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天才政治学者イアン・ブレマーが断言「コロナ恐慌"人類10大リスク"に備えよ」

プレジデントオンライン / 2020年6月13日 11時15分

世界のリーダー不在の状況を「Gゼロ」と形容し、そのリスクを指摘してきた国際政治学者のイアン・ブレマー氏。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は世界、そして日本にどのような影響をもたらすのか。ニューヨーク在住のジャーナリスト肥田美佐子がリモートで独占インタビューを行った。

■コロナパンデミックは生涯で最大の危機だ

Q:ユーラシア・グループは2020年3月19日、コロナ危機を受け、20年の年初に発表した「世界10大リスク」をアップデートしました。同リポートの見直しは初めてのことだそうですね。

A:今回のパンデミックは、私たちの生涯で最大の危機だ。20年いっぱい、この話でもちきりだろう。だから、コロナ危機というレンズを通して、10大リスクを見直す必要があった。1位に挙げた米大統領選も2位の米中デカップリング(分断)も、3位の米中関係も、コロナ危機の影響でリスクが著しく高まる。

まず、1位の米大統領選だが、コロナ危機で選挙プロセスの非合法性を問う声が高まるだろう。年初に発表したリポートでは、勝者がトランプ大統領でも民主党候補者でも、特に僅差の場合、投票結果の正当性をめぐる訴訟合戦が起こり、最終結果が長引くと予測していた。20年11月の投票日までに危機が収束する可能性は低く、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)も続いているだろうから、投票率も下がる。

また、景気刺激策の規模を考えると、米政府が一時的に機能不全に陥る可能性があり、その結果、選挙結果の正当性が問われるリスクが高まる。

こうした点に加え、ウクライナ疑惑をめぐるバイデン前副大統領への調査の政治問題化や、ロシアなど他国が米大統領選に干渉してくる可能性という、もともとのリスク要因がある。コロナ危機で米大統領選のリスクが大幅に高まるのは明らかだ。

次に、2位に挙げた「グレイト・デカップリング(大分断)」だが、Gゼロ時代に始まった米中間の半導体やクラウドコンピューティング、5Gといった戦略的技術分野の脱グローバル化が、コロナ危機で製造業・サービス分野にも拡大する。グローバルな「ジャストインタイム」のサプライチェーンから、万が一に備えて国内で生産する「ジャストインケース」のサプライチェーンへの移行が進むだろう。

国際政治学者 イアン・ブレマー氏
国際政治学者 イアン・ブレマー氏

その結果、何が起こるか。それは、さらなる脱グローバル化とナショナリズム強化による輸出規制。そして、ベイルアウト(公的資金による救済)と引き換えに自国民を雇うことなどを企業に求める、融資条件の強化だ。こうしたことが分断に拍車をかける。

3位の米中関係だが、20年1月に発表したリポートでは、分断による関係の緊迫化に伴い、国家安全保障や自国の影響力・価値観をめぐる対立が顕在化し、経済制裁や輸出規制などが続くと書いた。コロナ危機をめぐる両国間の不信感も問題だ。トランプ政権は、「ウイルスが武漢の研究所から発生した」として中国を非難している。米議会の情報特別委員会が調査を行い、公聴会が開かれるだろう。米司法省と中国政府の応酬が続く。

このように、米大統領選や米中デカップリング、米中関係の緊迫化という3大リスクは、コロナ危機により、その緊急性が高まる。

■コロナ拡大は習政権にどう影響するか

Q:中国は、20年第1四半期(1~3月)の国内総生産(GDP)が前年同期比で6.8%減となりました。一党制の政権安定には経済の高成長が必須だといわれますが、習政権が不安定化するリスクはありますか。

A:いや、不安定化するとは思わない。中国経済が今回の危機を早くも脱したことで、むしろ国民の愛国心は高まっている。

初動については怒りや不満の声が多かったが、あくまでも武漢に限った話だ。北京や上海、広東省など、他の地域では大流行に至らなかった。米欧の危機対応のまずさが浮き彫りになる中、中国国民の間では、自国への誇りが高まっている。中国にとって、経済の立て直しは他国よりも容易なはずだ。

Q:あなたが日本経済新聞に寄稿した「世界新秩序への3つの潮流」(20年4月16日付)では、グローバルリーダーとしての役割から手を引くという米国の動きがコロナ危機で加速したと指摘されています。「Gゼロ」時代の流れが危機で顕在化し、脱グローバル化やナショナリズム、政治超大国としての中国の台頭という3つの潮流が大きな影響力を持つ、と。

A:まず、脱グローバル化だが、米国はテックや経済、軍事、外交など総合的な意味で、世界で唯一の超大国だ。しかし、もはや世界をリードしておらず、「世界の警察官」としての役割に二の足を踏んでいる。国際貿易の立役者やグローバルな価値の推進者としての役割も望んでいない。

一方、欧州は米国より脆弱で、エリア内の分断も深い。ブレグジット(英国の欧州連合離脱)の影響は言うまでもないが、コロナ危機でも、イタリアなど欧州南部の国がもっと支援を必要としているのに、それが得られるかどうかは不透明だ。ロシアは原油価格の急落にあえいでおり、米国を非難している。翻って中国は、そうした国々より、はるかにうまく危機を脱したが、米国の息がかかった機関を敬遠している。中国による発展途上国への緊急支援金や人道援助は限られたものになるだろう。こうした、もろもろの点を考えると、グローバルなリーダーシップの不在が浮き彫りになる。

また、経済格差や政治的なエスタブリッシュメント(既成勢力)、グローバル化への怒りがナショナリズムにつながる。10大リスクの箇所で述べたが、今後、脱グローバル化が進み、ナショナリズムが高まる。

Q:あなたがコロナ危機以降に会話した米国の最高経営責任者(CEO)のほぼ誰もが、今後10年間は人員やオフィススペースを削減して効率性を高め、儲けを出さねばならないと言っているそうですね。米国の産業や労働市場の将来をどう見ていますか。

A:脱工業化革命が進み、テック企業が、これまでデジタル経済とは無縁だった企業を「破壊」すると予測している。企業は深刻な不況を乗り切るために、成果を上げていない部署などを閉鎖し、生産性の向上にまい進する。多くの企業が破綻を余儀なくされる。なにしろグローバル経済の遮断という未曽有の事態が起こったのだから。

その結果、米欧など、多くの国で格差が拡大する。米国ではテック企業による破壊のペースが加速し、非常に多くの人が労働市場からはじき出される。多くの仕事が消え、3~6カ月などのスパンではなく、長期的かつ構造的失業が起こるだろう。憂慮すべき事態だ。

目下のところ、知識集約型経済は安泰だが、そうしたスキルを持っていない人たちが再雇用されるまでには時間がかかりそうだ。

ニューヨーク市は、パンデミックの震源地として大きな打撃を受けた。だが、世界で最もグローバルな街であり、知識経済で働く人たちが集中している。そうした点を考えると、コロナ危機後の米国経済は、ニューヨークのような都市と他の場所との格差が開くだろう。

一方、都市内での格差も拡大し、サンダース上院議員のようなポピュリズムが台頭する。大統領選の民主党候補者に選ばれる見通しのバイデン前副大統領は、政策の左傾化を迫られる。

自由貿易や主流メディア、銀行など、企業のCEOに対する怒りが膨らみ、社会主義に傾く人が増えるだろう。大半の米国人にとって、資本主義と議会制民主主義は(失業や不況への)答えにはならない。世界の民主主義国で、ポピュリズムや過激主義、反体制的な風潮が強まるだろう。

■新興国はまもなく金融危機に襲われる

Q:パンデミックが新興国に及ぼす影響への懸念を再三、指摘していますね。

A:新興国は医療制度が十分でなく、経済再建のすべも限られている。国際通貨基金(IMF)からの緊急支援も十分に受けられない。2001年に財政破綻し、コロナ危機で国債の債務不履行の可能性が出てきたアルゼンチンのような金融危機に見舞われる新興国も出るだろう。人口密度が低い国が多いため、感染による死者はさほど増えないかもしれないが、経済への影響は極めて深刻だ。

そもそも時代が脱工業化革命へと向かう中、過去20年にわたって拡大してきた新興国の中流層が打撃を受けつつある。ブラジルやインド、トルコなどの中流層が、これまでのような生活を送れなくなるのが大きな問題だ。

Q:金融危機と今回のパンデミックで最も違う点は米国のリーダーシップの有無だと、あなたは指摘しています。パンデミックで加速するGゼロ時代の潮流について、最大の懸念は何ですか。

A:大きな危機に対応することができないという点だ。気候変動や脱工業化革命、人工知能(AI)、破壊的テクノロジー、パンデミックなど、山積する問題に立ち向かうには、世界の国々の協調が必要だ。しかし、実際には、そうした国々が敵対し合っているため、人類の未来にとって、はるかに危険な時代になりつつある。

その結果、大きなリスクを被るのは、政情が不安定な国だ。日本の経済社会はうまく機能しており、不安定とは無縁だ。革命も戦争も起こりそうにない。とはいえ、破壊的テクノロジーやパンデミック、グローバルな経済的遮断による影響は免れられない。

■パンデミックは、日本の将来にどのような影響を及ぼすか

Q:米中関係の緊迫化が増すと、日本にどのような影響が及びますか。そして、日本はそれに対し、どのように対処すべきでしょうか。

A:米中関係がいまより厳しいものになれば、日本にとって実に危険な状況になることは明らかだ。言うまでもなく、日本は米国の側に付いているが、中国との関わりも非常に深い。安倍晋三首相はコロナ危機の景気刺激策を通し、日本企業が中国市場への依存度を減らせるよう、すでに動き始めている。

安倍首相のコロナ対応には一定の評価を示したブレマー氏。安定政権がもたらす経済的な効能もあるという。
安倍首相のコロナ対応には一定の評価を示したブレマー氏。安定政権がもたらす経済的な効能もあるという。(毎日新聞社/AFLO=写真)

だが、経済やテクノロジーの分野で中国の重要性が高まる一方である点を考えると、日本にとって、米中関係の緊迫化はダウンサイドのリスクになる。とはいえ、日本の内政は心配していない。日本は非常に安定した国だ。

例えば、日本政府が目指す、AIやロボットを駆使したデジタル変革による未来社会「Society 5.0」というコンセプトを見ると、日本は、脱工業化革命が社会にもたらす問題にうまく取り組んでいることがわかる。

Q:パンデミックは、日本の将来にどのような影響を及ぼすと思いますか。

A:コロナ危機が米国と日本に与える影響は異質なものだ。米国国内は、社会の分裂や脆弱性、政治の二極化のせいで、日本国内よりはるかに分断されている。パンデミックが米国に引き起こす問題は、国内に関するものが多い。

一方、日本に関する懸念は、国内問題よりも、地政学的なものが大きい。パンデミックによる影響も、そうだ。

Q:日本のコロナ危機対策は、歴史的理由から米国に比べて弱く、措置の多くは強制力に欠けるという指摘もあります。どのように見ていますか。

A:緊急事態宣言の発令時期など、日本のコロナ危機対策が後手に回ったのは確かだ。しかし、日本は非常に同質性の高い社会であり、マスクを着けることなどにも市民がまじめに取り組んでいる。規制が強い欧米社会に比べ、自粛せずに外出する人が多いとしても、日本の状況には、そこまで大きな懸念は抱いていない。

Q:トランプ大統領は、世界保健機関(WHO)のコロナ危機対策について、中国への対応が甘いと批判しています。どのように見ていますか。

A:日ごろから言っているが、いまはWHOを批判している場合ではない。米中の政治的機能不全がなければ、死者も経済的損失も、はるかに少なくて済んでいたという認識だ。

アントニオ・グテーレス国連事務総長や前IMF専務理事のクリスティーヌ・ラガルド氏(現欧州中央銀行総裁)など、多くの専門家と話したが、必要なコロナ危機対策の取り方や国際的なリーダーシップの在り方については同じ見解だった。世界の国々が協調すれば、医療物資や医療従事者のグローバルサプライチェーンを築ける、ということだ。

そもそも中国での新型コロナウイルス感染拡大をもっと早く知りえていたら、武漢での拡大時点で封じ込めることができていたら、こんなことにはならなかった。ただ、リーダーシップの不在により、パンデミックになってしまった。中国が情報を隠蔽したことも大きい。一方、米国では、各州の知事が危機対策を競っており、欧州でも、国同士が張り合っている。

これは、まさに主導国が存在しない「Gゼロ」時代の危機であり、グローバルな危機にほかならない。実に不幸なことだ。

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肥田 美佐子(ひだ・みさこ)
ニューヨーク在住ジャーナリスト
東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、単身渡米。米メディア系企業などに勤務後、独立。米経済や大統領選を取材。ジョセフ・E・スティグリッツなどのノーベル賞受賞経済学者、ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェル、マイケル・ルイス、ビリオネアIT起業家のトーマス・M・シーベル、「破壊的イノベーション」のクレイトン・M・クリステンセン、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長など、米(欧)識者への取材多数。元『ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』コラムニスト。『プレジデントオンライン』など、経済系媒体を中心に取材・執筆。『フォーブスジャパン』『週刊東洋経済』『経済界』に連載中。マンハッタン在住。

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(ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田 美佐子 インタビュー・構成=肥田 美佐子 撮影=Richard Jopson 写真=毎日新聞社/AFLO)

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