コロナ危機は食べて全国を応援「ご当地」絶品缶詰ベスト5
プレジデントオンライン / 2020年6月3日 15時15分
■開けるだけでたちまち旅行気分に
みなさん、缶にちは! 缶詰博士の黒川勇人です。
僕は幼時から缶詰大好き人間で、人生の半分以上を缶詰とともに過ごしてきました。缶詰の何がそんなにいいかと申せば、まず、そのまま食べられるという圧倒的手軽さ。そして、手軽なのに世界中の料理が詰まっているということ。
それがすごい!
日本は、世界でも珍しいほど缶詰文化が深くて、各地に「ご当地缶詰」が存在している。今回は、それらの中から絶品といえる5缶と、オマケで海外の缶詰1缶を紹介申し上げたい。まだまだ自由に旅をするのが難しい中でも、全部お取り寄せ可能だから、開けるだけで旅行気分が味わえますぞ!
■北九州小倉の「角打ち」文化に浸る旅
宇佐美商店/百年床のぬか炊き缶詰
北九州市小倉といえば、酒屋の一角で酒が飲める「角打ち」文化が残る土地だ。そしてマンガ好きにとっては松本零士氏ゆかりの地でもある。JR小倉駅新幹線口には鉄郎とメーテル、キャプテン・ハーロックの銅像があるんですぞ!(興味のない人はスルーしてください)
その小倉駅から南に向かって歩くこと7分。掘り割りのような神獄川沿いに、活気溢れる商店街が広がる。大正時代からあるという「旦過(たんが)市場」であります。鮮魚に鯨、総菜とさまざまな店が連なっていて、店の奥をのぞけば裏手に神獄川の水面が見える。水運が盛んだった頃は、船で荷を運んできて店の裏手で引き上げていたそうな。
歴史を肌で感じられるこの市場で、三代にわたってぬか床を守ってきたのが「宇佐美商店」。小倉には青魚をぬかで煮る郷土料理「ぬか炊き」があり、同店は2019年にさばのぬか炊きを缶詰化(!)。以来メディアで取り上げられ、話題になっているのだ。
さっそく3缶セットを取り寄せて、スタンダードな味付けの「本味」を開けてみた。
匂いも見た目もさば味噌煮にそっくりで、缶汁を舐めてみると甘辛く、ほんのり苦みがある。その味が中まで沁みたさばは、背身も腹身も柔らかくジューシー。脂の乗りまくったノルウェーさばを使っているのだ。
ひと口頬張れば、目に浮かぶのはあの旦過市場──。そして、白ごはんがぐんぐん進んでしまうという、誠にいけないさば缶であります。
■いわき名物、生よりうまい!「うに貝焼き」がぎっしり
大川商店/うに缶
福島県は北海道、岩手に次いで3番目に広い県だ。ゆえに天気予報は県をタテ3つに割って解説される。太平洋側が浜通り、中央盆地が中通り、西側が会津地方であります(かなりざっくりしているが、まあまあ当たる)。
中通りで生まれた僕にとって、浜通りは憧れだった。親戚が集まれば海沿いのいわき市からかつお1尾を取り寄せ、皮付きのまま刺身にした。新鮮で臭みがまったくないかつおは素晴らしくウマく、
(浜通りの人は毎日こんなご馳走を食べているのだ)
と妄想した。
そのいわき市の知られざる名物が、「うにの貝焼き」。ほっき貝の大きな殻に、むきたてのうにをたっぷり盛りつけ、石窯などで蒸し焼きにするという豪快な料理だ。
「うにに火を通すなんてもったいない」と思う人もいるだろうが、味はスーパーエクセレント。加熱によって水分が抜け、うまみが濃くなるのであります。福島出身の発酵学者・小泉武夫氏も「生より美味しい」と豪語しているくらいだ。
そんないわき市にある鮮魚店「大川魚店」が販売する「うに缶」は、うにの貝焼きそのものの味がする。まるで栗のように甘くほくほくしており、舌ですり潰すと芳醇な海の味が広がる。
