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やっぱり朝日は朝日のままだった…自称"クオリティペーパー"の末路

プレジデントオンライン / 2020年6月1日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/artisteer

■メディアと権力の「近さ」を浮き彫りにした「賭け麻雀」

取材か癒着か。新聞記者らとの「賭け麻雀」が発覚し黒川弘務・東京高検検事長が辞職に追い込まれた問題は、検察庁の公務員が賭け麻雀をしていたことに対する倫理観を問うのみならず、メディアと権力、あるいは取材対象者との距離感についても話題に持ち上げた。

官僚たる黒川氏の辞任や処分については「賭け」「緊急事態宣言期間中」「定年延長問題の渦中の人物」という3つの要素の合わせ技一本で辞職やむなしというところだろう。筆者としても正直、賭け麻雀よりも、『週刊文春』記事内にあったタクシー運転手が聞いたという「『韓国で女を買った』という黒川氏の冗談」についての真偽の方が気になる。

ある産経新聞社OBは「麻雀程度は問題ないと思うが、タイミングが悪すぎた」と語った。そのOBによれば産経社内、OBでも意見は分かれているという。『週刊文春』によれば情報を編集部に持ち込んだのは産経関係者とのことだが、先のOBはこう述べる。

「記者同士、仮に同じ部署にいても、隣の記者がいつ誰と何をしているかなんて普通は把握しようがない。しかも在宅勤務を推奨しているこの時期に、『産経新聞関係者』は『自社の記者と黒川氏が賭け麻雀をする』予定を把握していたことになる。そもそも取材源の秘匿を重んじる週刊誌が、わざわざ『産経新聞関係者』と書くのは不自然だ」

こうした声が多かったのか、翌週の『週刊文春』の続報では、産経新聞関係者からもたらされたのはあくまで「黒川と産経記者が賭け麻雀をやっている」という情報だけで、いつどこでという予定については分からなかったことから、文春記者が取材・張り込みをして「現場」を抑えたと明かされており、初報とはかなり違う形の「経緯」を改めて説明している。

■1人の記者としては「取材活動」を否定できない

現役記者・新聞社幹部たちは、記者と取材対象者が「麻雀」に興ずるのをどう考えているのか。筆者がまず注目したのは東京新聞・望月衣塑子記者。日頃ツイッターでの発信を盛んに行っているが、この件についての書き込みは意外にもあっさりとしたものだった。

「#かけ麻雀 の場に司法記者や元記者が参加していた問題への批判を、私たちメディアは自分ごととして真剣に受け止め、これからの取材のありかたを考えなければいけない。権力に近づくことと、緊張感のない馴れ合いや癒着は別物だということを忘れてはならない。」

黒川批判、黒川への処分が軽いとする政府批判は、他者のツイートのリツイートも含め抜かりなく行っているが、記者のスタンスに関しては実に一般論的なコメントと言える。ここに「いつもの望月記者らしさ」が読み取れないのはなぜか。深読みすれば、政治部記者のように政治家に取り入る必要がない社会部のポジションで苛烈な政権批判や官房長官会見でのツッコミを行う望月記者も、1人の記者としては、賭け麻雀はともかく酒席を共にするなどの「取材活動」そのものは否定しきれないのかもしれない。

■「エビデンス? ねーよそんなもん」「え、ないの!?」

もう1人は朝日新聞・高橋純子編集委員だ。政治部次長時代の2016年2月、朝日新聞紙面の「政治間断」欄で「だまってトイレを詰まらせろ」と題する安倍政権批判コラムを書き、世間を騒然とさせたお方だ。

クオリティペーパーを自任する朝日新聞の紙面らしからぬ「妙な味わい」のあるコラムは、読者のみならず社内、OBまで加わっての賛否両論を巻き起こしていると聞く。しまいには著書『仕方ない帝国』(河出書房新社)で「エビデンス? ねーよそんなもん」とブチかまし、その地位を確固たるものとした(ちなみに本書は表紙もえげつない)。

そんな高橋氏、自社と権力が絡んだこの不祥事を前に何を思うのかと心待ちにしていたところ、5月27日に「多事奏論」が掲載された。

まずは軽妙に「アベノマスク」いじりを披露し、後半、話は検察庁法改正案へ及ぶ。最後の1文はこう締められていた。

「コロナ禍という特殊状況下で何らか政治意識が変化しつつあるならば、それをどう現実政治の舞台で表現するか。政党やメディアの踏ん張りどころだ。マージャンしてる場合ではない。うん。自分に言ってる。」

4月末掲載の同欄では「ひとり鏡の前に立つ午前10時48分。カッコいい中指の立て方を、研究してみる」と書いていた高橋氏。中指を立てる練習と麻雀、どちらがよりよい政治・紙面につながるのだろうか。

