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名古屋の飲食店が「コロナ禍でも前年比150%」を叩き出せたワケ

プレジデントオンライン / 2020年6月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Erik Gonzalez Garcia

新型コロナウイルスによる外出自粛要請は飲食店を直撃している。それでも前年以上の売り上げを出している店がある。いったいどんな手を打ったのか。マーケティングに詳しい小阪裕司氏は「店が困っている時に『買ってあげたい』と思ってくれる顧客がいるかが明暗を分ける。普段から顧客と『つながり』を作ることが大切だ」という——。

■歴史ある老舗ですらつぶれていく

コロナ禍におけるお店や企業の倒産や廃業が相次いでいる。そのなかには銀座の老舗弁当店「木挽町辨松」など、老舗と言われる店もあり、このような歴史あるお店や企業がこの社会からなくなっていくのは、極めて残念なことであり、社会の損失でもある。

倒産や廃業に至る個々の事情は知る由もないが、このコロナ情勢下で聞こえてくる多くの声は「売り上げの急激な減少」、それが引き金となっての倒産や廃業だ。たしかに今回のような情勢は、おおよその企業にとって想定外のこと。営業自粛要請が出され、町に人は歩いていなかった。では、こういう状況ではなすすべがないのかといえば、そうではない。そこで、次の事例をお伝えしたい。

■自粛下で「前年比150%」を達成した

名古屋の飲食店から、5月に入り驚くべき報告が届いた。4月の緊急事態宣言発令後、要請に応え一時休業、他の日も午後8時までの営業だったにもかかわらず、売り上げは前年比150%だったというのである。

その店の名は「ことわりをはかるみせ ばんどう」。同店はおまかせコース料理のみの完全予約制のレストラン。そもそもディナーが勝負の店だ。世界的に有名なグルメガイドにも載る同店は、「予約が取れない店」として名をはせていたのだが、緊急事態宣言以降キャンセルが続々と入り、先々の予約がゼロになった。そのときの店長の心境は、私に送ってくれた報告レポートの冒頭にある。「金融公庫に融資の申請などしていたものの、『ここまで減ると何カ月持ち堪えられるか?』と焦りました」。

しかし彼は動いた。「落ち込んでてもしょうがない、やれることをやろう」と奮起し、10日間ほどじっくり商品を練って、1個3000円、8000円という超高級弁当を開発。主に既存客に向けて販売を開始したところ、その売れ行きが爆発、前年比150%の売り上げの原動力となったのである。

ところでこの成果のポイントは、高級弁当を作り、売ったことだろうか。それではみな、こういうときは、高級弁当を開発し売りさえすればよいのだろうか。それは違う。

■「前年比94%」をキープした新大阪のバー

同様の報告は他にもある。新大阪のバー「バーキース」からのものだ。こちらは営業自粛、午後8時までの営業となるとさらにダメージの大きい「バー」である。しかしこの4月、結果的に前年比で6%しか売り上げを落とさなかった。

こちらの店が行ったことはテイクアウトだ。と言ってもバーである。ショット売りのウイスキーやカクテルのテイクアウトはできないため、テイクアウトメニューは、「フィッシュ&チップス」「チキン&チップス」「自家製レーズンバターと酒の肴」「ドライカレー」の4種、各1000円。これだけだった。

それでも結果は前年比94%。緊急事態宣言下、ちまたの多くの飲食店はテイクアウトやデリバリーなどに切り替えたが、そうした店もみな、同じような成果が出ただろうか。この店とそうでない店との間にどんな違いがあるのだろうか。

■SNSの告知で「すぐ注文してくれる」顧客がいた

これらの例に共通しているのは、まず“顧客”の存在だ。顧客ならどんな店や会社にもいるのではないかと思う方もいるかもしれないが、ここで言う顧客とは、繰り返しあなたの店や会社で「買う」意思・意向を持つ存在、そして実際に買ってくれる存在のことだ。なぜ、繰り返し買う行動をしてくれる存在だけを顧客とみなすか。それは、お客さんの買うという行動だけが、売り上げを生み出す唯一のものだからだ。買う行動をする意思・意向を持った存在、”顧客”をどれだけ保持しているか、それが商いを持続的に支える決定的に重要な要素となる。

