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コロナの後に必ずくる「日銀リスク」というアベノミクスのツケ

プレジデントオンライン / 2020年5月28日 9時15分

安倍晋三首相(右)と会談する日本銀行の黒田東彦総裁=2018年4月9日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

今年3月末の国の借金は約1114兆円となった。元米モルガン銀行日本代表の藤巻健史氏は「毎年10兆円ずつ返しても111年かかる。日銀はアベノミクスの第一の矢として大胆な金融緩和に突き進んだが、その結果、歯止めの利かない事態に陥っている」という――。

■日銀の「Mr.時期尚早」、元ディーラーの「ハイパーフジマキ」

国会議員時代、黒田東彦日銀総裁に「異次元緩和からの出口を教えてください」と何度も聞いたが「時期尚早」との答えばかりだった。そこで私は総裁のことを「Mr.時期尚早」と揶揄していた。その私は、世間では「ハイパーフジマキ」と揶揄されているそうだ。

「政府も日銀もこんなことをするとハイパーインフレが来る」と言いまくっているからだ。私が、ハイパーインフレが来る、と主張している理由は、1000兆円を超える国の巨額な借金はもう尋常な方法では返済できないと思うからだ。

「年収が630万円の家庭が毎年1000万円使って借金を1億1140万円まで貯めたら、まず自己破産です」と話すと「国は家庭とは違う。徴税権がある」との返事が返ってくる。しかし、いくら国に徴税権があるといっても、ここまで借金が溜まると返せるとは思えない。

先日発表された今年3月末の国の借金総額は1114兆5400億円。これは毎年10兆円ずつ返したとしても111年かかる額だ。今年の税収+税外収入予想は70兆円だから歳出を60兆円に抑えて10兆円を浮かし、それで返済しても111年かかる。

しかも111年間は金利がゼロ%のままで支払金利額が増えず、かつ社会保障費も今後増えないという前提つきでの話だ。歳出を60兆円に抑えても111年かかるのに、今年度の歳出は当初予算で102.6兆円、第1次補正後で128兆円にものぼる。

■借金大国に残された2つの最終手段

これでは200年たっても、300年たっても返せっこない。となると残る手段は「借金踏み倒し」しかない。

「国の借金は国民の財産だから問題ない」と主張する人がいるが、鎌倉幕府や江戸幕府のことを考えて欲しい。彼らは、財政が苦しくなると、徳政令を発動して豪商からの借金を踏み倒した。幕府の借金は無くなるが豪商の資産もなくなった。

まさか現在の政府が徳政令など発令するとは思わないが、ハイパーインフレなら大いに可能性がある。ハイパーインフレは債権者から債務者への富の移行という意味で徳政令と同じである。

タクシー初乗りが100万円というハイパーインフレが来ると、10年間で一所懸命1000万円の預金を貯めた人(債権者)は10回タクシーに乗ると預金が無くなる。一方1114兆円の借金をもつ日本一の借金王である国は大いに楽になる。

タクシー初乗り100万円時代の1114兆円はたいした額ではない。なにせタクシーに人が乗るたびに10万円の消費税収があるのだから。

■財政楽観論者と大政翼賛会の宣伝読本の共通点

近年にもハイパーインフレで国民が財産を失い、財政再建に貢献した例がある。戦争中の戦時国債がそれだ。以下は、戦時中に大政翼賛会が国債購入促進のために、隣組に150万冊配った宣伝読本『戦費と国債』からの抜粋だ。

(問)国債がこんなに激増して財政が破綻(はたん)する心配はないか。
(答)国債がたくさん増えても全部国民が消化する限り、少しも心配は無いのです。国債は国家の借金、つまり国民全体の借金ですが、同時に国民がその貸し手でありますから、国が利子を支払ってもその金が国の外に出て行く訳ではなく国内で広く国民の懐に入っていくのです。(中略)従って相当多額の国債を発行しても、経済の基礎がゆらぐような心配は全然無いのであります。

最近よく聞く財政楽観者からの発言と全く同じだが、この戦時国債はハイパーインフレで紙くず同然となった。

ここまでの議論は、こうならざるを得ないという「べき論」に過ぎないのだが、実は政府・日銀は「ハイパーインフレへの道」をすでに歩み始めている。2013年4月に異次元緩和という財政ファイナンスを始めてしまったからだ。

■白川日銀から180度の路線転換をした黒田総裁

2013年4月12日、黒田日銀総裁は、就任直後の読売国際経済懇話会で講演し、以下の発言をした。

「日本銀行による多額の国債買入れが、内外の投資家から、ひとたび『財政ファイナンス』(※)と受け取られれば、国債市場は不安定化し、長期金利が実態から乖離して上昇する可能性があります。これは、金融政策の効果を減殺するだけでなく、金融システムや経済全体に悪影響を及ぼしかねません」

筆者註:国の借金を中央銀行が紙幣を刷ることによって賄うこと。

その講演をしたご本人が率いる日銀が、国債爆買いを継続し、なんと今では発行国債の半分近くを保有するに至ってしまったのだ。

一方、前日本銀行総裁時代の白川総裁がフランス銀行「Financial Stability Review」(2012年4月号)に掲載した論文の邦訳(2012年4月21日)を見てみよう。

「歴史的にみれば、中央銀行による財政ファイナンスがインフレをもたらした事例は少なくない。例えば、1920年代前半のオーストリア、ハンガリー、ポーランド、ドイツのハイパーインフレ、第二次大戦後1950年頃までの日本のインフレは、いずれも、中央銀行の財政ファイナンスが原因となっている。そうした経験に学んできたからこそ、現在は中央銀行の独立性が重要という考え方が確立されており、多くの国で中央銀行による財政ファイナンスは認められていない」

黒田日銀が押し進めた「発行国債の半分近くを中央銀行が購入してしまった状態」を財政ファイナンスと言わずになんというのだろうか? この財政ファイナンスにより、日銀のバランスシートは巨大化した。それも世界断トツのメタボぶりだ。

私は、異次元緩和を開始するまでの日銀だったら、ハイパーインフレの心配など全くしない。物価のコントロールは日銀の主たる業務の一つで、そのための武器(=インフレへのブレーキ)を持っていたからだ。

■出口論なき黒田日銀の金融緩和

異次元緩和を開始したことで日銀はそのブレーキを失ってしまった。ブレーキが無いから、冒頭に書いたように、黒田日銀総裁は「金融緩和からの出口論」を封じていたのだ。封じていたというより、無いものは答えられなかった、と言った方が正しいかもしれない。

それでも何とか答え始めたのが「ジャブジャブにした資金の回収」と「政策金利の引き上げ」だ。量の縮小の困難さに関しては前回、詳しく書いた。

政策金利の引き上げも非常に難しい。伝統的金融政策下での政策金利引き上げは簡単だった。中央銀行が民間銀行市場に供給する資金の量を少し減らすだけでよい。これは中央銀行当座預金残高が法定準備金とほぼ同額だったから出来た操作だ。

今のように銀行間市場にお金がジャブジャブしており、中央銀行当座預金残高が法定準備金よりはるかに多い状態では当時の手法での金利操作は不可能なのだ。

多くの中央銀行が異次元緩和を始め、銀行間市場にお金をジャブジャブに供給し始めた時、我々金融界の人々は「将来、どうやって利上げするんだろうね、後は野となれ山となれ政策かね?」と話しあったものだ。誰も手法を思いつかなったのだ。

■FRBが見つけ出した付利金利引き上げという新技

しかしFRB(米連邦準備制度)が見つけ出した。私も「さすがFRB」と感心したものだ。その手法とは民間銀行が預けてある当座預金の付利金利を引き上げるというものだ。中央銀行当座預金に1%付利すれば1%以下で企業に融資をする民間銀行はない。

中央銀行に預ければ1%の金利をもらえるのに、面倒くさい事務や信用リスクを取ってまで1%以下で企業に貸す理由など無いからだ。実際FRBは2015年暮れから2019年にかけて、その手法で政策金利を引き上げていった。しかし、それはFRBだからこそ出来たのであり日銀には不可能だ。

2015年のFRBの受取利息は1136億ドル(12.2兆円)もあった。保有債券の利回りが高かった(2018年1~6月は2.6%)からだ。保有国債の利回りが極めて低く(2019年9月末0.26%)利息収入が1兆4千億円しかない日銀とは大違いだったのだ。

FRBはこのように高い収入があったがゆえに中央銀行当座預金への付利金利を引きあげても損の垂れ流しを心配する必要が無かった。もっとも利上げとともに純利益は減少していき、2015年の999億ドル(10兆7千億円)から2018年には631億ドル(6.8兆円)まで減少した。

しかし減少したところで、まだ631億ドルも余裕がある。なお保有債券は、長期固定金利債が主なので金利収入は金利上昇期でも変わらずだ。実際、2015年の金利収入は1136億ドル。2018年のそれは1123億ドルと変わりない。

問題は日銀だ。日銀当座預金残高は395兆円(2020年3月末現在)。1%政策金利を上げるごとに金利支払いは3.95兆円ずつ増える。年間の利息入収入は1兆4000億円にすぎない。

FRBの例でみたように保有国債が長期固定金利だから収入サイドは、しばらくの間、ほとんど増えない。引当金勘定+準備金は9.4兆円しかない。1%の政策金利上げなら2年間、2%の政策金利上げなら1年間で債務超過になってしまう。

