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元経済ヤクザが教える年収1000万円の不幸

プレジデントオンライン / 2020年7月5日 11時15分

Getty Images=写真

■低年収=不幸と考えるのはナンセンス

コロナ・ショックの影響を、実感している人も多いと思う。自分自身も含めた周囲の、経済的困窮を目の当たりにすることも増えていくだろう。そこで今回は貧困と、その対策について解説したい。「力こそ正義」という暴力社会は、個人主義が支配する世界だ。「力」のベクトルは組織を分解する方向にしか向かわない。そこで、義理や人情、組織人として生きることを美徳とする「任俠道」が要となっている。

黒い世界での「力」とは暴力と財力を指す。暴力が嫌いな私は財の道を選んだ。ゆえに元経済ヤクザということになる。そうした社会に長く生きた私は、「幸福」を個人の主観だと捉えている。私にとって、今号のテーマでもある年収300万円を1つの基準として、「幸」「不幸」を区別することはナンセンスだ。

ヤクザ組織には雑事が多くある。「力」を持った組員が自分の仕事を理由に雑事を避けることから、必然、低収入の層が雑事の引き受け役となる。幹部の皆さんが集まれば駐車場で誘導棒を振り、玄関で脱いだ靴を整理する。高齢者も多く、酷暑でも極寒でも青息吐息で多くの雑事をこなす。

だが、この層の人たちが不幸とは言い切れない。雑事の際に貰える「お小遣い」は、この人たちにとって至福だ。「無」が「有」に変わる、こうした歓喜を私は味わったことがない。「持てる者はさらに与えられ、持たざる者はさらに奪われるであろう」とは『新約聖書』の「マタイによる福音書」の有名な一節で、「富は富を生み貧困は貧困を生む」という意味だ。あらかじめ「持たざる者」にとって富が降って湧いてくる「幸福」はあっても、何かを喪失する「不幸」は少ない。

こうなると問題は「何が貧困を不幸にするか」だ。データを大きい順番で並べたとき、真ん中の値を中央値という。所得で考えると、平均年収に比べて、年収の中央値はより実感に近い。厚生労働省が発表した2018年度「国民生活基礎調査の概況」によれば、17年の所得の中央値は423万円となっている。一般社会で「1000万円」は、この倍以上なのだからひとつの「大台」と評価すべき年収だろう。

猫組長氏
猫組長氏

当たり前だが、そうした「大台」層は「年収1000万円」なりの生活を構築する。住宅ローン、車両代、食費、子どもがいれば教育費と「生活の固定費」もまた高額ということだ。

実際のところ高額所得者も「綱渡り」をしているということになる。「綱渡り」ができるのは「生涯自分の生活が維持される」という、社会に対する信頼感がバランサーとなっているからだ。

ところがこの「信頼感」はコロナ・ショックによって崩壊した。それどころか、深刻な経済的ダメージを負う富裕層も多く生まれるだろう。

ここがポイントだ。

「持たざる者」が「持たなく」なることは、その人の日常である。だが「持てる者」が「持たざる者」へ移転することは、天変地異に遭うごとき「非日常」の訪れだ。つまり現状維持の崩壊こそが「貧困」を「苦痛」に変える要因ということが導き出せる。その「苦痛」を「地獄」に変えるのが、自分の生活水準に対する愛情だ。

■持たざる者は不変、持てる者は転落

投資の世界には「損切り」という、資産防衛のスキルがある。能動的に最小限の「損失」を出して売ってしまうことだ。高騰の地合に乗って信用買いを続けてきた投資家が、暴落に転じたときも保有した株を抱え続けることは損失を増やすこと以外の意味を持たない。できるだけ損失が小さいうちに保有株を売る「損切り」を実行するのが最良の方法なのだ。

ところが多くの個人投資家にとって自分のマネーに対する愛情は強く、わずかな損失をためらう。結果ボヤで済むはずの火災が、人生を全焼させることになる。

急激な引き潮は、巨大津波の前兆だ。現在富裕層のあなたの収入が予想外に減り続けていったとき、一番危険な行為は「再上昇」を待つことだ。待っている間に蓄えていた資産は溶け、支払い切れないほどの借金が残るだろう。危ないと感じたときには「損」をしてでも、即座に保有資産を整理するべきだ。その後で、生活の規模をより低いものへと組み替えることが最適解であることを忘れてはならない。

自分のマネーに非情になれない者は投資を行うべきではないと私は考えている。世界恐慌クラスの異常事態にあって、生き残るために重要なことも自己資産に対する非情さだ。恐慌の時代にあっては生活水準の改悪を余儀なくされる「持てる者」と、不変の「持たざる者」の優位性が揺らいでいることがわかるだろう。

■コロナ・ショックは、価値観を崩壊させた

ある年収を基準に人間を「勝ち組」「負け組」に分けたのは、01年からの小泉政権時代以来だ。それは「経済成長のために、完全に自由な競争の実現が必要である」という、「新自由主義」的価値観によるものだ。コロナ・ショックは長く日本を支配してきた、この価値観を崩壊させたと言い換えることもできる。その顕著な例が、10万円の特別定額給付金だ。

政府の役割を縮小する新自由主義は緊縮財政とセットとなる。給付金について、「自ら積極的に手を挙げていただくことを想定しているものではございません!」とドヤ顔でコメントをした政治家の根底にあるのも緊縮財政だ。

コロナ・ショックは自由な競争を成立させる土台となる経済活動そのものを破壊した。優先すべきは、この修復で、具体的にはGDP(国内総生産)を上昇させることだ。

そこで、皆さんには義務がある。今回も今後も給付金が出る場合には当然の権利として、積極的に受け取ること。大切なことは、なるべく早く日本国内で使い切ることだ。政治家の皆さんも、使い先の確認もせず寄付を明言するべきではない。今こそ大手を振って地元で芸者でも上げ、給付金以上のお金を使うべきだ。それこそが有権者が富を生む源泉となるのだから。

コロナ感染が拡大した20年3月中旬、世界最大のスーパーマーケットチェーン米「ウォルマート」の株価や、「小麦粉」など穀物の先物取引相場が上昇に転じた。人が食物を摂取するという当たり前の理由だ。ここから考えれば、現在では就業人口が他の産業に比べて少ない農業や漁業など食物の生産等の第一次産業は成長産業となるだろう。

状況を読み取っていち早く新たな産業に次の生活基盤を求めることは、生存するための鍵である。

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猫組長(ねこ・くみちょう)
元山口組系団体組長
現在は作家、評論家として活動しており、自身の投資顧問会社「NEKO PARTNERS INC.」を立ち上げた。著書に『アンダー・プロトコル』(徳間書店)、『金融ダークサイド』(講談社)など。

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(元山口組系団体組長 猫組長 撮影=久保貴弘)

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