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橋下徹「日本は英米加豪の中国非難声明に参加するべきだったのか」

プレジデントオンライン / 2020年6月10日 11時15分

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/Gwengoat

英米などによる中国非難声明に発展した香港・国家安全法問題。中国非難声明に日本が参加しなかったことの是非について国内では議論が起きているが、他国の行動に批判を加えるには、同じ理由で自国が批判されないかをきちんと考えておかなければならない。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(6月9日配信)から抜粋記事をお届けします。

(略)

■香港問題の由来を《フェアの思考》で考えてみるとこうなる

中国が香港に国家安全法を導入する方針を示したことに関して、5月28日、米英加豪の4カ国が、これまで香港に認められてきた「一国二制度」の枠組みに反し、香港市民の自由を脅かすものだという内容の非難声明を発表した。

その後、日本もこの共同声明に参加するように誘われていたが日本は拒否したと共同通信が報じたことで、日本国内の議論が一気に盛り上がった。「中国許すまじ」の政治家や民間人たちが安倍政権のこの対応を批判したが、自民党の政治家からは「拒否した事実はない」と共同通信の誤報を主張する声も出てきて、この議論はなお続いている。

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メルマガ前号から引き続いて、この問題をフェアに考えてみたい。

(略)

イギリスは、清からの価値ある輸入品を麻薬であるアヘンによって購入し、暴利を貪っていたのである。暴力団やマフィアも真っ青の巨悪行為である。

当然、清は反発する。アヘンの蔓延によりアヘン中毒者が増加し、街は頽廃する。そこで清は、イギリス商人の保有するアヘンを没収・焼却したが、1840年、それに怒ったイギリスとの間で戦争になった。

ちなみにある文献によると、戦争直近では、清の国家歳入の80%相当の銀が、アヘンの代金として国外に流出していたとのことである。

最終的に戦争はイギリスの勝利に終わり、1842年に南京条約が締結され、清はイギリスに対して多額の賠償金を支払うとともに、香港までを渡すことになった。

(略)

そして1984年の中英共同声明によって、香港は1997年に社会主義体制下の中国へ返還されることになったのである。

しかし、イギリス領であった香港は資本主義体制がとられており、この両者のバランスをとるために、香港は返還後50年間は社会主義体制の中国の主権に服するが、資本主義体制は守られるとの合意がなされた。これが香港に一国二制度が導入された経緯である。

■イギリスの譲歩を引き出すため中国が折れたポイント

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1984年の中英共同声明が一国二制度を約束している以上、それが国際的な約束だ! と単純に叫ぶ者は、一から法の支配と法治主義というものを勉強した方がいい。

法の支配・法治主義とは、定められたルールに盲目的に従うものではない。それは「形式的法治主義」というものである。「悪法も法なり」という考え方で、権力が決めたものに国民は何が何でも絶対的に従わなければならないという思想で、そこに国民の意思は重視されない。まさに権力者視点の思考といえる。

今はこんな法治主義を唱える者は、法律の専門家には存在しない。

ルールの中身をしっかりと考えて、「中身に合理性があるルールに従っていく。それが間違っているなら変えていく」という「実質的法治主義」が当然の法理となっている。

ということで中英共同声明に一国二制度が定められていることはひとまず横に置き、「そもそも一国二制度というものに合理性があるのかどうか」を検討しなければならないが、それはどうか。

合理性なんかあるわけがない。

(略)

本来なら一国二制度など認められないはずである。中国が香港の主権を取り戻すのに、その主権に制約を付けられることがおかしい。

ところが中国はそれを飲んだ。そうしなければ話し合いによって、香港の主権を取り戻すことができなかったからだ。

イギリスは当初、返還期限が決まっていた新界(イギリスの永久領土となっていた香港島や九龍半島に隣接する地域)のみの返還を検討していたところ、中国の当時の最高指導者・鄧小平氏は、「武力行使をちらつかせながら」イギリスに対して強烈に香港の返還を主張した。

これが外交交渉というものである。

イギリスも折れざるを得なかったが、中国も折れた。それが、本来は社会主義体制の中国の主権に服する香港について、資本主義体制を認め、中国の主権の行使に制約をかけるという一国二制度である。

この中国の政治判断は大したものだし、それは民主国家ほど国民の意見に敏感にならなくてもいい中国の体制にもよるものだったと思う。そもそも台湾に完全なる主権を及ぼしたい中国は、台湾に一国二制度を適用し中国の主権に服させるために、まずは香港から一国二制度の第一歩を踏み出すという戦略もあったのであろう。

それにしても、中国のこのような政治判断は見事なものだったと思う。

(略)

■もし北方領土に「一国二制度」が適用されたら日本はどう行動するか

では仮の話として、北方領土の返還を進めるために、まずは不十分な主権でもいい、ロシアの制度を50年間認めてもいいという一国二制度を認める判断を日本がやったとしよう。

ロシアのプーチン大統領は、北方領土を日本に返還した場合に、そこにアメリカ軍が配置されるのではないか? という懸念を示している。

北方領土に50年間ロシアの制度を認めるなら、そのような懸念も晴れる。

ここまでの大胆な政治判断を日本の国会議員がやれるとは思わないが、もしそれをやってのけ、とりあえず北方領土の主権が日本に戻ってきたとして、日本側は、この一国二制度を当然のことと考えるだろうか?

そんなことはない。領土返還のために渋々了承したものだと考えるに決まっている。隙があれば、一国二制度など早く終了して、北方領土に日本の完全なる主権を及ぼしたいと考えるはずだ。

(略)

仮に日本が北方領土について一国二制度を認めたとしても、香港騒動と同じような隙が生じれば、中国と同じようなことをするだろうし、それをしなければ、お人好しというかバカそのものだ。日本の国会議員は、そこまでお人好しでバカなのか?

さらに、日本とロシアの間で、日本が渋々認めた一国二制度に関し、他国がとやかく言ってきた場合に、日本の国会議員たちはどうするのか?

たとえば北方領土について一国二制度を日本有利に変容するチャンスが到来し、日本があの手この手を尽くす試みをしたとする。

そうすると、もちろんロシアからは、「一国二制度違反だ!」「約束違反だ!」という主張が出るだろう。

そのときに、中国や韓国までもが、「日本はロシアとの約束を守れ!」と言ってきたらどうするのか?

今、「中英共同声明を守れ!」と叫んでいる日本の国会議員に限って、このようなときに「中国と韓国は、日ロの問題に口を出すな!」と叫ぶだろう。

これこそがアンフェアの典型だ。そういう態度振る舞いはかっこ悪いことだと思わないのかね。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

(略)

それでも、日本は、中国に向けてメッセージを発する必要がある。ただし、それは中国を動かすためのものではなく、かつ国内向けのポーズのためのものでもない。

それは今後、日本が、日本の主権の行使をするにあたり、諸外国から口を挟まれないようにするためのメッセージだ。まさに日本の主権を確保するためのメッセージ。

それはフェアの思考から、「憂慮する」対象を明確化することによって導かれるものだ。「香港情勢に憂慮する」という抽象的メッセージではクソの役にも立たない。

(略)

(ここまでリード文を除き約2800字、メールマガジン全文は約1万200字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.203(6月9日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【実践版 フェアの思考(2)】英米などの非難声明で議論沸騰! 中国「香港問題」を北方領土問題に置き換えて考えてみる》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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