ハリー杉山「中国語を学びたいなら北京のタクシーに乗るのがいい」

プレジデントオンライン / 2020年6月23日 11時15分

タレントのハリー杉山氏 - 撮影=原貴彦

外国語で自分の意見を主張するにはどうすればいいか。タレントのハリー杉山氏は「北京留学時代のタクシー運転手との会話が最も勉強になった」という。イーオンの三宅義和社長が、そのわけを聞いた――。(第2回/全3回)

■「文字を打ち込む父の背中とウイスキーの香り」から伝える仕事へ

【三宅義和(イーオン社長)】ハリーさんは現在モデル、俳優、パーソナリティなど、多方面で活躍していらっしゃいますが、子供のころから芸能界に憧れがあったのですか?

【ハリー杉山(タレント)】僕の活動の根本にあるのは「何かを伝えたい」という思いです。

僕の父(ヘンリー・スコット・ストークス。元『ニューヨークタイムズ』東京支局長)は、ジャーナリストとして1964年に日本に来ました。子供のころの記憶を辿ると、タイプライターに向かってひたすら文字を打ち込む父の後ろ姿をよく覚えています。夜の12時くらいになっても書斎からガチャガチャと音が聞こえてきて、かすかにウイスキーの香りがする。「ああ、おやじ、今日もめちゃくちゃ頑張っているな」と。そういう記憶です。

【三宅】絵になりますね。

【ハリー】あと当時は『ニューヨークタイムズ』のFAX版があって、毎日夕方になると自宅のFAXに英語の記事がブワーっと届くんです。そういう環境で育ったので、「ジャーナリストって大変そうだけどかっこいいな」という感情は自然と芽生えました。

そこから父が書いた三島由紀夫の伝記を読んでみたり、彼が韓国の光州事件で体験した出来事の話を聞いたり、父親の紹介でいろんな方と直接会ったりしながら、「伝える」という仕事に就きたいと思うようになったのです。

■僕の仕事は、ジャーナリスト

【三宅】では、ジャーナリストになる道も考えたのですか?

タレントのハリー杉山氏
撮影=原貴彦

【ハリー】実は僕、肩書きはタレントですけれども、自分のことをジャーナリストとも思っています。自分が書くコラムとか、SNSの投稿とか、本日のようなメディアの取材を通して自分の意見を表に出すことに対し、躊躇はまったくありません。

そのきっかけを与えてくれたのもやはり父親です。僕が自分のキャリアで迷っていた時期に、「書くのもいいけど、カメラの前で話して伝えることも真剣に考えてみればどうだ」と言われて、たしかにそうだよなと。

【三宅】ちなみに子供のころはお父様と一緒に記者会見に参加されていたと伺いましたが。

【ハリー】そうなんです(笑)。父が外国特派員協会の会員だったので、いろんな方々の記者会見に連れていってもらいました。父が手を上げて指名されると「手を上げているのは私ではなく、隣のジャーナリストだ」と言って、僕のことを指す。するとそこには子供がいるので笑いがひとつ取れる。毎回「やめてくれ!」と思っていたんですけど(笑)。

■クリティカルシンキングは、批判することが目的ではない

【三宅】前回、パブリックスクールで学んだことのひとつとして、「他人に頼らずに一人で考える力」ということを挙げられていました。これは別名、クリティカルシンキング(批判的思考)ということだと思います。しかし、日本は相変わらず同調圧力が強く、クリティカルシンキングをどう養うかが課題です。この辺りはどうですか?

【ハリー】さすがに多様化がこれだけ進んでいるので、昔と比べたら日本人もよりクリティカルに考えられる時代になってきていると思います。ただし、それを鍛える方法は討論する以外にないと思います。たとえば「納豆は大粒派か小粒派か」みたいな議論は誰でもできますよね。では、なぜそのテーマが政府の政策になったとたん、建設的な議論ができなくなるのか。

【三宅】だいたい感情論か、「いいか、悪いか」の二元論に流れますからね。

【ハリー】ですよね。クリティカルシンキングの「クリティカル」は、日本語では「批判的」と訳されることもあって、人を蹴落とすネガティブなイメージが強い。しかし、クリティカルシンキングとは、お互いを「批評しあって」、その結果、議論を向上させるという意味合いのものだと思います。でも、日本ではジャーナリズムを含め、「お互いを批評しあう」経験をあまり積んでいません。

【三宅】クリティカルシンキングは日本のジャーナリズムに足りませんか?

【ハリー】もちろん、真っ当にジャーナリズムを追求されている方もいらっしゃいます。しかし、政府関係者の記者会見のあとに記者クラブの顔なじみのメンバーがノート片手に集まって、「さっきなんて言ってた?」という具合に発言内容のすり合わせをするような光景をジャーナリズムと呼んでいいのか、とは思いますよね。

■北京留学の衝撃「顔面に向かって100%訴えてくる」

【三宅】自分の意見をはっきりと主張することは昔から得意だったのですか?

【ハリー】パブリックスクールで鍛えられたこともありますけれど、実は北京に1年留学した経験も大きいです。目的は語学留学だったわけですが、いざ現地に飛び込んでみると、世界にはいろんな文化、いろんな人種の人がいて、考え方も人生の歩み方も人それぞれなんだなとつくづく思いました。

【三宅】中国はかなりストレートな物言いをされる方が多いですからね。

【ハリー】顔面に向かって100%訴えてくるような言い方で、よく言えばわかりやすい。悪くいえば無礼。とくに僕が育った日本もイギリスも伝え方が婉曲的ですから、とにかくそこが衝撃的でした。

【三宅】現地の方々ともいろいろコミュニケーションをとられたんですか?

