を確認することが大切です。友達からの情報であっても、その情報元の信頼性を確認します。友達を疑うのは気が引けるかもしれませんが、人ではなく情報の信頼性を疑うことですので、冷静に危険回避の方法として実践していただければと思います。

■トイレットペーパーは、なぜ消えた?

私たちは、リスクが間近に迫ると、なんらかの対処となる行動を起こしたくなります。この傾向から引き起こされる行動として、災害時の「買いだめ」があります。

「危険に対する不安」に「必要なものが手に入らなくなってしまう不安」がプラスされ、行動力が大変高まります。また、多くの人が買いだめを始めるので、「みんなもしているから」といった集団心理も働き、ますますエスカレートする結果に。買いだめは自然災害ではありませんから、人力で混乱を防ぐことが可能です。1人でも多くの人が「巻き込まれない」ことが大切です。

そのためには、まず自分が最低限必要な物と量を正確に知ったうえで、1週間分、1カ月分、3カ月分などの単位で、平時から無理なく少しずつ備蓄しておくことが効果的です。シャンプーなどはボトルに使い始めの日付を書いておくと、1本でどのくらいの期間もつかが正確に把握でき、安心できる分だけを合理的に備蓄できるようになります。

正確さや合理性は安心材料になりますから、買いだめ現象が起きたときも、心穏やかに過ごせますし、巻き込まれたり騒動に加担したりすることも避けることができます。

■危険への温度差で、夫婦関係に亀裂も

災害時の心理には個人差があり、それがパートナーとの関係性の問題に発展してしまうこともあります。

まずは「危険」の程度や範囲には個人差があることを知っておきましょう。赤ちゃんは「何を恐れるべきか」という学習が不足しているため、危なっかしい行動がみられますが、成長とともに学習し、注意深さが身についていきます。成長過程で、危険についても学習していきますが、その判断基準は人によって違います。例えば、学生時代に微熱が出たとしましょう。少しくらいの熱なら登校し部活にも参加する人もいれば、微熱でも安静にする人もいます。

このように、生活や家庭環境など、人によって異なる様々な影響が、危険の程度や範囲に個人差を生み出します。

次に、「危険」への対処法についても個人差があります。危険に遭遇したときの反応は、「戦う」か「逃げるか」に分かれる傾向があります。一概には言えませんが、女性は守るという本能が強く、危険をできるだけ避け、男性は闘争という本能が強く、立ち向かおうとします。

そのため、夫婦間において「妻は用心深く、夫は楽観的」(もちろん逆のパターンも)といった温度差が生まれることがあります。

続いてカギとなってくるのは「相補性」。既婚者にパートナーを選んだ理由を聞くと「わかり合えるから」という答えが多いものです。と同時に、「自分にはない、いいところがある」という回答も多いです。パートナー選択において、お互いをわかり合える「共感性」と、補い合える「相補性」は、重要なポイントと言えます。

しかし、「相補性」には盲点があります。ベースになっているのはお互いの違いですから、実際に結婚生活をスタートしてみれば、「え、どうして石鹸で手を洗わないの?」「そこまで消毒するの?」などのズレに気づくようになります。些細な習慣や衛生観念などの違いはトラブルの原因になりやすく、温度差が生まれるひとつの大きな理由になります。

温度差というのは、1度考え始めると悪い方向へ転んでしまいがちですが、よい関係を築くために、次のことを取り入れてみてください。

まず「違うからこそ役割分担ができるね」と違いから生まれるメリットがあるという意識を口に出して共有する。そして、それぞれが持つ防災や衛生観念について語り合いましょう。計画的に備蓄したい、除菌はしっかりやりたい、賞味期限は守りたいなど、意識の違いを確認しましょう。

それから具体的に助け合える行動に落とし込みます。備蓄品や緊急連絡先のリスト作成、転倒防止対策用品の取り付け、保存食レシピ、役割分担を決めるなど。このような対話を持つことで、温度差がメリットに転じ、関係性もより強まるでしょう。

非常事態にはいつも以上に冷静な判断が求められます。

しかし、つい日常生活の延長上の出来事として捉え、危険性を過小評価し、「自分は大丈夫」と考えてしまう傾向があります。これは「正常性バイアス」と呼ばれています。表に示した通り、一概には言えませんが、「正常性バイアス」につながりやすい心理には様々なタイプがあります。

また「カリギュラ効果」という、禁止されるとむしろやりたくなってしまう心理も働きがちです。これは1980年に公開された映画『カリギュラ』が過激な内容のため一部地域で公開禁止となり、それがかえって注目を集めたことに由来しています。このような現象が起こるのは、人が本能的に持つ「自由に行動を選択したい欲求」に起因すると考えられています。この欲求は、赤ちゃんにさえ備わっていることが心理学的実験で確認されています。

災害時の「自分は大丈夫」の心理分析

■禁じられると逆にやりたくなる

「してはダメ」という禁止の情報が入ると、人は「自由に行動を選択したいという欲求」が阻害され、ストレスを感じます。

すると今度はそれを均衡状態に戻したいという欲求が働き、禁止事項をどうしてもしたくなってくるというわけです。

このような「正常性バイアス」や「カリギュラ効果」といった心理傾向がある一方で、私たちには「有害なものは避けたい」という強い欲求も存在します。そのため「悪い結果になる」と予見できていれば、自然と自由に行動したい欲求を抑えられるようになります。

童話「鶴の恩返し」でも、「部屋を覗いたら鶴がいなくなってしまう」という結果をおじいさんとおばあさんがあらかじめわかっていれば、「覗きたい」という欲求を抑えることができたのかもしれません。

このように、行動の先にあるネガティブな結果をリアルに想像できれば、危険回避欲求のほうが勝り、行動を抑制することができます。

ただし、自動車教習所で見る交通事故映像のように、危険回避のために起こる刺激は、時の経過によって薄れてしまうこともあるので、繰り返し注意喚起する必要があります。

■新しい時代へ生まれ変わるとき

今後も自然災害やウイルスの脅威と共存していく私たち。非常時には「真面目で働き者」といった日本人の美徳がかえってマイナスに働いてしまうことがあります。新型コロナウイルスが拡大するなか、無理して出勤してしまったがために事が大きくなってしまったという事例も、多々聞こえてきました。

一方で、在宅勤務が増え、仕事の合理化、スリム化が急速に進み、働き方だけでなく働く人の価値観も見直されるようになりました。ポツッと電子機器のスイッチを切れば、瞬時にプライベート空間に切り替わるワークスタイルが拡大し、ビジネスシーンでは合理化、スリム化が進んでいきます。

このような時代では、自社のカルチャーだけではなく、社会全体の状況や変化を瞬時に捉え、合理的な賢い指示や行動をしていく力がより重要になっていくでしょう。

技術的にはもうだいぶ前から可能であった、新しいビジネスシーン・価値観が、実はもう始まっています。災害には社会をガラッと大きく変える力があります。そして、その適応が新たな課題になることでしょう。

----------

晴香 葉子(はるか・ようこ)
心理学者
作家。「防災・危機管理と心理学」をテーマにした講演会をはじめ、メディアでの心理解説・監修実績多数。著書『人生には、こうして奇跡が起きる』ほか。

----------

(心理学者 晴香 葉子 構成=力武亜矢)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください