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年金暮らしの70代父母を「ムダ遣いするな」となじる50代独女の言い分

プレジデントオンライン / 2020年5月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BBuilder

70代の両親と同居する50代の娘は30代で精神疾患にかかって以来、働けず、障害年金を受給している。すでに1000万円の貯金があるが、これから親亡き後、自分の生活費が残されているかを不安に思う娘は、母親の浪費を疑う。娘に呼び出されたファイナンシャルプランナーは、親子間の対話を促すが——。

■70代の親に向かって「浪費をするな」と責める50代娘の理屈

70代の女性Aさんから、同居する50代の娘に「なぜ、アンタは浪費するのか」と日々責められて困っているという相談がありました。

娘は30代のときに精神疾患と診断され、以来、障害年金を受給(年間約78万円)しています。Aさんはその障害年金をアテにすることなく、夫婦の年金(年間計約300万円)だけで家族3人の家計をまかなっており、Aさんはムダ遣いをしているつもりはありません。

ところが、娘は強い口調で「いつもスーパーやドラッグストアで買い物しすぎじゃない?」「安いセール品だからって買っちゃだめだよ。家に十分ストックある」と、毎日のように声を荒げるそうです。

Aさんはそれに押されて1円単位で節約の努力を続けてきた、と言います。しかし、筆者の前で「わたし、もう疲れてしまいました」とこぼします。これまで娘に何度も家計は赤字ではなく、浪費は一切していないと説明したものの、理解を示さず、今や顔を合わすのさえつらいということでした。

現在50代の娘は高校卒業後、正社員として就職することはなくアルバイト生活を送っていました。アルバイトはいずれも長く続きませんでしたが、両親ともにそれほど気にしなかったそうです。もともとあまり体力がなく、女の子は結婚するものと思っていたこともあって、正社員にはこだわりませんでした。そのうち娘は30代となり、気がつけばアルバイトに行かなくなっていたのです。今は週に1回程度は図書館へ行くものの、それ以外は家にこもっています。

■「娘のお金には手を付けない」と親が決めた理由

Aさんには、家の中にいる娘はそれなりにフツウに見えるので、努力すれば治るのではないかという期待があります。素人考えながら、外の空気に触れさせるのは効果があると思って、自宅の庭で花や野菜を一緒に育てたり、ドライブに連れ出したりしましたが、娘の言葉はきつくなる一方です。

治ることへの期待を持ちつつも、最近は、ずっとこのままの状態が続くことへ覚悟のようなものもできたとAさんは言います。そのこともあって娘が受給している障害年金を「少しでもいいから家計に入れて」とお願いしたことは一度もありません。

障害年金は娘のものであり、自分と夫が死んだ後の生活費にできるよう貯金しておいてほしいと考えているからです。自分たち両親が健在なうちは、娘のお金には手を付けない。夫婦でそう心に決めたのです。

家族とお金については次のとおりです。

■赤字家計ではないのに、娘が母親を非難するのはなぜか

◆家族構成
母(相談者):70代 年金収入 60万円
父:70代 年金収入 240万円
長女:50代 無職 障害年金 78万円
長男:40代 隣県在住 家族は妻と小学生の子2人
◆資産状況
自宅:一戸建て(持ち家)
預貯金:1000万円(父母分)、預貯金:1000万円(長女分)
長男の住宅購入時に援助をし、父死亡の際には渡すものはないと合意済み。
◆家計状況
父母の年金で3人分の生活費はまかなえているのは確かだが、細かい支出費目は家計簿をつけていないため不明。家計を預かる母自身の印象としては、家計は苦しくない。

収入は、Aさんと夫の年金だけで、それぞれ年60万円、年240万円です。

年間の支出は、年間収入の300万円より少ない276万円。具体的な数字のわかる費目は、口座振替の公共料金や電話代などです。家計簿を細かくつけているわけではないので、食費や被服費の額は月によりまちまち。ただ、赤字家計にしないように注意し、毎月2万円を長男(独立して結婚)の孫の祝い事に充てられるよう生活費とは別に積み立てています。

月の支出は1カ月平均23万円です。総務省の家計調査では世帯主が70歳以上の無職世帯の消費支出額は約23万4000円。この統計では世帯人数は2.35人となっているので、3人住まいのAさん宅は家計のやりくりをちゃんとしていることになります。

レシートと電卓
写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk

では、なぜ、娘は母親を非難するのでしょう。

■ついつい強い口調になってしまう娘の「胸の内」

後日、筆者はAさん宅へ伺いました。その際に娘にも話を聞くことができました。実はファイナンシャルプランナーの存在をAさんに教えたのは、娘当人だったのです。プロであれば、母の浪費がわかるはずと考えたようでしたが、あいにくその期待にはこたえられませんでした。

娘は、母親に席をはずすように頼みました。言葉づかいは、「……もらえますか」と一応依頼の形でしたが、その口調は完全な「命令」。怒りのようなものが込められたこの口調で浪費を非難され続けたらめいってしまうだろうと筆者も思いました。