【ハリー】当時は寮ではなく学外に住んでいて、大学には毎日タクシーで通っていたんですね。安いのと、バスと電車が殺人的に混んでいたので。そのタクシーなんですが、中国では、日本やイギリスと違って運転手さんの隣に座ることができます。だから僕は毎日あえて運転手さんの隣に座ってお話しをするようにしていました。たいてい、タバコの煙を顔面にかけられながら(笑)。

大学の授業よりも、そこで交わした会話が一番の勉強になったと思います。北京の市井の人々の本来の姿を垣間見ることができましたからね。

【三宅】異文化をどんどん知っていくと精神的にタフになれる側面がありますよね。

【ハリー】本当にそう思います。最初のうちはイラッとすることも多いんですけど、「人は違って当たり前」という前提に立ってコミュニケーションがとれるようになると、あまりカッとしなくなります。

僕も中国で1年暮らしたことで、よりオープンな心を持てるようになりました。昔なら「この人の意見は間違いだ」と切り捨てていたような場面でも、「この人はこういう立場だからこういう意見をいうのだろう」みたいに、俯瞰して物事を捉えられるようになりました。逆に自分の意見を聞いてほしいときも、「人は違って当たり前」と思えているとアピールの仕方も変わるじゃないですか。より説明的になるといいますか。

これから語学を勉強して異文化を知りたい方には、現地のタクシー運転手との会話がおすすめです。

■グレタさんの出現に危惧すること

【三宅】発信力についてお聞きしたいのですが、世界のメディアに目を向けると、最近話題になったスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんなど、若いスピーカーが出てきています。この風潮はどうご覧になっていますか?

【ハリー】いいことだと思います。しかし、グレタさんに関して少し難しいのは「正義のヒーロー感」というか、「ジャンヌダルク感」が微妙に出ていますよね。そこにちょっと危険な香りがします。

【三宅】と、いいますと?

【ハリー】彼女の周りに群がっている大人が、かならずしもグレタさんの主張の純粋な支持者とは限らない、という意味です。「各国の首脳にダメ出しをしたグレタさん、かっこいい」「グレタさんの波に乗っておけば間違いない」みたいな、ファッション感覚の人が多いことに危険を感じるのです。

もっと純粋な形でグレタさんの主張が広がればいいのですが、このままいくと周囲の大人が彼女を変なキャンペーンや変なメディアにひっぱり込んで、彼女の信用が一気に失われてしまう危険があると感じています。

【三宅】深い洞察ですね。

タレントのハリー杉山氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏
撮影=原貴彦
タレントのハリー杉山氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏 - 撮影=原貴彦

■「堀江貴文×ゴーン」対談が話題にならない日本

【ハリー】まあ、どんなことでもブームやトレンドになると本質からズレていきますからね。だけど、いまはYouTubeがありますから、彼女のような逸材があと何人出てくるか楽しみです。

【三宅】日本からも出てきますかね?

【ハリー】うーん。すでにいるとは思うんですが、認知されるのはまだ時間がかかりそうです。

というのも、僕が最近気になっているのは、堀江貴文さんがレバノンに行ってカルロス・ゴーンにインタビューをした衝撃的な動画が全然話題にならないことです。YouTubeのランキングに上がってこない。堀江さんも反応の薄さに「なんだこれ」とおっしゃっていましたけど、僕も本当にそう思います。

■「英語を身につけた先」のイメージをもてるか

【三宅】あと日本人はどうしても和を重んじてしまうあまり、自分の意見を発信する力が弱いと感じます。ここはどうやったら鍛えられると思いますか?

【ハリー】スイッチを入れられるかどうかの問題だと思います。たとえば海外企業と日々激しい商談をしているビジネスパーソンは、自分たちの主張をアピールしないことには商売になりませんから自然とアピールのスイッチが入りますよね。ようは大事なことはオンとオフの切り分けができるようになること。

中国の方々のように、年柄年中、自分の意見を声高に主張する必要はないのです。でも「いまこそアピールしないと」「いまこそ自分の意見を表明しないと」というタイミングでは勇気を出してスイッチを入れる。そういう経験を積まないといけないでしょうね。そうやって場数を踏んでいけば、具体的な「アピールの仕方」というものも鍛えられるものですから。

【三宅】なるほど。

【ハリー】根本的なことを言えば、発信力は情熱と比例するものです。だって自分が情熱を持っていることであれば、うまく喋れないとしても一生懸命アピールしますよね。

世の中の優秀なセールスも、商品そのものや、顧客の課題解決に対する情熱が半端じゃないですよね。それに加えて商談や会食でトーク術をどんどん鍛えているから、人並み外れた発信力を持つようになるわけですね。そこまでできるならば、あとは英語に翻訳するだけの話で。

【三宅】英語うんぬんの前に、情熱を持てるかどうか。

【ハリー】そうだと思います。はっきり言えば、語学自体は実際にネイティブと毎日コミュニケーションを取り続けていれば誰でも習得できます。でも、語学は所詮手段にすぎません。大事なことはその語学を使って何を発信するか、もしくは受信するか。

そうやって視点を変えてみて、「英語を身につけた先に何があるか」というイメージができるようになると、いま必死に英語と格闘している人々も違う風景が見えてくると思います。

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三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1985年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。

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ハリー 杉山(はりー・すぎやま)
タレント
1985年、東京都生まれ。イギリス人の父親と日本人の母をもつ。11歳で渡英後、英国最古のパブリックスクール「ウィンチェスター・カレッジ」に進学し、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院に進む。英語、日本語、中国語、フランス語の4カ国語を話す。現在は、タレント・MC・ラジオDJ・ドラマ出演など、多岐に渡って活躍。

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(イーオン代表取締役社長 三宅 義和、タレント ハリー 杉山 構成=郷 和貴)

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