■潔癖すぎる新聞労連の声明

朝日関係者からもう1人。5月26日、日本新聞労働組合連合(新聞労連)は中央執行委員長・南彰氏の署名入りで「『賭け麻雀』を繰り返さないために」とする声明を発表した。騒動の当事者である朝日新聞の政治部記者だった南氏だから余計に力が入ったのかもしれない。正直「潔癖」な印象を受けた。

「市民はメディアと権力の癒着を感じ取り、黒川氏の問題を愚直に追及してきた新聞記者たちの信頼をも揺るがしています」

記者たち、あるいはメディアへの信頼ということであれば、例えば京都アニメーション放火事件の被害者を、遺族の意向に反して実名報道したことの方がずっと「信頼を揺るがした」と思うが、さらに南氏はこう続ける。

「新聞記者は清濁合わせ呑む取材を重ねてきました。特に、捜査当局を担当する記者は……『取材先に食い込む』努力を続けています。しかし、こうした取材慣行は、長時間労働を前提にしてきた無理な働き方で……育児などとの両立も難しく、結果的に女性が育児を担うことが多い日本社会において、女性の参入障壁にもつながっています」

これもいまいち納得しがたい。取材すべき相手に「濁」な付き合いを好まない人が増えれば、食い込む努力は別の方向に転換せざるを得ないだろう。だが、麻雀や酒の席が得意な女性記者も実在するのであり、この声明が女性記者の活躍を後押しするどころか、彼女たちの貴重な取材機会を奪うことにもなりかねない。

最後は「『賭け麻雀』は市民や時代の要請に応えきれていない歪みの象徴です」としているが、全体の意図を汲めば「賭け」はともかく「麻雀卓」を囲む構図そのものが「古い」とする意図を読み取れる。ではゴルフはどうなのか。釣りならいいのかという話にもなるだろう。世間の声に耳を傾ければ、権力者との会食すら「癒着」になりかねない。

■「濁」な付き合い自体が悪いわけではない

ネット上でも、「酒や麻雀で親睦を深めるなんてけしからん」「権力者と慣れ合って何が取材だ」という反応がある。もちろん、誰とも何のしがらみを持たず孤高、なのに各方面から次々と重要な情報が持ち込まれるような記者がいれば理想的だろうが、あくまでも理想に過ぎない。

「『赤旗』はそんな馴れ合いをせずともタブーなし、スクープ連発だ」との声もあるが、『赤旗』は日本共産党の機関紙である。野党であっても議員は権力者であるうえ、『赤旗』は安倍政権以上の長期にわたる「志位委員長体制」を批判することはない。

賭け麻雀という「濁」な付き合いで情報を取るのは歪であるとするのは記者たちの首を絞めることにもなる。朝日新聞をはじめとする反権力を標榜するメディアが、権力に立ち向かう姿勢をピュアに打ち出す「潔癖売り」をすればするほど、記者のありかたも、あるいは論調も幅が狭くなっていく。「潔癖売り」をするから少々の汚れも必要以上に指弾されることになってしまう。会食批判などもこの流れだろう。もちろん、新聞記者が「ブンヤ」と呼ばれていた時代とは倫理観が違っているのは確かだ。しかし進んで「優等生であれ」とするアピールにはどうしても違和感を覚えるのだ。

■親しき仲にもスキャンダル

それは、この声明に同調圧力のようなものを感じるからでもある。声明にもあるように、これまでは「清濁」併せ呑む取材を重ねて情報を得るのがよい記者だった。鄧小平が言うところの「黒い猫でも白い猫でも、ネズミを捕るのがいい猫」というわけだが、今後は「白い猫としてネズミを捕る」ことが求められることになる。本人が白い猫であろうとする分には構わないが、「記者たるもの『白い猫』たれ」と同業者に求めるのはどうなのか。記者の倫理観の「清」と「濁」をそこまで峻別できるものだろうか。鄧小平はこうも言っているという。

「窓を開けば、新鮮な空気とともにハエも入ってくる」

つまるところ「文春砲」という呼び名が広まるスクープ連発期に『週刊文春』の編集長を務めた新谷学氏(現在は『週刊文春』編集局長)のモットーに行き着く。

「親しき仲にもスキャンダル」

あくまでも取材をするための手段として権力者なり取材対象者に取り入るのであって、親睦を深めることを目的とするのではない、ということだ。近づく材料は麻雀でもなんでもいいが、油断すれば即座に刺されるという緊張感が、記者の側にも権力者の側にも必要なのだろう。

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梶井 彩子(かじい・あやこ)
ライター
1980年生まれ。大学を卒業後、企業勤務を経てライター。言論サイトや雑誌などに寄稿。

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(ライター 梶井 彩子)

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