実際、「ばんどう」も「バーキース」も、平時から、ここで言う意味を踏まえた顧客作りに励んでいる。そして今回店主らは、弁当やテイクアウトを始めたことをSNSなどを通じ伝えた。すると顧客はすぐに動いた。「ばんどう」の弁当には遠方の顧客も含め注文が殺到し、「バーキース」のテイクアウトにも顧客から次々と注文が入ったのだった。

つまり、こういったとき、店や企業を支えるのは“顧客”だということだ。平時よりどれだけ顧客を作っておくことができるか。どれだけ顧客を維持しておけるか。その活動がこうしたときに生きる。

■「発信」するのは非常時だけではなかった

では、老舗と呼ばれるような店にはここで言う顧客がいなかったのかといえば、長年の顧客がついていた店もあっただろう。そこでもうひとつ需要なことは、顧客との“つながり方”だ。例えば「ばんどう」や「バーキース」では、日常的に顧客とのつながりを保つよう、SNSでの発信や、ニューズレターと呼ばれる定期刊行物の発行などを行っている。何かあったときだけ発信するのではなく、何もなくても日常的な発信を絶やさず行っているのである。

またそもそも発信ができるということは顧客情報を持っているということでもある。だからこそ、今回の緊急事態宣言下のようなとき、まずは彼らのように、顧客に向けて働きかけができる。顧客がいかに「ばんどう」や「バーキース」を気に入っていても、弁当やテイクアウトを始めたことを知らなければ、買いようもない。また、人は普段から彼らの店のことを四六時中考えているわけではない。彼らからの、SNSなどを通じた働きかけがあって初めてその存在を思い出す。そして、「買いたい」「買ってあげなきゃ」と思い、「買う」と行動するのである。

■大きな災害は「一生に一度」だと思っていた

こうした顧客の存在、そして顧客とのつながりは、「ばんどう」や「バーキース」のような売り上げの支えとなるだけでなく、何より心の支えになる。それも重要なことだ。

こういう例がある。佐賀県鳥栖市のたこ焼き屋「たこ姫」からの報告だ。店主からの報告書のタイトルは「二度あることは、三度ある」。昨年の豪雨による災害についてのことだ。同店は、郊外の道路沿いにしばしば見かける独立店舗のお店だが、一昨年、豪雨災害により浸水した。そのとき、多くの顧客が駆けつけ、後片付けや清掃作業などさまざまに支援してくれ、早期の営業再開にこぎつけた。

そのうれしさ、安心感から、当時の彼からは「ウエルカムピンチ! ウエルカム災難!」と前向きな言葉すらあった。しかし彼は言う。「当時そんな前向きなことが書けたのも、どっかで心の中では、もうこんな大きな災害は一生に一度きりで、今後は二度と見舞われることはないだろう、みたいな思い込みがありました」。

そして実際、昨年の7月、二度目があった。報告書の写真を見ると、店の半分ほどが水に浸かり、店内には冷蔵庫が浮いている様子が見える。顧客らはそのときも立ち上がった。一昨年も手伝ってくれた方々は要領も分かっており、5日間で営業再開に。冷蔵庫に関しては、顧客の中の設備業の方がいち早く在庫を確保、こういったこともあって早期の営業再開を果たせたのであった。

■商いは「融資」だけでは続けられない

お礼を兼ねたバーベキューパーティーを企画・準備していた昨年8月、なんと三度目があった。このときはさすがに心が折れそうになったと店主は言うが、三度顧客らは立ち上がった。今度はなんと3日間で営業再開。立て続けの災害で出費も大きくなったことから、今回は募金活動も行ったが、こちらも予想以上の集まりだった。

一昨年から昨年にかけての三度の災害。店主も心が折れかけたが、そこを支えたのは顧客の存在だった。融資などを受け、ここを乗り切れば未来につながると言われても、心が折れてしまっては続けられない。商いとはそういうものなのである。

今回のコロナ禍、まだ終息はしていない。歴史は、第2波、第3波の襲来も示唆している。その備えとなり、どんなときも商いを支えるのは顧客である。「たこ姫」店主は言う。何があっても、必ず私たちは復活できると。顧客がうちをつぶさないと。そう言えることこそが、このような時代における、商いの真の強さではないだろうか。

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小阪 裕司(こさか・ゆうじ)
オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学)
山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県から約1500社が参加。2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。著書は『価値創造の思考法』など計39冊。 公式サイト

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(オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学) 小阪 裕司)

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