■コロナ禍が過ぎ去っても日銀リスクが残り続ける

この問題は、日銀が先頭ではあるものの、どの中央銀行も大小の差こそあれ抱えている。景気回復期には、金融緩和の解消で政策金利の引き上げが必要になるからだ。

ところが日銀に関して言えば、コロナ禍が終わるのを待つまでもなく、今日、明日にでも大きな問題が発生する可能性がある。世界で最も脆弱な中央銀行なのだ。世界最大のメタボで保有資産も価格変動の大きいものばかりだから当然だ。

日銀が486兆円も保有して国債の平均利回りは0.26%(2019年9月末)に過ぎない。現在、ほぼ0.0%の10年金利が0.3%まで上昇すると評価損が発生する。0.3%など私がトレーダーだった時には1晩で動く金利幅だ。しかも保有額が大きいだけに、長期金利がさらに上昇すると、評価損はうなぎのぼりだ。

国会で金利が1%並行(=どの期間も1%)して上昇すると、どのくらいの評価損が出るのか聞いたところ、1%で24.6兆円。2%で44.6兆円、5%で88.3兆円、1980年のように11%まで10年金利が上がるなら140兆円、評価益が下がるとのことだった(459兆円保有していた2018年5月末時点)。当時、国債の含み益は9.6兆円だったから、当然、巨大評価損が発生する。

これを追求したところ、黒田日銀総裁はじめ幹部は皆「日銀は償却原価法(簿価会計の一種。国債の時価評価が損益に反映されない方式)を採用しているから評価損は表面化しない」と答弁された。

簿価会計など前世紀の遺物である欧米系金融機関にそんなロジックが通用するのだろうか? 簿価会計でOKならば山一証券もリーマンブラザーズも倒産などしていない。

■日本売りのリスクを過小評価してはいけない

私が勤めていた米銀では、会長のボーナス、ディーラーのボーナス、そして取引相手先の信用リスクの判断もすべて時価評価で決定していた。

そして邦銀から転職して驚いたのは、米銀は世界中の国に対しても中央銀行に対しても倒産の可能性があるとして取引限度枠を設けていたということだ。当然、日本国にも日銀相手にもある。

短期間の債務超過ならばともかく、当面純資産に戻らないとなると、欧米金融機関の審査部が判断したら、日銀に対する信用枠(=取引枠)は縮小もしくは廃止されるだろう。

債務超過とは民間で言えば倒産状態である。どの銀行も損を被りたくないのだから取引中止は当然のアクションだ。そうなると外資はドルを売ってくれなくなる。為替とは日銀当座預金を通じての取引だからだ。取引枠が無くなり日銀当座預金に円を置けない、すなわち円という対価を受け取れないのだから、外銀がドルを売ってくれるはずがない。

基軸通貨ドルとの関係を遮断された通貨など世界から相手にされない。円をドルに換え原油を買うことも、海外農産物を買うことも出来なくなる。円の暴落、ハイパーインフレ一直線となる。もちろん日本売りの発生だ。このリスクは過小評価しないほうがいい。

■債務超過になっても大丈夫な中央銀行の条件、日銀は……

長期金利が0.3%上昇すれば、このような事態は起きる。コロナ禍の最中に起こらなくとも、景気回復時には長期金利は間違いなく0.3%を超えて上昇するだろう。

世界中の金利が上昇を始めた時に、日銀はいつまで長期金利を抑え込めるのか? 黒田総裁は毎日ドキドキだろうと思料する。この厳しい現実は、見たくもない現実かもしれないが、起こりうる現実だ。

それならば、日銀はすべての国債を買ってしまえばいいではないか? という疑問があるかもしれない。しかしそんなことをしたら日銀当座預金残高は1000兆円にも膨れ上がる。未来永劫に政策金利を上げなくて済むのなら話は別だが、政策金利を1%上げるごとに日銀は支払金利を10兆円ずつ払わなければならなくなる。巨大な損のたれ流しだ。

そんなことが予想される中央銀行の通貨を外国人は信用しない。円の暴落、ハイパーインフレへの道筋は変わらない。なお、金融学的に中央銀行が債務超過になっても大丈夫なのは3つの条件が必要とされている。

1.債務超過は一時的であると国民が信じる
2.債務超過の原因が金融システムの救済であり、金融政策は厳格に運営されていると信じる
3.財政が緊縮に向かっている

日銀の状態は、残念ながらこの条件をどれも満たしていない。この状態では政府・日銀は全く頼りにならない。だからこそ私は保険として多少なりとも、円をドルに換えておいたほうがいいと皆さんにお勧めしている。

それにしても、世界最悪の財政状態を長年放置し、禁じ手中の禁じ手を行うことで危機を先延ばししてしまった政府・日銀の政策ミスはくれぐれも残念でならない。せめて後世の教訓にしなければならない。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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