毎年うにが獲れる時期から売り始め、売り切ったら販売終了。翌年の製造までおあずけである。むらさきうにを使った「うに缶」はどちらかといえば上品な味で、「赤うに缶」は濃厚そのもの。
でも赤うに缶は希少で、年間数十缶しか製造できないらしい。もしも買えたら、あなたは幸運であります。
■干し大根の生産量日本一・宮崎県のたくあん缶で焼酎が進む進む……
道本食品/宮崎の焼酎に合う割干し大根漬
「どげんかせんといかん」
こう言ったのは、元宮崎県知事・東国原英夫氏。実際の宮崎弁はちょっと違うらしいが、それはこの際おいといて。同じ言葉を言ったのは、宮崎市田野町にある漬物製造販売「道本食品」の社長、道本英之氏であります。
田野町は干し大根の生産量が日本一で、晩秋になると大根を干すための巨大なやぐらが立てられる。そこに漬物専用品種の大根を干し、寒風と太陽にさらせば、水分が抜けてうまみが増した干し大根ができる(実際は、雨が降ればシートを掛けたり、寒すぎる日には凍結を防ぐためにヒーターをつけたりと大変な作業)。
しかし近年は、青首大根を脱水加工して造る即席たくあんが市場を席巻している。安価だからだ。これに道本社長は危機感を抱いた。
本物のたくあんが売れなくなれば、生産者の生活が立ち行かなくなる。干し大根という文化も消えてしまうかもしれない。そこでたくあんを缶詰化して、より手軽に買ってもらおうと考えた。
とはいえ同社は漬物会社。缶詰を手掛けるのは初めてのことで、殺菌のための加熱でたくあんが“煮大根”になったり、逆に加熱不足で殺菌が不十分だったりと失敗の連続だった。でもでも「どげんかせんといかん!」とあきらめず続けた結果、ついにたくあん缶が誕生したのだ。快哉!
「宮崎の焼酎に合う割干し大根漬」も、そのバリエーションのひとつ。
たくあんよりもさらに水分を抜いた割干し大根を甘い醤油に漬けたもので、味もウマいが食感がすごい。噛むと「がりっ」と快音が響くのだ。缶詰でこの歯応えが出せるのは驚くほかなく、従来の缶詰を超えた「ビヨンド缶詰」とも呼べるものであります。
■グルメ王国・宮城の鯨大和煮缶の「頂点」に君臨する逸品
木の屋石巻水産/長須鯨須の子大和煮
宮城グルメといえば牛たんに笹かま、萩の月。ほかにもふかひれ、牡蠣があり、金華さばがあり、極上寿司ネタの閖上(ゆりあげ)赤貝もある。美味が揃う土地なのだ。
忘れてならないのは鯨であります。顔のような形をした宮城県の、あご付近にあるのが石巻市。捕鯨基地でもあり、そこで水揚げされた鯨肉は県内に行き渡る。僕も少年期は宮城で過ごしたので、鯨のステーキや刺身、カツなどは大好物だった。
その石巻市にある「木の屋石巻水産」は、伝統的に鯨缶詰を造り続けてきた。鯨缶は他社も造っているが、木の屋のものは原料が違う。肉が分厚くて大きいのだ(!)
10種類近くある同社の鯨缶の中でも、「長須鯨須の子大和煮」が最上等品。赤身の間にゼラチン質が網目状に入り、その柔らかさは噛むのに歯がいらないほど。口中でうっとり溶けていき、喉の奥に消えていく。
かと思えば赤身部分にさくさくとした歯触りもある。味付けも秀逸で、最初に甘さがあり、そのあとで醤油のしょっぱさが穏やかに顔を出す感じ。かつての甘辛いばかりの大和煮とはまるで違うのだ。
缶底にたっぷり入った千切り生姜もいいアクセントになっていて、鯨肉特有の臭みはほとんど感じられない。同社の鯨缶に対する熱意がひしひしと伝わってくる佳作であります。
■島根のイノシシ缶詰で本格ジビエ・デビュー!