娘は、あれこれ話してくれました。

●結婚できずにいることを親不孝だと思っている。
●一つひとつの家事はできるが、段取りが下手で、ひとり暮らしをする自信がない。
●たまに会う甥っ子たちはかわいくて、自分もお小遣いを渡すのだが、進級や誕生日などに両親が渡す祝儀の金額が気になって仕方ない。
●弟には家族があるので迷惑をかけたくない。
●最近の母親は年のせいか口調が柔らかくなったが、以前はかなり厳しく、生活の相談はできなかった。
●将来の経済的な不安を話すためには、両親の死について触れざるを得ず口にできなかった。

母と娘では気持ちや情報が少し行き違っているように見えました。

そこで、「私も立ち会うので、気がかりに思っているお金のことをご両親に少し伝えてみませんか」と言ったところ、少し考えた後、了承してもらえました。

■娘の積立額は1000万円だが、本1冊買うのもプレッシャー

母親に戻ってもらい、別の部屋にいた父親にも声をかけました。娘は両親の前で次のポイントを語りました。

●相続の際は財産を弟と半分ずつ分けるべきだが、そうすると自分の生活費は足りるのか。そもそもすべてもらったとしても足りるのか。
●両親の死については縁起でもないので口にできなかった。
●障害年金は、「貯めておくように」と「強く」母に言われたことからずっと貯めていて、積立額は約1000万円になっている。ただ、本1冊買うのもプレッシャーで、図書館で本を借りていた。

一方、両親からは改めて、家計は赤字になっておらず、統計と比べてみても、月の支出額も多くはない、また浪費やムダ遣いはしていない、といった説明がありました。

自分たち亡き後のことが気がかりなので障害年金から生活費を入れてもらおうとは考えず、娘自身の貯蓄にしてもらいたかったことや、娘との3人の生活を守るために孫たちへのこづかいやお祝いは上限を決めていることなども合わせて説明がありました。

あまり幸せそうではない年配の女性がソファに座っている
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

さらに、手元の預貯金(1000万円)と自宅(持ち家)は娘に残すつもりでいることも伝えられました。「あと1回は車を買い替えるだろうから、1000万円よりは減るけど、なるべく多く残したいと考えている」と父親がおだやかに語ったのです。

■両親他界後に自分が「生き延びられる期間」がわかった

両親の話を聞いて、両親の気持ちや家計の状況を理解した娘は、「預貯金で暮らしが成り立つ期間を計算したい」との要望を申し出ました。

単身者の消費支出は1カ月あたり平均約16万円(「家計調査」による)。娘は運転しないので自動車関連費はゼロと想定しても、家事が得意ではないので食費は統計よりも多く見積もっておいたほうがよさそうなどとして、障害年金に対する毎月の不足額は9万5000円で計算したところ、貯蓄1000万円でカバーできるのは8年9カ月間となりました。

不足額が9万円なら9年3カ月間、7万円なら11年11カ月間、5万円なら16年8カ月間です。生活費を少なくするか、収入を増やして毎月の不足額を減らすことができれば、貯蓄でカバーできる期間を延ばすことができるとわかります。

現在70代の両親ともに元気でいてくれる間は年金収入があり、その間は、娘の貯蓄はさらにふやすことが可能です。ただ、父死亡後の母子二人の生活は貯蓄を取り崩すことになるでしょうから、親の貯蓄は現在よりも少なくなると予想されます。また、父母に介護が必要になった場合にはさらに減るでしょう。実際のところ、両親から受け取れるお金は、その時になってみないとわかりません。

その後、Aさんは娘にまかせる家事について相談しています。父親と娘は、1万円でも2万円でもいいから自分で収入を得られるといいねという話をしているそうです。

娘がお金の面で安心を得たとは言い難いのですが、貯蓄で暮らせる目安がわかったからなのか、Aさんに対する浪費の非難はなくなったようです。

お互いへの信頼がないと、当事者同士で話し合おうとしても前に進みません。そうした場合、われわれのような第三者を加えることで、話し合いがスムーズに進むケースも珍しくありません。「もう限界だ」と思う前に、ぜひ第三者に相談することを検討してみてください。

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菅原 直子(すがわら・なおこ)
ファイナンシャル・プランナー
会計事務所向けオフコン販売、外資系生命保険会社の勤務・代理店を経て1997年FP資格取得・独立。わが子の成長にあわせて教育資金関連に注力し、各地の高校で保護者・生徒向けの進学費用に関する講演多数。卒業後の奨学金返還など将来の生活設計も考える講座内容から、親子・保護者・生徒から個人相談を受けることも。一般の個人相談では、ご相談者のライフデザイン(どのような人生を送りたいのか、どのような日々を送りたいと思っているのか)を一緒に考えるところから始めるようにしている。「働けない子どものお金を考える会」「子どもにかけるお金を考える会」メンバー。

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(ファイナンシャル・プランナー 菅原 直子)

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