おおち山くじら/イノシシ肉のスパイス煮込み
結論から申し上げれば、このイノシシの缶詰は誠に美味。肉に臭みがないし、8種類のスパイスと6種類の香味野菜を組み合わせたスープが重層的で、素晴らしい仕上がりだ。
酸味、辛味、甘味のバランスがよく、飲み込んだあとにはピーマンの上品な苦みが余韻を残していく。一流シェフが缶修(監修)したレシピだそうな。
メインのイノシシ肉は噛み応えがあり、例えて申せば牛すじ肉の煮込みから脂部分を取り去った感じ。繊維に沿ってほろほろと崩れ、その合間に前述したスパイス&香味野菜スープが沁みこんでいる。ゆえに、肉料理にしては後味すっきり。スパイシーなミディアムボディの赤ワインが欲しくなる。
ここ10年ほどでジビエ料理もだいぶメジャーになったけれど、いざ食べようと思ってもなかなか食べられない。ジビエ料理店の数が圧倒的に少ないのだ。
一度は食べてみたいと思いつつ、月日が流れてしまったあなた。いっそのこと、この缶詰でデビューするのはどうでしょう。スープが美味しいのでバゲットを用意することをお忘れなく(バゲットをスープに浸しながら食べる)。
追記。この缶詰を食べたあとは、しばらく身体がぽかぽかしたままだった。果たしてイノシシの滋味がなせる技か? それともスパイスのせいか。
■おまけ・イギリスの朝食は缶詰で始まる
ハインツ/ベイクドビーンズ缶
輸入食品店で時々見かける「ベイクドビーンズ」缶。あれがずっと謎の存在でありました。中身は白いんげん豆をトマトソースで柔らか~く煮込んだもので、すぐに「ベイクドなのに焼いてないじゃん」と突っ込みたくなる。
砂糖が入っているので甘く、そのわりに塩気が少ないから全体がぼやっとした味わいだ。おかずにしては甘すぎるし、おやつにしては料理感が強すぎる。で、結局タバスコを振りかけたり、ベーコンを加えてポーク&ビーンズ風にしたりと、自分でもよく判らない料理にして食べていた。
しかしロンドンに取材に行って、ようやく本式の食べ方が判明したのであります。その名は「ビーンズ・オン・トースト」。
これがそのビーンズ・オン・トーストだ。かりかりに焼いたトーストにバターをたっぷり塗り、上から温めたベイクドビーンズ缶を掛けるという、ごく素朴なものだった。写真のように目玉焼きを加えたり、ソーセージを添えて食べる人もいる。
ロンドン在住の友人によると、英国ではこの料理が朝食の大定番だそうで、自宅でもお店でも食べるという。中には365日、毎日食べ続ける人もいるらしい(それはどうなの?と思うが、妙なこだわりを持つのが英国人っぽい)。
かりかりトーストと柔らかい豆という真逆の食感がなかなかよく、例えて申せばあんかけかた焼きそば。ぼやっとした味は優しさに変わり、朝食にうってつけなのであります。たまにはこんな朝食で英国気分を味わうのもいいもんです。
■ご当地缶詰の魅力は「未知への冒険」&「過去への邂逅」
ご当地缶詰には2つの魅力がある。1つは未知への冒険で、もう1つは過去への邂逅であります。
未知への冒険はすなわち、行ったことのない土地の食文化を妄想しながら味わうこと。そして過去への邂逅は、訪れたことのある土地を缶詰を食べることで思い出すこと。
今回ご紹介した5缶+1缶は、どれもその土地の食文化が色濃く出ているものであり、かつ絶品であります(最後の1缶はネタですが)。みなさんもぜひお取り寄せして、旅行気分を味わってください。
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缶詰博士
1966年、福島県に生まれる。缶詰界の第一人者として日本はもちろん世界50カ国の缶詰もリサーチ。缶詰の魅力とともに、それにまつわる文化や経済、人間模様も発信している。著書には『日本全国「ローカル缶詰」驚きの逸品36』『缶詰博士が選ぶ!「レジェンド缶詰」究極の逸品36』(以上、講談社+α新書)など多数。
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(缶詰博士 黒川 勇人)
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